2017年の以来、政治報道の中心を森友・加計問題が占め続けている。共同通信社が2018年6月16、17両日に実施した全国電話世論調査によると、財務省が決裁文書改ざんの関係者を処分したことで、森友問題が決着したとの回答は15.7%、決着していないは78.5%と、いまだ終わる気配も見えていない。
2018年4月には財務省の前事務次官のセクハラが大きな騒動となり、政策的な話題は置いていかれているような印象を受ける。
一方で、安倍政権の支持率は、財務省の文書改ざん問題発覚後に急落したが、その後連休を挟んで、横ばいの状態が続いている。
こうした政治の現状に対して、若者はどう思っているのか。Business Insider Japanでは政治に強い関心を持つ3人に話を聞いた。
左から、田中将介さん、星裕方さん、諏訪原さん。
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・田中将介さん(25):フリーライター。2018年4月練馬区長選に出馬。
・星裕方さん(24):PR会社勤務。テレビニュースに関心を持ち、一時はアナウンサーを志す。
森友・加計問題「うんざりするけど、重要な問題」
Business Insider Japan(以下、BI):森友・加計問題、最近だと財務省のセクハラ騒動など、この1年以上スキャンダル寄りな話題が続いていますが、どう感じていますか?
田中将介(以下、田中):もう1年以上ずっと国会で話題になっていて、正直長すぎて、追うのも億劫です。もちろん、改ざんやウソをつくのは問題だと思います。だから与党は証人喚問とかを拒否せずに、ちゃんとやってほしい。
それにしても、本当の問題が何なのかよくわからない。与党側も野党側も分断してそれぞれに批判を繰り返すばかりで、解決に向かっているようには思えない。結局、だらだら長引いて、終わっていく気がします。
星裕方(以下、星):森友に関していえば、なぜ文書が次々に出てくるのかというのは感じます。小出しにせずに、一気に全部洗いざらい出せば、解決に向かうんじゃないかなと。
諏訪原健(以下、諏訪原):うんざりするみたいな感覚は僕も一緒。いい加減にしてほしい。ただ、この問題はものすごい重要だと思っています。
近代国家は、きちんと法に基づいて運営され、後の世代が検証できるように、文章をきちんと記録、保管したりすることを義務づけられている。そうした近代国家の前提が覆されている。野党がだらだら追求しているという批判もありますが、本当は責任がある側(政府)がきちんと解明して、責任を果たさないといけないと思います。
田中将介さん。フリーライターとして政治家のインタビューなどを行い、2018年4月には25歳で練馬区長選に出馬した。1992年生まれ。
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田中:個人的に疑問なのが、野党は本気で解決したいと思っているのかという点。これまでも、諏訪原さんたちみたいに本気で社会を変えたいと思っている若者を政治利用して、与党や安倍政権に対抗してきたように見える。ある種の政治ショーをやっているんじゃないかなと。
諏訪原:正直、議員によって熱量の差はあります。ただ、追及を頑張っている野党議員もいると思います。
森友・加計問題は2017年から続いていますが、2017年の国会は改ざんされたデータで議論しているので、前提が全く違う。だから、だらだら追及しているというよりは、政府が隠していたものが出てきたから、それをさらに追及している状況。
そもそも、こんなに改ざんとかが出てきたら、今までの自民党だったら絶対責任を取って辞めていると思うんですよ。実際に、自民党のかつての首相もその点を批判している。
メディアはもっと読者を信用するべき
BI:マスメディアの報道に対してはどう思っていますか?多くの人たちの印象とは異なり、森友・加計問題を議論している間も、国会では政策の議論もきちんとされていました。しかし、マスメディアは森友・加計問題ばかりを報道しがちです。
星:森友・加計問題の根は深いのかもしれませんが、メディアでも長いこと報道していて、現場の人も疲弊している。そういう人たちのことも考えた上で報道を続けているんだろうかという疑問はあります。
もともと学生の頃から、どのテレビ局でも連日同じゴシップネタを報道しているワイドショーが好きではなくて。今はPR会社に勤めているので、企画者の立場から、なぜどの局も同じ話題ばかり扱うんですかと報道の方々に聞くんですが、他のキー局が放送していることを扱わないのは、仮に数字が取れなかった場合にかなりリスキーだと。テレビ局は視聴率を取らないといけないので、仕方ない部分もあると思うんですが、それ(スキャンダル報道)で視聴率が取れてしまう社会の方が問題だと思います。
星裕方さん。ニュースを作る側になりたいという思いから2017年4月にPR会社に就職。1993年生まれ。
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田中:テレビが家にないので番組そのものについてはよく分かりませんが、報道については、記者がツイッターなどを通じてもっと自由に発信しても良いんじゃないかと思います。個人の発信が会社を代表しているとは思いませんし。現場があまりに忙しすぎるのだとすると、そこから自由な発想は生まれて来ないのでは。
諏訪原:もっと読者や視聴者を信頼してもいいんじゃないかと思います。現状はすごい均一的だし、表層的。今回の森友・加計問題も、文章を改ざんしたか、していないかは報道されているけど、なぜそれが問題なのか、文書管理システムがなぜ作られたのか、もっと背景も含めて報道すべきではないかと。
BI:若者はそういう深いニュースを求めていると思いますか?
