小林麻耶オフィシャルブログ「まや☆日記」より
6月27日に新聞のテレビ欄を見たら「今夜くらべてみました」(日本テレビ)の枠に「小林麻耶3年ぶり…涙」とあった。
小林さんが体調を崩して休み、その間に妹・麻央さんを亡くしたことは知っていた。長く仕事を休んだ人が職場復帰するのは大変だ。気にかかり、チャンネルを合わせた。
画面の中の彼女は、一生懸命だった。お約束の「ぶりっ子キャラ」ポーズで登場、モテ話などもこなし、そこから休業中の心境を語った。まじめに働く、とても気を遣う、そして正直な人だと分かった。それゆえにつらいことが多かろうことも、容易に想像がついた。
名刺がわりのモテトーク
小林さんは確かに、38歳という年齢にしては子どもっぽい仕草をする。プライベートを追ったVTRでも、興に乗れば乗るほどそういう仕草をしていたから、「作っている」というより長い間の習慣というか癖というか、もうそれ抜きでは自分ではない。そんな感じなのだろう。
だが番組は、もちろんそこを強調する。
まずは6歳の時の写真を紹介。両頬に人差し指を当てたポーズ。「子どもの頃から可愛い可愛いと言われたでしょ」と司会者に聞かれると、「そうは言われませんでしたが、愛嬌があったので、友達よりたくさん飴やキャラメルをもらえて、どうしてなんだろうと思ってました」と答える。
大きな目をもっと大きくさせ、小首をかしげる。「変わらぬぶりっ子ぶり」をアピールすることが、「復活しました」の名刺がわり。そんな展開だった。
もう1枚、中学時代の写真が紹介された。清楚で賢そうな美少女。「1年間で60人に告白された」と小林さんが明かす。そして、最初はその度にドキドキしたが、そのうちに「あれ、今週は誰も来ないのかな?」と感じるようになったと続ける。
なるほど女子アナというものは、普通にモテるくらいではなれないのだと感心するが、これも名刺がわりのトークなのだろう。「元気になりました」の挨拶回りが続いた。
「ワクワクする仕事に満足してた」
だが徐々に、彼女の本音というか正直なところが見えてきた。
なぜ誰とも付き合わなかったのかという質問に、サラリと「ごめんなさいした男子が力のある女子と仲がよく、女の子たちにいじめられたりして」と答える。ああ、そういうことが、この人を作っているのだと思わせる受け答えだった。
次に司会の後藤輝基(フットボールアワー)が「麻耶ちゃん、いろいろあったやんか。大変なこともありました」と振り、男性に頼りたいと思ったことはなかったか、と尋ねた。
答えは、「こういう時に彼氏がいてくれたら、どれだけ心強かったかと思いますし、結婚もできていたら、ご家族の方にも心を許せて甘えられる人も増えていたりして、私は本当に何をやってたんだろうと思うことが、何度もありました」
結婚していない相手の話を「ご家族の方」と表現する。まだ見ぬ相手にまで気を遣う、過剰な防衛本能。これでは人に甘えられない。こういう人が仕事をすると、しんどいことも多いだろうなあ、と思って見ていたら、小林さんはこう言った。
「仕事、頑張り過ぎちゃったかもしれません。スタジオってすごく楽しいし、すごくワクワクするから、それだけで満足してしまったのが正直あります、本当に」
ワクワクという表現、すごく分かった。華やかな仕事に限らず、働くモチベーションが「ワクワク」である女子が多いこと、長年働いてきた実感だ。
小林さんは生放送中に倒れ、休業した。2016年のことだ。2003年にTBSに入社し、フリーになったのは2009年。大学を卒業して倒れるまで、会社員として6年、フリーで7年、ほぼ半々をワクワク働き、倒れた。
それから2年。復帰にあたり「仕事ばかりしてきた」ことを反省していた。「ワークライフバランス」が推奨される時代なのに、振り返ればワークばかり。ライフは置いてきぼり。ライフを充実させておけば、もっと違ったろうなーと後悔がにじんでいた。
ああ、「女子アナ」も「働く女子」なんだ。そんな当たり前な事実に気づかされた。一生懸命働き、与えられた役割(例えば「ぶりっ子」)をこなす。そういう真面目な女子が、一生懸命の揚げ句、後悔している。
休養中に取った占いの資格
番組後半で「休養中にハマったこと」が紹介されて、これまた「働く女子」感満載だった。なんと小林さん、占いの資格を取ったという。
占いが大好きで、中でも「数秘術」が好きで、休業中に勉強をし、他人を占える資格を取ったそうだ。出演者の生年月日を聞いて、その場で占った。この数字はこんな意味で、だからこういうことをするとよい、などなど楽しそうに話していた。
会社員時代、ファイナンシャルプランナーの資格を持っている後輩女子がいた。育休中に取ったそうだ。「時間があったので」と言っていた。
小林さんの休業は、育休とは全然違う。それでも占いの資格を取った。少し体調が戻り、時間ができると何かをしたくなる。ぼーっとしていたくない。努力する。資格という目標を、ついつい達成してしまう。とにかく一生懸命に結果を出す女子なんだなあ、と思う。
小林さんには著書がある。『まや道』。読んでみた。
「期待に応えよう」「みんなに好かれよう」と過剰に思う自分を振り返り、どうしてそうなってしまったかを分析している。そして「これからは人に合わせるのはやめる」と宣言する本だった。
ところが出版翌月、彼女は無期限休養を発表する。体が先に悲鳴をあげてしまったのだろう。そこから体調を戻し、職場に戻ってきた。
期待に応えたい、好かれたいという気持ち、すごく分かる。復帰後もその気持ちをゼロにできることはないと思う。働くと評価は、セットだから。
そして、「人に合わせること」をせざるを得ない局面も出てくるはずだ。それとどう折り合いをつけていくか。
小林さんは番組の中で、「妹の一周忌が終わったので、いつまでも暗い気持ちでいるのはよくないと思う。私も前を向いて歩いていこうと思います」と宣言していた。
今度は、無理せず、ゆっくり。少しずつ、自分と他人、その両方と折り合いをつけながら、歩いてほしい。
矢部万紀子(やべ・まきこ):1961年生まれ。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、「AERA」や経済部、「週刊朝日」などに所属。「週刊朝日」で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長を務めた後、2011年退社。シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に退社し、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』。