おっさん叩きはアリかナシか。おっさんの本質とは。NewsPicks「さよなら、おっさん」問題徹底検証

6月26日、オンライン経済メディアのニューズピックスが、日本経済新聞に「さよなら、おっさん」と題した広告を掲載し、大きな反響を呼んだ。

しかしそもそも、「おっさん」とはなにか?「さよなら、おっさん」問題に見る、日本社会の課題とは?ニューズピックスのプロピッカー1期生同士である産業医の大室正志氏、元ミクシィ社長でシニフィアン共同代表の朝倉祐介氏、そしてBusiness Insider Japan統括編集長の浜田敬子が語った。

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満員電車

おっさんとは「アップデートしない人」「審査されない人」のこと。

Shutterstock / Matej Kastelic

今ならギリギリ許される「おっさん」叩き

浜田:先週非常に話題になったニューズピックスの「さよなら、おっさん」企画。想像以上に反論もあって驚きました。そこで勝手にアンサー企画として、そもそも「おっさんとは何か」っていうのを私たちも考えたいなと思いました。

大室:総評でいうと、7:3で禁じ手だったかなと(笑)。ポリティカル・コレクトネスにこれだけ敏感な時代に、なぜか「おっさん」にだけはちょっとゆるいんですよね。

多分社会的に一応強者側にいると思われている「おっさん」だけは多少いじってもOKというゆるやかなコンセンサスがあるからなんでしょうが。

大室正志

「ポリティカル・コレクトネスにこれだけ敏感な時代に、なぜか『おっさん』にだけはちょっとゆるい」(大室氏)

写真:西山里緒

僕の友人に「インスタおじさん」がいて、沖縄に行って、おじさんが1人たたずんで「#沖縄」「#快晴」「#日頃の行い」ってインスタにあげているわけですよ。

その友人のハッシュタグを見た時に、「おっさんのくせに、何やってんだこいつ」と思ったんですけど、でもハッとして。この「おっさん」という言葉を他の言葉に置き換えたら全部アウトだろうと。例えば「おばさんのくせに」とか。

だから7:3で禁じ手だったんだけれども、やるなら一応世間が「おっさん」をイジることをギリギリ許容している今くらいまでだったかなと。5年後だったら正直微妙だったかと思います。

朝倉:伝えていることは去年の「日本3.0」と言っていた時から変わらないですよね。言葉遣いひとつの問題だと思います。随分攻めた物言いをしたなとは思いましたけれど。

客観的に見ると、僕らも30代、40代のおっさん。ですが、ニューズピックスは「おっさん」というのは年代、性別に関係ないと独自の定義づけをしていました。でも普通、そこまでみんな丁寧に読んではくれません。

大室:もう少し翻訳すると、本当は「さよなら、既得権益」ですよね。既得権益=おっさんと。でも「さよなら、既得権益」とか「さよなら、ホモソーシャル社会」といったら、エッジが立ってない。

属性に当てはめることは禁じ手だとは思うんですけれど、言わんとしてることは内容としては分かると。

ミレニアル世代は既存勢力を批判しない

新宿

若者は既得権益に対し叩きつけるようなやり方を良しとしない?

Shutterstock / MAHATHIR MOHD YASIN

大室:実は若い世代というのは、そもそも既得権益に対し叩きつけるような手法自体をあまり良しとしなかったりもしますよね

浜田:ビジネスインサイダーの読者はそうかもしれないですね。私たちの読者は20代から30代前半が多いんですけど、読者と会うと、マウンティングしない、一人勝ちを嫌がるという人が多く。みんなが豊かに、幸せになるには、ということを考えている人が多いです。

それはミレニアル世代全体に広がる価値観なのかなと思っていて。

大室:70、80年代の若者雑誌はまず既存勢力を否定するのがごあいさつだった。でも今は、読者層が70歳に届こうとしている「週刊現代」が「医者にもらった薬が云々」という、医者から見てもちょっと「??」な記事を出し、週刊プレイボーイがそれに対してまともなアンサー記事を出してたりする。

