2018年6月30日午前5時30分ごろ、インターステラテクノロジズMOMO2号機の墜落時の映像より。打ち上げからおよそ4秒後に、それは起こった。
提供:インターステラテクノロジズ
2018年6月30日午前5時30分ごろ、インターステラテクノロジズ社MOMO2号機打ち上げから墜落までの映像。
提供:インターステラテクノロジズ
2018年6月30日午前5時30分ごろ、北海道の大樹町の専用打ち上げ射場で、ホリエモンこと堀江貴文氏が設立した日本のロケット開発企業インターステラテクノロジズ(IST)による観測ロケット「MOMO2号機」の2回目となる打ち上げが行われた。
MOMO2号機はいったん、ロケットの打ち上げ地点(射点)から離昇を開始したものの、およそ4秒後にエンジン部分を下にしてほぼ垂直に落下。機体が大きく折れて爆発炎上した。
IST社提供の射点での映像によれば、打ち上げから間もなくMOMO2号機の機体の最下部より少し上、テールフィンのあたりから横に炎が吹き出している様子が見える。
IST提供の動画から切り出した1カット。側方に炎が噴き出していることが見て取れる。
提供:インターステラテクノロジズ
この部分は、2号機から採用された機体の回転を制御するための「ホットガススラスター」の辺りだ。落下に続く炎上は激しいものの、機体はほぼ垂直に落下しており、打ち上げすぐに大きく姿勢を崩したという部分は見られなかった。
打ち上げ中の管制室の様子。幸いにして射場から600mのこの地点まで破片の飛来などはなく、人員に怪我などの被害はなかった。
提供:インターステラテクノロジズ
困難が続く、ISTの民間ロケット「MOMO」の奮闘
2017年7月に、高度100km以上の宇宙を目指して試験を開始した、民間観測ロケット「MOMO」。1号機は飛行中にエンジンを緊急停止させるという結果になったことはすでにお伝えした。
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そもそも、MOMO2号機は2018年4月に打ち上げを予定していたものだ。搭載された窒素ガスタンク周囲のレギュレーター(調圧弁)が原因とみられる不具合が発生。そのため計画を延期し、ようやく待望の打ち上げを迎えたのが、この6月30日だった。
2018年4月、打ち上げ延期のため、格納庫へ収納されるMOMO2号機。
提供:NVS ネコビデオ ビジュアルソリューションズ
劇的な結果に終わったMOMO2号機の打ち上げだが、幸いなことに機体事故によるけが人はなく、また射点施設が損傷したものの、予想よりも損害の程度は軽かったようだ。
打ち上げから1日経った7月1日現在、IST社スタッフは機体の回収作業の様子についてTwitterなどを通じて次々と公開しており、精力的に回収作業を続けていることがうかがえる。
事故の原因推定について、現時点で外部から言えることはまだなにもない。6月30日午前10時からの状況説明記者会見で、稲川貴大社長は、管制室に届いたテレメトリ(遠隔計測データ)がメインエンジンでの燃焼圧力の低下を示した、と状況を説明したものの「(回収した機体の)現物を調査しなければ、圧力低下の根本的な原因はわからない」としている。
メインエンジンそのものに主な原因があるかどうか、また設計上の問題・製造中の問題の切り分けもこれからだ。原因追求と並行して、MOMO2号機に実験機器を搭載していた高知工科大学チームへのケアも必要になる。
ISTの設立者のホリエモンこと堀江貴文氏。2017年、MOMO1号機の記者会見にて撮影。
撮影:秋山文野
一方、IST設立者の堀江貴文氏は30日会見の中で、「今までにない失敗」と述べた。4月の打ち上げ延期の原因になった窒素タンク周辺の不具合は十分に解消して臨んだものの、想定とは異なる部分から事故が発生したと認識しているようだ。
今の段階で重要なのは、周辺に飛び散っている機体の残骸だ。推進剤のエタノールがほとんど残った状態だったため、機体は激しく燃えている。しかし、燃え方ひとつとっても状況を推定する手がかりになる。電子機器が正常に動作し、突き合わせるべき遠隔計測データが取れていることも大きい。
海中に沈んだ1号機と異なり、今回のMOMO2号機の事故は、かなりのデータを残せた「失敗」だ。データが得られれば、ロケット事故の後にその原因としてどのようなことがわかるか、歴史上のロケット事故を一例振り返ってみたい。
