中国 iPhone工場の内側 —— ニューヨーク大学の学生が見た「ネジをつける労働者たち」

想像してほしい。毎晩19時30分に出勤し、その後、食事と休憩時間を含め12時間を工場で過ごす。仕事はスマートフォンの背面にネジを1本取り付けるだけ。これを何度も、何度も、ただひたすら繰り返す。

昼間は、寮の相部屋で寝る。そして夕方には起床し、また同じ一日を繰り返す。

これが昨年の夏、デジアン・ゼン(Dejian Zeng)氏が中国・上海近郊のiPhone工場で6週間働いたときの日課だ。彼だけではない。中国や新興国にはデジタル経済の原動力となるガジェットの組み立て作業に従事する作業員が何十万人もいる。彼らもまた、毎昼夜同じような働き方をしている。

ゼン氏は他の作業員とは違い、生活のために働いたわけではない。彼はニューヨーク大学の大学院生で、自身の研究のために受託製造サービス大手のペガトロン(Pegatron)の工場で働いた。

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China Photos/Stringer/Getty; Samantha Lee/Business Insider

ゼン氏は2016年夏、自身の研究のために上海の郊外にあるペガトロンの工場で6週間過ごした。

彼の話の概要は以下の通り。

  • 1カ月の報酬は、残業代込みで3100元(約4万8000円、※1元15.5円で換算)。部屋付き。
  • 寮の相部屋で、他の7人と寝起き。
  • 販売開始前の新型iPhone生産時の様子。
  • 工場の作業員のほとんどが、新しいiPhoneを買う余裕はない。
  • 全作業員がダウンロードしなければならない、アップル推奨のアプリがある。
  • 工場には悪臭が漂うことがある。その理由。
  • ゼン氏が「iPhoneの生産工場がアメリカに移ることはありえない」と考える理由

iPhone製造工場の入り口

iPhone製造工場に入っていく作業員たち。

Dejian Jang

多くの競合企業と同様に、アップルはペガトロンなどの受託製造サービスを使って、中国でコンピュータやスマートフォンを生産している。

このような状況に対し、トランプ大統領は、生産拠点と雇用をアメリカに移動させるようアップルに要求しており、政治的な問題となっている。

同時に、アップルの海外生産拠点は、長い間、作業員の長時間労働と低賃金を批判する声にさらされてきた。

IT業界の関係者によると、アップルは工場作業員の待遇に関する批判に対処すべく、これまでのやり方を一新した。3月、アップルは自社製品の製造オペレーションに関する年次報告書を発表した。

自分の目で実態を把握するため、ゼン氏は2016年夏、ニューヨーク大学の特別研究員としてペガトロンの上海工場に潜入した。彼の勤務先となった工場は、強制残業の疑いがあるとして2014年にBBC2016年にはブルームバーグが取り上げた。

アップルの広報担当者はBusiness Insiderの取材に対して、ペガトロンの工場には同社社員が常駐していると語った。

アップルはペガトロンの上海工場に対して16回にわたる監査を実施し、その結果、99%の作業員は1週間の労働時間が60時間以下であり、アップル製品の組み立てに関わる作業員の1週間の平均労働時間は43時間だった。賃金は過去5年間で50%以上上昇しており、上海の最低賃金より高い。

アップル広報担当者は上記のように述べた。ペガトロンからのコメントはない。

ゼン氏は大学院卒業後、中国の非営利人権団体で働く予定だ。彼は工場で働き始めてすぐ、いつストライキが起きてもおかしくないと感じたが、ストは起こらなかった。彼はiPhoneの組み立て作業に従事する工場作業員の日常生活を調べることにした。

※インタビューは長さと分かりやすさの観点から編集されている。


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ゼンさんの部屋からのキャンパスの眺め

Dejian Zeng

Bisiness Insider(以下、BI):さて、どんな様子だったのか、まずは1日の流れを教えてください。

ゼン氏:最初はFATP(final assembling testing packing)と呼ばれる部門に配属された。作業内容はiPhoneの組み立て。

1つの組立ラインには約100の作業ステーションがあり、個々の作業ステーションでは、割り振られた1つの作業を担当する。最初はiPhone 6Sを組み立て、8月以降はiPhone 7に変わった。

iPhone 6Sを組み立てていた時は、2つの作業を担当した。1つはスピーカーを取り付ける作業。スピーカーをケースにセットして、ネジで留める。iPhone(我々はバックケースと呼んだ)は組立ライン上を流れてくるので、そこから取り上げて、スピーカーをネジで留める。またラインに戻し、次の作業ステーションに流す。

BI:仕事はネジを1本、取り付けるだけ?

寮の一般的な部屋

寮は8人部屋が一般的。

Dejian Zeng

ゼン氏:そう。それが仕事。単純作業だが、それがやるべき仕事。何度も、何度も、同じ作業の繰り返し。1日中続く。

BI:頭が変にならなかった?

