それでも民泊って革命だ。初エアビーで感じた価値は「安易な金儲けとは別物だった」

フランス・リヨンの街並み

今回筆者が初のエアビー体験をしたフランス・リヨン。

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あれこれのスッタモンダの末に「民泊新法」が施行されて約1カ月。この間、「ミンパク」という耳馴れぬ言葉は瞬く間に多くの人の知ることになった。

ただし、そのイメージは決して明るいものではない。近隣住民とのトラブルとか、犯罪の温床とかそんな言葉がついて回り、この新法も、主な目的はそうしたトラブル防止のための規制強化である。あおりで事業者は激減。「やっぱり怪しげなビジネスだったんだ……」と、それがさらに負のイメージを生み、早くもすっかり傷だらけなミンパクである。

しかし、民泊をそんな目線でのみ捉えるのはあまりにもったいないのではないだろうか。というのも先日、たまたまフランスはリヨンで長期滞在することになり、自炊がしたかったので初めて実際に民泊を利用してみて、「そうか民泊ってそういうことだったのか!」と目を見開かされるところがあったからだ。

ということで今回、特に旅慣れているわけでもなんでもない人間の民泊体験記をお伝えし、議論の一助になればと思う。

ピンチ!滞在日を間違えた。その時ホストさんは…

エアビーで借りた古いアパートの廊下

筆者がAirbnbで借りた古いアパートの廊下。

私がアクセスしたのは業界最大手のAirbnb(エアビーアンドビー)。改めて説明しますと、世界中の「家を貸したい人」の情報を集め、貸したい人と借りたい人を、インターネットでうまいこと調整してつなげる仕組みであります。

何しろ初めてだっただけに、本当にこれって信頼できる仕組みなのかという懸念はもちろん、アパートを貸してくれる家主(ホストさん)との「約束」はネット上のやり取りのみという心細さがどうにも頼りなく、実際に来るまで本当に不安だった。

で、実際に飛行機の到着時間が遅れて鍵の受け渡し時間に2時間以上遅刻してしまったし、持参したコンセントの変圧機が使えず電源ダウンのピンチに陥ったし、滞在途中でいきなりアパートのWi-Fiが接続不能になり本当に焦ったし……と、ホテル滞在ならどうということもなく解決できるであろうアクシデントにいちいち翻弄され、ホストさんにSOSを出したり、Facebookで私の窮状を知った日本の友人に現地の日本人を紹介してもらったりしてなんとか乗り切るという、言葉もできずマゴマゴしたオバさんとしては本当にスリル満点の滞在となった。

で、滞在も終わりに近くなり、もうこれ以上は何もないだろうと思っていたら、今度はまさかの我が予約ミスが判明!!

滞在予定を1日間違えていて、超ギリギリになって急きょの滞在延長をホストさんに泣きつくというとんでもない事態。エアビーがどうとかいう以前に一番信頼できないのは自分であった。我ながら本当にスットコドッコイである。

だがホストさんは、「すぐ次の旅人が2人来るので、掃除の時間も必要だし簡単にはいきません」としつつ、「なんとか努力してみます。幾つか電話をかけるのでもうちょっと待ってください」と連絡があり、もう本当にドキドキしながら待っていたら疲れて寝落ち……。ハッと目がさめたら夜中の1時。で、PCを見たらホストさんからのメッセージが!「なんとかなりました。大丈夫です」「私、今日の午後は本当に頑張りました。あなたがとても親切だったので何とかしようという気持ちになりました」とあった。

やりとり通じて信頼関係を築けるか。それが全てなのだ

あああよかった~! と本当にホッとしたけれど、よく読むと、掃除の人に来てもらう時間を決めなければならないので出発時間をできるだけ早く教えてくださいと書いてあり、慌てて返信。寝落ちしたことを謝罪し、出発時間を伝え、そしてもちろん、本当に本当にありがとう!!と、できうる限りの英語でお伝えしたつもりである。

いやね、エアビーってこういうやりとりを全部英語でやらなきゃならんのよ。私、英語全然ダメなんだが、おかげで相当に鍛えられた。文法はめちゃくちゃでも何かを伝えようと頑張ることが大事なのだ(ということにする)。しかし私のマックスの感謝の気持ちはちゃんと伝わっただろうか?

