アマゾン「Fire TV」にフジテレビが参入した理由 —— “したたか”なのはフジかアマゾンか?

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Amazon.co.jp(以下アマゾン)は2018年6月28日、テレビに接続して動画コンテンツやゲームを楽しめる「Fire TV」向けコンテンツ事業の戦略説明会を開催。新たなパートナー4社を報道陣向けに紹介した。

新製品や新機能との連動ではない時期に4社だけを取り上げるというのは珍しいケースだ。逆に言えばこの4社の立ち位置がFire TVの国内事業にとって、重要な意味を持っているということになる。

背景には、これまでリーチしづらかった特定のユーザー層をパートナーの力を借りて獲得しにいくという戦略が垣間見える。

Prime Dayでトップの出荷数、加入者続伸中のFire TV

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左から、Amazonデバイス Fire TV事業部 事業部長の橘宏至氏、トレバのサイバーステップ社 佐藤類社長、フジテレビジョン FOD担当部長職の野村和生氏、 CookpadTV社取締役CTOの渡辺慎也氏、Maru-Janのシグナルトーク社 阿部信光プロデューサー、Amazon アプリストア事業部 長尾ジョナサン氏。

今回、Fire TV上でコンテンツやゲームを提供する新パートナーとなったのは以下の4社。なかでも大きいのは、フジテレビの動画配信サービス「FOD プレミアム」がFire TVのアプリとして登場したことだ。

新パートナー4社

フジテレビの動画配信サービス「FOD プレミアム」

・充実した国内動画コンテンツ
・女性ユーザーが多数
・7/1からスタート

レシピ動画サービス「cookpadTV」

・Fire TVのライフスタイルカテゴリーの強化
・主婦層に刺さるコンテンツ

オンラインクレーンゲーム「トレバ」

・オンラインゲームx実物景品という新規市場への挑戦
・家族みんなで楽しめるゲームコンテンツ

有料オンライン麻雀ゲーム「Maru-Jan」

・Fire TVとしてのマルチプレイのオンラインゲームの開拓
・メインのユーザー年齢50歳。シニアゲームを通じてのユーザー開拓

Fire TVは現在、HD映像を楽しめるスティックタイプの「Fire TV Stick」(4980円)と、4K・HDR動画などが楽しめる「Fire TV」(8980円)の2種類を展開している。

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左が4K・HDR動画などが楽しめる「Fire TV」(8980円)、右が「Fire TV Stick」(4980円)。

アマゾンのAmazonデバイス Fire TV事業部 事業部長の橘宏至氏は、ICT総研のデータを引用し、有料動画配信サービスの利用者は2017年末で国内1440万人、2018年は1660万人の予想だが「2018年はもう少し上振れするのではないか」とし、無料放送の人気が根強い国内でも動画コンテンツに課金するという習慣が一定の知名度を得てきているという手応えを語った。

Fire TVシリーズは2015年9月に日本に上陸し、モデルチェンジやラインナップ追加をしながらビジネスを展開している。アマゾンのプライム会員向けの大規模セール「Amazon PrimeDay(アマゾン プライムデー)」では、大幅な値引きもあって人気商品で、昨年はプライムデーの全商品の中で、「出荷台数でも売り上げでもトップ」(橘事業部長)だった。

パートナー拡充は、端的にいえばプラットフォームとしてのFire TVの活性化と、これまでにないユーザー層の獲得という目的がある。

今回、4社の紹介と同時に「定額動画配信のストア手数料を従来の30%から20%に(コンテンツ事業者の取り分アップ)」と「Fire TV上のパートナー向けプロモーション枠の増枠」も公表したことには、対パートナー向けに「儲かるFire TVプラットフォーム」を強く打ち出したいアマゾンの意図を感じる。特に、虎の子の手数料を下げるというのは簡単な決断ではないからだ。

フジテレビはなぜ「鎖国」をやめてFire TVに参入したのか

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フジテレビはこれまで、外部のプラットフォームへの作品提供は控えて、自社の動画配信サービスに注力してきた放送局だ。フジテレビにとっては、ユーザーから直接課金収入を得られる従来のクレジットカード決済に比べて、20%とはいえアマゾンに手数料収入を取られるのは厳しいはず。しかも、アマゾンアカウントからの登録に限り、1カ月間無料のキャンペーンも実施するという。

ここまで前向きなのはなぜなのか?

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フジテレビの女子アナを起用した「初回起動時動画」も作成する気合いの入れよう。

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FODではフジテレビの地上波の「見放題」のほか、地上波では難しくなりつつある若手俳優を起用したオリジナルドラマや、オリジナルバラエティも用意し、独自コンテンツ展開にも力を入れている。

FOD担当のフジテレビの野村和生氏によると、20%の手数料は「確かに軽くはない」という。一方、決済に使うアマゾンIDがセットアップ済みで届くFire TVの「決済のハードルの低さ」や、アプリから一気に課金まで進めるシームレスさ(EC用語でいう、カゴ落ち率の低さ)にポテンシャルを感じているとも語る。野村氏によると、継続率や加入率が高まると期待して「決済の比率は半分程度がアマゾン経由になることも想定しているそうだ。

印象的だったのは、野村氏が決済IDとしてのアマゾンアカウントの「質の高さ」に着目していたところだ。

他の決済IDでは、たとえば「プリペイド型クレジットカード」など、課金が不確実な決済手段にIDが紐づいているケースがある。しかし、日々の買い物に使われるアマゾンIDなら、紐づく決済手段は、ほぼ必ず、与信枠に一定の余裕のあるクレジットカードだ。

サービス事業者の本音としては、チャージ切れなどの「解約のきっかけ」はできるだけ作りたくない。だから、質の良いIDで登録してもらうことは重要だ。さらに、「契約したい」と思ってくれたときに、なるべくハードルを低く「月額課金」に移れるとなお良い。

フジテレビにとっては、その条件が揃っているのがFire TVだったということになる。

F1層、主婦、ファミリーからシニアまでを狙うアマゾン

今回の4社に共通するのは、特定のユーザー層に強い吸引力を持っているサービスという点だ。

FODは、加入者で最も多い年齢属性が「21歳前後の女性」。いわゆるF1層の入り口世代に極めて強い属性を持つ。

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FODのユーザー分布。女性、とくに20代に非常に強いことがわかる。

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Maru-Janの年齢構成も印象的だ。新聞やテレビをはじめ、シニア層の多さはユーザー層としてネガティブに表現されるケースもあるが、明確にセグメント化されているなら話は別という印象を受ける。

また、オンライン麻雀のMaru-Janは中心が50代。さらに100万人をうたう全ユーザーのうち62%が50代以上という「シニアに強い」プラットフォームだ。その他の2社も、主婦やファミリー層を狙える、あるいはFire TVの可能性を広げるという明確な特徴がある。

テレビという、リビングの中心にある「面」を広い世代にわたって取りに行くためにどうするか? 広告宣伝費をテレビCMやWeb広告にバラまいても、狙い通り成功するかはわからない。だから、人が楽しむコンテンツ、しかもセグメント化されたサービス事業者を吟味し、協力を得る。これはビジネス戦略として正しい。

これこそ、アマゾン流のしたたかな戦い方だ。

cookpadTVは「クッキングLIVE」も。レシピ動画だけではない強み

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テレビがクレーンゲーム機になる「トレバ」。獲得した商品は実物が自宅に届く

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Fire TVでオンライン麻雀。操作はリモコンボタンで完結

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(文、写真・伊藤有)

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