蜜月復活で本格化する中国の北朝鮮支援。北に「核の傘」供与も—— 人民解放軍筋語る

中朝会談

短期間に3度も訪中をした金正恩氏。中国は安全保障面でも北を全面的に支援すると見られている。

KCNA via REUTERS

歴史的な米朝首脳会談の興奮が冷めやらぬ中、北朝鮮の金正恩・労働党委員長がまた訪中した。3カ月で3回という高い頻度の訪中はいったい何を物語るのか。

中国人民解放軍に近い研究者は筆者に対し、有名無実とみられてきた「中朝同盟」について「3年後に迎える更新で、中国が北朝鮮に核抑止力(核の傘)を与えるなど、安全保障協力が強化されるだろう」との見通しを明らかにした。

米中「パワーシフト」(大国間の重心移動)が激化する中、習近平政権が北朝鮮支援を本格的に検討し始めている。

「我々は全面的に支持する」

米朝会談

トランプ氏と金正恩氏は今後どのような工程で、非核化を進めていこうとしているのか。

Getty Images AsiaPac

金正恩朝鮮労働党委員長が3回目の訪中をした6月19日、北京から中国人民解放軍幹部で、国際関係を専門にする研究者が来日した。

まず中朝関係について問うと、「金正恩は実に賢明な指導者だと思う。非核化を進めると同時に、経済建設に傾注する戦略的な転換を進めている。我々はこれを全面的に支持する」と絶賛した。

米朝会談後も、筆者の頭から離れなかったいくつかの疑問がある。

第一は、北朝鮮の非核化と経済建設に方針転換した本気度。

第二は、北朝鮮の「後ろ盾」として影の力を発揮した北京と平壌の「蜜月」の内実である。

中朝関係は2017年、中国が北の核・ミサイルを「脅威」と位置付け、アメリカとの協調の下で北の核管理を想定するシナリオまで描いた。平壌は中国を名指し批判するなど、「敵対関係」と言ってよいほど関係は悪化した。

正恩氏の相次ぐ訪中で、双方は「伝統的友好関係」を回復したものの、「同盟関係」の復活はないと見るのが一般的。中国自身も冷戦終結後は、仮想敵を前提にする同盟関係は結ばず、各種の「パートナー協定」を外国と結んでいる。

「中朝同盟」(中朝友好協力相互援助条約)は1961年7月調印され、20年ごとに自動更新され、2021年に3回目の更新期に入る。「一方が武力攻撃を受けた場合、他の一方は軍事支援を与える」と明記した「参戦条項」があるものの、中国では「既に形骸化している」「軍事条項は見直すべき」とする声が主流だった。

「主体思想」放棄して生き残る

それだけに、共産党と軍の政策決定に影響力をもつこの研究者の発言には驚いた。祖父と父親の時代からの懸案だった「米朝直接協議」にこぎつけた金永恩氏の戦略は、休戦協定を平和協定に替え、アメリカと国交正常化することによって体制保証を得ること。それに加え、中国の影響力から脱するという祖父の「主体思想」の実現にあったはずだからである。

そう研究者に問うと、「主体思想は放棄したと思う。リーマン・ショックで明らかになったアメリカ主導の資本主義世界は行き詰まった。北朝鮮は中国の経済改革に学びながら、社会主義国家として生き残る道を選んだ」という答えが戻ってきた。

さらに「ベトナムも戦火を交えたアメリカと関係正常化したが、独自の社会主義の道を歩んでいる」と述べ、北朝鮮がアメリカと関係正常化しても、「西側世界」に入るわけではないとみる。そして「北の非核化の意思は明確。経済建設への戦略転換をしたのだ。核を失えば中国の核の傘に頼るしかない」と指摘するのだった。

3度目の中朝会談で習氏は、「朝鮮が経済建設に重点を置く大きな政策決定をし、朝鮮社会主義事業が新たな歴史的段階に入るのをうれしく思う」と述べ、北朝鮮が今年改革開放40周年を迎えた中国に倣うよう期待表明した。正恩氏も20日北京で、最新技術で栽培管理する農業施設を視察した。

譲歩引き出す戦術的合意

今年6月12日の米朝首脳会談での金正恩労働党委員長とトランプ大統領

米朝会談は北朝鮮側の「完勝」に終わったと見る向きも多い。

REUTERS/Jonathan Ernst

米中パワーシフトは長期にわたりゆっくりと進行するプロセスだ。米朝会談第一ラウンドでは中朝が「完勝」したが、第二ラウンドから先の展望は誰も描けない。「伝統的友好関係の復活」とは、平壌からすれば、中国の「後ろ盾」を利用し、アメリカから多くの譲歩を引き出す戦術的合意ではないのか。激しい綱引きを演じる米中両大国を「天秤にかけ」、生き残りを図ろうとするのが北朝鮮の狙いではないか。中国という強力な磁場から離れ「衛星国にならない」主体思想を簡単に放棄したとは思えない。

米中協調の主唱者の一人、華東師範大学の沈志華教授は、「ニューヨーク・タイムズ」(華字電子版 6月12日)のインタビューで、「北朝鮮が米韓の懐に入る」のが中国にとって最悪のシナリオと述べ、「歴史的に見れば朝鮮は中国の潜在的な敵であり、北朝鮮にとって中国は常に頭から抑え込む大岩」と大胆に指摘する。伝統的友好回復は、双方にとって戦術的合意にすぎないという見方だ。

在韓米軍は中朝の矛盾

中朝間では潜在的な争点として、2万8000人の在韓米軍縮小・撤退問題が横たわる。北朝鮮は従来、在韓米軍撤退を要求してきた。しかし最近

  1. 北を攻撃する性格の変更
  2. 法的位置づけの変更―を条件に撤退自体は要求しない可能性を示唆し、米軍撤退を主張する中国と一致していない。

トランプ大統領も米韓演習中止に続き、「韓国に駐在する兵士はいつか連れて帰りたいが、それは今ではない」と記者会見で述べた。しかし、米韓日同盟関係を否定する意味があるだけにそう簡単ではない。トランプ氏は「中朝蜜月」を横目でにらみながら、平壌をワシントンに引き寄せるカードとして米韓演習や在韓米軍問題をちらつかせているのではないか。在韓米軍問題は、米中朝三国の駆け引きの焦点になる可能性がある。

前出の研究者は、「東アジアの命運は、帝国主義列強による争奪戦、戦後の冷戦期を経て、アジアの将来はアジア人自身が決める時代に入ろうとしている」と述べ、朝鮮半島問題はアメリカ抜きで「中日と南北朝鮮」の四者が決めるべきと強調し「日本も主導的役割を」と付け加えた。

一方の沈志華氏は、「米日韓同盟の三角形で最も弱いのが韓国」とし、今後中国は①日韓対立②韓国の反米感情 —— の2点を突いて、米日韓同盟に切り込む余地があると指摘している。複雑な連立方程式のようなパワーゲームはさらに続く。


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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