「俺のいない社会なんてありえない」成功つかむ人に共通の根拠のない自信を育む方法。

各界の第一線で活躍するビジネスパーソン、そのうち少なからぬ人が、「上手くいく確証なんてなかったけれど、なんとかなると思っていた」……そう過去に抱いていた「根拠のない自信」を、インタビューなどの場で口にします。

けれども、ビジネスの現場では「根拠がない」なんてもってのほか。「なぜ上手くいくと言い切れるのか?」と何事にもエビデンスや裏づけが問われ、逆に自分の部下が根拠のない自信を口にし、戸惑ったことがある人もいるかもしれません。

しかし近年、この「根拠のない自信」など非認知能力の高い人こそ、ビジネスで成功を掴みやすいことが心理学で明らかになっています。学力のようにその優劣を数字では測れない自信に溢れる人材を、組織として育成することは可能なのでしょうか。

これからの時代、ゼロベースでビジネスを生み出すには、「根拠のない自信」が必要です。それは大人になってからでも育めるものなんですよ。

そう語るのは、幼児から中学生までを対象に「思考力」や「生きる力」を育むための教育に携わる、花まる学習会代表の高濱正伸さん。今回は高濱さんの教育論から、ビジネスにおける「根拠のない自信」の大切さと育み方を探ります。

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「自信がある・ない」を分かつ幼少期の体験・親の言葉

——高濱さんが代表を務める「花まる学習会」では、子どもたちの自信を育むことも学習理念に掲げていらっしゃいます。

読書と作文を中心とした国語力と、数理的思考力、そして野外体験を三本柱として、将来「メシが食える大人」「魅力的な人」に育てることを目標としています。「メシが食える」というのは、つまりこれからどんなに時代が変化しても、本質的に物事を考えられる思考力と強靭な体力で乗り切っていける力を持っている、ということですね。

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花まる学習会がそういう教育を大切にしようと思ったきっかけは、僕の学生時代にあるんです。大学受験生を相手に塾や予備校で講師をしていたのですが、それこそ将来「メシが食えなさそう」な子たちがいっぱいいるんですよ。勉強はそれなりの成績だけど、ボソボソ喋るし、気が弱そうで、学校でもモテなさそうだなぁ、という子たちが。

またあるところでは、「あの家の息子さんは優秀な大学を卒業したのに、就職もできないまま、年老いた親と同居しているらしい」という話を聞くこともあって。まだ「引きこもり」という言葉もありませんでしたけどね。精神科のお医者さんに聞いてみたら、「そんな人なんて、世の中にたくさんいるよ」と、さも当たり前かのように言うんです。

それで勉強して、いい大学に入って卒業もできたのに、なぜ彼らは社会人になることができないんだろう、と……。

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当時、僕自身も大学、大学院に通いながら、これからの進路に迷っていたんです。このまま塾講師をやるか、就職活動に本腰入れるか、それとも医学部を再受験して父親の跡を継ぐか……。

そんな時、幼稚園児のお泊まり教育のアルバイトをしたんです。夏休みだったので、サマースクールみたいな感じですね。そこでは、子どもたちがみるみるうちに変わって、自信をつけていく。今でこそ非認知能力を育むには、幼児期が勝負と言われるようになったけど、それを肌身で感じたんです。

それで、勉強をただ教えるのではなく、生きていくために必要な力を身につけられる低学年向けの学習教室を始めたんです。

——自信を育むには、小さいころからの教育が不可欠なのでしょうか。

大きくなるにつれて、難しくなってくることは確かです。小学1年生なら、昨日自信がなかった子だって、今日すぐにだって変われる。3年生くらいなら、まだ取り戻せる。それが5年生以降、思春期に入ってくると、自意識という鉄の鎧(心の壁)が強力になって、なかなか変わらないのです。

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だけど本来、子どもって何にでも興味があるし、好きなことだらけなんですよ。将棋だって「やる?」と聞くと、「やるやる!」と手を挙げる。でもなぜそれが嫌いになったり自信がなくなったりするのかというと、親の言葉なんです。「○○ちゃんはできるのに、なんであなたはできないの」とか、「あんまり成績良くなかったね」と残念そうにしてしまう。のびのびとさせてあげればいいのに、結果を求めてしまうんです。

そうやって長男は潰され、次男が伸びて、三男はもっと伸びる。メジャーリーガーの大谷翔平選手も末っ子ですよね。「サッカー日本代表に選出されている選手のほとんどが次男以降」という話もあります。子どもは、親が放っておくとなんでも好きに、自由にやるんです。

「放っておかれた人」がいちばん強いんですよね。「空が暗くなってもずっと野球の素振りしてた」とか、何かに没頭した体験がある人はまさにそう。

メルカリの小泉文明社長も、子どものころ、山梨の田舎町でひたすら自然の中で遊んでいたそうです。「今日はあの山へ行こう」と決めて、蜂や蛇が出ることもあって危険と隣り合わせだけど、あたりをつけたところにカブトムシがいるのが面白かったと話していました。

