間違いだらけの働き方改革 。村上臣、岡島悦子、森本千賀子が語る「パーソナルブランディング術」とは?

トークイベント「働き方改革×パーソナルブランディング」

トークイベント「働き方改革×パーソナルブランディング」で左から森本千賀子さんと村上 臣さん、岡島悦子さん。

撮影:今村拓馬

働き方改革法案は成立したものの、実際に職場は私たちが“働きやすい”方向に変わるのだろうか。私たちは「どんな備えをするべきなの?」と不安に感じている人も多いだろう。

激変の時代をどう歩いたらいいのか。人材育成の最先端で活躍するキーパーソンがその疑問に惜しみなく答えた。世界最大級のビジネス特化型SNS「LinkedIn」が6月に主催したトークイベント「働き方改革×パーソナルブランディング」から、ハイライトをお届けする。

<スピーカーのプロフィール>

LinkedIn カントリーマネジャー(日本担当)村上 臣さん:大学在学中にITベンチャー有限会社電脳隊を設立。その後統合された株式会社ピー・アイ・エムとヤフーの合併に伴い、2000年8月にヤフーに入社。エンジニアとして「Yahoo!モバイル」「Yahoo!ケータイ」などの開発を担当し、同社のスマホシフトに大きく貢献。2012年4月より執行役員兼CMO(チーフ・モバイル・オフィサー)としてヤフーのモバイル事業の企画戦略を担当し、「爆速経営」にも寄与。2017年11月にLinkedInの日本代表に就任。

プロノバ代表取締役 岡島悦子さん:1966年生まれ、筑波大学卒業後、三菱商事に。ハーバード大学経営大学院でMBA取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに。その後、グロービス・マネジメント・バンク事業を立ち上げ、代表取締役に就任。2007年、「日本に“経営のプロ”を増やす」を掲げ、プロノバ設立。丸井グループ、リンクアンドモチベーション、ヤプリなどの社外取締役も務める。

オールラウンダーエージェント、morichi代表 森本千賀子さん:1993年にリクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社し、2010年より経営層のキャリア支援に特化したリクルートエグゼクティブエージェントに所属。これまで約2000人の転職に携わる。2017年3月に会社設立。会社員との兼業期間を経て、同年10月に独立。パラレルキャリア(兼業・複業)を自ら実践しながら、キャリアの市場価値を高める手法として発信中。

Q. 「働き方改革」の本質とは?

職場のイメージ

Getty Images

岡島:働き方改革には、分母と分子の話がある。「労働総量を減らそう」という分母の話と、「仕事の価値を高めよう」という分子の話。今は残業規制やテレワーク導入といった分母の話に偏りがちで、「どうしたら付加価値が生まれるか」という議論が不足している。働き方改革の最終ゴールは“イノベーション”である、ということを忘れてはいけないと思う。単なるアリバイ作り的な働き方改革はムダでしかないので、そういう相談のご依頼はお断りしています。

森本:同感。“働きやすさ”ばかりにフォーカスされていて、“働きがい”に対する視点が抜けているように感じる。働きがいのある仕事を実現した先に、働きやすさの追求があり、“生き方改革”がある。私自身も日々、近所のシッターさんに家事育児をサポートいただき、仕事に打ち込めている。こういった工夫が生まれるのは、自分の仕事に心から夢中になれるから。

Q. “天職”に出合うには?

岡島:まず、天職は初めから発見できるものではなく、いろんな経験をしながら、いつの間にか手にしているもの。私は新卒で三菱商事に入った30年前には、年間200人の経営者の相談に乗っている今の私は想像すらできなかった。しかも、今の仕事に出合ったのは37歳と遅咲きです。

村上:10年後、15年後に自分がどうなっているかなんて、僕も分からない。30代でヤフーのCMO(チーフ・モバイル・オフィサー)になって、40歳でLinkedInに転職して外資系の日本法人代表になるなんて思いもしませんでした。

今だに英語には苦労していますが。そもそものきっかけを作ってくれたのは岡島さんで、「ハーバード時代の同級生が来日するから」とランチを一緒にして、以来、半年に1回くらいkeep in touchしていて。僕がヤフーでスマホの移行を達成して「次に何をしようかな」と思っていた頃に、誘いが来たという流れでしたね。

村上臣さん

自分自身をアップデートしていく挑戦はもっと可視化されていく、と話す村上臣さん。

撮影:今村拓真

岡島:いわゆる“Planned Happenstance Theory”。つまり、偶然は必然の積み重ねであるということ。まるで運命的な偶然のように、今の自分にピッタリの話が降ってくることがある。私はこれを“棚ぼた理論”と名付けているのだけれど、棚の下にいないとぼた餅は落ちてこない。自分の強みを分かって、セルフブランディングしていくことが大事。

