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6月15日に施行された住宅宿泊事業法(民泊新法)はさまざまな余波を生んでいる。民泊ホスト届け出に大きな課題が残る一方で、「民泊撤退ビジネス」も増えている。
届出状況は6月15日時点で3728件
民泊は「誰でも気軽に始められる」ものだったはずなのに……
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「政府も掲げている1億総活躍や地方創生、空き家対策。民泊はそれをすべて解決する手段だったのに、これでいいのでしょうか」
個人が簡単に確定申告ができるクラウド会計ソフト「freee」などを提供しているfreeeの担当者は、そう不満の声を漏らす。
観光庁の発表によると、6月15日の時点で民泊ホストにあたる住宅宿泊事業者の届け出状況は3728件。そのうち、受理されたのが2210件だ。観光庁の指導を受けて、Airbnbは届け出が完了していない物件、約4万8000件をリストから削除したとNIKKEI ASIAN REVIEWが報じている。
freeeでは、3月15日から民泊事業を始める人向けに「民泊開業 freee」を開始した。freeeのシステム上で届け出手続きを簡単にできるようにし、初心者でも安心して民泊を始められるようにすることを狙ったものだ。
しかし実情としては、届け出申請はとても初心者が気軽にできるものではないと、同社担当者は語る。
届け出申請のウェブサイトをチェックしてみると、「全角のみ入力可能」「半角カタカナのみ入力可能」などと指定のバラツキがあり、申請する画面がまずわかりづらい。システム上の分岐もないため、その項目を入力する必要があるかどうかまで、ひとつひとつ自分で判断して入れなければならない。
民泊事業者の届け出申請ページ。全角指定と半角指定が混在している。
出典:観光庁
手続き上のハードルも高い。民泊開業手続きサポート「MIRANOVA(ミラノバ)」を運営するジーテック代表で行政書士の黒沢怜央氏によると、特に難しいとされるのは消防法令に適合しているかどうかのチェックだ。
いわゆるホテルや旅館と同じような基準で自動火災報知器や避難誘導灯などを導入する必要があり、大型のマンションなどで民泊をしたい場合、同フロアの他の部屋にまで配線工事が必要となってしまうケースもあるという。
自治体によって条例が異なるため準備する書類も異なる。あまりの複雑さのため、そもそも窓口で届け出を受け付けてもらえないケースもあり、1カ月経っても申請が終わらないこともある、と黒沢氏は打ち明ける。
「民泊はもともと、一般の人でも簡単に始められる“CtoC(カスタマー・トゥ・カスタマー)”のビジネスとして始まった。でも今、“C”が排除されてしまい、“B”(ビジネス)しか残れなくなっているのが現状」(freee担当者)
民泊撤退なう、家具大安売り…「撤退ビジネス」も活況
「民泊撤退」に関するビジネスもすでに存在する。
ドゥーイットコンサルティングが提供する「民泊撤退なう」は、民泊からの撤退を代行するサービスだ。撤退から10日前までに連絡をすれば、2万9800円(30平方メートル以下の部屋の場合)の値段で、不用になった家具・家電などを処分やリサイクルし、部屋をカラにしてくれる。
「民泊撤退なう」のウェブサイト。「撤退ならお任せください」の文字。
出典:民泊撤退なう
担当者によると、同サービスを開始したのは4カ月前頃から。6月、Airbnbが届け出手続きが完了していない物件を削除してから問い合わせが増え始めた。この2週間で10件ほど来ているという。
また、中古品などを売買できるサイト、ジモティーには、民泊新法の施行が間近に迫った5月下旬頃より、「民泊撤退のために家具や家電を売ります」という投稿が増えており、SNS上で話題になっている。
ジモティーで「民泊撤退」と検索した時の結果ページ。5月下旬頃から投稿が増えている。
出典:ジモティー
さまざまな余波を生む「民泊新法ショック」。2020年に政府は訪日外国人旅行者を4000万人に増やすことを目標にしているが、この騒動はインバウンド観光客にどのように影響するのだろうか。
(文・西山里緒)