都心のスナックは最高のビジネス活性化装置である —— 私がスナックに150万円を投資した理由

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「カウンターコミュニケーション」で創業メンバーを集めた会社もある。写真は、freeeの“出張スナック”企画。

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スナックに集う、経営者やフリーランスが増えている。

ある企業の社長は、スナックの開業に150万円を「寄付」した。「経営者は孤独」であり、職場、家庭でもない拠り所を求める。カウンター越しに、ライフスタイルの異なる人同士がつながるスナックが、仕事への重圧を解きほぐしてくれるという。

スナック特有の「カウンターコミュニケーション」が今、注目を集めている。

全身ユニクロで初来店、翌日に投資

サザナミ

飲食店が入居する銀座のビルの地下1階にオープンした「ハイパースナック スナック サザナミ」。

2018年6月中旬、銀座の繁華街で、「ハイパースナックサザナミ」(サザナミ)の2号店がオープンした。クラウドファンディングで開業資金を募ると、目標額の150万円を2倍以上超える、約312万円の支援が集まった。寄付をした支援者は141人。

このうち、100万円を支援した男性が、オープン初日、店内にいた。男性は、海外の技術輸入などをする「ゼロワンジャパン」創業者兼CEOの松永吉央さん(32)だ。

松永さんが渋谷にある1号店のサザナミを初めて訪れたのは、2年前。知人の紹介だった。当時、サザナミはDJバーで、スナックに業態転換をしようと、クラウドファンディングで開業資金を募っていた。松永さんは、初訪問の翌日、渋谷店に50万円の出資を決めた。

「様子見をして5分くらいで帰ろうと思っていました。でも結局、午前2時まで飲んでいて」

松永さんは、初訪問の時を振り返る。カウンターに座ると、マスターに常連客を紹介され、意気投合し、すぐに店に馴染んだ。

僕は初見の単品(1人)で、しかも全身、ユニクロのような格好。だけど、僕の身の上話を聞いてくれて、うれしかった

週に4回、通うようになり、今では「遠い親戚」のような仲間ができた。

「どう雇用を守るか」孤独を共有

サザナミ

銀座店に100万円を投資した松永さん(右)。1号店の渋谷店には、週に4回通っていたが、今は多忙で訪れるのは月に数回程度。

松永さんによると、サザナミの店内を見渡せば、物流やメディア、芸能やサービスなどの社長ばかりということもある。

なぜ経営者が集うのか。

経営者は、社員を幸せにしないといけない。子どもがいる社員がいれば、その子どものことも考える。この子たちを、いつまで食わせていけるか」と松永さん。「社員に(悩みを)言うと、心配されてしまう。経営者は、常に自分と、孤独との戦い」(松永さん)。

大手企業の社長も来客するが、「どう雇用を守るか、どこの社長も悩みは同じ」と言う。経営者は、職場にも家庭にもない溜まり場を求め、スナックに足を運ぶ。

松永さんは銀座店ならではの期待感がある。「意識高い系のおじいちゃんに来て欲しい」と言う。「若くて頑張っている人は多いけど、日本はスタートアップが育ちにくい。上の世代と若い世代が創発的に仕事ができたら」(松永さん)。また、「(“おじいちゃん”世代は)IoT、AIといったバズワードを今更、社内で聞けない。例えば、スナックでそれを知っている人と出会えたら、ビジネスの場になると思う」。

人とのつながりを享受できると思えば、松永さんにとって、銀座店と渋谷店に支援した150万円は「安い投資」だ。

経営者、フリーランスが客の約6割

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2号店を開業した町田さん。壁面はアーティストの作品。客が興味を持ち、アーティストの応援につなげたい思いがある。

サザナミは、都内のクラブを中心に1990年代からDJ SAZANAMIとして活躍していた町田博雅さん(38)が、2016年に開業した。同じ場所で10年間、DJバーを営み、スナックに改装した。常連客が年を重ね、静かに飲める場所にシフトするためだった。客層は、フリーランスや経営者が約6割を占めると言う。フリーランスは、カメラマンやデザイナー、クリエイターなど業種は、さまざまだ。

フリーランスは同僚がいなくて、仕事のことを打ち明ける仲間がいないのでは。経営者も同じかもしれない」と町田さんは話す。スナックでの出会いで、仕事が生まれたり、夫婦も誕生したりした。

町田さんは、“初見”の客が来れば、職業や趣味を聞き、人をマッチングさせる。

「出会いは最高のエンタメ。人と人が出会うことで、ケミストリーが生まれ、新しい考え、勇気、助言、注意をもらえる」

カウンターにはマスターの町田さんと、日替わりでママが立つ。今では渋谷店は満席となり、客が入店できないこともある。銀座店は日替わりママを選考中。約20人の応募があり、連日ママの面接に追われている。

急成長のベンチャー企業でスナックを応用

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feee幹部の言う「カウンターコミュニケーションとは」。6月中旬、“出張スナック”で記念撮影する参加者。特製の看板やポスター、コースターも新調した。

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スナックを、新たな社内コミュニケーションの一環として取り入れるケースも出てきた。

クラウド会計ソフト「freee」の共同創業者の横路隆CTOは、6月中旬、五反田の「コワーキングスナック CONTENTZ分室」のカウンター内に立った。横路さんをマスターに、社員の女性もチーママとして、サポートに入った。

客席には、freeeの社員8人が座った。職種はエンジニアや営業とさまざまで、年次も新入社員から創業メンバーまで幅を持たせた。

堅苦しい自己紹介はせずとも、自然と会話が弾む。

「カウンターの向こうで、ママ、マスターが引き立て、盛り上がるところがよかった」とある新入社員。スナック初体験となった別の新入社員の女性(22)は、「横同士の距離感、マスターとの距離感もよかった。スナックのコミュニケーションは、古いけど新しい。これを機に足を踏み入れてみようかな」としっくりきたと言う。

スナックはスタートアップの原点

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カウンター内でもてなす横路さん(左)。実はこの日、佐々木代表がマスターをする予定だったが、急遽、予定が変更になり、横路さんが代打、ノリノリだった。

出典:freee

CTOの横路さんは、カウンターに入って、改めて思い出したことがあった。

それは「うちの会社の歴史はカウンターコミュニケーションだった」ということ。

横路さんは2012年、佐々木大輔CEOとfreeeを創業。当時、2人でバーや飲食店のカウンターに並び、仕事の振り返りをしていた。創業初期のメンバーも一緒に食事をしたり、お酒を飲んだりし、「カウンターで口説いた」と言う。対面よりも横並びの方が対等に話しやすい。席順に上限関係を意識しなくていい。

カウンターの向こうに立つマスターやママは、「スモールビジネス」の経営者だ。横路さんはいわば、「カウンターコミュニケーションは、ベンチャーの原点」と語った。

サザナミの松永さんは、Facebookにサザナミ銀座店プレオープンの告知を投稿した。するとサンフランシスコの友人から、サンフランシスコにも「日本的スナック」があり、繁盛しているというコメントが寄せられた。

日本で発祥したスナック文化。その奥深さは、会社、ビジネスを作り、さらには、国境を越えようとしている。

(文、撮影・木許はるみ)


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