【独占】経産大臣が檄を飛ばす官僚働き方改革。ペーパーレス、国会対応前倒し、テレワーク…やれば徹夜はなくせる

国家公務員の副業・兼業や、残業上限規制の検討など、働き方の見直しがようやく本格化してきた霞が関だが、官僚たちは国会に有事にと、昼夜を問わない激務で知られてきた。

そんな中でも、国会答弁案づくりの締め切りを前日夜にしたり、テレワークを導入したりと、先駆けて変革を進める省庁がある。世耕弘成経済産業相の率いる経産省だ。2017年には、若手官僚による経産省ペーパーがネット上で注目を浴びるなど、地殻変動を感じさせる省内で、何が起きているのか。世耕経産相を直撃した。

参考記事:経産省ペーパー作成の若手官僚を直撃——なぜ彼らは結論部分を削除したのか

世耕経産相

霞が関の残業の最大の原因とされる、国会対応にメスを入れた、世耕弘成経済産業相。

・深夜まで及んでいた大臣のための国会答弁書の準備を、前日午後10時半までに終えることを徹底。
・全部局で過去の国会答弁を電子データベース化。外出先でも端末から答弁を確認できるようにした。
・夏場は朝早くから働き始め、明るい夕方のうちに仕事を終わらせる「ゆう活」の推進。
・100%ペーパーレス化。
・月に1回、テレワークの実施を推奨。
(経産省で取り組む主な働き方の見直しの事例)

大臣にもっと起きていろと?

——国会答弁案のセットを前日夜に終えているとは、これまでの霞が関のやり方を思うと衝撃です。きっかけはどんなことですか。

(経産相就任前から国会答弁案の作成は)ものすごく非効率的な作業だとは聞いていましたが、聞きしに勝るものでした。職員は明け方までかかって答弁案を作り、大臣は午前5時に出てきて(答弁案を読み込む)勉強会をやっている。これはちょっとひどいな、と思ったのがきっかけです。

その一方で毎週2回、閣議後の午前9時くらいから(経産省担当記者との)定例記者会見があります。ここではその日の朝、新聞やテレビのニュースが主な話題となるのですが、こちらの答弁は1〜2時間で作っている。国会答弁もやる気になれば、短くできるのでは、と考えました。

——どうやって実現できているのでしょうか。

これはまず、大臣が強い意思を持って一定の時間に終わらせることです。答弁案のサーバーアップは午後11時。完成させるのは午後10時半にしようと決めました。そうすれば職員はみんな、ちゃんと電車で帰れるわけです。私は夜には酒席があります。平均して帰宅は午後10時や10時半です。そこから勉強するのに合わせて、午後11時が締め切りです。

「党によっては(議員から省庁への)質問通告が午後10時近くになる」など、省内からはいろいろな声が出ましたよ。でも、記者会見の想定問答は1〜2時間で作れるんだから、できるでしょう、と。

そもそも質問通告が来てから作っているのがおかしい。法律ができた段階で、想定問答も考えておくべきです。あるいは、それぞれの国会議員は今時、SNSで発信しているんだから、だいたい問題意識わかるでしょう。ヤマをかけて準備しておけばいい。だから午後11時は絶対ライン。これを超えるということは、僕にもっと遅くまで起きていろということになるよ、という話を職員に対してしました

経済産業省

昼夜を問わず働き続けることから「不夜城」と呼ばれてきた霞が関。

Getty Images / STRINGER Japan

——スムーズにいきましたか。

最初のうちは(午後10時半のセット締め切りに対して)大幅に時間オーバーの局が出ました。翌朝一番で、雷を落とした。すると局長と官房長が、なぜ遅れたかというのを説明に来る……。

というのを1〜2回やったら、もう省内、激震が走って(笑)。それ以来、午後11時を超えたことは1回もない。

大臣が締め切りを示したことで、省内では「間に合わせるには、どうしたらいいのか」という議論が起きました。

部局によっては、想定問答を作るのに慣れていないところもある。そこには(大臣の想定問答づくりに慣れている)大臣官房が入って、遊撃隊として一緒に作っていくという、やり方が生まれました。