森本:転職市場で魅力的だと買われる人たちに共通しているのは、常に身の丈よりもちょっと上のチャレンジに挑んでいること。自分の選択肢を多様に増やす努力をしている。

村上:岡島さんの「キャリアのタグ」ですね。

岡島:「今度こういうプロジェクトを始めたいんだけど、誰を呼ぶといいかな?」という時に、脳内検索に引っかかる強みをいくつか持っておくということ。タグが複数あると、それだけ希少価値になる。臣ちゃん(=村上さん)も、「テクノロジーの逸材×事業開発もできる」というタグの掛け合わせが、今のポジションを引き寄せているわけですよ。

森本:私が就職活動した時にある人に言われて実践してよかったと思っている助言があって、「マイノリティーな領域でやっていけ」。私は悦子さんのようなキラキラのバックグラウンドがなく、地元で英語が得意と思って獨協大学英語学科に進んだら、井の中の蛙だったことが分かった。 世の中、英語が得意だなんて星の数ほどいることを思い知った。

その挫折をバネに、「レッドオーシャンの舞台では勝てない。ブルーオーシャンで勝負しよう」と決意したんです。25年前には、女性で営業職を採っている企業は本当にレアで、生保くらいしかありませんでした。まだ新しい産業だった転職マーケットにジョインしたのは大正解で、当時は“人材紹介業”は国内で認可事業社数が数百社しかなかったのに、今や2万社超にまで拡大している。今から入って勝負するのは相当ハードルが高いと思います。

岡島:これから働く年数が60年以上になると言われる中で、いかにタグを増やして希少価値を磨くがが重要。タグは、ブロックチェーンとかAIといったトレンドスキルだけでなく、「共感力」や「課題設定力」といったソフト面のスキルも含まれるはず。常に自分をアップデートさせていく、“変化上等”の時代が来ています。

オールラウンダーエージェント、morichi代表 森本千賀子さん

morichi代表の森本千賀子さんは自分の価値を発揮できる場所はどこなのか、冷静に選択できる人は活躍すると言う。

撮影:今村拓真

森本:「どこの場所なら自分が生かされるか」という選択眼も必要ですね。

経営者に「どんな人が欲しいですか?」と聞いた時に、最近よく出てくるのが「大谷翔平選手みたいな人」という回答なんです。打つも守るもできるマルチワーカーである、という意味が一つ。もう一つは、ヤンキースではなくエンゼルスを選んだという点。知名度や目の前のインセンティブではなく、自分の価値を発揮できる場所、ブランディングできる場所はどこなのか、冷静に選択できる人は活躍していますね。

村上:大企業や官僚、医者のキャリアから、スタートアップにチャレンジ人たちが増えている印象もあります。僕たちの親世代の価値観からすると「せっかく“良いレール”に乗っているのに」と見られる行動を、前向きな挑戦としてやってのける。自分の価値を発揮できる場所を見極めて、自分自身を常にアップデートしていこうという感覚はこれからもっと可視化されていくんだろうなと思います。

Q. 強みを磨くためにとるべき行動とは?

村上:タグの掛け算していこうという時に、きっとぶち当たるのが「どのタグを足せばいいのかは、どうやったら分かるの?」という問題です。ご回答を!

岡島:突き詰めるとやっぱり、「好きなことを見つける」に尽きます。特に優秀な子が迷いがちなのは、「やるべきこと(MUST)」を真面目にやっていると、それが「できること(CAN)」として増大していって、結果「本当にやりたいこと(WILL)」が分かんなくなっちゃうという。

実際、東大の理Ⅲに入ったすごく優秀な女子が外科系を真面目にやっていたのだけど、研修医になった段階で「私、そういえば血が嫌いだった」と思い出しちゃったの。今は皮膚科に進んで心の平穏を取り戻したけれど、この迷いの袋小路、よくある話だと思います。

効果的な作業としては「原体験を探す」。「ご飯ができたよ」と呼ばれてもやめられないほど夢中になれたことはなかったか。私は小学校時代から、全学年の生徒名簿を舐めるように見ていた人フェチでした。「ふーん、親が銀座で歯医者さんやっていたら、白いグランドピアノが買えるんだ」と観察するような気持ちの悪い娘でした(笑)。

SHOWROOMの前田(裕二)君も「元々、弾き語りをやっていたので今、ネット上の投げ銭ビジネスやってます」という原体験を語れる。臣ちゃんもあるよね?