「打ち上げの失敗」も貴重なデータの宝庫
アメリカ初の人工衛星打ち上げを目指すプレッシャーの中で事故を起こしたヴァンガードロケット。
NASA
「ヴァンガード TV-3」は1957年12月6日、米フロリダ州ケープカナべラル空軍基地から打ち上げられた、米海軍の4段式ロケットだ。同じ年の10月に、旧ソ連が世界初の人工衛星「スプートニク」打ち上げを成功させた宇宙競争の最中で、アメリカ初の人工衛星打ち上げを目指した。しかし離床から数メートルも上昇せず、崩れ落ちるように炎上。宇宙関係者の間では、アメリカのロケット開発史初期の劇的な失敗として記憶されている。
打ち上げ直後に崩れ落ちた様子から、MOMO2号機の事故でこのヴァンガードTV-3を思い起こした人も多いようだ。
打ち上げそのものが試験的な、開発初期のロケットであるという点も似ている。「テレメトリデータは千金に値する」と当時の関係者がコメントしたテレメトリデータと写真資料から、この事故は「エンジンの燃焼圧力が想定よりも低かった」ことが原因とわかった。
ただし、さらにその上流の原因として、製造に関わった企業が「エンジンに燃料を送り込むターボポンプの動作の不具合により燃料タンクの圧力が低下、結果として燃料噴射装置が十分に働かなかった」という説と、「製造時に燃料の配管系統を足場にするなど不適切な作業があり、配管がゆるんでしまった」という二説を展開して激しく争った。論争による人的消耗を避けるため、どちらの説が正しいのか公式には判定されていない。
ロケット開発初期の1957年から2007年までの打ち上げ失敗を調査したFAA(アメリカ連邦航空局)の資料によると、ロケットの打ち上げ失敗のほぼ50%が推進系、つまりエンジンの周辺で起きている。続いて誘導航法システムが20パーセント、電気系統が8パーセントと続く。エンジン周辺は圧倒的に事故が起きやすく、またエンジン事故の8割ほどは液体ロケットである。そして1950年代の黎明期には打ち上げ失敗率がロシア(旧ソ連)で判明しているだけでも約37パーセント、アメリカでは約66パーセントとなっている。
MOMO2号機の事故は、エンジン周辺、液体ロケット(エタノールを燃料とする)、開発初期と上記の3要素すべてが当てはまる。つまりまだまだこれから、といってよい段階のロケットだ。
失敗を乗り越え、ロケット技術確立のために必要なバックアップ
今後の懸念があるとすれば、原因究明にともなう広い意味でのバックアップ体制だ。
まずは人員のバックアップ。ISTは社員20名程度の少人数の企業で、稲川社長のコメントによれば平均年齢30代だという。今回のような大きな事故の際には、原因究明と改善に邁進するあまり、心身ともに消耗してしまうことも考えられる。
30日の会見で稲川社長は「外部の有識者にも協力を求める」としている。2016年にISTは、JAXAとの間でロケット開発に関わるコンサルティング契約を結んでおり、こうした支援を受けて原因究明をするとともに、開発フェーズを走り抜く助言が得られるとよさそうだ。
そしていうまでもなく、最大のバックアップと懸念は「資金」だ。MOMO2号機のスポンサーとなったレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長は、記者会見で支援の継続に言及した。
4月の打ち上げの際のコメントでは、藤野社長は1号機の打ち上げ失敗という結果の後にスポンサードを決めたといい、ロケット開発のリスクを「チャレンジととらえている」と述べた。もちろん一社にとどまらず、宇宙産業育成の支援や初期顧客の確保などさまざまな形でのバックアップが必要だろう。
ISTは失敗データを活かして次に進める企業だと私は信じるが、「データを活かせた」かどうかは3号機が飛ばなければわからない。この正念場を乗り越えたISTのロケットが飛ぶ姿を見たいものだ。
(文・秋山文野)
秋山文野:IT実用書から宇宙開発までカバーする編集者/ライター。各国宇宙機関のレポートを読み込むことが日課。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、書籍『図解ビジネス情報源 入門から業界動向までひと目でわかる 宇宙ビジネス』(共著)など。