ライドシェア「食わず嫌い」でガラパゴス化する日本——ミッション理解度が生む未来の格差

リフトのラッピングカー

ニューヨーク・マンハッタンの14丁目を走り抜けるリフトのラッピングカー。ユーザー増加率はウーバーを上回る。

Shutterstock

国土交通政策研究所が6月末、ライドシェアに関する国際的な動きを調査・分析した報告書を発表した。2017年の欧米調査に続き、東アジアや東南アジアを対象としたものだ。こうした最新情報の集積によって、日本でのライドシェアサービスの普及が1日でも早く進展することを願いたい。

ただ、現状について言うなら、日本がこの分野で「ガラパゴス化」へと向かっていることを、筆者は心から憂えている。例えば、いまだに「ライドシェア=白タク(営業許可を受けず、一般人が自家用車を使ってタクシー業務を行うこと)」という誤解する向きが少なくない。

しかし、それはライドシェアの本質を根本から見誤った考えだ。

ライドシェア企業はテクノロジー企業であり、「ビッグデータ×人工知能(AI)」企業だとみなすべきである。さらには、都市デザインを変革するという高い使命感を掲げており、最終的に次世代自動車産業をリードする可能性が高いとさえ目されている。

ライドシェアのプラットフォームを運営する企業には、トッププレーヤーの米ウーバーをはじめ、米リフト、中国の滴滴出行などがあるが、本稿ではあえて二番手のリフトを取り上げ、同社の「ミッション」に着目してみたい。それは日本がライドシェアの本質を理解し、導入を急ぐべき理由を教えてくれるからだ。

「都市デザインを変革する」ライドシェア

リフトのジョン・ジマー

リフトの共同創業者であるジョン・ジマー。2025年までにアメリカの主要都市でクルマの所有は終わりを告げると指摘している。

REUTERS/Mike Blake

リフトは2012年、サンフランシスコで創業した。現在はアメリカの約300の都市で展開している。市場シェアではウーバーに大差をつけられているが、ユーザーの増加率ではリフトが上回る

ウーバーとの違いは、早い段階から規制当局や自動車産業との協調路線をとっていることだ。

海外展開をする際には、地域ごとに最大手と提携。中国では滴滴出行、インドではオラ、東南アジアではグラブと提携することでウーバーに対抗。楽天やアリババなどから2000億円以上を調達し、2016年には米ゼネラル・モーターズ(GM)から約550億円の出資を受け、GMが格安でリフトの運転手にクルマを貸し出すサービスを始めている。

ウーバーとの最大の違いは、経営者たちの使命感にある。彼らの言葉からは、リフトは都市デザインを変革する企業である、社会問題を解決する企業であるとの信念が伝わってくる。

例えば、第三次交通革命により、クルマ中心から人間中心の都市デザインへの移行するとリフトは謳う。交通量が少なく、汚染がなく、不要となった駐車スペースが緑地や公園、住宅や企業に生まれ変わる世界。そこでは、ライドシェアは飛行機や鉄道、バスなどの公共交通と融合する。その世界でネットワークを担うのがリフトである、と同社は強調する。

リフトのミッションステートメントには、「トランスポーテーションによって人々をもう一度結びつけ、地域を一つにつなげていく」と書かれている。社内外の人たちを鼓舞し、新たな価値提供をリフトに期待したくなるものではないだろうか。

自動運転の普及はライドシェアから始まる

リフトアプリ

ライドシェアビジネスの特性は、アプリを使った決済やSNSによるドライバー評価のシステムだ。取引に使われるクレジット・テック(与信情報の新たなテクノロジー)も注目される。

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リフトは最近、自動運転技術に関する提携を複数締結したことでも注目された。提携相手は、フォード、ジャガー・ランドローバー、ウェイモなど。中でも、グーグルの自動運転車子会社ウェイモとの提携は、「ウェイモが提携相手をウーバーからリフトへ乗り換えた」という側面もあり、話題となった。優れたサービスを提供することで都市交通の改善を目指す、というリフトのビジョンに後押しされての判断とされる。