ゼン氏:最初の数日間は、組立ラインのスピードに追いつけなかったので、かなり集中して作業していた。とにかく早くそのスピードに慣れないといけない。とにかく集中だ。疲れるが、そのことだけを考える。他のことを考える暇はない。とにかく、速く、より速く。

しばらくすると、慣れてきて、最後には目をつぶっていても、ネジを取り付けられるようになった。本当にそんな感じ。そうなってしまうと時間を持て余して、逆に苦痛を感じるようになる。ペガトロンの工場では、あらゆる電子機器の持ち込みが禁止されている。

音楽を聞くことができないので、非常に退屈。時には作業員同士でおしゃべりや雑談もするが、ラインマネジャーに、にらまれ、「声が大きい」と注意されることもある。

BI:毎日、どこで寝起きしていた? 起床時間は?

ゼン氏:寮の8人部屋で寝起きしていた。寮は工場の敷地内ではなく、車で約10分の場所にあり、専用の送迎バスがあった。

当初、私は夜勤担当だったので、毎日、午後6時か6時半に起きた。

組立ラインによって、作業開始時間が違うので、午後7時半に仕事を始める同僚もいれば、8時、8時半、9時半に仕事を始める者もいた。

わたしの場合は午後7時半に仕事が始まるので、7時に送迎バスに乗り、7時15分頃には工場に着いた。

約2時間作業すると10分の休憩時間がある。

休憩時間は、寝て過ごす人が多かった。休憩時間は短いので、ある種のジレンマに陥る。水が飲みたい時やトイレに行きたい時でも、工場は広く、トイレに行って戻るだけでも10分程度かかってしまうからだ。

ニューヨーク大学で潜入取材の成果を発表するゼン氏

ニューヨーク大学で潜入取材の成果を発表するゼン氏

Dejian Zeng

「単純作業だが、それがやるべき仕事。何度も、何度も、同じ作業の繰り返し。1日中続く」

工場内のシャワールーム

BI:トイレは近くにはなかった?

ゼン氏:だから、とても眠いけど、水も飲みたいという時が辛い。1つのことしかできないので、トイレに行くか、あきらめて眠るかのどちらかだ。

BI:10分の休憩時間が終わったら、その後は?

ゼン氏:さらに2時間の作業後、50分の食事時間になる。メニューはほとんど野菜と肉。パンや麺類が出ることもあるが、基本的には野菜類が3種、肉類が1種、それとご飯の組み合わせだった。

時々りんごや梨などの果物が加わることもあった。

全作業員が利用するので、食堂はとてつもなく広い。

早く食べ終えれば、仮眠を取ることもできる。この工場では、仮眠を取ることは大事なことだ。ラウンジには長椅子がたくさんあるが、とても座り心地が良いとは言えない。まるで鉄のようだ。

作業員はそこに座って、寝る。だが、横たわってはいけない。見つかるとIDをスキャンされ、記録が残る。所属する組立ライン全体に公表されるので、後でマネジャーに怒鳴られることになる。何回か続くと、罰金として給与から天引きされる。

BI:居眠りの罰金はいくら?

ゼン氏:居眠りではない。横たわるだけでもだめ。他にも禁止されていることがある。誤って自分の携帯電話を工場に持ちこんでしまった場合も罰金だ。まだ工場内部に入る手前の段階、例えば入口の金属探知機に引っかかった時もだめ。記録されてしまう。ライターもだめ。金属はどれもだめだ。

敷地外にあるカフェ

工場の敷地外にあるカフェ。作業者たちが食事をしている。

Dejian Zeng

BI:食事は口に合った? お金がかかる?

ゼン氏:食事は有料で、値段はどのメニューを選択するかによって変わる。5元(約80円)のものか8元(約120円)のものを選ぶ。食べるのは工場の中。

敷地内には仕事の後に食事ができるレストランもあった。日勤で働く時のほうが、いろいろお金がかかった。レストランは大体20元(約310円)くらいだったと思う。

BI:食事の質はどうだった?

ゼン氏:良かったとは言えない。鶏肉が出た時は、ムネ肉やモモ肉だったことは一度もない。いつも首とか、どこかわからないような部位だった。

決して食事の質が高いとは言えないが、でも満腹にはなった。かなりお腹が空くので、とにかくお腹を満たす。仕方ない。質は良くないが、他に選択肢もない。

BI:食事をしながら周りの人と話をした?

ゼン氏:仲の良い同僚と食事をしているときは、そういうこともある。だが、ほとんどの作業員は1人で食べる。自分の食事を取りに行き、食べる。早く食べ終えれば、寝る時間が長く取れるからだ。

食事の後は、また2時間作業し、10分の休憩がある。

BI:この時点で、労働時間は6時間。

ゼン氏:さらに2時間作業して、計8時間ほど働く。その後は、残業する必要があるかによる。残業が必要なければ、全員帰る。

通常、残業が必要なときも、月曜日から木曜日と、金曜日で時間が決まっている。月曜日から木曜日なら2時間半まで、金曜日は2時間までだ。そして土曜日は、また8時間フルに働く。

つまり、月曜から木曜日に2時間半の残業をした場合、休憩時間や昼食時間を含めると工場での拘束時間はほぼ12時間になる。

BI:金属探知機を通るための待ち時間なども含めて?

ゼン氏:それは含めてない。それを含めたら、拘束時間はプラス30分。

BI:なるほど。さて、仕事が終わった。時間は朝の7時半。次はどうする?

