フェイスブックCEOマーク・ザッカーバーグ。
David Ramos/Getty; Skye Gould/Business Insider
- 合わせて30億ドル近くの株式を保有するフェイスブックの株主らが、マーク・ザッカーバーグを会長職から解任し、同社の体制を変えようとしている。
- Business Insiderは、6人の大株主を取材した。彼らは、一連のスキャンダルのあと、株主の間にはこれまでにない不安が広がっていると語った。
- 彼らはザッカーバーグの権力体制に公然と反旗を翻した。だが、ザッカーバーグは自らが同意しない、いかなる株主提案も退けることができる。
- ある投資家はザッカーバーグを、19世紀のアメリカで巨大な富を築いた「悪徳資本家」にたとえた。
- フェイスブックは、同社のガバナンス体制は「健全かつ効率的」であり、ザッカーバーグの会長兼CEOとしての責務を裂くことは「不透明感、混乱、非効率」を生み出すと述べた。
合わせて30億ドル(約3300億円)近くの株式を保有するフェイスブックの株主らが、マーク・ザッカーバーグを会長職から解任し、同氏の権力基盤を引き裂こうとしている。
Business Insiderは、6人の大株主を取材した。彼らはフェイスブックの経営手法に大きな不安を感じ始めている。変化を求める彼らの要求は激しさを増している。
6人は全員、2012年の上場以来、投資家の間で怒りがここまで表面化したことはないと述べた。彼らは、選挙介入からケンブリッジ・アナリティカによるデータスキャンダルまで、フェイスブックが一連のスキャンダルに巻き込まれる姿をフラストレーションとともに見つめていた。
これらの危機は同社の経営手法に一因があり、適切に対処できていないと株主らは語った。そしてその原因は、同社のガバナンス構造にあり、マーク・ザッカーバーグがCEO兼会長として、基本的にアンタッチャブルな存在になっていることが原因と述べた。
「我々は取締役会の構造に問題があると考えている。会社は改善しようとしないし、危機を招いている。評判、規制、その他の点においても」とニューヨーク市の監査官、スコット・ストリンガー(Scott Stringer)は語った。同氏は市の年金基金が投資している8億9500万ドル(約980億円)相当のフェイスブック株を運用している。
フェイスブックは2012年に上場した。
AP
株主らは、多くの点について公に根本的な変化を求めている。だが、インタビューから、大きな問題点は以下の2つであることは明らか。
- 株主らは、ザッカーバーグの会長職からの解任と、別の新たな会長の選出を求めている。
- また、株式らは同社の株式の二重構造の廃止を求めている。彼らは、これがザッカーバーグとその少数の経営チームに大きな権力が集中する原因になっていると考えている。
独立した投資家の多くが、過去2回の同社の株主総会でこの提案に賛成した。株主の怒りは2018年の株主総会で沸騰した。ザッカーバーグは会社を「独裁制」のように経営していると非難され、またある株主は、不満を叫んだために総会から追い出された。
同社の監査委員会にもっと力を与えるよう求めている株主もいたが、この問題は6月、同社が監査委員会に社会的なインパクト、プライバシー、サイバーセキュリティーの問題を扱う責任を与えたことで概ね解決した。
フェイスブックは、これを外部からの要求に対応したまでと軽視していた。だが株主らは、同社があるレベルにおいては要求に応じるという事実を表すサインと受け取った。そしてこれは勝利であり、戦争ではないが戦いと受け取った。今、株主らは、他の事柄についても改善を求めている。
フェイスブックは、株主の不安についてのコメントを拒否した。同社の広報担当者は、同社のガバナンス構造は同社の目標に適したものとした過去の声明を再び提示した。
株主にとっては、確かに同社への投資は極めて安全な賭けとなった。同社の株価は、2012年の上場以来、400%以上になり、売り上げは1000%以上の400億ドルに達し、月間のアクティブユーザーは22億人に達した。世界の人口の約30%がフェイスブックを使っていることになる。その間ずっと、ツイッターやスナップといったライバルからの挑戦を退けてきた。
他の多くの企業では、株主はザッカーバーグの企業運営を称賛している。だがその一方で、彼らはザッカーバーグの影響力を弱めることを望んでいる。