自分で決めるから楽しいんですよ。命令されたり、やらされたりすることって、全部つまらないじゃないですか。

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それと、「親に愛された」「かわいがってもらった」っていう記憶や経験、根拠も自信を育むには必要ですね。自己肯定感の高い子は、人生そのものが楽しい。朝起きたら、「今日は何やろうかな」と考えたり、何かしら活動していることが楽しいんです。

そうでない子は、「今日はピアノのお稽古」「次は学習塾ね」……そうやって、はい中間テストだ、受験だ、就活だ、仕事だ……って、自分のペースとは関係なくやることが決まっていって、全部「やらされ」で来てしまいます。

大人になっても自信は取り戻せる、「◯◯な経験」をすれば

——「やらされ」がつらいのは、仕事にも通じるところがありますね。でもそうなると、幼少期に自信を持てなかった人は、成長してもそれを克服することはできないのでしょうか。

いや、実は僕がそうだったんですけど、わりと自分に自信がない、自己肯定感が低いほうだったんですよ。

父親とそりが合わなくて、スキンシップもゼロだった。父親自身、自分の父親がいなかったので、子どもとどう接したらいいか分からなかったみたいなんです。僕が50歳過ぎてから「あのころはすまなかった」って謝られましたけど、「おいおい、今さら遅いよ」って(笑)。

小さいころはからだが弱く、頭のいい姉と、イケメンの弟にはさまれ、ずっと自分に自信が持てませんでした。

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それを克服できたのは、高校時代の彼女のおかげなんです。ある種の親子関係というか、「第二の母」というか……精神年齢も20歳くらい上なんじゃないか、と思えるような人で。無条件に「あなたはこういうところがすばらしい」「あなたはできる」と支えてくれた。人として足りないもの、欠けているところを補って、真っ当にしてくれたんです。

そうすると、「よし、世界は僕を受け入れてくれる」「これからなんでもできるかも」と思えるようになった。根拠のない自信が出てきたんです。

——「根拠のない自信」が身について、高濱さんはどのように変わりましたか。

それが、自信がつきすぎちゃったんですよ(笑)。高校はその彼女と野球に明け暮れたし、卒業して2浪して、それでもパチンコだ、麻雀だ、女だ、ケンカだ、って。なかでも前科数犯のプロとケンカしてしまったときには、家庭裁判所に呼ばれちゃったんです。

そりゃもう、親は泣きますよね。一人暮らしして真面目に受験勉強をしているかと思ったら……久しぶりに再会したのが家庭裁判所なわけですから。「騙したでしょう?」って、がく然としていました。中学校のころは生徒会長を務めて、優等生でしたから。まぁ僕としては、「これは本当の自分じゃない」とずっと思っていたんですけど。

やっと大学には入りましたけど、結局、その後大学院の修士課程を修了するまでに4留しました。授業をサボって麻雀はやるし、落語に行くし、ナンパはどんどん成功するし、「世界中の女の子に声かけてもイケる」と、変な自信もありました。

そこにあるのはもう、根拠のない自信だけなんですよ。「今からでもなんとかなる」「アイデアを持ってるし、俺のいない社会なんてあり得ない」って、思い上がりもいいところ。ちょうどバブルのころでしたから、山のように会社案内が送られてきましたけど、箱に詰めて丸ごと捨ててました。

でも、そういうレールを外れる経験、つまり自分で決める経験があると、自分のペースで物事を進められるようになるんですよね。自信がないままだと、喜びを感じるのは「誰かに褒められること」とか「親が喜んでくれること」になってしまうんです。

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——他者に自分の評価を預けているままだと、自信が持てないということですね。根拠のない自信を持っていると、ビジネスでもメリットがありますか。

ある調査で、シリコンバレーでどんなスタートアップが成功するのかさまざまな条件で統計を取ったところ、いちばん相関関係があった項目は、「創業者が不良かどうか」だったそうです。確かに、ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグも大学を中退してるし、スティーブ・ジョブズは高校時代、ドラッグをやった、みたいな話もありますよね。

「不良」っていうと聞こえが悪いかもしれないけど、要はレールを外れたことがあるかどうか、ということなんです。レールを外れるわけだから、自分で決めるしかない。そこで根拠のない自信のもと、やりたいようにやる。そうすると、仕事においてもゼロベースで、「いつでも作り上げられるんだ」と思えるようになります。

イスラエルは国家レベルでそれを仕組み化しているようです。兵役制度があるので、18歳から2、3年間兵役に服するんだけど、それが終わるとしばらく世界中を放浪するのが定番らしいんです。バックパッカーとして、ゼロベースで、真っさらな自分で人生を過ごす。ユダヤ人に著名な起業家が多いのもそういう背景があるからなんでしょう。

