BOSEの技術で“安眠”できるか? 現地で感じた「ノイズマスキング」イヤホンの実力

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ボーズの入眠用デバイス「BOSE NOISE-MASKING SLEEPBUDS」。完全ワイヤレスイヤホンで、保存ケースが充電器をかねる。

アメリカのボーズ(BOSE)が2018年6月21日から北米向けに発売開始した「BOSE ノイズマスキング スリープバッズ(NOISE-MASKING SLEEPBUDS)」。価格は249ドル(約2万7300円)。

完全ワイヤレスイヤホンと似た形状だが、スマートフォンから音楽を流す機能はなく、夜間の騒音を“マスキング”(覆い隠す)して睡眠を助ける事に特化した入眠用デバイスだ。日本でも今秋に発売される。6月20日にニューヨークで開催された発表会での体験をもとに、入眠用デバイスとしての現地インプレッションをお届けしていきたい。

約1cm×約1cmの完全ワイヤレスイヤホン風の外見

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夜9時から午前1時に騒音が集中すと語る米Boseのチーフ・ブランド・オフィサー、ケン・ジェイコブ氏。その騒音の中身は「パートーナーいびき」「犬の鳴き声」「うるさい隣人」「交通騒音」「エアコン、製氷機、エレベーター」といった、日常的なものだ。

ボーズの製品には「Quiet Comfort」というノイズキャンセルのヘッドホン製品があるが、これらは例えば移動中の地下鉄、路上の自動車といった日中の主に重低音による騒音に有効だ。だが、これらは夜間の騒音、比較的静かな室内で逆に気になるようなタイプの騒音には対処できない。

そこで登場するのが「BOSE ノイズマスキング スリープバッズ」だ。

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完全ワイヤレス駆動でありながら、耳にピタリと収まる本体。サイズは約1cm×1cm、重量わずか1.4gのボディ。

本体は約1cm×約1cm、重量1.4g。音楽用の完全ワイヤレスイヤホンとして比較すると極めて小さい。シリコン製の「StayHear+」チップはスタビライザーと一体化した構造で、これらを含めて外耳の内側のくぼみにぴたりと収まる、フィット感を考えると耳栓に近いイメージだ。なお、イヤーピースはS/M/Lの三段階が付属していて、普段からMサイズのイヤーピースを使う標準的日本人の僕には、Mサイズがフィット。

装着した後は、イヤホンを装着している事を忘れるほどの快適さだった。ボーズの通常のイヤホンとの違いは、装着時にはみ出す高さが無い事で、ブース内に用意されたベッドで頭を横にして寝転がっても(ボーズによると、70%の人は片耳を下にして眠る)、寝具に当たることはない収まりの良さだ。

搭載する機能は非常にシンプルだ。イヤホン型の本体に内蔵された10種類の「sleeptrack」を再生すること。これらを流すことで騒音を“ノイズマスキング”する。ここで言う“ノイズマスキング”とは、別の音を再生してノイズを埋もれさせること。騒音を打ち消す“ノイズキャンセル”とは全く違ったアプローチだ。自分で好きな音源を転送できないから、音楽プレイヤーにはならない(なお、アップデートで「sleeptrack」で流せる音のバリエーションを追加予定もあるという)。

sleeptrack

10種類の「sleeptrack」を内蔵。

操作のコントロールはスマホ主体。本体にボタンは1つもない。専用アプリ「Bose Sleep App」を利用する。Bluetoothは最も電波の弱いクラス3で、Bluetooth LEで通信する。スマホとペアリングすると、「sleeptrack」の選択とボリューム調整、一定時間経過後に電源を切るタイマー、目覚ましの時間の設定などができる。

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操作用のアプリ「Bose Sleep App」。

「sleeptrack」の音源はすべて、イヤホン本体側に保存されているので、就寝中に電源が切れても機能する。ちなみに、片側のみ装着して利用も可能だ。なお、イヤホンの連続使用は最大16時間。充電専用ケースによるイヤホン充電では約8時間、ケース充電は約3時間だ。

「sleeptrack」による夜間の騒音“マスキング”を体験

BOSE NOISE-MASKING SLEEPBUDS

ボーズの入眠用デバイス「BOSE NOISE-MASKING SLEEPBUDS」。

実際に発表会の会場で実機を体験してみた。「パートナーのいびき」、「交通サイレン」、「うるさい隣人」の声を模したサウンドに対して、「sleeptrack」の木の葉の「Rustle」、流水の「Downstream」、寄せる波の「Swell」が、それぞれ気にならないレベルで“マスキング”する事はできていた。

