WeWork、Airbnbはレガシー業界に勝てるのか——日本の「不動産シェアリング」の先行きを読む

WeWorkのオフィス

メキシコシティにある「WeWork(ウィーワーク)」のオフィスの様子。中央で語る白髪の男性は、この日の出版記念イベントに参加した報道写真家のジョン・ムーア。

Hector Vivas/Getty Images

2018年2月、米シェアオフィス大手WeWork(ウィーワーク)がソフトバンクとの合弁会社を設立して日本参入を果たし、話題を呼んだ。この6月には住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されたこともあり、不動産のシェアリングサービスが活況を呈している。

民泊仲介サイト世界最大手の米Airbnb(エアビーアンドビー)によると、2017年に同社のサービスを利用して日本に宿泊した人は約600万人、5000億円相当の経済効果をもたらしたという。

Airbnbは民泊新法施行前日に開いた記者会見で、WeWorkにも出資しているソフトバンクや全日本空輸、みずほ銀行など国内大手企業36社との提携を発表。新たな戦略に約33億円の投資を行うことも明らかにしている。

貸会議室もカラオケ個室レンタルも

WeWorkやAirbnbのようなビジネスモデルは「不動産シェアリングサービス」と呼ばれる。何となく難解な横文字だが、要するに空きスペースを一時的に誰かに貸し出し、時間料金で収益をあげるシンプルなもの。貸会議室や駐車場など、日本にも古くから存在している。

例えば、貸会議室国内最大手のTKP(ティーケーピー)は、2005年に創業した比較的新しいプレーヤーながら、2018年の売上高は286億円、営業利益で34億円を計上している。

同社の特徴は、自社が保有する比較的規模の大きな会議室を中心に貸し出しを行っていることで、企業や団体の全体会議や採用説明会、株主総会などのニーズを満たしている。近年ではアパホテルと提携してホテルの1階に大型会議室を設けるなど、新しい取り組みにもチャレンジしている。

スペイシー

小規模スペースへのニーズを狙ったサービスを展開する「スペイシー」。

スペイシーHP

一方、小規模な会議室へのニーズを狙って、スペースマーケットスペイシーといったベンチャー企業がビジネスを拡大している。

両社のサービスはいずれも、会議室や店舗の空きスペース・空き時間帯を登録しておくと、場所を探しているユーザーとオンライン上でマッチングされるものだ。1時間単位で借りることができる上、お洒落な飲食店・バーから企業の会議室、お寺や古民家、球場まで、さまざまなスペースが登録されているのが大きな魅力。

スペースマーケットはこれまでに4億円の資金調達に成功しており、2019年に5万カ所のレンタルスペース提供を目指している。

法人向け市場に目を向けると、WeWorkが手がけるようなオフィスのシェアリングサービスが人気だ。

当初はコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)などがベンチャー企業支援の目的で始めたシェアオフィスがメインだったが、近年のフリーランス、副業、在宅ワークブームを受け、参入が相次いでいる。

カラオケのパセラや人材サービスのパソナ、東急グループなど大規模な土地・オフィスを持っている企業が、フリーランスやベンチャー向けのサービスを展開。カラオケの鉄人を展開する鉄人化計画も、システム開発やコンテンツ配信を手がけるiXIT(イグジット)と提携し、1500円で個室を利用し放題となる「カラ鉄ホーダイ」アプリをリリースしている。

レガシー業界でITを武器に戦う新勢力

オーナーズブック

不動産クラウドファウンディング「OwnersBook(オーナーズブック)」のサービス画面。このケースでは、1億4000万円超の物件に378人が出資するという規模の大きな投資案件が決まっている。

OwnersBook HP

筆者が今最も注目しているのは、不動産シェアリングサービスの拡大と並行して、不動産投資の分野にもIT化の流れが波及していることだ。

不動産投資情報サイト「楽待(らくまち)」、不動産クラウドファウンディング「OwnersBook(オーナーズブック)」、不動産オーナーの物件管理プラットフォーム「TATERU(タテル)」の運営会社はそれぞれ上場も果たしており、その代表格と言える。

「楽待」は不動産投資分野における「SUUMO(スーモ)」のような存在で、希望の投資条件を選択するとさまざまな投資物件が表示される。そこから資料請求したり、電話をかけたりできる。これまで不動産投資と言うと、不動産会社に出向いて情報をもらうのが一般的であったが、最近では楽待を使って初期調査を済ませるユーザーが増えている。

