NBA「クリーブランド・キャバリアーズ」のオーナー、ダン・ギルバート氏。多数の企業を経営している。
Phil Long/AP
- ダン・ギルバート氏はビリオネアで、NBA「クリーブランド・キャバリアーズ」のオーナー、そしてアメリカ最大級の住宅ローン融資会社クイックン・ローンズの創業者。
- 20年ほど前、同氏は自社のカルチャーを記した「ISMs(イズムズ)」の最初のバージョンを書き上げた。今では、同氏の持株会社ロック・ベンチャーズ傘下の100社を超える企業で全従業員に配布されている。
- 「ISMs」は、自分の頭で考えて行動すること、迅速に動くこと、そしてイノベーションの大切さを強調している。
ダン・ギルバート(Dan Gilbert)氏は、帝国を築いている。
彼は、NBA「クリーブランド・キャバリアーズ」のオーナーとして公の場に登場することが多い。だが彼はまた、持株会社ロック・ベンチャーズ(Rock Ventures)の会長兼創業者としての顔も持つ。傘下の100社を超える企業には、キャバリアーズのほか、デトロイト中心部の再生に取り組む不動産会社ベッドロック(Bedrock)、そして彼に最初の大きな成功をもたらした住宅ローン融資会社クイックン・ローンズ(Quicken Loans)などがある。
20年ほど前、ギルバート氏はクイックン・ローンズの企業文化を定義づける行動原則を書き留めようと思い立った。その結果が「ISMs(イズムズ)」。ギルバート氏いわく“茶目っ気たっぷりの”文面だが、そこに記されているのは、もっと大きな経営に関するアイデアだ。
「実のところ、何をするべきかは重要ではない。物事は変化するし、新しい要素が加わる」と彼はBusiness Insiderのポッドキャスト「Success! How I Did It」で語った。
「大切なのは、我々がどんな人間であるか。それこそが意思決定、自らの行動、振る舞いの指針となる」
初めはわずかだったギルバート氏のISMsは、年月とともに数が増えていった。だが彼は、何も特別なものではなく、事業を成功させることについての普遍的な真実と思えるものばかりと語った。
「アインシュタインは相対性理論を発明していない。発見しただけ。「ISMs」も同じようなもの」
現在、ロック・ベンチャーズ傘下の企業の全従業員に、144ページ、19項目の行動原則からなる「ISMs」が配布されている。「ISMs」は、無味乾燥なビジネス書とは異なり、カラフルなイラストや、1950年代風のマンガをふんだんに使用している。序文によると、ISMsの文章はすべてギルバート氏の手によるもの。「本物感」を守るため、文法の間違いなどはあまり気にしないようにしている。
多少の文法的な間違いはあるかもしれない。だが、率直で、しばしば風変わりな語り口は、彼のeメールの文面そのまま。
「ISMs」の19の原則を見てみよう。
1. 認識レベルを常に上げる
顧客の声に真剣に耳を傾けることは、受け身ではなく、能動的なスキル。
2. 数インチはあらゆる場所に存在する
1つのことだけに抜きん出ていても、偉大な企業にはなれない。あらゆる細部においてライバルを上回らなくてはならない。それがギルバート氏の言う「数インチ」。
3. 素早い対応は勝負への参加手形
相手が顧客であれ同僚であれ、電話やメールをもらったら、その日のうちに返事をしなくてはならない。
4. すべての顧客をすべての時に。例外や言い訳はなし
「顧客は、我々がいかに顧客のことを気にかけているかなど気にしない。我々が顧客のことを気にかけていることを知るまで」とギルバート氏は記している。
5. より良い方法を見つけ出すことを常に意識する
ギルバート氏は、どんなことでも今より良い方法やアイデアを押しつぶす官僚主義を避ける方法を考えついたら、遠慮せず発言して欲しいと記している。
6. ノーの前にイエス
「これは、どんなアイデアや質問、提案もしくは助言も最終的には受け入れられるという意味ではない」とギルバート氏。だが、どんな考えも即座に否定すべきでない。
