次々暴かれる新証拠「北朝鮮に核ミサイル放棄の意思なし」ビクター・チャ元NSCアジア部長が指摘

4月の南北首脳会談や6月の米朝首脳会談で、「非核化」に合意したはずの北朝鮮。しかし、実際にはこの間も、北朝鮮が秘密裏に複数の核施設で核燃料を増産したり、ミサイル工場を拡張したりしているとの報道が相次いでいる。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、やはり本気で非核化するつもりはないのではないか。北朝鮮は決して核兵器を放棄せず、「微笑外交」でアメリカをだまそうとしているのではないか。アメリカの元政府高官や北朝鮮専門家らは、こうした疑惑を一層強めている。

若き指導者である金委員長が経済成長優先の長期的な国家方針の下、戦略的に非核化を決心したと信じていた人々にとっては、早速冷や水を浴びせられた格好だろう。

シンガポールでの米朝会談

6月12日の米朝首脳会談後、具体的な非核化のステップは未だに示されていない。

KCNA via REUTERS

核開発継続を示す「新証拠」

アメリカの大手メディアや研究機関はこのところ、北朝鮮の核ミサイル開発の継続を示す「新証拠」を次々と世に突きつけている。

ここ最近の動きを時系列的に述べてみたい。

まずワシントンのシンクタンク、スティムソン・センター傘下の北朝鮮分析サイト「38ノース」が6月26日、米朝首脳会談から9日後の21日に撮影された衛星写真に基づき、首都平壌(ピョンヤン)から北約90キロの寧辺(ニョンビョン)にある核施設のインフラ整備が急ピッチで進んでいるほか、ウラン濃縮工場の稼働も続いているとの分析結果を発表した。

具体的には、プルトニウム生産用の5メガワット原子炉の冷却システムの改修作業が完了した形跡がみられるほか、実験用軽水炉近くにも2つの新たな建築物が建てられたことが確認された。また、ウラン濃縮施設の屋根には、冷却ユニット6個から出る水蒸気によるシミができ、施設が今も稼働していることが分かった。

38ノースは「平壌から特別な指示が出るまで、北朝鮮の核施設では通常作業が続くとみられる」と分析し、金委員長がいまだ核施設停止の指示を出していない可能性を示している。

この寧辺のウラン濃縮施設をめぐっては、アメリカの核専門家、ジークフリード・ヘッカー博士が2010年に訪問し、北朝鮮側から遠心分離機2000基が稼働中との説明を受けている。

米メディアが相次いで報道

次に、アメリカのNBCテレビは6月29日、北朝鮮が過去数カ月間に複数の秘密施設で、兵器用核燃料となる高濃縮ウランを増産した、と複数のアメリカ情報機関が分析していると報じた。アメリカ当局者の1人が「北朝鮮がアメリカを欺こうとしていることを示す間違いなく明白な証拠がある」とも述べたという。

ワシントン・ポスト紙も6月30日、北朝鮮が核兵器の備蓄数と製造施設の一部をアメリカに秘匿しようとしている、とアメリカ情報機関が結論付けたと報じた。アメリカ情報当局の一部が、北朝鮮は約65発の核弾頭を保有すると推計するなか、北朝鮮側はそれよりも少ない数を申告する姿勢を示しているという。また同紙は、北朝鮮には寧辺の核施設の他に、「カンソン」と呼ばれる地域に秘密のウラン濃縮施設が存在する、と今年5月に続いて、再び報じた。寧辺の2倍のウラン濃縮能力を持つという。

このほか、7月1日にはウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙がカリフォルニア州モントレーにある米ミドルベリー国際大学院(MIIS)の衛星画像の分析結果を報道。それによると、北朝鮮が同国東部の沿岸都市、咸興(ハムフン)にある弾道ミサイル製造拠点の大幅な拡張工事を完了させつつあるという。

「化学材料研究所」と呼ばれるこの製造施設では、固体燃料ロケットエンジンや、固体燃料を使用するミサイルのノズルや胴体部分、弾頭部を製造している。新しい建物の大部分は、南北首脳会談後の5月から6月にかけて建築工事が行われたという。

新システムと大量生産に移行中

2018年2月北朝鮮軍創設70周年パレードで披露された大陸弾道ミサイル

ミサイル開発についても、諦めていないという新証拠が報じられている。

KCNA/via REUTERS

固体燃料を使ったミサイルは、液体燃料のミサイルよりも移動が容易で、発射準備にかかる時間も大幅に短縮される。液体燃料に比べて気温に左右されず、管理しやすくもなる。北朝鮮は、ノドンやムスダンなどの液体燃料を使う弾道ミサイルを「火星」、固体燃料を使う潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)とその地上配備型を「北極星」とそれぞれ呼んでいる。

