ASUSは東京都港区にある直営店「ASUS Store Akasaka」で、多数の新型PCの国内発売を発表した。
台湾の大手PCメーカーASUS(エイスース)は6月20日、2018年夏秋モデルとなる15シリーズ25機種のノートPC、3シリーズ8機種のデスクトップPCの国内発売を発表した。
日本のPC市場は昨今、東芝のPC事業が中国の製造業最大手・鴻海(ホンハイ)傘下であるシャープに買収され、富士通のPC事業もレノボ傘下に入るなど、変化のスピードがさらに増している。
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ASUSは日本市場に、どのような戦略で新製品を持ち込むのだろうか。
最注目は独自のマルチタスク機能を実現したハイエンドノート
発表の目玉は何といってもサブディスプレー付きノートPC「ZenBook Pro 15」だ。
今回の新モデルの中で異彩を放っているのが、7月中旬発売予定のハイエンドノートPC「ZenBook Pro 15(UX580GE/UX580GD)」だ。
ZenBook Pro 15は、15.6インチ4K解像度(3840×2160ドット)の液晶ディスプレイに加え、タッチパッドが「ScreenPad」と呼ばれるサブディスプレーになっている大画面ノートだ。
ScreenPadは、タッチパッドやサブディスプレーとして使う以外にも、マイクロソフトのOfficeと連携したり、電卓やミュージックプレーヤーといったスモールアプリが動作する。
PowerPointを起動すると、ScreenPad上にPowerPointで使えるツールが自動で表示される。
マイクロソフトOfficeの連携機能の場合、文字色の変更や保存キーなどが利用でき、配置なども自分好みにセッティングできる。
ScreenPadは、ツールやアプリの表示以外にも単純な「拡張ディスプレー」として使ったり、機能を完全にオフにすることもできる。
ASUS本社でScreenPadの開発を担当するTouch Tech R&D Managerのデイビッド・リン氏。
正直なところ、筆者はScreenPadをはじめて見たとき、どこまで実用性があるのか半信半疑だった。目の前に解像度の高い大きなディスプレーがあるのに、スマートフォンより小さな画面で何かを操作をする気にはならないだろうと思ったからだ。
しかし、実物に触れてみるとその印象は変わった。特に、前述のOfficeアプリのツールが表示される機能は使える。メイン画面上に表示される箇所にカーソルを合わせてクリックするより、ScreenPad上のアイコンをタップした方が早く、実用性もありそうだ。
また、今回の発表会に合わせて来日した、ASUS本社でScreenPadの開発を担当するデイビッド・リン氏によると、ScreenPad自体はASUSの独自技術であるものの「マイクロソフトとも協力して開発を進めており、近く※SDKを公開予定」と、パートナー企業や個人開発者とともにオープンな環境で開発を進めていくという。ユニークなアプリの登場に期待したいところだ。
※SDKとは:
Software Development Kitの略。ソフトウェアを開発するために必要なツールなどがまとめられたもの。
電卓や音楽プレーヤーのようなアプリも起動できる。アプリは「Microsoft Store」からダウンロードして追加できる。なお、ScreenPad向けのSDK(ソフトウェア開発キット)は、今後一般公開される見通し。
なお、ZenBook Pro 15の最上位モデルは、予想実売価格が34万9800円。インテル製のハイエンド向けCPUのCore i9-8950HKに、NVIDIA製のミドルレンジ向けのグラフィックスカード・GeForce GTX 1050Tiを搭載。メモリーは16GB、ストレージは高速な1TB SSDを採用する。
性能は高いが、それに合わせて価格もかなり高い。映像や音楽など処理性能が必要なソフトを使うクリエイター向けといったところだろうか。
法人向けは弱いASUS、得意のコンシューマー向けで勝負する
同社は法人向けに「ASUSPROシリーズ」を展開中。病院や車のディーラーなどの窓口用端末として採用例があるが、大きなシェア獲得には至っていない。
同社は国内の販売台数や売り上げなどの実績および目標を明らかにしていないが、MM総研の「2017年国内パソコン出荷概要」によると、同社の国内シェアは2016年が2.7%で、2017年が2.4%とほぼ横ばい。トップ3のNECレノボや富士通、日本ヒューレット・パッカードらに大きく差をつけられている。
主な原因としては、2017年から発生している法人需要にASUSがうまく乗れていない点が挙げられる。
Windows XPのサポート終了に伴い、多くの企業が2014年上期にWindows 7搭載PCにシステムを一新。今度はWindows 7の延長サポートが終了する2020年1月14日まで残り2年を切ったいま、再度PCを買い換えようとする動きがこの特需を生んでいる。
ASUSにも法人向けモデルの取り扱いはあるものの、現状では競合他社に比べて存在感を示せていない。ある関係者は「コンシューマーに比べて法人向けが弱いのは確か。ASUSにはオーダーメイドモデルがなく、導入を検討する企業が他社のモデルと比較した際、細かな要望に応えられていない部分がある」と分析する。
同社のターゲットはやはりコンシューマー。写真は、6月23日発売予定で予想実売価格3万6800円(税抜)のノートPC「ASUS E203MA」。
一方で、量販店での販売実績をベースとするBCNランキングの調査によると、2017年の国内ノートPC市場で昨年比での販売台数および売り上げの伸び率が大きかった企業は、アップルに次いでASUSだった。
今回の秋夏モデルは、ZenBook Pro 15のような特徴的なモデルから、同社のバリューラインである3万円台後半のノートPC、昨今盛んなe-Sportsの分野で存在感を示しているゲーミングPCの新機種も含まれ、幅広いラインアップとなっている。
同社広報は「今まで培ってきた家電量販店での販路やノウハウを活かし、シェアを伸ばしていきたい」と話しており、今後もコンシューマー市場を主戦場にしていく方針だ。
(文、撮影・小林優多郎)