漫画村問題:ニコ生でカドカワ川上社長らが激論——「海賊版サイトブロッキング、アリかナシか問題」の結論は

4月13日、政府が「漫画村」「MioMio」「Anitube」などの海賊版サイトをブロッキングすることが適当であると発表、間もなくNTTグループがブロッキング実施を表明したことで大きな注目を集めている「海賊版サイトブロッキング問題」。

6月22日に配信されたニコニコ生放送の番組「激論 どうなる、海賊版サイト対策のこれから」では、有識者が討論を行った。

ニコニコ生放送での議論の様子。

6月22日のニコニコ生放送「激論 どうなる、海賊版サイト対策のこれから」の様子。

電子コミックの売り上げは「6月いっぱいまで見る必要」

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カドカワ社長の川上量生氏。

番組には、カドカワ社長の川上量生氏のほか、ジャーナリストの堀潤氏(司会進行)、NGN IPoE協議会 会長の石田慶樹氏、日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)副会長の立石聡明氏、インターネットユーザー協会(MIAU)幹事の中川譲氏、弁護士の村瀬拓男氏、森亮二氏が参加した。

まず、漫画村の事実上の閉鎖を受けて、電子コミックの売り上げはどのように変わったのか。

(番組終了後に行われた記者会見で)川上氏は「具体的な数字は言えないが、変化があったと聞いている」とコメント。

デジタルコミック協議会の法務委員長でもある村瀬氏は「(漫画村閉鎖は)ゴールデンウィークと時期が重なったため、正規版の配信もキャンペーンなどで跳ね上がる時期。6月いっぱい頃まで数字を見てみないとわからない、というのが業界の認識」。

海賊版サイトによる出版社の被害額は、いまだ各社ともに正式なデータを発表していない(6月22日の朝日新聞の報道によると、講談社は知的財産戦略本部の検討会議で、海賊版による電子コミックの逸失売り上げ金が1カ月で約5億円だったとの試算を公表している)。

現時点で参考となるデータは、コンテンツ海外流通促進機構(CODA)による試算で、漫画村の被害額を約3000億円としている。しかし、これは2017年の紙と電子版を合わせたコミック全体の市場規模の約7割にも匹敵し、非現実的な数字だとの批判もある。

今後、公式データを出す予定があるかとの質問に、川上氏は「(他社と)足並みを揃えて出すことになると思う」と答えた。

なお、川上氏は4月24日、自身のブログにて、政府が発表した方針への支持を表明。同氏は知財本部のメンバーでもあることから、一連の動きを推進したのは川上氏ではないかとの見方が出ていた。

記者からの質問に対して、川上氏は「知財本部で発言はしていたが、自分が(発表を)呼びかけたわけではない。漫画村の被害の数字が大きく、ネットでも話題になっていたことを受けて、政府が出した」と否定した。

出版社は月数万件の削除要請、訴訟には手が回らず

弁護士の森亮二氏。

弁護士の森亮二氏。

番組では、権利者側は海賊版にどのような対策を講じてきたかが話題となった。

弁護士の村瀬氏によると、各出版社は、1カ月に数万件は、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に則った削除要請の通知を送っているという。

川上氏は「(権利者側は)相当努力している、しかも理不尽な努力をさせられている」と語った。

その一方で、削除要請に応じないサイトに対する民事訴訟は「そこまで割くリソースがない」(村瀬氏)とし、少なくとも現時点でサイト運営者に対する訴訟には手が回っていないことも明らかにした。

同じく弁護士の森氏は、大規模な海賊版リーチサイト「はるか夢の址」の運営者が2017年10月に逮捕されたことを例に挙げ、刑事告訴という手段はとらないのかと質問した。

これに対して村瀬氏は、「警察に相談はしているが、警察は一度動き出すと、そこを摘発のターゲットにしていることを知られたくない。(権利者側は)数カ月の間、他のことは何もやらないでくれ、と言われてしまう」とし、複雑な事情があることを示唆した。

ブロッキングは「通信の秘密の侵害」か?

カメラ

インターネット時代の「通信の秘密」「プライバシー」の議論もしなければならない、と川上氏。

Shutterstock / denniro

ブロッキングを今後どのように法制化していくかに話題が及ぶと、川上氏は、裁判所の仮処分によってブロッキングできるようにする「司法的ブロッキング」を採用し、これを請求できる権利を法律で定めるべき、と持論を述べた。

その流れで、ブロッキングによって脅かされる(憲法で保障された)「通信の秘密」をどう定義するかについては、参加者たちの立場が分かれた。

川上氏は、「(一般的な感覚として)アクセスした先のアドレスを見られることが『通信の秘密』の侵害にあたることには大きな違和感を感じる」という。

森氏は「(それが機械的なものであったとしても)通信の宛先を記録してチェックすることによって、たとえば警察がそれを見せてくれといったときに見せてしまうこともできる。悪意を持つ通信事業者がその記録を見て、何かに利用する可能性もある」とし、大きな問題があると反論した。

また立石氏は「本やテレビですら、(第三者に)何を見ているかを知られることには自分は抵抗がある。思想的に何に傾倒しているかが分かってしまう」と語った。

一方で、番組で紹介されたニコニコ動画の視聴者アンケートによると、漫画村やAnitubeなど海賊版サイトへのアクセスを遮断することについて、53%が賛成(反対が19%、わからないが28%)と、半数以上がサイトブロッキングの実施を支持していることが分かった。

番組内で紹介されたアンケート。

番組内で紹介されたアンケート。「海賊版サイトに対してアクセスを遮断することに対してあなたは賛成ですか、反対ですか」との問いに半数以上が賛成。

出版社横断のサービスはなぜ作れない?

正規版で読みやすく使いやすい、出版社横断型のサービスはなぜつくれないのか、という議論も交わされた。

川上氏は「強い出版社は、自分が(漫画配信の)プラットフォーマーになりたいもの。そこの調整が難しい。結局は市場競争で一つ(のサービス)になっていくのが通常だ」としつつも、「これを強制的に一つにするのは社会主義的な話で、ちょっと違うんじゃないか」とも語った。

日本で出版社横断型のプラットフォームが出てこなければ、アマゾンのように、海外のプラットフォーマーがコンテンツ配信を一手に担うようになってしまうという懸念もある。

川上氏も「経済合理性からいっても、横断型のプラットフォームをつくるべき」と強調した。

(文・写真、西山里緒)

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