情報格差に挑むじげん—— 大企業とベンチャー融合社長が狙う世界

求人や不動産など情報サイトを一括検索する、プラットフォーム運営の「じげん」が6月27日、東証マザーズから東証1部に市場変更した。インターネット社会の情報格差の解消を目指す同社は、転職から旅行、中古車まで30以上のサービスを運営。企業と個人を繋ぐBtoBtoC事業で、独自の立ち位置を築き上げてきた。時価総額は26日時点で900億円に迫る勢いで、売上高の約9倍と、市場の高い期待が現れている。

2006年創業以来、連続増収増益のじげんを東証1部へと率いるのは、慶應義塾大学SFC時代から学生起業家として知られた、35歳の平尾丈だ。リクルート在籍時にはグループ最年少社長に就任し、MBO(経営陣買収)を経て30歳でマザーズ上場と、最短スピードで大型者の道を駆け上る平尾を駆り立てるものとは。

じげん平尾氏。

東証1部への市場変更を果たした「じげん」を率いるのは、35歳の平尾丈。リクルートではグループ最年少社長も務めた。

ここまで短かったような、長かったような。それでも(事業を)作れば作るほど新しい山ができていくので、目標到達度でいうと1%くらいですね」創業から12年、マザーズ上場からは4年半。順調に果たした1部上場について、平尾は静かな笑みを浮かべてそう話した。じげんの掲げる理念は「生活機会(誰もがよりよく生きる選択肢)の最大化」。

多くの人がスマホを持ち、インターネットの普及で情報化は進んでいるようで、実際には情報を選び取り武器として使いこなす人と、それを生かせずに戸惑う人の層に分かれつつある。こうした格差を社会課題と捉え、各企業が発信する人材、不動産、生活領域の情報を集約し、個人向けに再編集して提供することで「生活者の意思決定のお手伝い」をすることが、じげんの作るプラットフォーム事業の目的だ。「アマゾンも楽天もアップルの音楽配信も、現代で存在感を示す企業はプラットフォーマーです」(平尾)。

複数企業のメディアを統合するプラットフォームビジネスにこだわり、2018年3月期で売上高102億円、営業利益33億円と、いずれも前年比で30%超え。創業から12年連続で増収増益を果たしている。ユーザーと情報をマッチングし応募が発生した時に報酬を得る、成功報酬課金モデルも「正の成長スパイラルをもたらしている」と分析する。

30歳でマザーズ上場を果たした後の4年半で、理容・美容領域求人の「リジョブ」や東海地方の求人広告「三光アド」など、10件のM&A を実行。買収後は投資や既存事業とのシナジー効果で再成長させることでも知られる。買収までに「600件はソーシング(対象企業の選定や交渉)を行った」(平尾)というように、経験も蓄積してきた。

東証1部での上場は、新卒で入社したリクルートの面接の時から話していたことです

チャンスが見えない層

「子ども心に、生まれた家によって境遇が違うのは不合理だなと感じていました」平尾はその爽やかな立ち居振る舞いからも、順風満帆の人生を歩んできたように見える。しかし幼少期の胸の内は、複雑だったという。

じげん、平尾社長。

情報格差を社会問題として捉え、その解を提供している。

祖父が立ち上げた製造業の会社が倒産に追い込まれ、生活は困窮。お坊っちゃん育ちの父は働かず、「母が塾の先生をやって、僕たちを育ててくれましたが、家は貧乏で。好きなゲームを買ってもらうこともできなくて、なんでも持っている友達が羨ましかった」。

「平等とは何か」を求めて、小学校時代にポスト資本主義論、中学校では相対性理論にのめり込んだ。やがて生まれた環境によって「チャンスがないのではなくて、チャンスがあると知れないことが問題だ」と考えるようになったという。

チャンスはあるのに気づかない人を助けたい」。それが、じげんの掲げる「情報の非対称性の解決」「生活機会の最大化」という理念の原点になっている。「母を楽にするためには起業だ」と考え、起業家の輩出で知られていた慶應SFC1本で大学入試を突破。

2000年代前半の、IT起業家が続々生まれる時代の空気の中、学生起業家コンテストを制覇し、100のビジネスの立ち上げと2社の法人化を果たすなど、メディアがもてはやす「カリスマ学生起業家」として知られるようになる。

ベンチャーと大企業のハイブリッド

「もともと、俺についてこい!というようなトップダウン型の経営者だったのですが、日本の大企業の丁寧で質の高い仕事を体感できたことは大きい。ベンチャー起業家としての若い時からの経験と、大企業での仕事のやり方と、両方やったことは強みです

新卒で入社したリクルート時代での経験を平尾はそう振り返る。

就活では引っ張りだこだったが、「自分の会社をやりながら就職していい」と、受け入れてくれたのがリクルートだった。「寝ている時間以外は仕事をしていた」というほど猛烈に働く傍ら、社内の新規事業プランコンテストを複数受賞し、25歳にしてリクルートグループ最年少社長を任されるようになる。

「10年に1人の逸材」と鳴り物入りで入社したゆえの期待もプレッシャーも並大抵ではなかったが、結果を出せば味方は増える。3年のリクルート在籍期間で5〜6 職種を経験し「10年ぐらいの重みがあった」。

じげんのオフィス

「事業家集団じげん」の書が掲げられた、和の空間。

危機感を抱く理由

東京・虎ノ門のじげんのオフィスは、温かみのある白木や障子が施され、白砂がひかれた和の空間が広がる。書道家、武田双雲氏の書による「事業家集団じげん」の書が大きく掲げられ、その作りは「日本発のインターネット企業であるじげん」という、グローバル展開への意思が色濃く現れている。

僕は日本が好きですし日本に生まれてよかったと思っていますが、今の日本にはものすごく危機意識があります

平尾は静かにそう語った。

海外の起業家との交流を通して平尾は「自戒も込めて」とした上で、「日本というそこそこの市場規模があるのをいいことに、海外で飛躍的に成長するIT企業が生まれない。規模を追求し世界競争を志す企業が少ない」との実感を明かす。

「中国はじめ、意欲的な海外勢が日本を狙っている。成長市場でしのぎを削ってきたトップたちと、経営者として伍していかねばと思っています」

東証1部への鞍替えでまず見据えるのは、M&A路線の拡大だ。傘下に入れた企業にヒト、モノ、カネを投入することで磨きをかけながら「事業家集団」を掲げるじげん。そこには、複合的なカルチャーを生かしつつ、互いに切磋琢磨する「群経営」を実践することで「日本の競争力を高めたい」との思いがある。

「半径数メートルの周囲の人を幸せにするために起業する人もいるでしょうし、それを否定しませんが、ビジョンが違う。大多数を幸せにしたいと思っている以上、数百億円企業でストップするのではなく、世界市場を捉えていくことで世の中を変えられたらと思っています。それで日本がよくなったら最高だなと

(文・滝川麻衣子、写真・今村拓馬)


平尾 丈 :じげん代表取締役社長。1982年生まれ。2005年、慶應義塾大学環境情報学部卒業。大学在学中に2社を創業し、1社を経営したまま、2005年4月にリクルート入社。人事部門・インターネットマーケティング局・事業開発室などを経て、リクルートグループ最年少の23歳でじげんの前身となる企業の取締役となる。25歳で代表取締役社長に就任し、27歳でMBOにより独立。2013年に東証マザーズ上場を経て、2018年6月に東証1部へ市場変更を果たす。

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