——答弁案の締め切りひとつで、働き方そのものが変わっていますね。

締め切り時間を守る話ではあるのですが、つまりは、ビジネスプロセス・リエンジニアリング(業務改革)が省内で起こったということです。徹夜が当たり前という作業でも業務改革をしっかりやれば、時間は短縮できる。その日のうちに帰れるのです。そのぶん私は、夜に予習する。わからないところやデータ補強したい部分についてだけ、(大臣)秘書官にその日のうちか、翌朝一番で連絡する。

答弁当日は午前9時スタートですが、コメントしたことだけを勉強すればいいので、8時20分に登庁しています。3〜5問ですから間に合います。全体通しての早朝の勉強会は、ほぼない。大臣によっては(答弁に立つ日は)午前4時台からという人もいますからね。

紙の資料には嫌味

世耕大臣

「紙の資料を持って来るとは、勇気あるね」と、嫌味も飛び出すというペーパーレス主義。

——アプリを導入して、出先の端末で国会答弁案の確認もできるようになっています。

テレワークのための環境整備は、民間では当たり前のようにありますが、霞が関ではできていなかった。そこでセキュアな環境で、タブレットからアクセスできて、ファイルサーバーで資料が見られるようにしました。家や出張先、移動先でも、資料を見ながら仕事ができます。

ペーパーレスも実行しています。資料を見るのは完全にタブレットです。紙の資料を持って、私に説明に来る人には「紙を持って来るなんてすごい勇気あるねー」と、嫌味を言いますよ。

それでも上の世代で人によっては「大臣、これは機密ですから紙で」と持って来る。紙の方が危ないわけですよ。デジタルなら暗号化もできる、パスワードをかけて、誰が読んだかの管理もできるし、絶対安全なのに。

——ご自身も、月に1回のテレワークデーをされています。

普段は(職員から政策に関する)レクチャーを、大臣室で受けていますが、テレワークが非常にいいのは、生産性が高まることです。

電話会議形式なので、ワイヤレスヘッドフォンを耳に突っ込んでハンズフリーでレクを受けながら、静かな環境で集中して聞ける。資料がかっこよくても中身がないと、わかるのが大きいですね(笑)。

笑い話でよく言うのですが、レクは(対面だと)相手の性格の影響を受けている。乗り出して圧迫的にくる人には「そうかな」となってしまうし、いいこと言っているのに、もじもじする人には「えー。ちょっとこれ詰まってないんじゃないの。もう1回やり直し」みたいになってしまう(笑)。

テレワークだとそこのバイアスがなくなるので、書類の上にのしかかって説明してくる人がいても、通用しないわけです。

焼き鳥屋でおじさんの話を聞こう

——下積みを敬遠する若年層は多いですが、年功序列や残業の多いイメージの霞が関に、今後も人材は集まるのでしょうか。

まず、ここ(経産省)に来る人は、収入の多寡は考えていない。国のために、国民のために仕事したいから来る人がほとんど。やりがいは日本一ある。その上で、20代前半や中盤は下積みもある程度、いるなと考えています。これはどの業界でも同じですよ。

下積みと言っても賽の河原の石積みではなくて、学ぶことでもっといい仕事ができるのであれば、みんな納得するでしょう。官僚の世界で言うと、法律論の基礎ができていないと、次もろくな仕事ができない。下積みに耐えるのは、それがあるからです。一方で、意味のないことは駆逐していかなければならない。国会待機こそ意味がないと思っているので、何としてもなくしたいのです。

残業に関しては、国家公務員は労働基準法の適用がない世界でだらだらしている面がある。国会答弁だって、徹夜だったものが前日にできたのです。早く帰れる環境をもっともっと整えたい。官僚は霞が関と自宅の往復で暮らしているのは、よくない。街を歩いてその空気を感じるとか、新橋の焼き鳥屋で隣のおじさんの話を聞くとかしないとダメですよ。

(文・滝川麻衣子、写真・西山里緒)

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