ゼン氏:仕事が終わったら、まずは食事。それから送迎バスで寮に戻り、シャワーを浴びる。お湯が出ればラッキーだ。お湯が出ないときもあれば、水さえ出ないときもある。

シャワーを浴びた後は、インターネットカフェに行く人もいれば、テレビゲームで遊んだり、ビデオを見る人もいる。横になってスマートフォンで動画を見る人もいる。

BI:皆、携帯電話を持っている?

ゼン氏:携帯電話は持っている。寮にはWi-Fiがある。だがアクセスするには、アプリをダウンロードするか、コメントか何かをクリックして仮想コインを獲得しないといけない。そしてコインを使ってWi-Fiを利用する。

20コインで24時間利用できる。アプリをダウンロードすると、コインを20個か30個分を獲得できる。現金で仮想コインを買うことも可能だ。確か100コインが5元(80円)くらいだったように思う。だが、多くの人はアプリをダウンロードしていた。ある種のビジネスのようなものだ。そうしないとWi-Fiにアクセスできないのだから。

コインを獲得する時に使う同じプラットフォームで、無料動画を見ることもできる。動画が無料で見られるのは良かったと思う。

わたしは朝10時頃には寝るようにしていた。時間に余裕もないし、かなり疲れていたので。(時間があっても)映画を1本見るのがやっとだった。とにかく寝ておかなければならない。次の日は、また夕方6時半に起きる。これが日課だ。

BI:友達はいた?

ゼン氏:ルームメイトや同じ組立ラインの同僚とは仲良くなった。特に近くの作業ステーションの同僚とは仲良くなった。彼らは、とても良い仲間だ。

働き始めて、最初の数日のトレーニング期間中にも友達ができたが、一緒にいられたのはその時だけで、トレーニングが終わると、ばらばらになってしまった。

BI:寮のルームメイトはずっと同じ人たち?

ゼン氏:ルームメイトとは組立ラインが違うし、配置も近くなかった。シフトが違うときもあった。シフトが違えば1カ月間、顔を合わせないこともあった。シフトは毎月変わる。

BI:家族と一緒だった人もいた?

ゼン氏:恋人や奥さんと一緒の人もいた。

敷地外にアパートを借りていた人もいた。特に制限されていなかったが、家賃はかなり高かった。でも、寮にはカップル向けの部屋はないので、一緒に住みたければ、それしか選択肢はなかった。

BI:仲間と一緒に組立ラインで作業したときは、どんな話をした?

ゼン氏:私は作業員について間違った固定観念を持っていたと気付いた。彼らを教養がない人たちだと思っていた。でも、間違っていた。当時話題になっていた米中関係や南シナ海の外交問題を含め、彼らはさまざまなことについて語っていた。

一番話題になったのは映画、特にホラー映画だ。時には彼らの生活についても話をした。彼らは農村部に残してきた家族に仕送りをしていた。彼らは子どもたちをダンススクールか何かに通わせたいと思っている。親心は変わらない。そして、エンタメやセレブのニュースなど、若者たちが話しているようなことが話題だった。それ以外、時にはアメリカの歴史も話題になった。

BI:同僚たちは仕事が好きだった?

ゼン氏:好きでもないけど嫌いでもない、という感じ。

お金を稼ぐために仕事をしている。作業内容を楽しんでいる人はいない。ただ終わる時間を心待ちにしながら、仕事に出かける。

考えていることは、ただ本当にお金だけ。お金、お金。家族からの援助も必要だし、自分の生活や子どもたちを支えていかなければならない。

彼らの頭の中にあることは、それだけだ。時には自分がどんなに疲れていようと関係ない。

他の工場での勤務経験を持つ作業員もおり、彼らはペガトロンの管理体制は厳しいと感じている。工場内では携帯電話を使うことも、音楽を聴くこともできない。歩きながら大声で話すこともできない。

だから、ペガトロンは管理が厳しいと感じている作業員もおり、イライラのもとになっている。

BI:この仕事はリスペクトされている? 周りの人が「生計を立てるには、良い仕事だ」と思う仕事だろうか?

ゼン氏:そうは思わない。作業員の中には、警備員、配達員、家政婦を目指している人もいる。つまり、仕事のレベルとしては、それらと同程度で、それ以上でもない。

この工場で働けばホームレスにならずに済む、これが私のこの仕事に対する見解だ。スキルは不要で、ただ工場へ行き、面接を受け、特に質問されることもなく、その日のうちに採用される。あとは食事も寮も用意してもらえる。

だから、もし本当に行くところもなく、一人ぼっちで、助けてくれる知り合いもいないのなら、工場に行けば良い。お金も、いくらかは稼ぐことができるし、少しずつ、生活も軌道に乗っていくだろう。

BI:この仕事をキャリアの一環だと考えている人はいた?

