モチベーション、効率への感度…総務省職員調査でわかった若手と上司で絶望的な働き方意識格差

霞が関

残業規制も適用されず、国家公務員の残業時間は長くなりやすい。

写真・今村拓馬

危機意識の欠如、風通しの悪い職場、残業が長い方が評価される——。

長時間労働が当たり前とされ、「不夜城」と呼ばれてきた霞が関。しかしここにきて、政府は国家公務員の副業・兼業を認める方針を打ち出し、人事院規則を改定して残業上限を設けることが検討されるなど、ようやく働き方改革が前進しつつある。

そんな中、2018年6月末、25人の若手官僚で構成される「総務省働き方改革チーム」は、8の方針と28の対応策を発表。その前段として全職員を対象にしたアンケート結果(回答率約4割)からは、非効率で、生産性の低い職場の現状が浮き彫りになっている。

上司と部下による意識のギャップ

そもそも、霞が関の働き方の現状に対する危機感には、若手と管理職で大きなギャップが存在するようだ。

「総務省働き方改革チーム」が、総務省の全職員を対象に行なったアンケート結果によると、「自分の職場が無駄な業務を改廃し、不合理な業務の見直しを図るなど、効率的な組織づくりが図られていると思うか」との質問に、部長級以上は8割超が「そう思う」もしくは「どちらかと言えばそう思う」と答えたのに対し、係長は4割超に止まるなど、大きな開きが生じている。

総務省アンケート5

若手ほど業務の効率化が進んでいないと感じている。

出典:「総務省働き方改革チーム」

さらに、「モチベーション高く仕事ができているか」との質問には、部長級以上は過半数が「そう思う」と答えたのに対し、若手が就く係長はわずか6%とその差はあまりに大きい。

総務省アンケート5

部長級以上のモチベーションの高さは平均を大きく上回る。

出典:「総務省働き方改革チーム」

若手ほど厳しい労働環境

年代によるギャップがあるのも、無理ないかもしれない。長時間労働が常態化していると言っても、その当事者の多くは若手だからだ。

月に80時間以上残業している職員は全体で7.7%だが、若手が占める係員では13.5%と倍増する。

総務省アンケート2

若手ほど残業時間が長くなっている。

出典:「総務省働き方改革チーム」

若手人材確保の面からも、労働環境の改善は待ったなしの状態となっている。女性職員が増え、ワークライフバランスが重視される中、総務省の2016年度離職者40人のうち、約6割が40歳未満の若手・中堅職員が占める(残り4割は定年に近い年齢での離職)。

若手の職員からは「残業が長い方が評価される文化」や「管理職に危機感が欠如しているのではないか」という声も挙がる。

・「『仕事を効率的にこなした上で、休暇やテレワークも活用し、WLB(ワークライフバランス)を充実させている』という働き方モデルが我が省(部局)において評価されているとは思えない」(女性・20代・係長、抜粋。)

・「業務量に対して明らかに人員が足りない。毎年精神疾患を患う職員が発生している部局もある。本気で定員要求をしているのか疑問である。課室長以上の職員は『俺たちは頑張ってやってきたので、増員など甘えだ』と思っているのかもしれない」(男性・30代・係長)

国家公務員は残業時間が長く、ワークライフバランスが取りづらい。こうしたイメージは学生の間にも広がっており、近年はキャリア官僚への応募者も減りつつある。

新規で採用された職員からはやはり「労働環境」の改善が採用増にも繋がるという意見が多く、「このまま長時間勤務の常態化を放置したら、若手職員の離職を招くとともに、優秀な人材の確保が困難になる」と、改革チームのメンバーは危機感を示す。

総務省アンケート4

新規採用職員のほとんどが「労働環境の改善」が採用で重要だと指摘する。

出典:「平成28年総合職試験等からの新規採用職員に対するアンケート調査結果(人事院)」

上司が変わらないと組織は変わらない

総務省働き方改革チーム

総務省働き方改革チームは、⑴意識改革班、⑵業務改革班、⑶働きやすさをサポートするインフラ整備班に分かれて提言した。

働き方改革の要は、管理職。上司が変わらないと、指示を受けとめる部下は、自分の働き方を変えることが難しい面もある

改革を実行するには「管理職の意識改革が重要」だと、改革チームメンバーの椋田那津希さんは、そう訴える。

アンケートでも管理職に関する記述は多く、 指示方法やコスト意識を指摘する声も挙がった。

「赤ペン先生(紙をわざわざ打ち出させて、手書きで修正)を原則禁止にし、PC上で文書修正をすることをルール化してほしい。部下によっては『これなんて書いてあるんですか?』と上司に気軽に聞けず、その解読に時間がかかっている人もいて時間の無駄」(総務省職員アンケート結果より)

6月27日に行われた報告会には、事務次官をはじめ、多くの管理職など、計200名以上の職員が参加。

改革チームが発表した28の対応案は、「管理職の働き方宣言」や「360度評価」、「超過勤務・休暇取得状況の見える化など、多岐にわたる。とはいえ、野田聖子総務大臣が「提言された対応策がすべて実施できれば、総務省は働きやすく、霞が関一魅力ある職場になると思う」と言うように、重要なのはこれを実現できるかだ。

また、国会議員による質問通告待ちや答弁作成などの「国会対応」も長時間労働の大きな原因になっている。

関連記事:「霞が関で働きたい人はいなくなる」官僚の長時間労働は‘機能不全な’国会のせい

改革チームの顧問として参加した小林史明政務官が「みなさんに一番負担を強いているのは、国会対応。国会改革も(政務官の任期を終えた後に)必ずやる」と宣言したように、永田町の「意識改革」も欠かせない。

国の中枢で政治・行政を行う、霞が関と永田町は変われるのか。

(文、写真・室橋祐貴)

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