7. 雑音は無視
NBAチームのオーナーとして采配を振るうにせよ、デトロイト中心部の再開発に取り組むにせよ、大きな影響力を発揮するギルバート氏だけに何かと物議をかもすこともある。彼は、問題があれば修正する。だが、「否定ばかりする人たち」は無視すると述べている。従業員にも同じことを望んでいる。
8. 誰が正しいかではなく、何が正しいか
「よくある大企業の傲慢さなど、我々の会社にはびこる余地はない」とギルバート氏は述べている。
9. 仲間意識を持つ
社内のチームがたこつぼ化し、同僚が「他人」になることは有害とギルバート氏。あらゆるチームメンバーが、同じゴールを目指す、同じ企業の一員であることを意識しなくてはならない。
10. ローストをオーブンから取り出せ
完璧主義者はチャンスを逃すことになりかねない。時間とエネルギーの無駄。
11. 信じることが実現につながる
ギルバート氏は「ISMs」の中で、彼が1998年に全社宛てに送信したメールの文面を紹介している。感嘆符と大文字をふんだんに使ったメールで彼は、ロック・フィナンシャル(Rock Financial:クイックン・ローンズの旧社名)がこれから成功を収めるには、オンラインの住宅ローン融資会社としてトップに立つ必要があると宣言した。こうした長期ビジョンを掲げたからこそ、クイックン・ローンズはアメリカ最大級の住宅ローン融資会社になったとギルバート氏は考えている。
12. 答えはいずれ見つかる
これは、10番目の項目を補足するもの。すべてを完璧にするより、プロジェクトを前に進めることを重視することは、不安材料ではなく競争上の強みと考える。
13. 1秒1秒を大切に
「お金ではなく時間が、あらゆるものの中で最も貴重なもの」とギルバート氏は記している。
「時間は何よりも大切。多くの時間を、わずかなお金と引き換えにしてはならない」
14. 結果とお金は後からついてくる。先には来ない
自分のキャリアや会社の目標に取り組む際には、お金ではなく成長をモチベーションにする。そうすれば、結果的により大きな報酬や有利な条件を手にすることができる。
15. 1セントを惜しんでも、1セントにしかならない
投資する際は、大きな構想を描く。短期間に大きな金額を使うことをためらってはいけない。ギルバート氏は例として、300万ドル(約3億3000万円)を投じて、キャバリアーズの本拠地「クイックン・ローンズ・アリーナ」の客席を新しくし、チームの全体的な価値を高めたことをあげている。
16. 自社のドッグフードを食べよう
ギルバート氏は、ロック・ベンチャーズ傘下の企業に対して、互いを活用し、サポートし合うよう呼びかけている。つまり、ファミリー企業間で互いのサービスや製品を採用しようということ。そして、キャバリアーズを応援することも強く勧めている。
※このフレーズ「自社のドッグフードを食べよう(We eat our own dog food)」は、1980年代にマイクロソフトによって広められたもの。自分たちで試して製品を作る人、手抜きをして顧客を出し抜こうとしない人を意味する、面白いメタファー。
17. シンプルは最高
複雑さはクオリティを意味しない。実際は逆のことが多いとギルバート氏は主張している。仕事をやり遂げる、最も簡単で、簡潔な方法を見つけよう。
18. イノベーションは報われる。実行することは称賛される。
優れたアイデアと計画は成功に欠かせないが、プロセスの半分にすぎない。実行には、より多くの注意が必要になる。さもないと、どんなアイデアも計画も無意味になる。
19. 正しいことを行う
「確実な道は近道ではない。最も高いレベルの誠実さにこだわり、妥協してはならない」とギルバート氏は記している。
「正しいことを行えば、間違えるはずがない」
[原文:The billionaire owner of the Cleveland Cavaliers runs more than 100 companies according to 19 rules]
(翻訳、編集:増田隆幸)