ゼン氏:そういう人はいないと思う。

人の入れ替わりは激しく、2週間や1カ月で辞めることは珍しくない。気に入らなければ、すぐに辞めてしまう人もいる。一方で、長く働く人もいて、そういう人は1年後にラインマネジャーに昇進できる。

この工場では独自の組織体制がとられている。一番低いポジションは作業員で、次はマルチタスク作業員。3番目はグループリーダー、その次がラインマネジャー、その上にセクションマネジャー、部門マネジャーと続き、トップに工場長がいる。

この出世の階段を昇る者もいるが、ほとんどは良くてもラインマネジャー止まりだと思う。出世したとしても、多くの人は、ここでの生活を長く続けられずに去っていく。

中国の出稼ぎ労働者の行動パターンは、だいたい決まっている。1年くらい都市部で仕事をした後、仕事を辞めて正月の時期に1カ月ほど自宅で過ごす。その後、また新たな仕事を求めて、出稼ぎに行く。

BI:同僚たちはiPoneを使っていた?

ゼン氏:iPhoneを持っている作業者もいたが、少なかった。給料が高くないからだ。

もし、手の届く価格であれば、アップル製品を買うだろう。だが彼らは「本当にそれが欲しいのか?」と考える。iPhoneを買うために給料の2カ月分を節約することができるのか? 彼らはそんなことはしない。彼らが使うのは概ね、Oppoなど中国製の携帯電話だ。

BI:ペガトロンで働いている作業員は、自分たちが作っているのがアップル製品だと分かっている?

ゼン氏:それは分かっている。作業員は皆、自分たちがiPhoneを組み立てていることを理解している。「これはiPhone6」「これはもうすぐ発売予定のiPhone 7」ということも分かっている。知らない人はいない。

BI:iPhone 6からiPhone 7に切り替わったとき、どこまで情報を知っていた? 作業員はそれが発売前の製品だと知っていた? セキュリティは強化された?

ゼン氏:管理体制は、さらに厳しくなった。工場側は金属探知器の感度を上げた。

金属探知機の感度が上がったせいで、ブラジャーに付いている金属が反応するようになった。女性たちは下着の種類を変えなければならなくなった。

2カ所のセキュリティチェックを受けた後も、さらに多くのセキュリティ体制が敷かれた。

具体的に言うと、我々が工場に入ると、すでに新しい組立ラインの準備が行われていたが、そこはカーテンで仕切られ、中の様子を見ることさえできなかった。

同じ工場で働いていたが、組立ラインの準備を行っている作業員もいた。

新しい組立ラインの準備中、我々は敷地内の別の工場で仕事をした。準備が終わると、我々は元の持ち場に戻された。

iPhone 7の生産が始まったのはそれからだ。その時点では、まだ試作だった。その時の経験は、iPhone 6Sを作っていた時とは全く異なり、丸一日がかりの、拷問のようだった。

1日12時間で、たった5台のiPhone 7を組み立てる。何もすることもなく、2時間座って待つ。私語が禁止されることもある。ただひたすら、組立ラインに次のiPhone 7が流れてくるのを待つ。組み立てが終わったら、ラインに戻し、次のiPhone 7が流れてくるまでまた数時間待つ。

iPhone 7を組み立てていたときは、アップルのスタッフが毎日、工程を監視していた。新製品なので、新たな問題が発生しないか、確認していたのだ。

工場の管理体制は非常に慎重なものになった。工場内はきっちり整理・整頓・清掃することが求められ、ケースホルダーもすべて所定の位置に正確に置かなければならなくなった。ただの組立ラインだったのに、多くのことが変わった。クリーンルームのようになった。

工場に入る前に、毎回、ローラーでホコリを取り除く。全て手順が定められ、それに従わなければならない。工場の管理者側は非常に慎重で、常に見回りをし、作業員は話すことも居眠りも許されなくなった。

話もせずに数時間座っていると、眠くなる。ある日私は3回も居眠りをしてしまった。マルチタスク作業員(ラインマネジャーのアシスタント)が通るたびに居眠りをしていた私に気づき、「こら、こら!」と起こされた。3回目に見つかった時には「立て」と言われ、組立ラインの横に座ることも許されず、立ち続けることになった。

BI:iPhone 7の時も(同じ箇所の)ネジ担当だった?

ゼン氏:いや、iPhone 6Sの組み立て作業の後半には、「カメラ・カウリング」と呼ばれる別の作業ステーションに移った。iPhone 6Sのカメラの上部にはプロテクターがあり、カウリングを取り付ける必要がある。それらを固定するために、ここでもネジを2本取り付けるのが仕事だった。

BI:「カウリング」は初めて聞いた。

ゼン氏:工場には専門用語がたくさんある。本当にたくさん。

BI:作業員は直接的にはペガトロンのために働いているのだが、アップルのために働いていると思っている部分もあるのだろうか?

ゼン氏:彼らは間違いなく、自分たちがアップル製品をつくっていることは理解している。そして、自分たちはそのプロセスの一部を担っていると考えている。

残業のルールと安全性について説明を受ける作業者たち。

残業のルールと安全性について説明を受ける作業者たち。

Dejian Jang

BI:アップルのスタッフが来ていることは、どうして分かった?

ゼン氏:それは知らされた。工場側は「クライアントが来た」と言う。彼らはアップルを「クライアント」と呼んだ。アップルのスタッフが来て、監査をすることがある。彼らは組立ラインの周りを歩きまわる。

アップルのスタッフが来た時は、工場側はいつもとても深刻な感じになって、我々に「クライアントがここに来ている」と注意を促す。

BI:ペガトロンで働いている人たちはアップルという会社のことをよく理解している? アメリカでは、アップルは非常に重要な企業と見なされており、アメリカ経済を牽引している。

知っての通り、スティーブ・ジョブスや今のCEOのティム・クック氏は、伝説的な存在だ。彼らは、そのことを知っている?

