届出をしていない物件がサイト外で取引されるケースが、「ごく稀に」あるという。
出典:Airbnb
2018年6月15日に施行された民泊新法(住宅宿泊事業法)。Airbnbなど、仲介サイトで取引できない違法物件が、サイト外で取引されようとしている。
ホストがユーザーに直接メールを送り、通常よりも安価に水面下で予約を受け付けようとする。
さらに、最近では、未登録の仲介サイトで、違法物件が掲載されるケースも登場。自治体が未登録の仲介サイトに指導し、サイトが閉じても、また復活し、自治体職員は「いたちごっこ」と頭を悩ませている。
(関連記事:Airbnb、ヤミ民泊問題に緊急会見 —— 違法登録には「アカウント使用停止、削除も」)
宿泊予約が自動キャンセル、その後……
Kim Kyung Hoon Reuters Pictures
民泊新法施行から間もなく2カ月。この間、筆者自身は、ヤミ民泊の「入り口」を実体験した。発端は、新法の施行から約1週間が経過したころのこと。筆者がAirbnbのページから、都内のある物件を予約したときに起こった。
予約後間もなく、鍵の受け取りなどについて、ホストからメールが届いた。しかし、予約の前日、Airbnbから「予約が自動キャンセルされた」という通知がやってきた。民泊新法の影響だ。Airbnbから物件情報は削除され、Airbnbから届いた状況報告には、「(予約物件は)適切な許認可等が未記入」とキャンセルの理由が書かれていた。
ホストからやってきた「直接交渉」
キャンセルの案内が届いた半日後、Airbnbのマイページに、ホストから、直接連絡をするという旨のメッセージが届いた。
しばらくすると、予約の際に登録した携帯電話にホストからSMSが届いた。SMSには、Airbnbを介さずに、現金で直接やりとりをできるという趣旨が書いてあった。さらに、提示された料金は、Airbnbで予約をした時の約8割の金額。民泊新法の施行直後という時期もあり、元Airbnb物件の「ヤミ民泊化」を感じた最初の出来事だった。
ほかのキャンセル物件でも直接交渉
さらに、同じようなことが別の物件でも続いた。
6月末に予約した都内の物件。チェックイン日は7月下旬。7月に入り、Airbnbから自動キャンセルの連絡が来た。Airbnbのメッセージ画面で、物件のホストから、LINEのIDや電話番号、メールアドレスを知らせてほしいというメッセージが届いた。ホストが書いていたメールアドレスにメッセージを送ると、予約を継続し、料金は直接受け取るという内容が返ってきた。この物件も許認可情報が未登録で、自動キャンセルになっていた。
ホストもゲスト対応に追われ……
筆者は結局2件ともキャンセルしたが、ホストからゲストに直接連絡、安く物件を借りられるなら、つい頼ってしまうという人がいても不思議ではない(画面はイメージです)。
最初の物件のホストの女性に話を聞くと、ほかのゲストからも予約が入っており、何とかゲストに宿泊場所を提供したいと、連絡に追われているようだった。女性は当時、Airbnbから認定を受ける「スーパーホスト」で、民泊を“本業”にしていた。しかし、「民泊の届け出が通らないので、倒産の危機にある」と話し、「精神的に落ち込んでいる」と不安を口にした。物件の家賃は月額で数十万円以上かかるといい、民泊撤退により、大きな負債を抱える可能性を心配していた。
もう一方のホストも、「規制が厳しくなり、営業が難しくなった」と撤退の方針を口にした。
「物件がある区は、民泊新法、旅館業法の許可が下りづらい地域」との理由で、営業のための許可証がないという。「ホテルの既得権益を守っているようだ」、上記の女性は、民泊新法のあり方に嘆いていた。
なお、(当然ながら)Airbnbは、サイト上で「プラットフォーム外での直接取引はおやめください」と呼びかけている。「ごく稀に」、直接取引が起きているとしているが、件数は公開していない。
「エアビー難民」が未登録サイトに流入か
京都市は、未登録の仲介サイトに削除をするよう指導しているが、サイトが消えては立ち上がり、「いたちごっこ」だ。
出典:京都市
ヤミ民泊化は、ホストとゲストの直接取引に限らない。
観光庁は、未登録(※)の仲介サイトで、違法物件が掲載されている事態を把握。同様の情報提供が、自治体や一般の人から、十数件寄せられているという。
京都市も、未登録の仲介サイトを複数件把握し、指導している。8月5日に電話取材に応じた京都市の観光MICE推進室の担当者は、「違法民泊は(正規の)プラットフォームだと削除されるので、ホームページを立ち上げ、やりとりすることが現実的にある」と明かす。Airbnbなどのプラットフォーマーから削除された物件は、「宙ぶらりん」になり、自ら取引を始めている可能性があるという。
京都市は未登録の仲介サイトのアドレスを把握し、条例に基づいて、指導をしているが、「個人のサイトなので、指導をすればやめるが、また復活する。1、2週間後には、また立ち上がったりして、いたちごっこ」という。サイトは、「手作り」のような簡単な仕様という。
また、市に対してゲスト(宿泊者)から、「泊まったところが、ヤミ物件かもしれない。ヤミの仲介サイトならば、指導、削除をしてほしい」などという情報提供があるケースも。「ゲストからすると、許可されたサイトかどうか、わからない。未登録のサイトや物件だと、サービスが悪かったり、突然サイトが消えたり、営業を停止しても返金がなかったりする可能性がある」と、改めて闇民泊化の現状に注意喚起した。
※仲介サイトを運営する場合は、旅行業法や住宅宿泊仲介業の許認可が必要になる。
未登録サイトの大半は海外に拠点、法律の適用外
未登録の仲介サイトの所在地は、アジアやヨーロッパなど、さまざま。海外が大半という。
出典:民泊制度ポータルサイト
仲介サイトは法的な許認可が必要だが、観光庁によると、仲介サイトの運営者のほとんどが海外に拠点があり、「日本の法律が及ばない」という。このため、行政側は、「海外に所在地のある仲介業者は、法律の範囲外なので、仲介サイト(業者)を規制するというよりも、掲載されている日本国内の違法物件を摘発していく方法になる」(観光庁の担当者)。
ただ、仲介サイトの物件情報に住所の記載はなく、「近隣住民からの苦情が自治体に入り、自治体が実際に現場に行き、サイトの情報と見比べて、物件を特定している」(同)と摘発まで煩雑な手続きが必要になる。
京都市の場合は、「違法民泊を載せている時点で、仲介サイトも共犯。罰則はないが、常識的な見解」として、サイトにも指導をしている。
法的な規制が厳しくなればなるほど、“ヤミ化”する民泊。ゲストは「ヤミ民泊には宿泊しない」ことで自衛できるが、一方でヤミ民泊に直面する自治体や地域住民からすれば、対処はより難しくなったとも言える。民泊新法によってプラットフォーマーの手を離れたがゆえに、いっそう闇に潜るという悪循環に陥った側面が浮かび上がる。
(文、撮影・木許はるみ)