【豪雨被害】安芸南高校サッカー部員が結成した「掃除隊」。自立心と思いやり育てた監督の教え

広島県立安芸南高校サッカー部員たち

自発的に「掃除隊」を結成した広島県立安芸南高校サッカー部員たち。

提供:畑喜美夫さん

死者200人(7月12日夕方現在)という甚大な被害をもたらした西日本豪雨。

広島県では12日午後1時時点で死者78人。記録的な豪雨に見舞われ、交通網やライフラインの寸断が続く中、いち早く動いた地元の高校サッカー部員がいた。しかも、自分たちの意思で。

広島市安芸区にある広島県立安芸南高校サッカー部3年の重川紘輝さん(17)は6日夜、テレビを見て驚いた。

豪雨による洪水で民家が流されている。うねる水の波は、まるで津波のようだった。

40人の運動部員が集結した「掃除隊」

西日本豪雨で崩壊した家屋

多くの被害が出た広島市安芸区。重機が入れない場所を手作業で片付けた。

提供:畑喜美夫さん

「(東日本の)震災を思い出しました。雨でもこんなことになるんだ、って」

自分たちに何かできることはないか。

頭に浮かんだのは、熊本地震の際に自分たちの意思で募金集めをした当時の3年生の姿だ。

「いま、やるべきことは何だろうと考えました。山のほうの危険なところはもう自衛隊が来ていると聞いた。それ以外の水が引いたところで何か手伝えるかもしれないと思った」

自宅のある府中町に住むほかの部員4人に声をかけていると、翌朝サッカー部のグループラインで安芸区矢野に住む3年生からSOSが入った。

「誰か手伝ってくれる人、おらん?」

自宅が床上浸水。家屋に泥や砂が入りこんでいるという。5人で駆け付け手伝った。

周辺の他の家もひどい状態だった。実際に自分の目で見て、被害が相当なものだと実感した重川さんは「掃除隊」の結成を考えついた。

「周りの人で暇そうな人がいたら、招待お願いします!」

SNSでサッカー部の仲間に回したら、テニス部、陸上部、野球部、バスケット部と、部活生がどんどん名乗りを挙げてくれた。ついには他校のサッカー部員にも広がった。約40人にのぼった。

「朝7時半から後片付けをやっているらしいので、各自来られる時間に来てください!持ち物は軍手、スコップなどです」

人手が足らない場所をSNS情報などで入手。どの地区に何時から、何人など1カ所に集中せず、効率的に片付けられるよう振り分けた。特に被害が大きい矢野地区は住宅が密集しているから重機が入れない状態と聞いていた。人海戦術でやるしかないと考えた。

家屋の中に入り込んだ土砂をかきだし、スコップで一輪車に積んでは外に運び出す。どのう袋に詰める。道路をふさいだ流木やゴミ、土砂を片付ける。そうやってライフラインの復旧を支えた。7日から4日間にわたって活動した。

週が明けた9日月曜日。朝から安芸南高校の電話は鳴りっぱなしだった。

「先生んところのサッカー部の生徒らがうちの家を片付けてくれた。助かりました」

「おかげで車が通れるようになった。ありがとうと伝えてください」

地域の人たちから感謝の声が次々舞い込んだ。

学校は休校だったが、サッカー部顧問の畑喜美夫監督ら教員は学校にいた。同校や生徒に被害はなかったが、近隣で他高校の生徒が1人、小学生や幼稚園児も犠牲になった。情報収集や対策に追われるなか、唯一心がなごむニュースだった。

自立した個人がチームを伸ばす指導法

「電話をいただいたのはうれしかったですね。サッカー部で日頃やってきたことが生きたと思います」

そう語る畑監督の指導法はユニークだ。よくあるトップダウン型ではなく、部員が自分で考え自ら行動を起こせるようにする「ボトムアップ理論」で長年子どもたちに向き合ってきた。この指導法で、2006年の全国高校総体では前任校の県立広島観音高校を日本一に押し上げた。安芸南も県内でベスト8に顔を出すほどに力をつけている。

広島県立安芸南高校サッカー部

広島県立安芸南高校サッカー部の整頓されたロッカールーム。

提供:畑監督

例えば、同校の部員たちは靴やバッグをまるで美しい絵画のごとく整理整頓する。道具を大事にする心、整理整頓をするスキルがなければ、戦術や自分の感情を整える能力は育たない。そんな考えからだ。それは、W杯ロシア大会で控室を「来たときよりも美しく」して、世界から称賛された日本代表にも通じる精神だろう。

全体練習は週2回だけ。ほかの日は個人練習や筋力トレーニングを自分で計画を立ててやる。もちろん休養に当ててもいい。練習メニューや試合のメンバー決め、選手交替などすべて選手たちに率先垂範させる。

顧問からのトップダウンで運営される従来の部活とは、真逆の指導法。「自立した個人がチームを伸ばす」をモットーに、主体性を養う指導法で成果を上げている。

「サッカーより大切なことがある」という教え

だから、「重川の行動にそんなに驚きはありませんでした」と畑監督は言う。

「日頃から、(サッカーの)個人技が高いだけじゃダメだ。自分で考えて、判断して動ける人間になってほしいと話しています。サッカーという競技自体、そういうスポーツ。主体的に動けなくては始まりません」

自分で判断できない、指示待ち世代などと揶揄される今の若者たちにこそ、必要な教育法ではないか。

今回ピッチの外でそのことを具現化した重川さんは、こう振り返る。

「畑先生からはいつも、サッカーより大切なことがあると言われています。それは人を思いやる気持ちだと。そのために、何をすればいいかを考えることが大事だと。それをやってきたことが今回の行動につながったのかなと思う」

安芸南の練習や試合で、「何やってるんだ」「どこにパスしてるんだ」などとミスをとがめる声は一切聞かれない。例えばパスが雑になると、監督ならず選手からも「相手のこと考えよう」といった声が飛ぶ。

勝利をあげ、優勝することは、スポーツマンにとって大事だろう。しかし、このような人間形成こそが、スポーツの力に違いない。

(文・島沢優子)

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