発表会場の中の体感ブース

会場内で「BOSE ノイズマスキング スリープバッズ」を体験。

ただ、注意して欲しいのは、夜間の騒音のレベルは環境毎に異なるということだ。

大きく聞こえる騒音を“マスキング”するには「sleeptrack」のボリュームを上げなくてはいけない(自動判別のような機能はない)。「Rustle」「Downstream」「Swell」はいずれもヒーリング系のサウンドだが、騒音を“マスキング”するには、相応の音量で、ランダムに凸凹のあるタイプのサウンドでなければならないらしい。

流水の「Downstream」が最もイメージしやすいが、荒々しく鳴る流水のイメージが常に耳に聞こえる。好みもあるが、「sleeptrack」自体も、100%快適と呼べるものでもない。

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荒々しく流れる流水の「Downstream」。

あとは、どんな騒音に対処するかだろう。僕の個人的な感覚としては「パートナーのいびき」「犬の鳴き声」「交通騒音」「エアコン、製氷機、エレベーター」は慣れる(僕の住まいも決して静かな訳ではない)。だが、「うるさい隣人」だけは例外で、これは本当に耐え難い。それを少々ボリュームが大きくても、ヒーリングサウンドに置き換える価値はある。

一方、冷静に考えてみてみたい所もある。

BOSE ノイズマスキング・スリープバッズは、ボーズの持つ“ノイズキャンセル”の技術は使っていないので、騒音対策は耳栓としての効果と、騒音が気にならなくなるヒーリングサウンドを流す効果によるものだ。

穿った見方をすれば、同じような音源をYouTubeで探してきて、手持ちの遮音効果に優れたイヤホンで流せば、同等の“ノイズマスキング”の効果は得られることになる(特定のサウンドではなく、一般的な音楽でも同様の“ノイズマスキング”効果がある事は発表会でボーズによっても言及されていた)。

となれば、本製品の価値は、ハードウェアの完成度、そしてパッケージングに見出すべきだ。約1cm×約1cmの完全ワイヤレスイヤホンイヤホンは他に例がない。横向きに寝た際に枕に耳が当たるイヤホンは就寝には不向きだし、ケーブル付きのイヤホンは寝返りも不自由で論外。快適さを追求すると、極小サイズの完全ワイヤレスと考えるだけで代替デバイスは意外と見つかりにくいと思えた。

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BOSE ノイズマスキング スリープバッズの“小ささ”は他機種で置き換えられない価値。

「睡眠改善」のデバイスに249ドルは安いか、高いか?

ブライアン・マルカヒー氏

米ボーズのDirector of Emerging Business、ブライアン・マルカヒー(Brian Mulcahey)氏。

最後に、249ドル(約2万7300円)という価格について。参考までにボーズが2017年に発売し大ヒットさせた完全ワイヤレスイヤホンの「SoundSport Free Wireless Headphones」の北米価格は、249.99ドルだった。

ボーズのブライアン・マルカヒー氏(Director of Emerging Business)は、249ドルという価格設定について訊ねた筆者の質問に、こう答えた。

「これはとてもフェアな価格だと思います。睡眠は生活の質にとって非常に価値のあるもので、1万ドル(約110万円)のマットレスを買う人もいますよね。250ドルで騒音を避けて眠りにつけるのは、とてもフェア。アグレッシブな価格だと言っても良い程です」

BOSE ノイズマスキング スリープバッズはあくまで入眠に特化した製品で、高機能であることは狙っていない。紛れもなく、ベッドでの睡眠に「特化」した単機能製品だ。

ボーズによると、日本での発売は2018年秋の発売を予定しているという。

快適な眠りを求める人は日本にも多いが、その価値を本製品に見出すかどうかは、3万円弱という価格が大きな評価基準の1つだ。どこまで日本で受けるかは、発売後の市場の反応を見てみるまでわからないところだ。

(文、写真・折原一也)


折原一也:オーディオビジュアル専門誌やWebメディア、モノ雑誌で活躍する映像と音を扱うAV評論家。2009年よりVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。

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