約160兆円の年金を運用する巨大ファンド「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF、Government Pension Investment Fund)が、株式や債券など保有するすべての銘柄を公表した。外国株のリストの上位には、アップルやアマゾン、テンセントなど、世界の市場を引っ張るITの巨大企業が並んだ。
リストは世界の企業の時価総額ランキングに似ている。専門家に話を聞くと、巨大すぎるファンドの動きは、市場に与える影響も大きすぎるため、どうしても時価総額の大きな銘柄の保有を中心とした運用になるようだ。
撮影:今村拓馬
GPIFは、政府が出資する独立行政法人。厚生年金と国民年金を運用し、収益を国に収めることを目的にしている。
おもに国内外の債券、日本株、外国株などを保有している。2017年度(2017年4月〜2018年3月)末時点で運用している資産の総額は156兆円にのぼり、世界でもっとも大きな年金基金とされる。
2017年度の運用実績は、日本株、外国株が上昇したことから、10兆810億円のプラス収益。収益率はプラス6.90%となった。
2018年7月6日に運用結果を公表したGPIFの高橋則広理事長は、記者会見で「良好な経済環境、堅調な企業収益。フランスの大統領選挙の結果、日本の総選挙の結果が国内株式にはポジティブな影響があったこと、トランプ政権による税制改正が非常にポジティブな影響を与え、とくに株式が堅調だった」と振り返った。
テンセントとアリババも10位と14位
2017年度の運用結果を説明するGPIFの高橋則広理事長。
撮影:小島寛明
一方で2015年度には、5兆3098億円の損失を出し、年金を市場で運用する是非についても議論が起こった。巨額の資金を運用しているだけに、高度な公開性が求められるが、情報開示の一環としてGPIFは、国内外の債券や株式など保有する全銘柄を公表した。
開示された株式の銘柄数は、日本株で2321銘柄、外国株で2793銘柄にのぼる。GPIFが保有する外国株の上位20銘柄と、保有株式の2018年3月末時点の価値は以下のとおりだ。
- アップル(APPLE INC):7333億円
- マイクロソフト(MICROSOFT CORP):5992億円
- アマゾン(AMAZON.COM INC):5651億円
- フェイスブック(FACEBOOK INC-A):3468億円
- JPモルガン・チェース(JPMORGAN CHASE & CO):3380億円
- ジョンソン・エンド・ジョンソン(JOHNSON & JOHNSON):3103億円
- アルファベット(ALPHABET INC-CL C):3010億円
- バンク・オブ・アメリカ(BANK OF AMERICA CORP):2817億円
- アルファベット(ALPHABET INC-CL A):2756億円
- テンセント(TENCENT HOLDINGS LTD):2651億円
- エクソンモービル(EXXON MOBIL CORP):2579億円
- ネスレ(NESTLE SA-REG):2326億円
- VISA(VISA INC-CLASS A SHARES):2306億円
- アリババ(ALIBABA GROUP HOLDING LTD-SP ADR):2146億円
- バークシャー・ハサウェイ(BERKSHIRE HATHAWAY INC-CL B):2078億円
- ユナイテッドヘルス(UNITEDHEALTH GROUP INC):2065億円
- ウェルズ・ファーゴ(WELLS FARGO & CO):2022億円
- インテル(INTEL CORP):2005億円
- サムスン電子(SAMSUNG ELECTRONICS CO LTD):1964億円
- シスコシステムズ(CISCO SYSTEMS INC):1942億円
外国株の時価総額トップはアップルで7333億円。マイクロソフトとアマゾン、フェイスブックが続いた。グーグルなどの持株会社アルファベットは種類の異なる株式が7位と9位にランクインしているが、この2種類の株を合算すると、3位のアマゾンを上回る時価総額となる。
世界的な投資家として知られるウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイも15位に入っている。
また、中国の巨大IT企業テンセントとアリババもそれぞれ10位と14位に入った。
巨大すぎるゆえに手堅い銘柄中心
世界最大の年金基金が保有する銘柄を開示したリストは、非常に興味深い情報だ。しかし、リストの上位に名を連ねた銘柄は、世界的な企業の時価総額ランキングを思わせるもので、驚きはない。
GPIFは、パッシブ運用という運用手法を採っている。日本株ではTOPIX、日経平均、アメリカ株ではMSCIインデックスといった株価指標に近い運用成果を目指す手法だ。例えば、日経平均が年率3%上昇した年は、3%を上回る成果を目指す。
ニッセイ基礎研究所・企業年金調査室長の梅内俊樹氏は「GPIFはパッシブ運用が主体ですから、MSCIインデックスなどに連動する銘柄のウェイトが大きくなります。したがって、時価総額が大きな企業の株式が中心になってきます」と説明する。
手堅いパッシブ運用に対して、積極的な手法とされるのはアクティブ運用と呼ばれる。収益性や成長性を期待できる銘柄に積極的に投資し、銘柄の入れ替えや売買を繰り返す。
梅内氏は、巨大なGPIFが、アクティブ運用を採用すると、市場への影響が大きすぎるため、パッシブ運用を選択していると分析している。
「GPIFの運用資産(ファンド)規模は大きい。仮に、GPIFがアクティブ運用を主体に行えば、特定の株式への影響力は大きくなりますので、アクティブ運用はしづらいでしょう」
国内の債券では、日本国債を約37兆円保有。日本株では、トヨタ自動車が1兆3780億円でトップ。三菱UFJ、三井住友が続いた。こちらも、手堅くて驚きのないランキングとなった。時価総額上位10社は次のとおり。
- トヨタ自動車=1兆3780億円
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ=7802億円
- 三井住友フィナンシャルグループ=5976億円
- 日本電信電話(NTT)=5919億円
- 本田技研工業=5892億円
- ソフトバンクグループ=5269億円
- キーエンス=5166億円
- ソニー=5103億円
- みずほフィナンシャルグループ=4451億円
- KDDI=4205億円
(文:小島寛明)