ゼン氏:アップルについて、そこまで知っているとは思えない。アップルはiPhoneをたくさん販売し、たくさんの人がiPhoneを使っている、彼らのアップルに対する認知度はその程度だと思う。

もちろん詳しい作業員もいる。知っている中にもかなりのテックマニアがいた。わたしの隣で仕事をした作業員は、18歳で高校を卒業したばかり。夏の仕事が終わったら大学に進学しようとしていた。彼はアップルの大ファンで、彼ならアップルについていろんなことを知っているだろう。

BI:そして彼は、発売前のiPhoneの生産に関わっていたことをカッコいいと考えていた?

ゼン氏:そうだね、とてもカッコいいと思っていた作業員たちもいた。特に、iPhone7を作っていた時。まだ発売前だったから。

BI:残業代の支払いが大きな問題となっているようだ。これこそチャイナ・レイバー・ウォッチ(China Labor Watch:ゼン氏が参加している労働問題活動家グループ)が追求している問題であり、彼らは証拠となる給与明細を集めている。生活がかかった問題でもあり、解決が難しい問題だ。

ゼン氏:アップルはしっかりと規則を遵守している。通常の勤務日の残業に対しては1.5倍、休日である土曜日の勤務には2倍の賃金を支払っている。賃金の支払いはすべて合法的だ。彼らは方針を遵守していると言ってよいだろう。

(編集者注:アップルは、ペガトロンが作業員の1週間の就労時間を60時間以内に抑えるという規則を99%遵守しており、作業員たちの週平均就労時間は43時間であるとBusiness Insiderに語った)

しかし、私の経験から言えば、残業は強制的なものだ。簡単に作業ステーションから離れることはできない。「帰宅してもいいですか?」と尋ねるたびに、彼らは「組立ラインで作業しなさい」と答える。しかも、どの作業ステーションでも作業者が必要なことは皆、分かっている。もし誰かが帰ったら、誰がそこを埋めるのか、という話になる。

残業しないことを上司に伝えるのは難しい。残業は断れないものだから。そこが問題だろう。作業員には選択の余地がない。働きたくない、今日は本当に疲れていて働きたくない場合でも、どうすることもできない。

残業問題は複雑でもある。作業員が「残業させてほしい、残業代を稼ぎたい」と要求することもあるからだ。基本給が低すぎるから、そうせざるを得ない状況に彼らは追い込まれている。残業をせずに生計を立てることができないので、表向きには「自主的に」残業している。工場側もそれを理解している。作業員もだ。工場で働いて生計を立てるには、残業しなければならないことは皆が理解している。

BI:「残業」とは、週60時間を超える労働の意味?

ゼン氏:1日8時間以上働く場合、それは残業だ。わたしが働いていた時期は、繁忙期ではなかった。週60時間を超える作業は、ほとんどが繁忙期でのことだ。

私が工場を去った後、iPhone7の大量生産が始まった。まだ、工場で働いている作業員とやり取りを続けているが、彼らは日曜日も組み立て作業が始まったと言っていた。別の作業員は、11日間連続で勤務したと言っていた。

BI:11日間も連続で?

ゼン氏:そう、連続11日間。日曜日も働くと、明らかに週の労働時間は60時間を超える。繁忙期には、閑散期とは異なる基準があるようだ。作業員が作業時間を記録するシステムがあるが、それを工場側がどうやって回避しているのかは分からない。職場に行くと、カードを出勤システムに通す。工場の友人は、日曜日に作業をする時もカードを通すと言っている。これは明らかにアップルの方針に違反していると思う。工場がどうやっているのか、私には分からない。

(編集者注:アップルは、ペガトロンの作業員に対して34の監査を実施、上海工場の16施設を含め、中国では29施設の監査を行い、週60時間の労働時間は99%守られているとBusiness Insiderに語った)

BI:睡眠不足のほかに、長時間働く作業員への悪影響に関して何か気付いたことは?

ゼン氏:作業員たちには、他のことをする十分な時間がない。仕事以外の時間は非常に限られている。ほんの数時間しかない。その時間で、できることは少ない。それが問題だと思う。

最新の報告書には、多くの作業員にキャリア開発のためのトレーニングプログラムに参加する機会を与えるとあった。しかし、1日12時間も働いていたら、くたくたになって、 唯一欲しいのは、休息だ。休息のための十分な時間もないのだから。

BI:休暇を取りたい時は?

ゼン氏:友人によると、忙しいときには休暇は取れないそうだ。工場側が許可しない。繁忙期ではないときでさえも、休暇願いを出すと 、彼らはこう聞いてくる。「休暇を取って何をするのか?」と。

しかし、あまり忙しくないときは、許可されることもある。だが、そうした行動はあまり好まれないだろう。残業を求める、もしくは断る、もしくは持ち場を離れるという行為は、面倒を起こそうとしているという印象を与える。結果的に風当たりが強くなってしまうだろう。

BI:上司は誰だった?