諏訪原:時々解説動画やパンフレットを作っているんですが、解説動画はそれなりに再生されるんです。パンフレットも、渋谷などの街頭で配ると、意外なくらい受け取ってくれる。特に労働問題のような身近な話題だと興味を持ってくれる。
今は18歳になると急に社会のことを判断して投票しなくてはならないわけですが、義務教育を通じて社会に対する判断基準を学んだり、自分の中に作り上げたりする機会がほとんどない。主権者教育でもあまり実際の政党のことを取り扱わないので、どんな政党があって、どんなことをやってきたのか、あまりよく分かっていない。
だから、そういう自分の中に判断軸を作るような情報にはニーズがあると思います。
政治家はもっと伝わる言葉で話してほしい
今村拓馬
田中:僕たちの世代でも、友達と話しても通じないことが多くて、ニュースのことを話しても、「何それ?」と言われることがすごい増えてきている。共通言語がなくなってきている。若い人で社会貢献活動に関心を持っている人はいるけど、それは政治と全くつながっていない。
星:自分の周りでも、政治を自分ごと化している人はあまりいない。政治家は政治の視線で全体状況を話すけど、一つの職場の一人の社員の状況、その状況が生まれる背景など、具体的で身近な事例から一般化した方が、政治に興味を持つ人も増えると思う。
諏訪原:もっと分かりやすい言葉で話してほしい。国会で安倍首相が話していることの意味が全然分からない。政治家の話は総じてつまらない。
田中:自分で選挙に出てみて、いかに揚げ足を取られないようにするか、気にしてしまうというのは身を持って実感しましたけどね。何かポロっと言ったら、そういう風にメディアに切り取られ、有権者に受け取られるのかと思うことが多かった。国民も失敗したらダメみたいに、政治家に求めすぎているところもある。
諏訪原:もちろん差別しないとか、改ざんしないとか、最低限のことは守るべきだけど、多少の失敗は許容されて良いと思う。人間は誰でも間違う。結局、国民が「観客」になってしまうと、政治家も評価されるだけの存在になってしまう。
田中:今回選挙に出た時に、孤独な挑戦に対する応援みたいな感じで、政治に興味がない人たちも集まってくれた。朝6時から街頭演説で一緒に立ってくれた人もいた。政治だからと肩肘張らずに、誰かの挑戦を応援するとか、インターンシップで政治家のところに行くとか、もっといろんな形で気軽に政治に参加すると、政治家のことも理解できると思う。
選挙に勝つのは本当に大変で、社会を何とかしたいという気持ちがないとやれない。もっとみんなが政治の現場を知れば、自分ごとにもなると思います。
首相は「自分たちでつくっていかないといけない」
自民党内にも対抗馬が存在せず、安倍政権は約6年間も続いている。
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BI:今いる政治家の中だと誰が首相になってほしいですか?
