「今の上司はかわいそう」低成長時代の日本の「理想の上司」がするべき2つのこと

今、「会社と個人の関係」が急速に変わりつつあります —— 。

終身雇用や年功序列など昭和的な会社の仕組みが崩れたことで、会社が提示する「大きな物語」に従ってさえいればよかった時代は終焉を迎え、一人ひとりが自分なりの幸せについて考えなければならなくなりました。

一方で、これはもちろんネガティブなことばかりではなく、テクノロジーの進化などを背景に、個人が取りうる働き方の選択肢が広く可視化され、多様であることが許されるようになってきたという見方もできるでしょう。

いずれにせよ、仕事観・キャリア観が変わりゆく中で、上司がこれまで通りのマネジメントを続けていては、若い部下の心を掌握できなくなっているのは確か。では、会社と個人の関係が変化する時代に、あるべきマネジメントとはどのようなものなのでしょうか。

Fringe81代表取締役CEOの田中弦さん

Fringe81代表取締役CEOの田中弦さんは、「ソフトバンク→起業→コンサル→上場企業役員→オーナー社長→上場企業社長」という多彩なキャリアを歩み、そうした経験から時代の変化を鋭く予見、働き方やマネジメントに関する持論を自身のブログで積極的に発信しています。

さらに、マネジメント職の外部発注、同僚と成果給を送り合えるシステム『Unipos』など、実業を通じて、自身の会社の社員や世の中のビジネスパーソンに新しい働き方を促すような社会実験を行っていることでも知られています。

今回はそんな田中さんに、「会社と個人の関係が変わる時代の『最高の上司』とは?」をテーマに、お話を伺いました。

今の上司は「かわいそう」

——「理想の上司」像の変化を感じますか?

そうですね。なんというか今の上司って「かわいそうだな」って思うんですよ。

Fringe81代表取締役CEOの田中弦さん

——かわいそう?

以前であれば、大きな会社では細かく分業されていたので、経理なら経理、営業なら営業のプロとして、自分が元々持っている知識やスキルを背景に、部下を背中で引っ張っていくようなマネジメントができたと思うんです。だから部下から見ても、尊敬できる対象でいられたというか。

でも、今は「総合職」という言葉に象徴されるように、ジョブローテーションが当たり前。だから、自分がその道のプロでもないのに、優秀な部下を評価しなくてはいけない。それはつらいだろうなあと思うんです。

上司は「こんな専門外のこと評価できません」というお手上げ状態。一方で、部下も「こんな上司に評価されたくありません」となってしまう。そうして「理想の上司」像が壊れてしまった。だから、かわいそうだなあと。

田中弦さん

——なるほど。

僕が以前いたコンサル業界でも似たような話を聞いたことがありました。

大前研一さんの時代であれば、アメリカの経営システムを知っているという「一本足打法」でもやっていくことができた。でも、今はM&Aや法律の知識はもちろん、テクノロジーの知識だってないと技術評価ができない。弁護士、税理士、会計士と、士業のスキルを全部持ちあわせていないとコンサルティングできなくなっているから大変だって。

——マネジャーに専門的知識は必須ですか?

いや、これは難しい話だと思います。そもそも優秀な営業マンが、マネジャーとしても必ず優秀と言えるのかどうか。マネジメントという、それ自体専門的なスキルを持ってさえいればいいのか。それとも各分野の実力がまずあって、その上にマネジメント能力が載っかっていないといけないのか —— 意見が分かれるところかもしれません。

インタビューに答える田中弦さん

これがエンジニアのような専門職であれば、話は割と簡単なんです。うちの場合、CTOは専門性の高い部下をマネジメントする立場にあるけれども、一切コードは書いていません。技術的な部分で引っ張る人は彼とは別にいて、プロフェッショナル職として、部下を持たずにひたすらテクノロジーを追求しています。

その点、事業職の上司のほうがより難しいんでしょうね。そこそこ優秀でなければそもそも部下を持つ立場にはなれないし、とはいえみんなを引っ張れる人格者である必要もあるわけで。

ピラミッド型組織ではマネジメントスキルは学びづらい

——では、「いい上司」とはどんな上司でしょうか?