ゼン氏:組立ラインでは、上下関係は非常に明確だ。一番多くの指示は、グループリーダーからだ。彼らの要求は厳しい。彼らは、1日の作業が終わった後、当日の作業結果を発表する。そして、「まだ500個残っている、作業を続けて!」とせっつく。

工場は、最大10万人の作業員が稼働できると思う。私が勤務していた時は、約7万人の作業員がいた。ペガトロンは新しい建物を建設しており、会社は拡張を続けている。

BI:なぜペガトロンの作業員たちは労働組合を作らないのか? 中国にはアメリカとは異なる組合制度があることはもちろん理解しているが。

ゼン氏:いくつかの理由がある。前述したように、作業員が考えるのはお金のことだけだ。組合がお金を持ってきてくれるのであれば、彼らは組合を作るかもしれない。だからこそ、2010年の海南自動車の工場で出来事は大きな事件だった

彼らは「我々には組合が必要であり、自分たちで組合幹部を選出する必要がある」というような要求を出した。しかし、一旦、作業員たちが未払賃金の支払いと賃上げを獲得し、お金が入ってくるようになると、もう労働組合のことなど誰も気にかけなくなった。「もらうべきお金がもらえれば、後はどうでもいい」ということだ。

また、作業員たちは7日間もストライキを続けることはできなかった。彼らは毎日お金が必要だ。ストライキを行う余裕などはない。さらに、ストライキや組合を結成する仕組みもない。指導者もいない。工場で働くような人々には、リーダーが必要だ。彼らは、ごくごく普通の人たちだ。仕事に行き、12時間働いて、帰ってくる。「こっちの作業をやって」と誰かが言わなければ、今やっている作業を黙々と続ける。

もう1つのポイントは、作業員の入れ替わりが激しいことだ。彼らは失望すると工場を辞めてしまう。彼らはこう言う、「もう、この工場を辞める。ここが好きではないから。だから出ていく。他にも工場や仕事はある。ただ出ていくだけだ」と。

つまり、高い離職率も理由だ。そのような環境で、彼らが団結することは非常に難しい。「ここの仲間と一緒に1カ月間働いてきた。この人は明日出ていき、こっちの人は昨日入ってきたばかり」というような状況なのだ。

BI:ペガトロンに公然の秘密のようなものはある?

ゼン氏:組立ラインの作業ステーションの中には、他よりも簡単な作業が割り振られているところがあることは皆が知っている。ステッカーを貼るだけの作業ステーションもある。

他には、ごみのリサイクルだけで、それ以外は何もしないという仕事もある。ゴミを見つけたら拾って分別するだけ、その他は何もしない。

簡単な作業をするステーションもあって、そうしたステーションは、マネジャーたちのお気に入りの作業員に割り振られる。ほとんどの場合、女性だ。男たちは、常にネジの取り付け作業を行う。そう、いつもネジばかり締めている。

BI:越えてはならない一線、例えば未成年労働者の問題などは存在する?

ゼン氏:未成年労働者については、彼らは配慮していると思う。それに関しては管理する努力をしているように思う。

安全教育に関しては非常に慎重だ。その点に関してはよくやっている。しかし、安全に関してだけ。トレーニングはたった2日間しかなく、ほとんどが安全についてだ。

「組立ラインの作業ステーションの中には、他よりも簡単な作業が割り振られているところがあることは皆が知っている」

ペガトロンのユニフォームを受け取った直後の作業者たち。

ペガトロンのユニフォームを受け取った直後の作業者たち

Dejian Zeng

BI:工場にあったモバイルプラットフォームとは何と呼ばれている?

ゼン氏:中国語の名称しか覚えていない。「掌知識(Zhang Zhishi)」と呼ばれていた。アップルが多くのセキュリティトレーニングや、時にはキャリアについてアップロードするオンラインプラットフォームだ。

BI:アップルがアップロードする?

ゼン氏:彼らはアップルとこのプラットフォームを開発したと言っていたと思う。作業員たちはログインすれば、その題材について学習できる。

彼らは初日に脅す。「では皆さん、このQRコードを見てください。携帯電話でこれをスキャンして、アプリをダウンロードしてください。アプリをダウンロードしない人は、明日、組立ラインに配置しません」と。

皆がアプリをダウンロードする。その後、組立ラインで作業しているときにも、時々マネージャーが「アプリをダウンロードしましたか? ダウンロードする必要があることを忘れないでください」と言ってくる。

2回目のトレーニング後に、ユニフォームと帽子、スリッパが支給される。上着はピンク、帽子はブルー、ズボンはブルーで、スリッパはダークカラーだ。

BI:1セットだけ?

