日本も直面する、AI時代の「新しい仕事」と会社のあり方 by リンダ・グラットン

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ベストセラー書籍『ライフ・シフト』『ワーク・シフト』の著者として知られるリンダ・グラットン氏。Blue Prism World 2018で撮影。

AIにより人間の仕事がなくなる —— この示唆は以前から指摘されているが、ほんの数年前と比較すると2018年はトーンが変わってきていると感じる。技術企業によるAI分野の競争が激しくなっており、控え目なことは言ってられなくなってきたのだ。

仕事はかなりの数がなくなるだろうから備えよというのが、テクノロジー企業のメッセージだ。腹を据えたからこそ、ポジティブな楽観論も目立つ —— IBM、SAP、セールスフォースらは、新しい仕事が生まれるという考えを打ち出すと同時に、それぞれ「(再)教育」を支援する取り組みを進めている。

これらは技術を販売するベンダー側のメッセージだが、有識者はどうだろう?

ロンドンビジネススクール教授でマネジメントや組織論を教えるリンダ・グラットン氏が6月、英ロンドンでRPA(ソフトウェアロボットによるプロセス自動化)ベンダーBlue Prism社のイベントで語った。

リンダ・グラットン:ロンドンビジネススクール教授で、組織論などを専門とする。100歳まで生きる時代に向け新しい考え方の必要性を提唱した『Life Shift〜100年時代の人生戦略(邦題:ライフ・シフト)』は日本でもベストセラーに。安倍政権の「人づくり革命」の有識者会議のメンバーも務めた。

産業革命で「仕事」が機械化してしまった

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グラットン氏の著作『Life Shift(邦題:ライフ・シフト)』『Work Shihft(邦題:ワーク・シフト)』は日本でもベストセラーになったのでご存知の方も多いだろう。

そこで氏は雇用について、「将来の仕事は何か —— ずっと研究しているが、まだ結論はない。オートメーション(自動化)のインパクトはまだわからない」と述べながら、「なくなる仕事と同じだけ、新しい仕事が生まれる」と予想する。

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ルーティンかルーティンではないか、分析系か手作業かでタスクで見た時の仕事の将来。オレンジはすでにAIに代替されつつあり、赤は代替の可能性がある。

産業革命では、例えば馬車が自動車に変わった。当時ロンドンには馬車を引くために100万頭の馬がおり、馬の世話を含め馬車産業に従事していた人が職を失った。その人たちは新しく生まれた仕事に就いた 。

だが、「今回は質が異なる」というのがグラットン氏の意見だ。

「新しいジョブ(雇用)は生まれるが、同じジョブではない。全員がジョブのトランスフォーメーションを経験することになるだろう」とグラットン氏。

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従業員の会社への信頼は少なくなっている。特に日本では不信感が強い。

一方で、この変化は実は正しいものなのかもしれない。グラットン氏によると、「産業革命の後の仕事は、機械のための仕事だった。我々は仕事を機械化してしまった」という。人間が機械的に働くことを要求する多くの仕事が生まれたが、これらは自動化によりなくなっていく。「今こそ仕事を人のために構築すべきだ」

退屈な繰り返しの作業がなくなるのは良いことだ。例えば長距離トラックの運転手はストレスが多く、心臓発作の発生率が高いなどの科学的証拠があるとグラットン氏は言う。

新しい仕事として、ビックデータアナリスト、アプリデザイナーなどが言われているが、これまでのように機械的なものではなく、人のために作られた仕事となり、人間らしさ(社交力、問題解決力、認知能力など)が求められる。

イベントスライド

リンダ・グラットン氏のスライドより。アプリデザイナー、アプリ開発者、デジタルマーケティング専門家などの仕事が新しく生まれる。

だがグラットン氏はここで問題を指摘する。企業が自動化により従業員から仕事を取り上げており、「仕事を取り上げられた人は、自分は何をすべきかについて不安を抱いている。企業はこれを認識しておく必要がある」とグラットン氏。

「人々は自分に起こっていることに不安を感じており、共感を感じにくい状況にある。創造性を完全に発揮できる状況にはない。私はこれを懸念している」と続ける。

リンダ・グラットンが提唱する「仕事選びの3つのポイント」

人生100年時代の説明スライド

寿命は伸びており、日本では2007年に生まれた人の50%が107歳まで生きると予想されている。

このように仕事の性質が変わりつつある。これに加えて、寿命(人生100年)と家族の変化(これまでの「父・キャリア/母・ケアする人」から「父と母・共にキャリア」)も考慮しなければならない。

そこでグラットン氏が提唱するのが、これまでのようにフルタイムで教育を受け、フルタイムで仕事をし、フルタイムで引退という考えではない「マルチステージ」だ。

マルチステージの説明

教育→仕事→引退の3ステージから、教育、探索、会社勤務、ポートフォリオ型(仕事とさまざまな活動の組み合わせ)のマルチステージの人生になる。

働いた後でギャップイヤー(高校から大学、大学から大学院までの間に、経験を目的に自由に過ごす時間)をとったり、自分で職をプロデュースするインディペンデントプロデューサーなどさまざまなステージがあって良いという。

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これまでは仕事→報酬→消費→幸せだった。

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報酬や年金などの有形資産から、生産性や活力など無形の資産にフォーカスを移すべき、とグラットン氏。

グラットン氏は仕事選びでのアドバイスとして次の3つをあげた。

  1. 学び続けることができるか?
  2. 健康を維持できるか?
  3. トランスフォーメーションできるか?(これまでとは違うネットワークを作ることができるか、仕事が自分を変身させてくれるか)

グラットン氏は企業や政府はもっとトレーニングや教育に投資すべきだと考える。「人から仕事をとるだけでなく、人が学習するのを支援するよう提案したい」と述べ、自動化により職を失う人が次に何をすべきかをナビゲートする取り組みが重要であると主張した。

(文、写真・末岡洋子)

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