世界最大ビールメーカーが攻略する “失われた20年” —— ミレニアル狙う新たなビールの価値

AB InBev

ベルギーにあるAB InBevの本社ビル。

REUTERS/Francois Lenoir

過去20年で合併と買収を繰り返し、世界最大のビールメーカーとなったアンハイザー・ブッシュ・インベブ(Anheuser-Busch InBev)。鈍化する世界のビール需要を背景に市場環境の厳しさが増す中、ベルギーに本社を置くAB InBevは日本でミレニアル世代(一般的に1981年〜1996年の間に生まれた世代)をターゲットに据え、ビールの新たな価値を作る取り組みを強化している。

ミレニアル世代の顧客ベースを拡大しようと、同社がマーケティングを強化するプレミアムビールは、ラガービールの「コロナ・エキストラ(Corona Extra)」、オレンジピールとコリアンダーシードがスパイシーなアクセントを与えるホワイトビールの「ヒューガルデン(HOEGAARDEN)」、アメリカ・シカゴ生まれのクラフトビール「グースアイランド(GOOSE ISLAND)」だ。

バブル経済の泡が弾け、1990年初頭に始まった経済の低迷期「失われた20年(30年になろうとしている)」とともに、「とりあえずビール」の時代は終わった。日本のビール類の年間出荷量は13年連続で過去最低を更新。国内メーカーのアサヒ、キリン、サントリー、サッポロが縮む市場で競い合う中、AB InBevは進める戦略で国内のビール離れを止めることができるのか。

「『とりあえずビール文化』が崩壊した今、まずは20代、30代のビール体験を増やすことが大切。同時に、ビールそれぞれの個性を理解してもらい、ビールから離れていった人たちをもう一度引き寄せていきたい」と話すのは、AB InBev Japanで「コロナ」と「ヒューガルデン」を担当するブランドマネジャーの福田真美氏。

「ビアアート」でヒューガルデンの存在感

戦略の一つで、カフェのバリスタが描く「ラテアート」を模した「ビアアート」は、いかにもインスタグラム上で映える投稿機会の増加が期待される。AB InBev Japanは7月20日から約1カ月間、東京・渋谷で「Hoegaarden BEER GAARDEN(ヒューガルデン・ビアガーデン)」を開き、「ビアアート」を披露する。

ヒューガルデンのビールアート

ヒューガルデンの泡の上に描かれるビアアート。

AB InBev

東京都内ではある程度の認知率を獲得しているヒューガルデンだが、AB InBev Japanは全国的にこの歴史あるベルギーのホワイトビールの存在感を強めていくという。ヒューガルデンの食べ物との相性の良さを生かし、福田氏はユニークなフードペアリングのアイデアも積極的に提案していきたいと話す。

一方、ボトルにライムを挿して、暑い夏の日にゴクゴク飲める、さっぱりとしたビールの印象を強めたメキシコ生まれの「コロナ・エキストラ」。AB InBev Japanは7月、2日間にわたり沖縄でビーチフェスティバルを開き、コロナと音楽とビーチの相性の良さを見せつけた。同社が世界各国で開催している「CORONA SUNSETS FESTIVAL」の一環だ。

AB InBevは、コロナのブランドメッセージに「THIS IS LIVING(これが人生だ、これが生きることだ)」を掲げ、ミレニアル世代が日常の喧騒から離れ、仲間と一緒に過ごす時間にコロナが登場するイメージを作り上げた。

沈静化するクラフトブーム

コロナ・エキストラ

メキシコのレストランで販売されるコロナ・エキストラビール。

REUTERS/Henry Romero

大手ビールメーカーが醸造、販売するビールのほぼ全ては「ピルスナー」と呼ばれ、黄金色のホップの苦味を特徴とするビールだ。そのピルスナービールの沈みゆく需要とは対照的に、市場の規模は小さいもののその人気を収めているのが、職人が小規模なビール醸造所で造るクラフトビール。AB InBevも当然、この国内市場に自慢のクラフト「GOOSE ISLAND(グースアイランド)」を投入している。

クラフトビールはニューヨークのバーやレストランでは当たり前のようにメニューに載るが、「日本でもクラフトは若い世代のライフスタイルの一つになりつつあると思う」と、AB InBev Japanでグースアイランドのブランドマネジャーを務める平松直子氏は言う。「日本のクラフトビール市場は、アメリカのそれよりも10年ほど遅れていると感じる。クラフトはその存在力をこれからもっと強めていくと思う」と加えた。

グースアイランド

アメリカ・シカゴ生まれのクラフトビール「GOOSE ISLAND(グースアイランド)」

AB InBev Japan

一方、東京商工リサーチの調査によると、全国の主要地ビール(クラフトビール)メーカーの出荷量は2017年1〜8月、前年同期比0.7%減少した。調査レポートは、国内の地ビール需要は着実にすそ野を広げていて、大手ビールメーカー各社も地ビール、クラフトビールメーカーと資本や業務の提携を加速させる動きが活発化していると述べるが、ブームが沈静化する兆候にも触れている。

東京商工リサーチは2010年に地ビールの調査を開始したが、出荷量が前年同期を下回ったのは初めてだという。調査レポートでは、減少理由の一つとして夏場の天候不順をあげている。

キリンが2017年12月にまとめた世界のビール総消費量は2016年、前年から0.6%減少し約1億8,689万キロリットルで、前年に続きマイナスとなった。世界最大のビール市場である中国の需要が大幅に減る一方、2位のマーケットのアメリカが2年ぶりにプラスに転じたという。日本は前年比2.4%減り、10年連続で世界7位だった。

2018年7月18日、岐阜県多治見市で気温が40.7度を記録し、今年の全国最高気温になった。気象庁によると、国内で40度を超えたのは高知県四万十市で41.0度を記録した2013年8月以来だという。この猛暑の中で、国内のビール市場でもし烈な競争が続く。

世界最大のビールメーカーのAB InBevは、「とりあえずビール」時代の終わりに、少子高齢化が続く日本で「迷わずビール」の新時代を作ることができるのか。ビール市場での熱い戦いは続きそうだ。

(文・佐藤茂)

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