「はやぶさ2」人類未踏の地に到着の偉業、背後で追撃する中国の姿

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小惑星リュウグウ到着を喜ぶはやぶさ2チーム。

2018年6月27日、JAXA宇宙科学研究所「はやぶさ2」プロジェクトチームは、小惑星探査機「はやぶさ2」が、地球から3億キロメートル離れた目的地の小惑星リュウグウから20キロメートルの「ホームポジション」に到着したと発表した。

はやぶさ2の到着を宣言した津田雄一プロジェクトマネージャーは「はやぶさ2を観測に適したホバリング位置に置くことに成功いたしました」と報告。「これから人類未踏の小惑星リュウグウの本格探査をぜひ楽しみにしてほしい」とあいさつした。

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小惑星リュウグウ到着の報告を行う津田雄一プロジェクトマネージャー。

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小惑星リュウグウ到着後の管制室で記念写真。津田雄一プロジェクトマネージャーは、到着宣言に署名を書き入れた紙を掲げた。最後列中央には、はやぶさのプロマネ川口淳一郎教授も登場している。

JAXA/ISAS

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はやぶさ2の接近運用に伴う管制室の様子。

JAXA

「はやぶさ2」と「はやぶさ」はどう違う?

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ONC-Tによって撮影されたリュウグウ。2018年6月26日12時50分(日本時間)頃の撮影。自転の向きは地球と反対方向のため、画像の多くは特に注記がない限り南極が上に、北極が下になる。

ONCチーム:JAXA,東京大,高知大,立教大,名古屋大,千葉工大,明治大,会津大,産総研

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「はやぶさ2」の運用訓練に用いる仮想小惑星を設定するための準備として作成した形状モデル(3億ポリゴン)の一例。実際のリュウグウは赤道付近が膨らんだコマ型をしており、はやぶさ2チームを驚かせた。

JAXA

小惑星探査機「はやぶさ2」は、2014年12月3日に種子島宇宙センターから打ち上げられた小惑星探査機だ。2003年5月に打ち上げられ、2013年6月に地球に帰還し、小惑星から史上初めて表面物質が入ったカプセルを届けた「はやぶさ」の後継機にあたる。

今回到着した小惑星リュウグウは、1999年5月に発見された地球近傍小惑星(NEA)。「C型」と呼ばれ、水や有機物を含む物質を持つと考えられている。小惑星に残る始原的な物質を調査することで、「生命誕生の生命をつくる元になった材料」がどのように地球にもたらされたのか、手がかりが得られると期待されている。

地球からの望遠鏡観測では、距離が遠いリュウグウは光の点にしか見えない。地上の観測でわかるリュウグウのプロフィールは、直径が約900mであること、約7時間38分で自転していることなど限られる。

はやぶさ2チームの光学航法カメラ担当、東京大学大学院の杉田精司教授によれば、接近してからの撮影により、「炭素質コンドライトと反射率が同等、または少し暗めであり、炭素に富んでいると『はっきり言える』」としている。リュウグウから22キロメートルの位置で撮影した画像には「大き目のボルダー(岩塊)が見え、模様や構造、組成の違いが見える。このボルダーはリュウグウの元になった母天体から来たものではないか。母天体は太陽系の年齢に近く、太陽系の起源が分かるもの」とリュウグウから得られるサイエンスの成果に強い期待を見せた。

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光学航法カメラ担当、東京大学大学院の杉田精司教授。

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プロジェクトサイエンティスト、名古屋大学大学院の渡邉誠一郎教授。

はやぶさ2が開始する「地図作り」そして「小惑星探索」

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2018年6月24日、JAXA宇宙科学研究所「はやぶさ2」チームによるリュウグウ接近運用の様子。今後は小惑星の観測を重ね、インパクターやローバー投下、サンプル採取など重要なミッションを行う。

これからはやぶさ2は小惑星の「地図作り」という忙しい時期を迎える。光学航法カメラやレーザー高度計で小惑星の形状を詳細に計測し、近赤外分光計で表面の物質の分布を調べ、着陸地点の候補を検討する。こうした作業を約2カ月行い、8月下旬には着陸地点の決定、9月以降にタッチダウン(着陸)や小型ローバー(調査車両)の投下などを行う予定だ。

はやぶさ2での探査は、前回の知見をもとに、一層の科学的成果を上げるための探査、と表現できるだろう。

たとえば、はやぶさ2には小惑星に「インパクター(衝突装置)」と呼ばれる、銅板をぶつける装置が搭載されている。人工クレーターを作り、小惑星内部の物質を採取するものだ。

着陸は3回行い、表面と地下の両方の物質を採取する予定だ。

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JAXAのはやぶさ2プロジェクト公式サイト。

また、「ミネルバ2」と名付けられた3機の小型ローバー、欧州との協力による「MASCOT」着陸機がリュウグウ表面に降りて、表面温度などの探査も実施する。

はやぶさ2に関連して、米NASAとJAXAは、はやぶさ2との通信に深宇宙通信施設「ディープ・スペース・ネットワーク」を利用する、協力関係にある。

今回、日米の宇宙開発協力で興味深いのは、NASAが2023年にサンプルを持ち帰る予定の小惑星ベンヌ探査で、両小惑星が同じC型で、同様に小さなコマ型の形状だったことだ。リュウグウの形が判明した2017年6月、杉田教授は「ベンヌと同じ形で驚いており、比較点がずっと増えた。チームは大喜びしている」と語っている。同種の小惑星を日米が連続して探査することで、科学的成果を高められる期待がある。

