玉ちゃんによると、「会員制は会員制にあらず」という。迷惑をかける客の入店を断るために、「会員制」を掲げている店もあるようだ。
赤坂の飲食店が建ち並ぶビルの地下1階。「会員制」と書かれたスナックの前に立つ。扉は重たい。しかし、いったんドアを開ければ、たちまち自分は即興ドラマの一員になれる。
数年前からスナックに注目が集まり、デビューをしたい人も増えているが、とはいえあの重い扉を開けるのは勇気がいるもの。
そこでBusiness Insider Japanは、初心者向けのスナック講座を企画した。講座の中で登場した数々の名言とともに、デビューの心得を紹介したい。
ぬるめの半身浴の混浴状態
「初めてスナックに来たという人は?」。多くの参加者が手を挙げた。左はオーナーの玉ちゃん、右はスナックライターの五十嵐真由子さん。
6月30日、場所は東京・赤坂の「スナック玉ちゃん」。土曜日の夕方、多くの店は定休日で、地下の飲食店街は薄暗い。
しかし、玉ちゃんは違った。店内を覗けば、冷房を全開にしても、店内は熱気が充満し、“夏フェス”のようだ。小さな地下の空間で、まさか、そんなエンタメが繰り広げられているとは、誰が想像するだろうか。
「ぬるめの半身浴の混浴状態」
オーナーの玉ちゃん(玉袋筋太郎さん)は所属や立場に関係なく、客が同席するスナックをこう表現する。そして、スナックは「毎日がパレード」だと。玉ちゃんとコンビを組んだ“スナックライター”の五十嵐真由子さんは、「スナックの魅力は、ママやマスターだけでなく、自分たちで一体感を作っていく参加型であること」と賛同。それを象徴するかのように、最近のエピソードを紹介した。
スナックはスピンオフ、キャラクターの宝庫
五十嵐さんは「スナック入門教科書」を作成。会場で配布するも、盛り上がりすぎて、ページを開かないことも、しばしば。
五十嵐さん(以下、五十嵐):この前、立石のスナックに行ったんです。カラオケの点数に応じて、景品がもらえる。家庭用洗剤、ゴミ袋、カップラーメン、生活に根付いた商品です。それを目当てに、大先輩のおじいちゃんたちがカラオケを熱唱する。
「久々に若いのが来た」と笑顔で握手した後、カバンから手作りの巾着を出されて、『これは名刺代わり、プレゼント!』と。昔ながらの心温まるコミュニケーションを体感しました。
玉ちゃん:今の話を聞いただけで、もうハートウォーミングだもん。なんか行ってみたいな、とイマジネーションが膨らむわけよ。全国にスナックは7万軒。まだ、その扉を開けていなければ、これから7万のストーリーを楽しめることになる。こんなのドラマのシーズンいくつまであると思う?。スナックは、そこら中でスピンオフだから。毎日、いろんなキャラクターがいる。
料金は空き瓶とバイトの時給を見よ
スナック玉ちゃんのママ、沙那さん。
五十嵐:さて、スナックに行ったことのない初心者が一番気になるのは料金。ちなみに、スナック玉ちゃんの料金体系は?
玉ちゃん:うちは明瞭会計で、男性は7000円、女性は4000円で飲み放題、歌い放題。明確に出さないと。
(スナックが全国で最多の)宮崎県の「ニシタチ」という飲屋街は、すごいんだ。狭い200メートルくらいのところに1500店あって、店の外に従業員の写真と料金を出している。今は「価格.com」世代だから、価格が欲しいんだ。ネットで調べて、最低料金を抑えてくるから。
五十嵐:最近は飲み放題&歌い放題などのセット料金が主流ですね。料金がわからないときは、扉を開けたらすぐに聞きます。今日は3000円しか持っていないんですが、何とかなりませんか、とか。料金交渉もコミュニケーションの一つ。
玉ちゃん:料金が分からないときは、店の外にある空のボトルを見るんですよ。「山崎」だったら高いなとか。あとは、アルバイト募集の時給を逆算するの。だいたい時給の3.5倍で飲めるから。
とにかくスナックは高齢化が進んでるから。若いだけで歓迎される。ママが80歳、アルバイトが70歳のあるスナックに俺が48歳の時に行ったけど、Hey!Say!JUMP扱いだからね。「若いのが来た!御利益御利益」って。
巣鴨のカラオケは「米米」が最先端
スナックや仕事の飲み会で付いて回るカラオケ。他の人の歌にも拍手をしよう。
スナックについて回るのが、カラオケ。
玉ちゃん:履歴を見て、ここは常連客が何を歌っているか、確認する。カラオケ世代(*)は、いきなりEXILEとか歌っちゃってさ。ダメダメ。徐々に(ノリを)上げていけばいいでしょう。常連客の年代に合わせて、歌うのがいいですね。
巣鴨のスナックに夏場に一人で行ったら、みんな80代。そこに社長と若い社員のグループがいて、みんな自分の歌を歌っちゃてる。今、流行りの米米クラブとか。
参加者たち:米米クラブは、ちょっと今では……。
玉ちゃん:巣鴨では最先端なのよ。おじいちゃん、おばあちゃんたちは『何だ、この洋楽は?』ってポカンだよ。そこで、俺はラジオドラマ曲の「鐘の鳴る丘」を入れたの。そうしたらさ、わーっと(店内が湧いて)。
カラオケ世代:カラオケを覚えたのが、スナックではなく、カラオケボックスの世代。
玉ちゃん:あとね、スナックでは人が歌ったら、拍手ね。以前、初めて入ったスナックで、常連さんが歌っていて、『トッポイ野郎が来やがったな』って、最初は全員敵よ。だけど、常連さんが歌ったときに、拍手をしたりすると、『こいつは敵じゃない』と見てくれる。トイレに行くときも、拍手をしながら、行く。これがテクニック、サバイブ術。
ダクトの匂い、音にヒント
細かいテクニック披露する玉ちゃんに会場爆笑。
店の選び方も不安が付きまとう。
玉ちゃん:細いテクニックを披露したら、もう大変ですよ。ダクトから音を聞く、ビブラートを聞く、匂いを嗅ぐとか。『ああ、焼うどんを作っているな』とか。
マライアキャリーを流暢な英語で歌っている、テレサテンを原曲で歌っていると、外国人がいるなと。
そこらじゅうに面白いものがあるのよ。スナックはロールプレイングゲームだから。ファイファン、モンハン世代(ファイナルファンタジー、モンスターハンター世代)も最高だよ、いろんなキャラクターがスナックで出てくるから。価格.com世代もぐるなび世代も、自分の鼻を聞かせて、五感を研ぎ澄ませて、店を選んでほしい。
こちらはイベントの第1部の原稿です。第2部では、スタートアップの社長と玉ちゃんの対談をお送りします。なぜ、急成長企業の社長がスナックに登壇するのでしょうか。
(文、撮影・木許はるみ)