それはさておき、「あなたがとても親切だったので……」と書いてあったことには驚いた。だって現実には、こちらが一方的に親切にしてもらうばかりだったのだ。変圧器が買えそうな大きな電気屋を教えてとか、Wi-Fiをどうにかしてくれーとか、いつもリクエストばかりしていた。

多少身に覚えがあるとすれば、何かを教えてもらった時はすかさず「本当に助かりました!ご親切にありがとうございます」という返事を送ったことと、Wi-Fiが切れた時、焦りのあまり「早くなんとかして!」という怒りのメッセージを送りつけようとして、ふと、いやそれはやっぱり感じが良くないと思い返し、「あなたのおかげでとっても素晴らしいリヨン生活を送ってます。本当にありがとう!ところで一つ問題が……」という「常識的」なメッセージを送ったことぐらいである。

いずれも「親切」というほどのことではないと思うけれど、少なくともあれを書いておいて本当に良かった。

そう。まさにエアビーとはそのような仕組みなのである。エアビーで家を借りることは、ホテルに泊まることとは全く違う。ホストさんとの一対一のやりとりを通じて互いの信頼関係を築けるかどうかが全てを決するのだ。

民泊は全然「おいしい商売」なんかじゃない

とってもおしゃれで広いバスルーム

とってもおしゃれで広いバスルーム。シャンプー類も完備。

それにしても、今回実際にエアビーを利用して痛感したのは、これは全然「おいしい商売」なんかじゃないということである。

旅行者からはいつ何時緊急の(あるいはドウデモイイ)メッセージが入るかわからないし、それに気づかなかったり迅速に返信しなかったりすると、たちまちネット上の評価が下がってしまうに違いない。

宿泊費はそれなりに取るとはいえ、これも相当安いと思う。私が滞在したアパートの場合で言えば、その広さとグレードと立地の良さを考えると相当な家賃の物件だろう。短期の貸し出しとなれば稼働率も限界があるだろうし、人が入れ替わるたびにプロのクリーニングも入れなきゃいけないし、宿泊費のうちいくらかはエアビーに持っていかれるんだろうし、Wi-Fi契約もしなきゃいけないし……等々、コストとベネフィットを考えたら労多くして儲けは大してないとしか思えない。

まあ持ち家をただ遊ばせておくよりはマシってことかもしれないですが。しかしそれにしたって、世界のどんな国のどんなヤカラがやってくるかは実際に来てみないとわからない。乱暴に家を使ったり、近所に迷惑をかけたりする人だって当然いるだろうと思う。そういうリスクを加味すると、やっぱりなかなかに大変な商売だなと思うのです。

それを承知で、どうして我がホストさんは民泊をやろうという気になったのだろう。

ホストさんはもはや私の「田舎の親戚レベル」になった

台所

台所には食器も完備。

一つ言えることは、目的は「お金」だけじゃないってことだ。

今回の滞在で感心したのは、トラブル対応はもちろん、あらゆる面でのホストさんの「おもてなし」の心である。

台所には調味料も鍋も包丁もお茶もコーヒーもお皿も十分すぎるほどのものが用意されていて、さらにはサービスでワインとスナックとミネラス水とヨーグルトと牛乳まで置いてあった。タオルも「あなたは長期の滞在だからね」と、フェイスタオルとバスタオルを2セット用意してくれて、おしゃれなシャンプーとリンスと石鹸もあって、本当に、並のホテルよりずーっと充実した至れり尽くせりぶり。

それだけじゃない。

アパートの本棚にはその地区やリヨンに関するガイドブックや地図やパンフレットや写真集や歴史や自然の紹介本などが本当にたくさん並んでいて(全部フランス語だったが……)、さらにはホストさんが「ここがオススメ!」という徒歩5分以内のレストランと、近くのスーパーの手書きのリストも用意してくれていた。

それを見ているだけで、ホストさんが本当にこの地区を愛していて、誇りに思っていて、その良さを、来てくれた人にもぜひ知ってほしい、楽しんでほしいという熱意でいっぱいなのだということが伝わってきた。

そのおかげで、近所のフランス人にまあまあ冷たくされて落ち込んでいたときも、イヤ本当はここはきっと素晴らしいところにちがいないと自分に言い聞かせ、心新たに外へ飛び出していくことができた。そして次第に、本当にこの地区が大好きになった。心細い孤独な滞在の中で、ホストさんのホスピタリティに本当に大きな勇気をもらったのである。

なので、この地を去る頃には、ホストさんはもはや私の中では「田舎の親戚レベル」となったのであります。次にリヨンに行くことがあれば、必ずまたここに泊まることは間違いありません。

民泊で世界中の人が旅行代理店になれる

リヨンの絵

窓から見える広場の昔の写真が飾られていた。ホストさんの地元愛が伝わって来る。

そうか。なるほどこれが民泊なのだ。

つまり、世界中の住民が「旅行代理店」になることができるのだ。その地区を知り尽くしている人が、旅人にその地区の良さを目一杯アピールし、とっておきのベストアドレスを伝える。これほど強い代理店があるだろうか?