ゼン氏:1セットだけなので、週末に洗濯するしかない。だから1週間、全く洗わない事が多い。汗をかくし、とても臭くなる。同僚の中には、すごく汗臭い者もいる。しかし、1セットしか支給されない。

工場に入るときには、ユニフォーム一式を全て着用しないといけない。それに関しては非常に厳しく管理されている。

1つエピソードを紹介すると、ある時、別の工場のリーダーが来て、「妊娠している人はいませんか? いたら手をあげてください」と言った。その時は誰も手をあげなかった。彼は「立ち仕事が大変だと思う人は、今、わたしのもとに来てください」とも言った。

さらに彼は続けた。「学生で、ここでの勤務が3カ月以下の予定の人は、立ってください」と。結局、誰も立ち上がらなかったが、彼がそのように聞いてくる理由は、起立した者を辞めさせるためだ。

BI:それはひどい。

ゼン氏:予防接種も必要で、ワクチン接種を受けなければならない。予防接種を受ける前には、深刻な病気にかかっていないか、免疫系に問題はないか、つまり、HIV患者ではないかと聞かれ、もしそうなら起立するよう言われた。さらに注射をする直前に医者は皆の前でさらに質問をした。わたしには、プライバシーの侵害に思えた。その大部屋には100人以上いたからだ。

仕事を始めて4日目に、そこに戻ってさらに研修を受けた。

こうした研修は、ほとんどがアップルが定めた基準について学ぶものだ。彼らは「わたしたちのクライアントが留意することを説明します」と言った。その中には、強制残業や未成年労働者の話も含まれていた。工場側はアップルが非常に留意する4つか5つの重要な違反を列挙した。

あらゆる種類の研修が用意されていて、より良い対人関係の築き方、お金の管理方法というものもあった。こうした研修はアップルからの要請によるものであると分かっていた。研修後は、筆記試験があり、問題は全て研修内容から出されていた。

わたしたちは1日で2、3の試験を受けた。異なる内容で、本来なら数日間にわたって、研修を受けるような内容のものだ。非常に難しい試験が1つあった。最初の問題は、専門用語を中国語から英語に翻訳すること。英語に翻訳できない単語がいくつかあった。

BI:あなたの英語は素晴らしいのに。

ゼン氏:その難しい試験では、試験官は解答を教えてくれて、彼らが言うことを記入するように指示された。試験が終わると、その研修内容について評価を行う。

「研修についてどのように感じましたか?」と書かれた評価用紙が配布された。工場側は、この回答の中身を非常に気にかけていた。「間違えないでください。この用紙には修正の跡を残さないで、きれいな状態にしておいてください」と彼らは言った。

1が最悪、5が最高という数字による評価方法で、わたしたちは4または5を記入するように言われた。皆が4か5を選択して提出した。

もうひとつ触れておきたいことは、強制労働についてだ。作業員のIDを取り上げたうえで、作業員を派遣する下請け業者がいると、今でも言い切れる。ペガトロンでは、作業員はさまざまなルートで就業する。ある者は直接採用され、ある者は、ペガトロンとつながりがある下請け業者から派遣される。派遣された作業員が、ペガトロンで20日以上働けば、ペガトロンはその下請け業者に、ある一定金額を支払う。そう、これは巨大なビジネスだ。工場の周りは、作業員紹介会社だらけだ。

ルームメイトの親しい友人たちのうち数人は、そのようなルートで工場にやってきていた。

彼らは、これらの下請け業者に採用され、IDを彼らに渡さなければならない。そして、20日以上工場で働けば、800元(1万3000円)くらいは手に入る。作業員たちにとっては大きな金額だが、1回限りの支払いだ。

つまり、紹介業者たちはこうしたやり方で稼いでいる。非常に複雑な問題だ。

BI:彼らは下請業者にIDを取り上げられてしまっているわけだが、工場側はこうした行為に気づいているのだろうか?

ゼン氏:ペガトロンには従業員からの苦情を直接、受け付けるシステムがある。良いシステムだが、少なくとも私が働いていた工場には導入されていなかった。

工場には、独自の苦情システムがあるが、誰がその苦情を処理すると思う? 工場の作業員だ。工場の不満を工場の作業員に提出しているわけだ。

一度、残業を強制されたとして、苦情を提出したことがあった。こんなことはしたくはなかったのだが。だが、結局、マネージャーは簡単には帰宅することを許してくれなかった。

彼らは苦情の提出を快く思っていないし、苦情処理のシステムが機能しているとは思えない。

しかし、もしアップルに直接報告する、フォックスコンで導入されているようなシステムをアップルが用意するのなら、状況は良くなるかもしれない。この件は、アップルに強く勧めたい。

(編集者注:アップルは、ペガトロン工場にはアップルの基準を遵守しているかを監視することに加えて、日々の工場の操業をサポートする現地社員を常勤させているとBusiness Insiderに語った)

登録の後、荷物を寮まで運んでいる作業員たち。

登録の後、荷物を寮まで運んでいる作業員たち

Dejian Zeng

BI:ペガトロンでの初日について、もう少し教えてください。

ゼン氏:工場の前に行くと、多くの人が荷物を持って列を作って待っている。2人の従業員が、コンピュータが置かれた机に座っている。彼らのもとに歩いていくと、IDの提示を求められ、IDを読み取り機に通して、コンピューターに登録する。その後、手を出すように言われる。彼らは手を確認して、傷などがないかを見る。それから英語のアルファベットを復唱するようにと言われる。

BI:アルファベットはなぜ?

ゼン氏:組立ラインで英文字が使われているからだ。例えば、私の作業ステーションはE26と呼ばれていた。時々、英文字が使われる。

BI:ほとんどの人は、英語のアルファベットを知っている?