自動運転の社会実装を進め、市場を拡大していくためには、高コストを高い稼働率で吸収できるライドシェアから入るのが定石だと考えられている。

完全自動運転車が完成しても、高価格がネックとなり、一般利用者は「すぐ買おう」と思うほどのインセンティブが働かない可能性がある。

しかし、ライドシェア事業者はすぐにでも完全自動運転車を導入しようとするだろう。というのも、「自動運転×ライドシェア」が実現すれば、運転手にかかる人件費が不要になるからだ。利用者が増える時間帯でのドライバー不足、車両不足の解決にもつながるだろう。

ミッションは「目の前の仕事の中」にある

リフトの就職相談会ブース

ロサンジェルスで開催されたテックフェアにて、リフトの就職相談ブース。同社のミッションステートメントに惹かれる学生たちをはじめ支持者は多く、最大手ウーバーとの差は狭まりつつある。

REUTERS/Monica Almeida

ライドシェアを通じた自動運転の普及、さらにはクルマ中心から人間中心の都市デザインへ。交通にとどまらず、街がどうなるか、そこに住む人たちがどう暮らしていくかを射程に入れた、リフトやその経営者たちの「ミッション」に共感を覚える方も多いのではないか。

日本人がライドシェアを「白タク」などと誤解するのは、そうしたミッションの意味や重要性に目を向けてこなかったことがあるかもしれない。あるいは、日本人はミッションを遠い未来の遠い場所にあるものと考えがちだからかもしれない。

しかしミッションとは、将来の夢や生きる目標を意味するビジョンとは異なり、「存在意義」や「自分が生まれてきた意味」あるいは「生きる目的」であり、「今ここ」に存在しているものである。リフトの経営者のような「特定の人が持つ、特別なもの」ではなく、誰もが持っていて、それぞれの目の前の仕事の中にあるものだ。

ただし、そうした自分の中にあるミッション、目の前の仕事の中にあるミッションに気が付いている人は少ない。

ミッションを理解すれば、世界の変化が見えてくる

近著『「ミッション」は武器になる』では、筆者が立教大学ビジネススクールでも使っているアメリカのギャラップ社の人材開発プログラム「ストレングス・ファインダー」や、その活用のために筆者がギャラップ社で受講してきた「上級ストレングス・コーチング講座」の知見などを用いて、我々がそれぞれのミッションを見つけ出すための道筋を明らかにした。

同書には、メガネチェーンD社に勤務する入社3年目の佐藤良夫さん(仮名)という男性が登場する。高校卒業後に2年間浪人してM大学経済学部に入学。学生時代はつけ麺屋のバイトに終始し、就職活動は当初、食品業界を志望していたが、結局メガネ店のチェーンに入社したという、一般のビジネスパーソンだ。

この佐藤さんが、筆者の紹介するいくつかのステップを経て、「視力が悪い人でも、仕事、スポーツ、趣味それぞれのシーンに合わせて微妙にピントが合うメガネがあったら、世界はもっとよくなる」という世界観へとたどり着くプロセスを事細かに記した。ミッションは誰もが持っているものであることをご理解いただけるのではないかと思う。

テクノロジーの進化によって、時代は大きく動こうとしている。日本のガラパゴス化が懸念されるライドシェアの分野でも、自らのミッションを信じる経営者たちが、交通、都市、そして世界を変えようとしている。今こそ自分のミッションと向き合い、世界でそれぞれのミッションと向き合う人々に目を向けることで、世界がどんな人々の手で、どんな風に変わろうとしているのかが、はっきりと見えてくるのではないか。


田中道昭(たなか・みちあき):立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。専門は企業戦略、ミッション・マネジメント等。三菱UFJ銀行、シティバンク、バンクオブアメリカ証券会社等に勤務。主な著書に『「ミッション」は武器になる』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など。

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