ビジネスチャットツールの代表例であるSlack。2017年11月の日本上陸時点では世界3位の規模だったが、現在は世界2位まで拡大している。
国内で進む働き方改革を背景に、コワーキングスペースやカフェ、自宅などで働く「リモートワーク」が広がりを見せるなか、事業規模にかかわらず多くの企業はチャットツールの導入を急ピッチで進めてきた。
6月26日に東京都港区・赤坂インターシティコンファレンスで行われたイベントの様子。キーノートやゲストセッションのほかに、150名以上集まったSlackファンたちのネットワーキングの時間も設けられた。
2018年6月26日、アメリカ生まれのビジネスチャットツールの「Slack」が日本向けのイベントを開いた。
Slackの現状と今後の展望について、来日した本社CEOのスチュワート・バターフィールド(Stewart Butterfield)氏、日本法人の佐々木聖治代表を直撃した。
いまや日本は世界2位の市場、最大の要因は「口コミ」
写真左からSlack Japan代表の佐々木聖治氏、Slack本社のCEO兼共同創設者のスチュワート・バターフィールド氏。
── Slackの日本上陸(2017年11月)から半年以上が過ぎました。現状、グローバルから見ると日本市場はどのぐらいの規模になっているのでしょうか?
バターフィールド氏:Slackは2017年11月に上陸し日本法人(Slack Japan株式会社)を設立。そして、2018年2月にはその代表として佐々木が就任しました。
この6カ月間で日本のアクティブユーザー数(無料含む)は33万人から50万人を超えるところまで増加しました。ちなみに、そのうちの28万のユーザーが東京都にいらっしゃいます。
実はこの数字は非常に規模の大きなもので、日本はアメリカに次いで第2位のユーザー数を持つ市場になりました。
── 日本市場が世界第2位の規模になった要因は何ですか?
バターフィールド氏:いろいろなことが積み重なってきた結果だと考えています。
Slackが導入される目的として“組織の中のEメールを置き換える”としている場合が多いと考えています。Eメールは各々の受信ボックスが用意され、その間で行われるコミュニケーションは組織全体で見ると非常に部分的であると言えます。
SlackはEメールの単なる置き換えとしてではなく、「ビジネスコラボレーションハブ」としての機能を有するとしている。
Slackは組織やチームを念頭にデザインしています。コミュニケーションが“受信ボックス”から“チャンネル”に移るにしたがって、全員が同じものを見ることになる。そうすると、時間や案件などの調整が非常に楽になりますし、内容の明確さも上がると思います。チーム自体の調和にもいい影響を及ぼすでしょう。
日本で仕事をされている皆さんは、Slackが上陸する前から、個人単位ではなく、グループで仕事をされることが多かったかと思います。そんな日本の文化にSlackがうまくはまったのだと考えています。
佐々木氏:多くのお客さまは、すでにSlackを導入している国内外の企業を見てSlackを知る、いわゆる口コミのような形で使い始めていただいています。日本でもそのような事例が重なって、加速して広がったのだと考えています。
2025年までには国内500万ユーザーに?
Slackの日本のユーザー数は伸びており、50万人以上を達成。そのうち、有償プランのユーザーは15万人以上。
── 国内で50万ユーザーを突破したとのことですが、次のステップはどのぐらいの規模を考えていらっしゃるのでしょうか。
佐々木氏:正確には、法人設立前に国内の担当者がひとりで営業をはじめてから1年が経過して50万人です。
バターフィールド氏:Eメールに比べて、Slackがもたらすメリットは非常に大きいものです。2025年までには世の中にいるナレッジユーザー(知的作業をする人々、知識労働者)のすべてがSlackのようなツールを使うことになるでしょう。そして、そんな方々は2億人ぐらいいらっしゃると思います。
つまり、約96%の方々にはSlackを使っていただける可能性がまだあるということです。少なくとも2025年までに日本は約10倍の規模感になっているでしょう。
佐々木氏:日本法人としても、本国の期待を超えられるようにがんばっていきたいです。
ユーザー数増の鍵は「カスタマーサクセス」
Slackは自身を「A PARTNER FOR THE FUTURE OF YOUR ENTERPRISE(あなたのビジネスの未来のためのパートナー)」であると名乗っている。
── ユーザー数を増やす上で、今後どのようなアプローチをしていくお考えなのでしょうか?
バターフィールド氏:私たちとしては、Slackを使った“カスタマーサクセス”を増やしていき、次のステップへ進みたいと考えています。
例えば、Slackのユーザーが100人いたとして、とある人が101人目になるのはそんなに大変な話ではありません。しかし、何もない中で最初の1人になるのは大変です。情熱であったり、使ってみたいという気持ちを持つ人を探して使っていただき、カスタマーサクセスを紡いでいきたいです。
Eメールがビジネスの現場に普及するまでには結構な時間がかかりました。恐らく、Slackは普及するまでにEメールほどの時間はかからないと思いますが、ある程度の時間はかかるでしょう。
佐々木氏:お使いいただく方が増えると、お客さん同士や開発グループのコミュニティーが生まれてきます。そういったコミュニティーを我々がご支援するような形を考えています。また、そのためにも色々な企業と連携を進めており、お客様にとってSlackの価値を上げていきたいです。
Slackを導入している企業の例。これらの企業の成功事例が鍵になってくる。
── カスタマーサクセス、つまり成功事例をもとに、PRやコミュニティーの活性化を促していくということですね。どのぐらいの規模の投資を行うのでしょうか?
佐々木氏:具体的な数としてはなんとも言えませんが、お話しした内容のことは既に起こり始めています。
Slackをプロモートしてくださっている方々が集まり、それをシェアするという活動が、お客さまのオフィスの中で起きています。
我々が直接やりましょう、というのは自然ではありません。我々はそのような機会に、新しい情報を提供したり、新しいサポートプランを考えてお持ちします。1社1社に心地よく使っていただけるようなサポート、プロダクト、カスタマーサクセスが伴ってはじめて生まれることだと思います。
有償プランへの移行は「急がず、気にしない」
有償プランへの導入について「我々は急がない」と構えるバターフィールド氏。
── Slackのビジネスモデルはフリーミアムです。既存の無償ユーザーに対して有償プランへの移行を促す施策は、どのようなものを考えているのでしょうか?
バターフィールド氏:それはSlackの価値を示していくという、とてもシンプルな戦略になります。我々は決して急がず、忍耐強く、長期にわたってお客様とともに歩んでいきたいと考えています。
なかには1カ月を待たずに有償プランを契約される方もいれば、半年、1年かかる方もいらっしゃいます。しかし、どれだけかかっても我々は気にしていません。
何故ならば、一旦Slackを使っていただくとかなり長期にわたってユーザーで居続けていただけるからです。これまでのデータを見ても、有償プランのユーザーの割合は増えています。
(文、撮影・小林優多郎)