中国が追い上げる、世界の小惑星探査

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中国小惑星探査機「DSSHS」のイメージ。

出典:『Drilling,sampling,andsample-handlingsystemforChina'sasteroidexplorationmission』

はやぶさ2の実績への期待が高まる一方、気になるのは、宇宙開発に力を注ぐ中国の動きだ。当然、中国も小惑星探査を計画していると言われている。打ち上げは2022年と比較的近く、しかも対象となる天体は、一時は「地球衝突の可能性がある」と言われた小惑星アポフィスだ。

小惑星アポフィスは、2004年に発見された小惑星。「S型」で直径210~330メートルほどの天体で、イトカワやリュウグウと同じく地球近傍小惑星と呼ばれている。

文字通り火星よりも内側で地球に近いため、2029年または2036年に地球に接近し衝突する可能性があるとして話題になった。その後の詳細な観測により、この可能性は否定されている。

中国の「Drilling,Sampling,and Sample-Handling System(DSSHS)」計画は、この小惑星に着陸してドリルで小惑星地下の物質を調べるという。2017年に国際宇宙航行連盟の学会誌に計画概要が発表されたもので、2018年4月に新華社通信で伝えられた「2022年頃の小惑星探査機」がこのDSSHSにあたると見られる。

DSSHS探査機はかなり小型で、重量は17キロ程度。小惑星アポフィスに接近し、アンカーのついたケーブルを小惑星の表面に打ち込んで着陸し、表土に深さ30センチほどの穴を開けて物質を採取してその場で調べる。

「ドリルによる探査」という技術を実証するための第一歩とされる。

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開発中のDSSHS探査機のドリル装置。

出典:『Drilling,sampling,andsample-handlingsystemforChina'sasteroidexplorationmission』

アンカーによる小惑星着陸やドリルを使った穴あけ探査は、実は非常に難しい技術だ。小惑星の重力はとても小さいため、穴をあける探査機の方が宇宙へ弾き飛ばされてしまう危険がある、と中国の論文にはある。

過去に小天体にアンカーを打ち込む着陸方式を採用したのは、2014年に世界初の彗星着陸を成し遂げたESA(欧州宇宙機関)の彗星探査機「ロゼッタ」だ。小惑星と同じく重力の小さい彗星でこの方式が実証されたことにより、中国はアンカー固定方式ならば最大で50ニュートンの力でドリルによる穴あけが可能だと見積もっている。

中国のDSSHS探査機は、はやぶさ2のように深宇宙航行、インパクター、ローバー、サンプル採取とリターンといった“全部入り”タイプの高度な探査機ではない。

ただ、中国は月探査機「嫦娥」計画に見られるように、目標を絞って着実に技術を積み上げ、高度な探査を実施する力を持っている。中国は2022年のアポフィス探査を“ファーストステージ”だとしており、今後は次々と機会を積み上げて小惑星探査を実施していくものと考えられる。

初代はやぶさAMICA光学観測チームメンバーで、JAXA広報を務め、現在は『月探査情報ステーション』編集長でもある惑星科学者の寺薗淳也・会津大学准教授は、「中国は2016年に発表された“中国の宇宙活動”において、『今後5年間は小惑星などの深宇宙からのサンプル採取への努力を惜しまない』と述べている。ただ、ドリリング機構を用いる場合、本体と掘削部が(相対的な意味で)非常に長い距離で結ばれることになり、途中でのトラブルが懸念される。また、機構がどうしても複雑になるため、故障要因が増えるといった問題点が出てくる(ことが考えられる)。

ただ、今後検討が進んでいけば、深宇宙環境下で動作するサンプリング機構が完成することも期待される。三者三様の利点を活かしながら成果を競うことが期待される」と語る。

世界の小惑星探査のトップを走る「はやぶさ2」

はやぶさ2は現在、間違いなく世界の小惑星探査のトップを走っている。

とはいえ、はやぶさ打ち上げからはやぶさ2まで、11年の間隔が開いている。一方で中国の追随は激しく、新技術の実証に加えて、小惑星アポフィスを対象に選ぶといったケレン味も持っている。

宇宙探査は勝ち負けではないが、すごいこと、面白いことが続いていれば、そこに世界の注目、そして人も技術も集まるものだ。今後のはやぶさ2の科学的成果をしっかりと評価し、次へまた次へと宇宙探査のリレーをつないでいくことが大切だ。

(文・秋山文野)


秋山文野:IT実用書から宇宙開発までカバーする編集者/ライター。各国宇宙機関のレポートを読み込むことが日課。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、書籍『図解ビジネス情報源 入門から業界動向までひと目でわかる 宇宙ビジネス』(共著)など。

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