ゼン氏:知っている者もいる。本当にこの仕事に就きたかったら、彼らは知り合いに頼んで教えてもらう。たった26文字だ。間違うこともあるが、それは単なる手続きだ。かろうじて復唱できた場合でも、工場に入れてくれる。その後、指紋を採取し、身体検査を受ける。身体検査には70元(約1100円)を支払う。

BI:お金を持っていなかったら?

ゼン氏:誰かに借りる。入れ墨、血液などの検査もする。血液検査でHIVポジティブだったり、妊娠が判明した場合は、おそらく工場で働くことは許可されないだろう。

妊婦は、許可されないことは確かだ。HIVについては、よく分からない。身体検査の費用を支払う前に、医者は極めて明確に言った。

「聞いてくれ。もし妊娠していたり、10cm以上の入れ墨があったら、工場の中に入ることは許されない。だから、わざわざ身体検査を受ける必要はない」と。

翌日は、たくさんの書類が用意されていて、銀行口座などを記入した。また、顔認証の登録も必要だ。工場に入る時には、カードをスワイプするだけでなく、顔認証も行われるから。

そうした情報を登録した後、工場側からIDカードが支給される。

3日目から給料が支払われる。契約書に署名した後、トレーニングが開始される。

BI:安全に関して重要視していることは?

ゼン氏:負傷した場合、病院に行くことができ、治療費は返金されることを教えてくれた。それは良い点だった。彼らは「労働災害」になり得るケースを多く認めている。例えば、給湯室で熱湯をこぼして火傷をした場合、工場は治療費を払う。工場内の階段を降りている時に足を骨折したら、治療費が出る。それは良いことだ。

安全研修に続いて、給料に関する研修があり、残業、社会保障、携帯電話、組合のWeChatなどについて説明を受けたが、内容がたくさんあり、進行が非常に速かった。

研修の講師は、やる気がないように思えた。わたしは、ものすごく真剣に集中してメモを取ろうとしたが、できなかった。とにかく進行が早すぎる。大量のスライドが 20分ほどで終わってしまった。

BI:そして、あなたの賃金についての説明ですね。

ゼン氏:そう、わたしのお金について! とても重要なことだ。給料がどうやって支払われるかの説明だ。残業に対する支払いについては 、モバイルプラットフォームにアップロードされていたスライドで、後で学習した。

作業員のためのコミュニティセンター。

作業員のためのコミュニティセンター。レストラン、就労時間と賃金をチェックできるコンピュータ、さらにバスケットボールコートもある。

Dejian Zeng

BI:6週間働いて、いくらもらった?

ゼン氏:6週間、つまり1カ月半働いたが、1カ月分の給料が毎月、支払われる。最初の月は約3100元、大体450ドル(約4万8千円)くらいだ。

BI:iPhoneは買えない。

ゼン氏:もちろん買えない。その後に半月分、確か1500元(約2万3000円)くらいを受け取った。

BI:同僚も同じくらいの金額をもらっていた?

ゼン氏:そう、皆、同じくらいの金額を受け取っている。しかし、この金額は基本給に残業代をプラスした金額だ。

(編集者注:アップルは、ペガトロンでの基本給は過去5年間で50%以上上昇し、上海の最低賃金よりを上回っているとBusiness Insiderに語った)

基本給は非常に低い。2320元(約3万6千円)で、上海市政府によって決められている。つまり、単に最低賃金を満たしているということだ。そこに残業手当が追加される。

この最低賃金は、市内の全ての人に適用される。事業者は、法律で定められている最低賃金は満たしている。

BI:アメリカではトランプ大統領が就任し、彼は大きな政策の1つとして、アメリカ国内に製造業を取り戻すことを掲げている。

ゼン氏:労働者の視点では、アメリカに労働集約型の製造業を持ち込むことは、現実的なこととは思えない。賃金のことを考えてみてほしい。中国では月に2320元(約3万6千円)、つまり約400ドルを手にする。

アメリカの労働者たちに、基本給として、いくら支払うつもりなのか?

万一、工場が実際にアメリカに移ってきても、多くの雇用が生まれるとは思えない。労働者がたくさんのロボットに置き換えられていく様子が目に浮かぶ。工場で見てきたほとんどの作業は、実際にはロボットに置き換え可能なことは身をもって理解している。

私たちが工場で働く唯一の理由は、我々の労働力がロボットよりもさらに安いからだ。

BI:このような人道問題を懸念している消費者に対して、何をアドバイスできる? どうやったら彼らは状況を変えることができるだろう?

ゼン氏:非常に難しい問題だ。アップル製品の不買運動や、アップルのユーザーに購入をやめさせることは、個人的には現実的ではないと思う。人々にアップル製品の購入をやめるよう働きかけることは非常に困難だ。

まずは、この問題についてもっと話をすること、ソーシャルメディアにもっと投稿すること、そして、これからiPhoneを使用するとき、こうした製品の生産には、昼夜を問わず働く多くの人たちが関わっていることを考えてほしい。iPhoneは、たくさんの人の手で作られている。

[原文:UNDERCOVER IN AN IPHONE FACTORY: What it's really like to work in a Chinese mega-factory, according to a student who spent 6 weeks there

(翻訳:Conyac

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