これまで何度も改革が検討されてきた国会の「機能不全」。今再び国会議員の間で機運が高まっている。その中心となっているのが、自民党の小泉進次郎筆頭副幹事長だ。
2018年6月27日、記者会見を行う小泉進次郎氏ら自民党・若手議員。
森友・加計問題は特別調査会で
「1年以上にわたり、国民と国会は森友・加計問題に振り回されてきた。よりオープンに、政策本位で議論するために、国会改革が必要だ」
2018年6月27日、自民党の若手議員を中心とした「2020年以降の経済社会構想会議」(会長:橘慶一郎衆議院議員)が国会改革案をまとめ、二階俊博幹事長に提出した。
「2週間に1回、党首討論や大臣討論を夜に開催」「ペーパーレス化」「押しボタン式投票の導入」などさまざまな提言を行ったが、その大きな柱となるのが、現在“一車線”しかない議論の場を“三車線”に分けることだ。
現状はスキャンダルが起こると国会の議論がそれ一色になり、審議拒否が起きると全ての議論がストップしかねない。
2020年以降の経済社会構想会議
現状の国会は、森友・加計問題のようなスキャンダルが起こると、予算や法案の審議を行う委員会で追及が行われるため、他の政策議論が停滞しがちだ。
実際、財務省の前事務次官がセクハラを行った時には、財務金融委員会で疑惑が追及され、麻生太郎財務大臣の辞任を求めて国会審議がストップする事態に陥った。
こうした現状を変えるため、小泉氏らは国会の議論を3つに分け、スキャンダルは「特別調査会」で徹底的に事実究明を行い、調査報告書をまとめ、一定の結論を出すことを提言する。
長期的な国家ビジョンは「2週間に1回」の党首討論や大臣討論で議論を行い、個別の法案・政策は委員会で議論を行う。
国会の議論を3種類に分けて、「オープンで、政策本位な国会」が開かれることを期待する。
2020年以降の経済社会構想会議
首相や大臣の国会出席の合理化を
また、委員会の現状に対しても改革を求める。「2020年以降の経済社会構想会議」が問題視するのは、先進国の中でもダントツに多い首相や大臣の議会出席日数だ。
先進国の中でダントツに多い日本の首相や大臣の議会出席日数
2020年以降の経済社会構想会議
日本の首相が議会に出席する日数は、同じ議院内閣制のイギリスと比べ約3倍になっており、大臣や副大臣が答弁に備えて1日中座ったままということも珍しくない。これにより、外交や内政に注力する時間が限られ、国益を損ないかねない。
大阪北部地震が起きた6月18日にも、参議院決算委員会は、小此木八郎防災担当大臣を除き、安倍晋三総理大臣と他の18人の閣僚に出席を求め、およそ4時間にわたって質疑が行われた。このことについて、小泉氏は次のように苦言を呈している。
「防災担当相や農相、避難生活なら厚労相、インフラなら国交省、自衛隊なら防衛相。そういう閣僚が出席を求められるなら分かるが、質問がない閣僚でさえ、地震の時に出席している。なぜ疑問を持たないのか」
官僚の長時間労働を防ぐためにも国会改革は必要
さらに、農林水産省出身の自民党・鈴木憲和衆議院議員が記者会見で「役所の働き方改革の観点から見ても、国会改革が必要」だと主張したように、官僚の長時間労働を解決するためにも国会改革は欠かせない。
Business Insider Japanが2018年3〜4月に官僚の働き方のアンケートを実施したところ、9割の職員がほぼ毎日残業し、その大きな原因の一つに「国会対応」を挙げたように、現状は多くの職員が答弁書作成のために遅くまで残業をしている。その背景には、直前まで決まらない国会の審議日程があり、国会議員からの質問通告が揃うのは、平均で21時近く。そこから答弁書を作成する。
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2開庁日前までに質問を通告するという質問通告ルールも存在するが、形骸化しているのが現状だ。
2020年以降の経済社会構想会議
こうした現状を変えるため、小泉氏らの経済社会構想会議は「国会審議を計画的に進める仕組みを導入すべき」だと提言する。
「現在の国会は、審議日程が事前に明確化されておらず、翌日に本会議・委員会を開くかどうかも含め、与野党の調整に委ねられている。その結果、自民党の野党時代もそうだったように、野党は、審議拒否を武器に、与党から譲歩を引き出すことを目指すため、国会審議は日程闘争が中心になる」
「充実した政策本位の国会審議に転換するためには、質疑前に十分な準備期間を確保し、計画的に政策討議を進めることが必要である。このため、議長・委員長は、2週間先まで審議日程を決める。与野党の合意が得られない場合、議長・委員長が職権で審議日程を決定する。また、内閣が要請した時は、委員長は委員会を開会すべきである」
立憲民主や公明党からは批判の声も
ただし、こうした国会改革のためには、与党だけではなく野党の協力も欠かせない。国会での質問時間は野党の方が長く、与野党が協力して国会を運営しているからだ。
そのため、27日の記者会見では、各議員が「野党と一緒に進めるべき」であ り、「自民党の野党時代にも同様の審議拒否が起こっていた」ことを強調。28日には、超党派で国会改革を目指す「『平成のうちに』衆議院改革実現会議」が発足した。
呼びかけ人には、立憲民主党の荒井聰両院議員総会長や、国民民主党の古川元久幹事長、無所属の細野豪志衆議院議員らが名を連ね、会長には元防衛大臣の自民党・浜田靖一衆議院議員、事務局長には小泉進次郎氏が就任した。
初会合には100人を超える国会議員が集まり、小泉氏は「党派を超えて共有しなければ動かないのが国会改革だ」と意義を強調した。一方、立憲民主党の枝野幸男代表は29日の記者会見で、「まったく意味のないパフォーマンスに過ぎない。少数会派も含めて全会派が参加して進めるべき国会改革を遅らせることになる」と痛烈に批判。
Twitter上でも、立憲民主党の逢坂誠二衆議院議員が「真の国会改革はペーパレスでもボタン投票でもない。特別委員会を設置しても、与党が審議拒否すれば、特別委員会での議論は実現しない。原子力特別委員会は、今国会でたった一度しか開催されず、与党が賛成しなければ議論できないのが現実だ。与党が嫌なことでも議論できること、それが国会改革の肝だ」と批判した。
また、公明党の井上義久幹事長も29日の記者会見で、「しかるべき機関、例えば衆院の運営に関しては議院運営委員会がある。しかるべき機関で議論を積み重ねていくのが本筋ではないか」「国会で各党が協議するのが基本だ」と指摘している。
7月5日には第2回会合が開かれるが、果たして「平成のうちに」国会改革は実現するのか。
(文、写真・室橋祐貴)