民泊はハイリターンからハイリスクに。民泊あきらめ簡易宿泊所に転換する人も

「1年やって、ようやく軌道に乗りかけたのに……」

大阪府でワンルームの部屋を民泊運用していたホスト和子さん(40代)は5月、民泊新法への対応が間に合わないと判断し、Airbnb(エアビーアンドビー)での予約受付を自主的に停止した。

民泊禁止

民泊施行を前に、管理規約で民泊利用を禁止するマンションも相次いだ。

Kim Kyung Hoon Reuters Pictures

トラブルも糧にノウハウ蓄積

民泊を始めたのは2017年初め。自宅近くに所有していた築40年の部屋を、文化交流に役立つならとAirbnbに登録した。

大阪はホテル不足が深刻化している一方で、ビジネスホテルやカプセルホテル、ホステル、そして民泊が乱立し、競争も激しい。和子さんは「大阪と京都の中間にあり、観光地巡りに便利」とアピールしたが、最初は2000円弱という格安の宿泊料でもなかなか予約が入らなかった。

風向きが変わったのは、趣味で集めていたミニチュア雑貨を飾り始めてから。ゲストの評価が上昇し、部屋の写真が宿泊者のSNSで拡散されたのか、連日満室になった。

最初は自分か両親の手が空いている方が掃除し、鍵も直接受け渡していたが、会社員の和子さんは次第に手が回らなくなり、鍵の受け渡しはキーボックスを使うように。多くはないが、ゲストとのトラブルも経験した。

「ドライヤーで布団を焦がしてしまったと連絡を受け、部屋に駆け付けたら、予約より多い宿泊者が部屋にいたり、『自分で掃除するから、清掃代は値引きしてくれ』と交渉されたり。びっくりするようなゲストもいました」

外国人ゲストから壁に傷をつけられたこともあったが、「当事者同士では解決できず、Airbnbが仲介し、最終的には弁償してもらえました」

Airbnbはホストのために細かなサービスを提供し、自分の物件の宿泊料がエリア内で何番目に安いかなども知らせてくれたという。

ホスト仲間もほとんど撤退か凍結

京都

宿不足が深刻な京都市だが、景観や秩序を守るため、条例で民泊を厳しく規制している。民泊にどう対応するか、自治体の判断も分かれている。

Kanisorn Pringthongfoo shutterstock.com

2017年6月に民泊新法が成立。2018年6月の施行が近づき、和子さんはAirbnbがホスト向けに開催した勉強会に2度足を運んだ。

営業日数が180日以内に制限されるほか、宿泊台帳や防災設備の設置が必要になり、コストは大幅に増える。現状でも特段の利益が出ているわけでなく、「これ以上投資をしてまで続けようとは思えない」と、5月に予約受付をストップした。

「勉強会で知り合ったホスト仲間も、ほとんどが撤退か凍結状態です。軌道に乗りかけたときにやめるのは不本意ですが、細々とやってきたホストにとって新法は荷が重いです。続けられるのはビルやアパート丸ごと持ってるオーナーくらいでは。大阪では個人が撤退した後に、パチンコ屋さんがサイドビジネスで入って来るとも噂されていますよ」

和子さんは物件をまだAirbnbに掲載しているが、知り合いから「社員寮に使わせてほしい」との打診があり、話がまとまれば民泊からは完全撤退するつもりだという。

新法サバイバー物件は予約集中

airbnbのゲストハウス

ホストの優さん(右)、早苗さん夫妻は右手の建物に住み、左手の建物をゲストハウスとして運営している。

滝岡優さん(30)、早苗さん(27)夫妻は民泊新法施行日の6月15日、福岡市の住宅街に一戸建てゲストハウス「CONNE」をオープンした。4部屋あり、バス・トイレ共有で最大9人まで宿泊できる。

当初は4月のオープンを予定していたが、人手不足で工事が遅れた結果、法に基づいた届出番号のない“闇民泊”がAirbnbから一斉排除されたタイミングでの参入となり、「2週間で50件以上予約が入りました。8月は外国のゲストから、一棟貸し切りの予約も数件入っています」と上々の滑り出しとなった。

嵐のコンサート日程が発表された7月初めには、年末の福岡でのコンサート実施日の予約が一瞬で埋まり、7月初旬の豪雨の際には帰宅できなくなった人から当日予約が入った。予約はBooking.comなど複数の宿泊予約サイトで受けているが、今のところAirbnb経由が一番多いという。

民泊新法は条例による規制上乗せリスクも

ゲストハウス玄関

CONNEの玄関と各居室には、随時暗証番号を変更できる電子キーを取り付けている。

東京で会社員をしていた優さんと、フリーランスのデザイナーの早苗さんは国際交流サークルで知り合い、2017年秋に結婚。「アメリカ留学時代に、ゲストハウスに泊まりながら世界を旅して、自分も交流を仕事にしたいと思った」という優さんが2017年3月に退職し、各地を見て回る中で「国際空港が近く、建築基準法が厳しくて大型ホテルが建ちにくい、妻の地元で土地勘もある」福岡でのゲストハウス開設を決めた。

空港や博多駅、繁華街の天神に1本で行ける地下鉄沿線の駅近に、2戸並びの建売住宅を購入。1戸に夫婦で住み、もう1戸の4LDKの戸建てを、ゲストハウスとして運用している。

優さんが退職した2017年春は、民泊ブームの真っただ中。当時は民泊新法に基づく運営も考えていたという。しかしその後民泊新法が成立し、営業日数に「年間180日」の制限が設けられたことで、その選択肢は消えた。

ゲストハウスリビングルーム

CONNEは戸建ての4部屋を提供しているが、戸建てをまるごと貸し切るプランもある。

早苗さんは「民泊新法は自治体が規制を上乗せすることもでき、いつ何が変わるか不安要素も多いです。初期投資して一から始める私たちにとって、リスクが大きいと感じました」と話す。

2人は旅館業法に基づく簡易宿泊所の申請を決め、建築中だった住宅に消防設備やシャワー室を追加設置。玄関と各部屋にスマートロックを取り付けるなど、セキュリティーも整備した。

ゲストハウスのある場所は、ヤフオクドームや福岡タワーなど観光スポットにも歩いて行け、大学も近い。

「簡易宿泊所の許可が下りたときに、管轄の保健所の担当者から『簡易宿泊所の申請を受けたのは、この3年で2件目』と言われました」

動き出す簡易宿泊所コンサル

民泊新法施行から1カ月。混乱はなお続くが、福岡市の行政関係者は「新法の施行によって、民泊新法=週末に旅行者を泊めて交流するような使い方という位置づけが明確になった。採算を重視するなら、簡易宿泊所としてやってくれということだろう。簡易宿泊所と言えばカプセルホテルやホステルを連想するかもしれないが、マンションの一室などでも必要な手続きを踏めば開業できる。新法施行で多くの物件が民泊仲介サイトから消えたが、簡易宿泊所コンサルも活発に動き出しており、今後、相当数の物件が、簡易宿泊所の許可を取って復活するのではないか」と話している。

(文・写真:浦上早苗)

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