ザッカーバーグは誰にも答えていない
フェイスブックに約3500万ドル(約38億円)を投資しているイリノイ州の財務官、マイケル・フレリックス(Michael Frerichs)は、株主がザッカーバーグの会長職からの退任を求めているのは、シンプルな理由からと語った。
「彼は誰に対しても、取締役会や株主に対しても説明責任を負っていない。これはコーポレートガバナンスとして望ましいことではない。彼のボスは彼自身であり、これは明らかに機能していない」
フレリックスは、4人の他の株主らと協力し(彼らが保有するフェイスブック株は合計で約20億ドル相当にのぼる)、変化を求めて活動している。そして、こうした動きをリードしているのが、アクティビスト(いわゆる「物言う投資家」)のナターシャ・ラム(Natasha Lamb)。アルジュナ・キャピタル(Arjuna Capital)のマネージング・パートナーでもあるラムは、ザッカーバーグの仕事ぶりについて「ほとんど信頼できない」と述べた。
ザッカーバーグは、ビル・ゲイツを自身のお手本であり、メンターだと呼んだ。
Beck Diefenbach/Reuters
アップル、グーグル、オラクル、ツイッター、マイクロソフトといった企業は全て会長とCEOの役割を分けていると慈善団体パーク財団(Park Foundation)の代理として約1050万ドル相当のフェイスブック株を運用するトリリウム・アセットマネジメント(Trillium Asset Management)のシニア・バイスプレジデント、ジョナス・クロン(Jonas Kron)は指摘した。
クロンは、ザッカーバーグが自身の手本であり、メンターと呼ぶビル・ゲイツにアドバイスを求めるべきと語った。2000年にマイクロソフトのCEOを辞めたとき、ゲイツはCEOと会長の役割を分けた。
だがザッカーバーグの権力は、その議決権によってさらに強められている。フェイスブックには、クラスAとクラスBの2種類の株式があり、クラスBにはクラスAの10倍の議決権がある。そして、ザッカーバーグはクラスBの株式の75%を保有している。
つまりザッカーバーグはフェイスブックの議決権の半数以上を握っており、ほぼ完全に会社をコントロールすることができる。
「(1人の人間が)会長とCEOの役割を兼任し、その会長兼CEOが個人的に会社の過半数の株式を保有していることは、トラブルのもと。なぜなら、それはいかなる異論をも唱える余地がほとんどないことを意味する」
企業統治の改善を求める株主を支援する団体オープン・マイク(Open Mic)の責任者、マイケル・コナー(Michael Connor)はそう語った。
株主の懸念を一掃するザッカーバーグの権力は、ここ13カ月で証明されている。2017年の株主総会では、ザッカーバーグの会長職からの解任を求める提案がなされたが、すぐに却下された。しかし、コナーの分析によると、独立した株主の51%が提案を支持していた。
株主たちの活動をリードする、ナターシャ・ラム。
Natasha Lamb
同じことが、2018年5月の株主総会でも繰り返された。株主は株式の二重構造の廃止を提案したが、これも却下された。しかし、データをよく見れば、独立した株主の83%がこの提案を支持していた。
別の言い方をすれば、もしザッカーバーグが株主に反対するなら、切り札は常に彼が持っていることになる。
ニューヨーク州会計検査院の企業ガバナンスの責任者で、10億ドル以上のフェイスブック株を運用しているパトリック・ドハーティ(Patrick Doherty)は、フェイスブックの組織のあり方は過去のものと指摘した。
「株主が何十億ドルも投資している巨大な上場企業には、ある種の支配者が必要という考え方は時代錯誤。まるで19世紀のワンマンかつ独裁的な悪徳資本家のよう」
そして、ラムは株主との対話を避けようとするフェイスブックの姿勢を実際に経験している。ラムは性別による賃金格差を含め、さまざまな問題について広く訴えてきたが、「(こういうのは)良くない」と、5月の株主総会で当時のコミュニケーション担当エリオット・シュレージ(Elliot Schrage)に要望をはねつけられた。
ラムは、これは株主の声を聞かないフェイスブックの姿勢を示す"端的な"例だと語った。のちにシュレージは謝罪した。