完全におっさん雑誌が暴走して若者雑誌がそれをいさめるって流れ。これはすごく今時だなと思ったんですよ。

浜田:週刊プレイボーイも若者雑誌かと言われると(笑)。

大室:内容ではなくて、否定するという行為自体に忌避感を感じる若者が増えてきているというのはすごい感じますよね。

浜田:今の20代からおっさんがあまりにも遠いということもありますよね。アラフォーぐらいはバブル世代が嫌いだし、おっさんに対しても反発を感じますが、20代には遠すぎて反発の気持ちすらないのかもしれない。

おっさんとは「審査されない対象」

おっさん

おっさんとは「アップデートしない人」「審査されない人」のこと。

写真:今村拓馬

大室:おっさんというのは要するに「アップデートしない人たち」なんですよね。このアップデートしない人が既得権益にとどまることが一番の問題だと。

もう一つおっさんの定義として付け加えたいのが、おっさんは自分が審査される対象だと思わないこと

財務省事務次官の「おっさん」がなぜ「おっぱい触っていい?」なんて言ってしまうかといったら、事務次官と言ったらサバンナの生態系で言うとライオンですから。

ライオンは外敵がいないので、いつもサバンナで寝ている。インパラやシマウマは常にキョロキョロ周りを見ているから、“ライオン側”の方が環境変化に鈍感になってしまう。

セクハラに対して厳しいジャッジを下される時代になっていても、ライオンだからこそ気付くのが一番遅れてしまう。医者もそうですけれど、ライオン側にいる職業の方が環境変化に遅れてしまう、そんな構造がある気がします。

浜田:一般社会のおっさんはいかがでしょうか。既得権益のおっさんも、全員じゃなくて一部ですよね。どっちかというと、おっさんは今社会の中で差別されている。こんなに売り手市場なのに転職先がないのもおっさん層だったりしますね。

大室正志・朝倉祐介

「弱いおっさんもいる。おかしな仕組みがあった時に構造そのものを疑わないのが日本社会」(朝倉)

写真:西山里緒

朝倉:弱いおっさんもいる。終身雇用や正規/非正規社員の区分けを前提とした今の日本社会で、勝ち組とそうでない人を分けるのって、就活時の景気の良し悪しや、一発芸みたいな面接で面白いと思ってもらえるかどうか。長い人生を思えば、時の運や些細なことなんですよね。それでキャリアが半ば固定化されてしまう。

日本全体の傾向として、おかしな仕組みがあったときに、構造そのものに異を唱えるのではなくて、自分たちは弱い、あいつらは強くてけしからんと、自分達も強い側に入れさせろって言いますよね。それでは仕組み自体が壊れるわけがない。

浜田:階層の固定化が起こっていますよね。既得権益側は下の階級の人たちに入ってほしくない。でも既得権益層を壊したいと思っている人たちは、さらに別の階層の人たちには冷たい、という現象を感じます。

スモールワールドか、構造を疑うか

さよなら、おっさん

ニューズピックスは「個人をアップデートして、こちら側の世界においでよ」というメンタリティなのか?

出典:NewsPicks

西山:既存の構造を疑うというとき、メディアとしての責任も感じます。ニューズピックスの根底には、個人をアップデートして、こちら側の世界においでよ、という自己啓発のメンタリティがあります。でも、そちら側の世界に行くことばかりを考えていたら、構造を疑うことにつながりませんよね。

自己啓発のコンテンツに課金させることはメディアビジネスとしては効率的ですが……。

大室:例えば、渋滞で困っているとき、自分が首相だったら道幅を広くしてもらうために国に働きかけるという正攻法で渋滞を解消できる。

でも、それができない場合、渋滞抜け道マップを用意して、個人でなんとかする方が確実だと思うんですよ。今若い世代は、抜け道マップを求める人が多いと思います。あるいは音楽でも聞いて気を紛らわせるとか。権力のない個人が構造を変えようとしたら大きな連帯を作るなど相当大変なので気持ちが分かりますが……。

浜田:戦うよりは、自分の周りのスモールワールドが幸せになることを考える。20代を見ていると、そういう傾向があると感じます。とても堅実だけど、それだと大きな渋滞が解決しない。

朝倉:楽園を作るのはいいんじゃないですか。東京都の御蔵島っていう野生のイルカと泳げる島があるのですけど、ここでは、町長選挙で十数人得票したら勝てる。そういうところで自分たちの世界を作る。