プログラミングのイメージ

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村上:ものづくりは好きでした。一番最初に作ったのはラジオで、小3くらいからアキバ通いが始まって、アマチュア無線の免許を取って。中学生の時には、ママチャリにバイクの廃品のバッテリーと無線機を積んで走ってましたね。たしかに、寝食を忘れるくらいに夢中になったことは、今につながっているかもしれない。

岡島:為末大さんが言った「努力は夢中に勝てない」という言葉は真実だと思ってる。人生は、夢中を見つける旅なんです。

森本:「自分の好きなことがよく分かりません」という人には、「とりあえず今日の帰り道に本屋さんに寄ってみて」と勧めています。そして、直感でいいので、気になった本の表紙を10冊、スマホで写真に撮ってみる。10冊の共通点は何か、分析してみるだけでも、自分の興味のキワードや関心事が見えてくるものです。

自分自身にQ&Aの質問を100問くらいバーッと思いつくままに投げかけることもぜひやってほしい。質問はなんでもよくて「好きな食べ物は?」「観るのが好きなスポーツは?」「得意だった科目は?」などなど。そして更に「なぜなのか?」まで深掘りして欲しいのです。「好きな食べ物は母の握ってくれるおにぎり。中学の部活の前にいつも食べながら母から応援してくれる気持ちになった……」等々。なぜなのか、のところにその人ならではの想いやこだわり、原点があると思うのです。その回答を集めていくと、自分が何者なのか答えが見えやすくなります。自分を知ると、いざチャンスが来た時にパッと乗れる直感力が磨かれるんです。

岡島:私自身が今現在している努力としては、自分が知らない領域を広げるために、「若手とひたすら会う」ということをやっています。「姉さん、LINEで使ってるハートマーク、古過ぎます」とか言ってもらえると、「へー」となるし、それが仕事のヒントになることもある。バイアスが外れる体験は、変化上等の時代の栄養になります。

Q. 「好き」を「稼げる」にするには?

森千賀子さんと村上臣さん、岡島悦子さん。

撮影:今村拓馬

村上:僕はニッチな業界誌を読むのが好きで、例えば、焼肉店だけに流通している『月刊焼肉』を愛読しています。そこにしか載っていない無煙ロースターの広告とかを見るのが大好きなんですけど、仕事には直結しにくいなと。好きなことを発見した後に、どう市場にフィットさせていくかという点は?

森本:私の経験上言えるのは、とにかくアウトプットしまくる。「これ面白い!」という自分の感性に引っかかったことや、「私、今日はこれをよく頑張った!」という自画自賛のメッセージの発信をSNSでこまめにするんです。それも直感に従って、あまりバイアスをかけずにおもいつくままに……。

すると、周りからの反応が得られるんです。すると、「え、これがそんなに?」ということにポジティブな反応が集まったりする。このフィードバックが人の心に響くことのリトマス試験紙にしています。

岡島:自分の中に在庫をたくさん持っておいて、相手によって出し方を変えるテクニックは大事かなと。同じことでも言い方一つで相手の反応が180度変わることはある。

例えば、「おたくの会社、生産性低いのが問題ですね」と言ったら空気がピリつくけど、「燃費の悪い高級車みたいですね、この会社」と言えば話が進む、みたいな。自分の強みを見せる時には、どこのターゲットにどんなメッセージを出すか、戦略的に選び取る練習はしておくといいと思います。

Q. やりたいことと会社の方向性が違ったら?

村上:これは会場の参加者から挙がった質問です。30代女性から「今、自分が興味をもってやりたいと思えることが見つかり始めたのですが、会社から言われている役割と方向性が違います。どうバランスをとったらいいですか?」と。

岡島:まず一度、「優等生」の自分を捨ててしまいましょう。「誰かが答えを持っている」という時代は終わり。これからは自分たちで答えを作っていく時代です。若手に求められている役割は、「流れを変えること」。今までの成功モデルとは違う提案をしてほしい、と多くの経営者は期待しています。だから、やりたいことがあればどんどん声に出したほうがいい。ただし、同時に、任せてもらえるだけの“信頼貯金”も必要だから、目の前の仕事もちゃんとやっていくことが大事。「やりたいことができない」とすぐに外に飛び出すのはちょっと待って。ホームでできないことはアウェイでもできない。身近にいるスポンサーを探しながら、「こういうことに興味があるんです」と言い続けることをお勧めします。

村上:新しい環境でイチから信頼を積み上げるのは大変。組織にいながらやりたいことを実現している人からは「私はキャリアスポンサーに恵まれた」という声がよく聞かれます。つまり、目標を応援してくれる人が社内にいる。でも、チャンスを引き寄せるまでに、強みのタグ付けをし、信頼貯金をせっせと貯めて、コミュニケーションをとる努力をしてきたはず。

森本:いろいろやってみて、やっぱり会社で自己実現が難しい、と判断した時には、サードプレイスでの活躍を選択肢に入れるのもあり。副業とまでいかなくても、勉強会やセミナーに参加するレベルで充分。職場でも自宅でもない、第三の場で必要とされている実感を持てる時間を確保することは、メンタルのバランスも整えてくれる。サステナブルに働き続けるための知恵として知っておいてほしいですね。

(構成・宮本恵理子)

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