北朝鮮の最近の動向について、ミドルベリー国際大学院モントレー校の東アジア核不拡散プログラム部長のジェフリー・ルイス氏は筆者の取材に対し、「金正恩は軍備縮小を一度たりとも差し出していない」「軍備を縮小するどころか現在も拡張している」と警鐘を鳴らした。

さらに、「全般的に、北朝鮮は新システムの開発から大量生産に移行中だ。金正恩は一部の施設を閉鎖したり、核ミサイル実験を控えたりして低姿勢を取る一方、核兵器と長距離ミサイルの保有を増やす戦略を採っているとみられる」と指摘した。

報道否定しないトランプ大統領

トランプ大統領は6月12日の米朝首脳会談直後のシンガポールでの記者会見で、金正恩委員長が非核化の合意を実行することを「本当に信じている」と述べた。翌13日にも「北朝鮮の核の脅威はもうない」とツイートした。

このため、自らの立場や主張の正当性を訴えるために、北朝鮮による核兵器の秘匿や増産をめぐる一連のアメリカメディアの報道について、これまで通りに「フェイクニュースだ!」「情報をリークした者を探し出す!」とツイッターで言い散らす可能性もないわけではなかった。

トランプ大統領はこの一連の報道後、Twitterに、「北朝鮮との対話はうまくいっている。これまで、8カ月もの間、ミサイルの発射や核実験は行われていない」などと投稿し、非核化に向けた協議が順調に進んでいることを強調した。

しかし、報道内容については否定していない。

このことが意味するのは、トランプ大統領の容認の下、北に対し、完全なる非核化を要求するために、情報当局があえて北にとって「不都合な真実」をメディアに意図的に流しているとみられる。特にポンペイオ国務長官の訪朝前に情報をリークし、北に圧力を与えつつ、交渉を有利に持っていこうとする狙いがあったはずだ。

当局からのリーク以外に考えられない理由として、NBCは情報源として、異例の10人以上の匿名の情報当局者数を挙げている。また、NBCもワシントン・ポストも「情報当局者の要請に基づき、詳細は控える」とわざわざ断りの一文まで載せていることがある。

米当局からリークを受ける代わりに、北朝鮮国内に潜んで人的情報(ヒューミント)を米当局に伝えるスパイなど情報源も守る配慮がなされたとみられる。

では、今後の米朝交渉の先行きや、北の非核化の行方はどうなるのか。

「8月までに何らかの進展必要」

アメリカの次期駐韓大使候補とされた人事を、決定直前の1月に撤回されたビクター・チャ元米国家安全保障会議(NSC)アジア部長は筆者の取材に対し、次のように述べた。

「私たちは、北朝鮮をめぐるお馴染みのパターンを目にしている。つまり、今回もそうだが、非核化に関するポジティブな声明が出されて、希望にあふれる。しかし、実際は物事が違った方向に進む。結局、私たちの希望は地に落ちることになる。北朝鮮は、核ミサイル開発を完全に放棄する意図は有していない」

シンガポールでのべ米朝首脳会談。

米朝首脳会談にも出席したポンペオ国務長官(右)が、今後の非核化交渉の矢面に立つ。

REUTERS/Jonathan Ernst

ポンペイオ国務長官の訪朝については、「現在の状況は、ポンペイオに多大なプレッシャーを与えることになる。北朝鮮での3度目の会談で、何か実のあることを得なければならないからだ。シンガポールではタイムスケジュールが打ち出されなかったが、8月までには何らかの進展が必要になる。

なぜなら、8月はシンガポールでの合意の一環として中止された米韓合同軍事演習『ウルチ・フリーダム・ガーディアン』(UFG)がもともと行われる時期だからだ。政治的にシンガポール会談後に、非核化のステップが取られていないことは、非常に印象が悪い」と述べた。

さらに「ポンペイオと彼のチームは身を粉にして働いてきた。北朝鮮とはかねてから交渉してきた良いチームなだけに、北朝鮮の手玉には取られないだろう。しかし、これは簡単なことではない。まず最も重要なことは、北朝鮮が自らの核ミサイルの在庫を、完全かつ検証可能な形で申告する意思を見せることだ」と述べた。

北朝鮮は、秘密の核施設や核兵器を含め、どこまで自らの核ミサイル計画を開示し、申告をするのか。あるいは、アメリカを欺き、あくまで騙し合いで隠し通そうとするのか。米朝交渉の成否がそこにかかっている。

(文・高橋浩祐 )

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