浜田:仮想通貨に熱狂する20代は自分たちの経済圏を作りたいと言っています。「ビットコインはノアの箱舟」と話した起業家もいました。

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大室:今の若い人たちは、異議申し立てをする行為自体があんまりやりたいことじゃない。今の政権がこれだけ長期に及んでいるのはそういう理由もあるかもしれないですよね。

小沢健二さんが言っていたんですが、何かを批判するとすぐに対案を出せ、と言われるけれど、医者の前で患者がお腹が痛いって言っている時に、自分で治療法を考えろ、とは言われないだろうと。私たちはここに困ってるんだと声をあげるだけでもいいだろうと。

朝倉:今、良くも悪くも品が良くなりすぎちゃっている気がしますね。かといって国会前のデモが有効かというと、そういうわけでもない。「異議申し立て2.0」っていうのが必要かもしれないですね。

おっさんにも「礼儀2.0」を教えてあげよう

おっさん

おっさんもミレニアル世代やスタートアップのマナーを学ぶべき?

写真:今村拓馬

浜田:おっさんとは何か以前に、ビジネスのルールに関して、若い世代と上の世代でコミュニケーションが断絶していますよね。礼儀1.0世代と礼儀2.0世代が分断されているというか。

スタートアップはレガシー企業と手を組む必要があるし、レガシー企業もオープンイノベーションなどと、スタートアップの知見を必要としているにも関わらず。

朝倉:礼儀2.0のマニュアルをつくればいいんじゃないですか。新卒社員には名刺交換研修とかあるわけでしょう。おじさんたちには、人の時間を奪わないマナー研修を(笑)。

知らないままは不幸だから、まずは教えてあげるってことで。ミレニアル世代やスタートアップのマナーを知りましょうと。

大室:2000年代初めに、ネット企業が既存企業の対抗勢力として入ってきたとき、三木谷さんだけスーツを着ていて、おじさんたちからも可愛がってもらえたということもあります。

今ちょっと潮目が変わってきていて、おじさんたちがスタートアップに合わせなきゃいけないような空気感ができてきている。

朝倉:アメリカはちょっと先に行っていて、「リーン・スタートアップ」のエリック・リースがゼネラル・エレクトリック(GE)訪問時にスーツを着ていったら、GE側はみんなTシャツにジーンズで、「お前はスタートアップ側の人間じゃないのか」と言われたっていう話があったりしますよね(笑)。

大室正志・朝倉祐介

産業医の大室正志氏(左)と元ミクシィ社長でシニフィアン共同代表の朝倉祐介氏。

写真:西山里緒

大室:マナーって結局は多数決みたいなところがありますので。今はマナー1つとっても、過渡期かもしれません。

朝倉:おっさんの話に戻ると、二項対立よりは構造自体をどう変えるかっていうところをもうちょっとちゃんと考えたほうがいいですよね。

浜田:どうすれば。

朝倉:ちょっとしたことでも、成功体験を作っていくことではないでしょうか。

大室:実は最近、政治家や官僚組織の方が意思決定が早いことが多い気がします。官僚的なものって遅いと言われたけれど、一周回って今早い、みたいな流れが一部あります。だからベンチャー側の人はそこを利用するという手もあると思います。

浜田:官僚の中で危機感を持っている人もいますからね。公務員の副業解禁もこんなに早く通るとは思わなかったです。

大室:「官僚がやってるから」は社内説明用としては強い武器ですよね。おじさんたちはみんな、お上に弱いですからね(笑)。

(取材・浜田敬子、西山里緒、構成・西山里緒)


大室正志:産業医。産業医科大学医学部医学科卒業。専門は産業医学実務。ジョンソン・エンド・ジョンソン統括産業医を経て現職。メンタルヘルス対策、インフルエンザ対策、放射線管理など企業における健康リスク低減に従事。現在日系大手企業、約30社の産業医業務に従事。

朝倉祐介:シニフィアン共同代表。政策研究大学院大学客員研究員。ラクスルやセプテーニ・ホールディングスで社外取締役を務める。 TokyoFoundersFund パートナー。中学卒業後、騎手を目指して渡豪。競走馬育成牧場の調教助手、東京大学、マッキンゼーを経て、自身が学生時代に起業したネイキッドテクノロジーに復帰し代表に就任。ミクシィへの売却に伴い、ミクシィ社長。スタンフォード大学客員研究員を経て現職。

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