テスラのイーロン・マスクCEOの頭の中は。
REUTERS/Stephen Lam
今日の記事では電気自動車のテスラを取り上げたいと思います。
テスラと言えば、これまでも幾多の経営危機を乗り越えて、Model S、Model X、そして大衆車セダンであるModel 3をリリースするところまで漕ぎ着けています。しかし、現時点では、Model 3の予約は順調に増えているものの、製造が全く追いついていないのが現状です。
今日はそんなテスラの2018年第1半期終了時点での現状を、5つのポイントに整理してみたいと思います。
Tesla First Quarter 2018 Update
1. Model 3の生産台数は週2,270台、Q2目標は週5,000台
冒頭でも書きましたが、Model 3の生産台数が当初想定した通りに増えていないため、苦しんでいるというのが現状です。
2018年第1四半期末時点での目標が、一週間あたり2,500台の製造だったのに対し、最大でも2,270台しか製造できずに終わります。
第2四半期末時点での目標を、一週間あたり5,000台と設定しており、これに向けて努力しているというアナウンスがなされています。
テスラの車の製造プロセスは、これまでの自動車会社と少し異なり、かなり自動化に力を入れています。
Automation is only half the story. Higher levels of automation have been enabled by a dramatic simplification of product design. Our Model 3 general assembly line consists of fewer than 50 steps, which is about 70% less than conventional assembly lines.
自動化するだけではなく、車を製造するためのプロセスがたった50ステップ未満しかないと書かれており、これは通常の自動車会社よりも70%程度少ないステップ数とのことです。
現時点では生産スピードに遅れが出ていますが、6月末時点で一週間あたり5,000台のペースになっているか、というのがひとつのチェックポイントになるのは間違いありません。
2. Model 3の中型高級セダン市場シェアは25%超
製造に苦しんでいるテスラですが、一方でユーザーからの期待値は上がり続ける一方です。
Model 3 net reservations, including configured orders that had not yet been delivered, continued to exceed 450,000 at the end of Q1
2018年の3月末時点で、まだ納車待ちのモデル3予約数が45万件を超えていると発表されています。
Model 3 is now the best-selling mid-sized premium sedan in the USA pic.twitter.com/xI7LsgRI6D
— Tesla (@Tesla) 2018年6月5日
またこちらのグラフを見ると、アメリカ市場の中型の高級セダンにおけるModel 3のシェアは30%を超え、メルセデスのCクラスやAudi A4、 BMW 3シリーズよりも大きなマーケットシェアを取れていることがよくご理解頂けると思います。
従って、冒頭の話に戻ってしまいますが、テスラにとって今必要な唯一の改善点は、製造スピードということになるわけです。
3. Model 3の粗利益率目標は25%
テスラの現時点での粗利益率は、どの程度でしょうか。
ここから読み取れることとしては、粗利益率が2018年の第1四半期では19.7%であったということです。
一方で1年前の四半期を見ると27.4%と、非常に高い数字であったことも分かります。恐らくこの差はこの一年間、Model 3の製造プロセスを確立するためにいろいろな試行錯誤をしており、そのために粗利益率が一時的に下がっていると考えられなくもありません。
Our long-term gross margin target of 25% for Model 3 has not changed.
決算資料の中には、長期的なModel 3の粗利益率は引き続き、25%を目指していくとありますので、今後は徐々に25%という粗利益率に近づいていくのではないでしょうか。
4. 売上は四半期あたり$3.4B(約3,400億円)、最終赤字は$785M(約785億円)
売上と営業利益を見てみましょう。
2018年の1月から3月の四半期において、売上は約$3.4B(約3,400億円)、最終利益は△$785M(約785億円)でした。
粗利益は$457M(約457億円)、営業費用は$1.05B(約1,050億円)となっています。黒字化するには文字通り粗利益を増やすしかありませんが、ここでも、冒頭に書いたようにModel 3の製造スピードを上げ、既に受けている予約の分を出荷し売上に計上するというのがほぼ唯一の方法ではないでしょうか。
5. 四半期あたりのキャッシュ・フローは△$745M(約745億円)、このペースでいくと約1年後に現金が尽きる
最後にキャッシュフロー計算書を見ておきたいと思います。これだけ派手に赤字が続いていると、どれだけの保有現金があるのかが心配になる方も多いかと思いますが、実際にはどうなっているのでしょうか。
四半期当たりのキャッシュフローを見ると、△$745M(約745億円)となっています。2018年の3月末時点での現金相当保有物が$3.2B(約3,200億円)ですので、このペースで行くと約1年後に現金が尽きてしまうことになります。
CEOのイーロン・マスクは、テスラは今後大きな資金調達をする必要がないと明言しています。彼の頭の中ではModel 3の製造スピードが上がり、テスラが黒字化し、キャッシュフローもプラスになる日が見えているのだと思います。
まとめ
以上のTeslaの現状を、5つのポイントで整理してみました。
1. モデル3の生産台数は週2,270台、Q2目標は週5,000台
2. モデル3の中型高級セダン市場シェアは25%超
3. モデル3の原価率目標は25%
4. 売上は四半期あたり$3.4B(約3,400億円)、営業赤字は$785M(約785億円)
5. 四半期あたりのキャッシュ・フローは△$745M(約745億円)、このペースでいくと約1年後に現金が尽きる
個人的にもとても大好きな会社なので、ぜひModel 3の製造スピードを上げて、黒字化まで持って行って欲しいなと思います。
シバタナオキ:SearchMan共同創業者。2009年、東京大学工学系研究科博士課程修了。楽天執行役員、東京大学工学系研究科助教、2009年からスタンフォード大学客員研究員。2011年にシリコンバレーでSearchManを創業。noteで「決算が読めるようになるノート」を連載中。
決算が読めるようになるノートより転載(2018年6月26日の記事)