星:カナダだったら自民党の小泉進次郎さんぐらい若い首相が誕生している。日本はコンサバティブ(保守的)で、年功序列主義になっている。年取らないと首相になっちゃいけないかのような。その辺はもっと変わってほしい。
現職の中だと、無所属の野田佳彦さん。批判を覚悟で増税を先延ばししなかったり、議員定数削減と引き換えに内閣総辞職をしたり、保身を優先する今の国会議員とは違うな、勇気ある人だなと思いました。
田中:会ってきた人の中では、自民党の野田聖子さん。一度他の雑誌で女性議員の座談会に同席した時に、話し方も上手で、すごい気持ちが伝わってきた。自民党から野党に移って社会を変えないかと何度も誘われたそうですが、自民党内から発言して変えていかないと社会が変わらないから、ずっと自民党にいると。芯が通っていると感じました。
諏訪原:自民党だったら野田聖子さんが良いと思います。野党だったら、立憲民主党の枝野幸男さん。最近の枝野さんを見ていると、以前とは変わりつつあると思います。下からの政治、ボトムアップを強調しているのは良いですね。あと、日本は女性の政治家が少なすぎる。セクハラの問題もそうですが、日本は「おっさん文化」に染まりすぎていると思います。
一方で、誰であっても個別の政治家に期待しすぎるのは良くないと思う。リーダーが何でも解決するというのは難しい。みんながちょっとずつやる社会の方が健全。そういう考えを持った政治家をこれからつくっていかないといけないと思う。
若者の最低限の生活を担保すべき
BI:政治家にどういう政策を実現してほしいですか?
諏訪原:安倍政権が今やろうとしているのは、国家にどう国民が合わせていくか。
例えば、女性の活躍については、労働人口を増やすために、働いてくれる女性を求めますと。それはおかしい。国家の都合に個人が合わせるのではなく、多様な個人に合わせて社会のシステムを組み替えるのでなくてはいけない。そのためにも、政治参加のルートはもっと多様になるべき。政治家と国民の距離が遠い現状ではそういう政治も作りようがない。
若者の先行きは不透明で、普通に働いていても生活が保障されない。だからこそ、家だけでも確保できるように住宅政策を考えるとか、最低限の生活を保障する枠組みを特に若年者に対してきちんと作ってほしい。
諏訪原健さん。学生時代はSASPL(特定秘密保護法に反対する学生有志の会)やSEALDsの活動に関わる。1992年生まれ。
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星:すごい同意。
田中:元ライフネット生命保険の会長で、立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明さんにインタビューしたときに「きちんとハシゴをかけることが政治の役割として大事」だと言っていた。まさに最低限の生活をできるような政策は必要。
星:まずは透明性を高くしてほしい。加計問題だって、たとえお友達関係だとしても、議論がオープンであれば問題はない。今の時代、完全なブラックボックスは難しい。どこかから漏れる。隠しているからさらに追及したくなる。もっとオープンにするべきだと思います。
政党がムーブメントを起こす存在に
田中:政治家にはもっと前を向いてほしい。民泊の問題みたいに、規制をかけすぎるのはすごい嫌。過去に固執せずに、社会や技術の変化を受け入れるような社会になってほしい。
諏訪原:日本社会は安易なマーケティング社会になっている気がします。政治も、目の前の選挙など短期的な成果ばかりを求めて、どこからも批判されない範囲で当たり障りのない表現が多すぎる。それってすごいつまらない。
田中:区長選は惨敗しましたが、僕は20年後、30年後の街を作っていきますとしか言わなかった。長期的なビジョンを持った若い政治家も増えてほしい。
諏訪原:政党には分かりやすい言葉で明確な未来像を示してほしい。今までは、◯◯組合が応援してくれるとか、農協が応援してくれるとか、そういう組織の利益の話が中心だったけど、これからは個人の時代で、多様性の時代。もっといろんなアプローチをする政党があっていい。もっとムーブメントを起こす存在になってほしい。
国民の側も、誰かヒーローを選ぶのではなく、一緒に作っていくべき。政治家はパートナーでもある。政治家が変な方向に行こうとしたら僕らが指摘しないといけない。それを面倒くさがると、政治は一部の特別な人たちだけのものになってしまう。政治家も僕らも変わっていかなければいけないんだと思います。
(聞き手・構成:室橋祐貴)