しかし、ラムはザッカーバーグが株式の二重構造を廃止したくない理由はシンプルと述べた。なぜなら、廃止は「自身の支配を終わらせる契約書に署名する」ようなものだから。
フェイスブックが5月に出した、投資家からの株式の二重構造の廃止を求める提案に反対する声明の中で、同社は上場の3年前の2009年から2種類の株式が存在したと述べた。
「我々の資本構造は我々の株主にとって最良のものであり、現在のコーポレートガバナンスの構造は健全かつ効果的なものと信じている」
また、ザッカーバーグが会長職から退くことは「取締役会と会社のマネジメントにおける不透明感、混乱、非効率」を招くだろうと述べた。
こうしたフェイスブックの"正当化"について、複数の株主はBusiness Insiderに対して、ケンブリッジ・アナリティカの問題で、ザッカーバーグが謝罪して回ったことと矛盾していると語った。
具体的に言うと、ザッカーバーグはフェイクニュースや選挙への干渉、データ・プライバシーの問題について、「我々の責任についての視野が足りなかった。大きな過ちだった」と語った。
Business Insiderが取材した株主らは皆、ガバナンスの構造が変わることで、フェイスブックが今は失ってしまっている「素早く動いて、問題を打破する」という自身のモットーの落とし穴に、ザッカーバーグが気付くだろうと考えている。
「より多くの、さまざまな意見に耳を傾ければ、より良い意思決定ができるだろう。そうした意見は、独立した権限を持つ人から、より出てきやすいものだ」とイリノイ州のフレリックス財務官は語った。
株主らは戦い続ける
株主らは、ザッカーバーグに自身の責任を思い起こさせることをやめないだろう。彼らは年次株主総会で提案を出し続け、フェイスブックの幹部に手紙を書き続け、会合や他のやりとりを通じて経営陣にアプローチを続け、彼ら自身のフラストレーションをメディアに知らせるだろう。
だがボールドウィン・ブラザーズ(Baldwin Brothers)のマネージング・ディレクター、ディラン・セイジ(Dylan Sage)は、フェイスブックが関わらざるを得ない何か重大なことが必要と考えている。
売り上げ、もしくはユーザーの大幅な減少は取締役会の不安をかき立てるかもしれないし、あるいは会社の手を離れて大きな問題になるかもしれないとセイジは示唆した。
「ケンブリッジ・アナリティカがフィードに現れ続けたり、フェイスブックが選挙をゆがめたり、世界中でヘイトや民族浄化を生み出し続ければ、社会不安が生まれ、その結果、規制当局が介入したり、規制そのものが変わるだろう」
セイジは、自身が保有していたフェイスブック株の多くをケンブリッジ・アナリティカのスキャンダルのあとに手放した。だが、今も約280万ドル(約3億1000万円)を同社に投資している。
ザッカーバーグはウーバーの元CEO、トラビス・カラニックのようになるのか?
REUTERS/Danish Siddiqui
株主は皆、最終的にはフェイスブックにとって最良の結果となるものを望んでいる。
「我々は心からフェイスブックのためを思っている。なぜなら我々は大株主だから」とドハーティ。
「我々は現在、フェイスブックに10億ドル(約1100億円)以上を投資している。だから我々、そして他の株主もフェイスブックが良い投資先であり続けることを期待している。だが取り組まなくてはならない、極めてシリアスな問題がある」
ストリンガーは「フェイスブックの長期的な株主として、我々はフェイスブックは強いと確信している」と付け加えた。
フレリックスは「長期的な生存能力がフェイスブックにあることは分かっている。そしてコーポレート・ガバナンスの変化によって、リスクを減らすことができる」と続けた。
コナーは、フェイスブック株を所有していないが、フェイスブックが仮に誰にも手が出せないような存在に見えても、決して無敵の存在ではないと指摘した。
「人々はフェイスブックのような企業は、無敵と考えている。だがそうではない。AOLやヤフーのような企業はどうなった。ウーバーの共同創業者兼CEOだったトラビス・カラニックのような人物は。こうした企業や人物は、自滅してしまう」
(敬称略)
[原文:Facebook investors boasting $3 billion in shares want to topple 'robber baron' Mark Zuckerberg]
(翻訳、編集:増田隆幸、山口佳美)