「オーナーズブック」は、クラウドファンディングを活用してオフィスビルやマンションの区分所有案件への貸付(正確には不動産投資会社への貸付となる)を少額から行うことのできるプラットフォームだ。自ら実物の不動産を購入して運営する必要がなく、不動産を担保とした貸付に一部出資する形なので、リスクも比較的少なくて済む。

タテル

不動産オーナーの物件管理プラットフォーム「TATERU(タテル)」のサービス画面。テレビCMにも登場している本田圭佑選手の動画が流れ、イメージ戦略に力を入れていることがよく分かる。

TATERU HP

「タテル」は、不動産オーナーと不動産管理会社を結び、物件のマッチングから管理状況の共有までを一括で提供するプラットフォーム。管理戸数は約2万戸、オーナー数も1800人を超えた。エンジニア採用を強化して、IoTデバイスを活用したロボットホーム事業を始めるなど成長著しい。

これらの不動産プラットフォーム企業は拡大を続けているものの、いまだに紙文化の根強い不動産業界においては、知る人ぞ知るサービスにすぎない。「タテル」はサッカー日本代表の本田圭佑選手を起用したテレビCMで話題を呼んでいるが、サービスが世の中に認知されるにはまだ時間がかかりそうだ。

ビジネスの先行きを不透明にするいくつもの課題

Airbnb記者会見

2018年6月14日に開かれた記者会見にて、米Airbnbのネイサン・ブレチャージク最高戦略責任者(CSO、中央)とAirbnb Japanの田邉泰之代表(左)。右はパートナー参加企業カルチュア・コンビニエンス・クラブの増田宗昭CEO。

REUTERS/Issei Kato

不動産シェアリングに話を戻そう。IT導入による効率化のおかげで、市場は新たな展開を見せつつある。しかし、課題がないわけではない。

まず、シェアリングについては「見せ物件」の問題がある。

筆者が貸会議室を借りようと検索してみたところ、トップサイトに掲載された物件の最低価格は一見安いのに、詳細画面をよく見ると、実は安く借りられるのは夜中のわずか1時間だけで、それ以外の時間帯は非常に高いケースも見受けられた。これは「見せ物件」の一種と言っていだろう。プラットフォームの検索ロジックを活用して検索結果が有利になるようにするテクニックは、今後排除していく必要がある。

またシェアリングの場合、所有者と借主、管理・代行会社の間でリスク負担が(賃貸より)明確ではないため、破損などのトラブルが起きた時に、どこまでをどちらにどう負担させるかという問題が必ず出てくる。これから物件数が増えると問題の大きさが可視化されてくるはずだ。

日本ではWeWorkの成功は未知数

さらに、これから裾野が広がってシェアリング物件が当たり前になると、悪質なプレーヤーが増えていくことも念頭に置かねばならない。競争が激化して利益が下がると、既存の不動産オーナーが減る一方で、質が悪くて簡単には売れないような物件がシェアリングの対象として流れ込んでくる可能性がある。

不動産シェアリングサービスには事故物件等の表示義務がないため、大きなトラブルを生む可能性がある。そうした事例が重なれば、せっかく増えてきたユーザーを失うことにもつながりかねない。

ビジネスエアポート

WeWork同様、高い評価を受けるシェアオフィス「ビジネスエアポート」のウェブサイト。ニーズや料金設定により、日本の不動産シェアリングサービスにも勝算は十分ありそうだ。

ビジネスエアポートHP

シェアリングサービスの「優等生」と見られているWeWorkにしても、日本市場で成功できるかどうかは未知数だ。アクセラレーター・プログラムで提供されるオフィスや、自治体の提供するインキュベーション施設は質が高く、料金のお得感も上昇してきている。筆者の周囲では、品川など都内数カ所にあるビジネスエアポートの方が評判が良かったりもする。

いずれにしても、今まさに脚光を浴びている現時点の「上澄み」的な情報だけをもって、不動産シェアリングビジネスの先行きを予測するのは時期尚早である。もともと情報の非対称性を盾に取ってビジネスを温存してきたきわめてレガシーな市場だけに、これからシェアリングが浸透していく過程でいくつもの問題が出てくるだろう。


森泰一郎(もり・たいいちろう):森経営コンサルティング代表。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。戦略コンサルティングファームを経て、ITベンチャー企業にて経営企画マネージャーを担当。M&Aや経営企画、事業企画、業務改善に従事。中堅企業にて取締役CSOとして経営企画と戦略人事、新規事業開発を担当。現在は大手上場企業から中堅・中小ベンチャー企業まで、成長戦略の立案、M&Aコンサルティングを行う。

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