それもなかなか類型化できないんですよね。というのも、例えば事業がノリノリで伸びている時って、「マネジャーなんて必要なんだっけ?」という雰囲気になるじゃないですか。「成長はすべてを潤す」なんて言いますけど、そういう時はみんな放っておいても楽しそうに仕事するので。

でも、「このままだと谷底に落ちる」くらいに事業が落ち込んでいて、V字回復が求められている時は、マネジャーの働きが重要になってくる。それによって業績が左右されるのは確かですから。ですから、マネジャーの質が問われるのは、有事の時ですよね。

インタビューに答える田中弦さん

——確かにそうですね。

そういう意味では、20〜30年前の日本は国全体が右肩上がりの成長を続けていたから大した問題がなかったんだと思うんです。でも、今の日本は市場自体が成長していない中で、自分たちの事業の成長が求められている。

「いやいや、全然平時ですよ」とか思っていても、マクロ的に見れば明らかに非常時ですよね、これから人口が減っていくわけですし。だからこそ今、マネジメントが求められているのだと思います。

なおかつ冒頭に言ったように、自分よりもずっと優秀な部下のことも引っ張っていかなければならない。だから、マネジメントスキルを学ぶ必要性はどんどん高まっているんですけど、その時にとてもかわいそうだと思うのは、従来型の組織の中では出世すればするほど学ぶ機会がどんどん減っていくことなんです。

——どういうことでしょうか?

インタビューに答える田中弦さん

他人からフィードバックされなくなるんですよ。若い時ってめちゃくちゃフィードバックされるじゃないですか。だけど、自分が上司になってしまえば、部下からスキル指導される機会なんてないわけで。フィードバックの総量が先細りするのが、従来のピラミッド型組織なんです。

だから、そうでないフィードバックの仕組みが必要。「360度評価」は、その先鞭をつけたのだと思います。

ただ、従来の360度評価はやってもせいぜい3カ月に一回くらい。それをリアルタイムでやろうというのが、僕らがやっている、一緒に働く仲間と成果給を送り合うサービス『Unipos』なんです。

Unipos

もともとは、数字では測れないような「いい仕事」「いい話」にインセンティブを結びつけられないかという発想で始まった社内制度なんですけど、フィードバックする際には、自分の持っている枠の中から100円、200円とインセンティブを支払う仕組みになっているので、みんな結構真剣にメッセージを書くんですよ。すると、上司も自然と内省したり、学んだりするようになる。

Uniposは雇用形態も問いませんから、社長である僕もアルバイトの人からフィードバックがもらうこともあります。役員報酬を受け取る立場なので、実際にお金をもらってはいないんですけどね。

マネジメントはより「ピュア」なものになっていく

そうして社員同士がお互いにフィードバックし合うようになると、上司のやるべきマネジメントの仕事はより「ピュア」なものになっていくと思うんです。リアルタイムで、全方向から、全公開でフィードバックされるので、「部下をみんなの前で褒める」とか、そういうことはいらなくなるので。

日本企業の中間管理職ってこれまで、あらゆるスキルが求められてきたと思っていて。自ら営業で結果も残して、なおかつ部下を評価して、モチベートして、教育し……というように。そんな全部なんて、できるわけないじゃないですか。その結果、「二兎を追う者は一兎をも得ず」みたいになっている。

優秀な営業マンがマネジャーになるという出世ルートは今後も変わらないかもしれないですけど、テクノロジーの進化でリアルタイムの全方位フィードバックが可能になると、そうした諸々から少しは解放されて、楽になるんじゃないか。「ピュアなマネジメント」に集中できるようになるんじゃないかな、と。

インタビューに答える田中弦さん

——「ピュアなマネジメント」とは?

最近はリアルタイムの「1on1」とか「OKR」とかも流行ってますけど、ビジョンを語って組織をまとめ上げるとか、普通の働きぶり以上にパフォーマンスを上げさせるとか、それこそがマネジメントの真髄だと思うんですよ。それ以外の、一人ひとりをケアするとかいったことは本質ではない。より本質的なものに集中していくようになると思うんですよね。

——それは田中さんが以前、ブログで書いて大反響を呼んだ「夢見せ能力」のようなもの?