個人旅行はこれまで何度かしてきたけれど、いつも頼りにしたのは、『地球の歩き方』だった。細かい情報が充実していると思っていたからだ。でも今回初めて『歩き方』を買わなかった。本屋で中身をチェックしたら、そもそもリヨンの情報が2ページしかない。ネットで調べた方がマシだと思った。で、実際にネットのほうがずっと詳しい情報が載っていた。

でもここへ来てみたら、ネットの情報も全く色あせて見えた。もちろん幾つかは役に立ったけれど、やっぱりどれも「ざっくりした観光情報」でしかないからだ。

ホストさんが教えてくれた幾つかの情報、つまりオススメのレストランなどのコアな情報に比べたらゼロに等しい。しかもホストさんは、こちらが欲しい情報にもオーダーメードで答えてくれるのだ。私が聞きたかったのは、マルシェはどこで開かれるのか、大きな電気屋さんはどこにあるのかということだったのだが、その都度「僕もそこはよく利用するんだ。いい店だよ」「火曜日には雑貨屋さんのマルシェもたつよ。リヨンではここだけなんだ」「ところでこのレストランは先日妻と行ってきたんだけど本当に素晴らしかったんだ。絶対オススメだよ!」みたいなことも熱心に教えてくれるのである。

これってまさに、「地元のナントカさんが教える穴場」みたいな、雑誌やネットのサイトが泣いて喜びそうな情報ばっかりじゃないですか!

最大公約数を忖度したサービスに縛られなくていい

料理

毎日自炊ができるのは民泊ならでは

いやー、民泊って単にホテルより安い値段で宿が取れる便利なシステムくらいにしか認識していなかったんだが、全然そんな話じゃなかったんだ!……と感心していたら、たまたま見たネットニュースで「これからの旅はオーダーメード」と打ち出した大手旅行会社のことが「なんて素晴らしい!」という感じで大々的に取り上げられていたので、いやいやそんな時代はもう終わってるよーと叫びたくなりました。

立派な旅行会社に少なからぬお金を払ったりせずとも、民泊を利用するだけでまさに自動的に「オーダーメード」の旅ができちゃうのである。

で、これって相当に革命的なことなんじゃないの?と思ったのだ。

『地球の歩き方』にしても旅行会社にしても、メディアや会社が旅行者のニーズをくみ取り、「忖度」して、比較的多くの人が満足しそうな、最大公約数的な回答を提供するシステムだ。

これだと、例えばパリに行きたい人向けの詳しい情報提供はある程度可能でも、例えばロワール県のペリュサン村ってところに行ってみたいんだという人に答えることは難しい。ていうかそもそもこれまでは、普通の人はペリュサン村の存在も知らないし、従ってそこに行きたいなどということを思いつくことができなかった。

でもエアビーのサイトを見て、たまたま気に入った家と気に入ったホストと気に入った書き込みが見つかれば、たまたまそれがペリュサン村だったりするのだ。そして実際にそこへ行き、ホストさんの個人的なガイドを受けて、その場所を楽しむことができるのである。

つまり、これは人間が鳥になったようなものなんだな。

人はどこへでも行けるようでいて、現実には道路や鉄道の通っている非常に限られた場所にしか行くことはできない。でも鳥はそんなことに全く関係なく、空から下を眺めて、降りたい場所に降りていくことができる。

これが民泊ということなんだ。

民泊の価値は「イージーな金儲けの手段」以上だ

インターネットの出現ってどういうことなのか、今ひとつよくわかっていなかった。個人と個人がつながることができる仕組みなのだということはそれなりにわかっていたつもりだったけれど、それはつまりは具体的にはこういうことだったわけですね。

干し野菜

アパートの窓辺でいつものように野菜を干す。「暮らすように旅する」ってこういうことかと(笑)。

自分の住む場所を愛しそれを旅人にも伝えたいと思っている人と、世界のどこかに自分のフィットする場所を求めている人が、膨大なデータの中で奇跡のお見合いを果たし、結合する。これはやはり革命ともいうべきものなのではないでしょうか。

で、思ったのですが、日本で、民泊といえばもっぱらトラブルの温床として語られることが多いのはなぜなのだろう?

日本の民泊はどうも、「新しくてイージーな金儲けの手段」として注目されすぎているように思う。国は東京五輪を機に世界の観光客を手っ取り早く収容できる仕組みとして、企業は空き物件を使って簡単に儲かる新ビジネスとして、それぞれ民泊を捉えている。もちろん法に違反しない限り、それもビジネスの一つの形であることは違いない。

しかし民泊の可能性は、そのようなレベルの話ではないんじゃないかと思うのだ。

例えば、限界集落と言われるような場所で、一人の住民が地元の良さを最大限に生かしたユニークな民泊を始める。その熱意とユニークさにひかれて世界から人がやってくる。評判になれば口コミでさらに人がくる。そうなれば、集落の人も自分たちの暮らしの豊かさを再発見するだろう。

これって「一人地方創生」じゃないですかね?現実にそんなことができるのであります。地方創生担当大臣なんて関係なく。

(文・写真、稲垣えみ子)


稲垣えみ子(いながき・えみこ):1965年生まれ。一橋大学卒業。朝日新聞社では大阪本社社会部、「週刊朝日」編集部などを経て論説委員、編集委員を務め、アフロヘアの写真入り連載コラムや「報道ステーション」出演で注目を集める。2016年1月退社。著書に『魂の退社』『寂しい生活』『もうレシピ本はいらない』など。

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