根拠のない自信を部下に持たせる、経営者・上司に絶対必要なこと

——しかし、会社では「根拠のない自信」はあまり評価されない部分もあるかと思います。何か新しい事業を提案するにしても、根拠や数字的な裏づけを求められます。

自治体とか特にそうですよね。地方創生にしても、なんで揃いも揃って、外部のコンサルにお願いするんだろうと思うけど、結局「言い訳」が欲しいからなんですよ。第三者から「マーケットはこう」と言ってもらうことで説得力を持たせたい。一人称で「私はこれがやりたい、絶対にニーズがあると思うんです」って言っても、通じないから。

けれども、グーグルみたいな会社が今みたいになるなんて、20年前は誰も思っていなかったよねって話で。つまり、今までのように「良いものをつつがなく作り続ける」というのが通用しなくなってきている。ゼロベースでものを考えて、新しい事業やサービスを生み出す、DMM.comとかメルカリとか、今勢いのあるところはみんなそうですよね。

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だけど今はまだ、日本社会の仕組みがそれに対応しきれていない。就活にしても、「新卒」という枠組みから出たらなかなか評価されない。でも、それこそ全部同じような属性の人がずらっと揃ってどうするのって話ですよ。上司がいて、役職があって、順番に出世していく、みたいな。だから今、かつては立派だった企業が破綻して、どんどんダメになっていっている。

これはもう、経営者の問題なんです。経営者が「なんでもいいから、手を挙げろ」「数回のうち1回でも成功したらいいよ」と、失敗してもいいからやってみなさい、と言えるかどうかにかかっているんです。「自分なんて大した人材じゃない。とりあえず目の前の仕事を……」って、メンバーを萎縮させている場合じゃないはずなんですけどね。

——花まる学習会では、社員に自信を持たせ、行動を促すためにどんな工夫をされていますか。

うちで今、事業部門のトップをまかせている社員も、一度大きな失敗をしたんです。

特に学歴がいいとか、年齢が上というわけではないけど、地頭が良いなと思って、一度、事業部門のトップをまかせてみました。見所がある若手は、抜擢してみるということです。でも、その時はまだ荷が重くて、つぶれてしまった。それからいったん別の部署を経て、今戻ってきているわけだけど、「あの失敗体験があったから、今の自分がいる」と言ってくれています。

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それと、新入社員や若手社員を一緒に寮に住まわせたことも、彼らの自信につながっているかもしれませんね。最初のきっかけはたまたまで、ちょうどオフィスの上の階が空いたので、「何かやろうよ」ということで始まって。日常生活をともにして、飾らない姿でいられるような「居場所」を作る。今、幹部をやっている人間はみんなそこから育っています。

少し前までは、社員寮もそうだし、社員旅行や飲み会も、「それ、残業代出るんですか?」なんて言われてだいぶ減っていたけど、最近は改めて見直されてきていますよね。やっぱり、人間が根本的に求めるものっていうのがあると思うんですよ。愛情というか、温もりというか。

サマースクールでも、歳もバラバラの子どもたちが、一緒に秘密基地を作ったり、魚を捕ったりして、同じ時間を過ごすことで家族や仲間になる。お兄ちゃんお姉ちゃんは年下の子をかわいがるし、その子たちもちゃんと甘えてくる。同じ体験をして、「チームで優勝しよう」って一緒にがんばった経験が糧となって、社会的に自信を得ることができるんです。

つまり、自信を持たせるためには、「愛」を伝えることが大切なんです。マニュアルとか、建前とかじゃなく、本当に心から褒めてあげること。今までできなかったことができるようになったら、しっかりとそれを口にしてあげる。本人が「よし」と心の中でガッツポーズを取って喜ぶようなことを、言ってあげるんです。

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——もしそれを上司が行うとすれば、部下一人ひとりに対して、その成長度やプロセスをつぶさに見ておく必要がありますよね。

そうです。相手の芯の部分にアプローチしなくてはならない。いわゆるメンター的なあり方ですよね。うちでは日報のシステムを使っていて、毎日コメントを書いてやりとりしているんです。そっけないコメントしか残してなかったら、部下は「自分のことを見てくれていないんだ」と拗ねてしまいますよ。みんな、それが大切な仕事のひとつだと思っています。

部下が何か「やりたい」って手を挙げれば、まかせて、ちゃんと見て、できるようになったことを愛を持って褒める。それこそ、経営者や上司にも、「思いきって部下に何か大きな仕事をまかせる」っていう、根拠のない自信が必要かもしれないですね。

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(取材、文・ 大矢幸世、岡徳之/撮影 ・伊藤圭)

"未来を変える"プロジェクトから転載(2018年5月30日公開の記事)


高濱正伸:花まる学習会代表。1959年熊本県生まれ。県立熊本高校卒業後、東京大学に入学。1990年同大学院修士課程修了後、1993年に「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した小学校低学年向けの学習教室「花まる学習会」を設立。父母向けに行なっている講演会は毎回、キャンセル待ちが出るほどの盛況ぶり。「情熱大陸」「カンブリア宮殿」などドキュメンタリー番組にも出演し、注目を集めている。現在、算数オリンピック委員会の理事も務める。

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