いや、「夢見せ能力」は社長に必要なものだと思っていて。中間管理職は、「とはいえ食えないといけないよね」という部分を担う立場なので、夢は夢なんだけど、どうやって中間地点を見せるか、そこを考えるんでしょうね。経営者が考えていることをいかに翻訳できるか、というか。

そしてもう一つ必要なのは、「勇気づける」ってことなんじゃないかな。

Fringe81の社内

——勇気づける?

「これをやったらあなたにとってこういう得がある」と「美味しさ」を示してあげるというか。

例えば、Uniposの社長をやっているのは新卒4年目の若手なんですけど、「この働き方改革のど真ん中で、これだけ働くことを楽しく変えられるかもしれないサービスを扱える、こんなチャンス二度とないかもしれないぞ」みたいに説明して、「そうかあ。やるぞ!」って腹落ちさせられる。そういうことが必要なんだと思います。

「一緒にやってあげようかな」と思われる上司に

——Fringe81の社員の平均年齢は30歳くらい、半分が平成生まれと聞きました。田中さんから見て、「働く」ことに対する社員の価値観に変化を感じますか?

Macbook

若い人は明らかに「見て」ほしがりますね。自分のやっていることは会社の方向性と合っているのか、自分が取っている行動は正しいのかって。承認欲求が強くなってきているように映ります。

何か成し遂げたいことがあるからこの会社にいるっていう人ばかりで、「給料払ってるんだからやろうよ」は通じない。ストックオプションとか、社長の僕からするとかなり魅力的に思えるんですけど、「それ、何ですか?」って感じで(苦笑)。本当にお金はいらないんだなあ、とは感じます。

——そういう若い人と接する上で田中さんご自身が意識していることはありますか?

うちのオフィスには社長室がなくて、僕はコピー機の前に座ってるんですよ。そうすれば嫌でもみんなと顔を合わせるので、半ば強制的にでも話す機会を作れるかなと思って。

Fringe81の社内

「上司でござる」みたいなのって終わってると思うんです。チームの生産性を上げるには心理的安全性が重要って話がありますけど、負のフィードバックだけの上司に安心を感じるわけがないじゃないですか。ガミガミ言うだけの上司なんて負の遺産ですよ。

僕は月に1、2回は、自分のクルマに部下を乗せてドライブにだって行きますよ。この前も山梨までぶどう狩りに行って、自分は運転するから一滴も飲まずに、ワインを飲んで後部座席でへべれけになっている社員を家まで送り届けるっていう(笑)。

ぶどう狩りを楽しむ社員の方々

ぶどう狩りを楽しむ社員の方々

——完全にお父さんの役回りじゃないですか(笑)。

ぶどうを採る時に汁が顔にペッとかかって、「どうしようもない人だなあ」とか思われてね。でも、それくらいやらないと、息子か娘でもおかしくない若い人となんて、分かり合えないと思うんですよね。

そうすることで、「人生のうちの何年間かくらいは、この人のために一緒にやってあげようかな」とでも思ってもらえれば。そうやってこっちからハードルを下げてあげないと、彼らから乗り越えて来てはくれないので。これも仕事、そう思ってやってますよ。

田中弦さん


田中弦:Fringe81株式会社 代表取締役CEO

1999年にソフトバンク株式会社のインターネット部門採用第一期生としてインターネット産業に関わる。ブロードキャスト・コム(現Yahoo!動画)の立ち上げに参加。その後ネットイヤーグループ創業に参画。 2001年経営コンサルティング会社コーポレイトディレクションに入社。 2005年ネットエイジグループ(現UNITED)執行役員。モバイル広告代理店事業の立ち上げにかかわる。2005年Fringe81を創業、代表取締役に就任。2013年3月マネジメントバイアウトにより独立。2017年8月に東証マザーズへ上場を果たす。

[取材・文] 鈴木陸夫、岡徳之

[撮影] 伊藤圭

未来を変えるプロジェクトより転載(2018年6月6日公開の記事)

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