過去100年の観測データが教えてくれる西日本豪雨「真の原因」と「迫り来る危険」

13府県にわたって約200人を超える死者・行方不明者を出した「平成30年7月豪雨」(通称、西日本豪雨)。過去の観測データと比べてみると、その際立った特徴が見えてきた。

土砂崩れで破壊された家屋

7月9日、広島県熊野町にて。土砂崩れで無残に破壊された家屋の前に立ち尽くす緊急部隊。広島県では地盤の脆い地域で山の斜面の表層部が崩れ落ちる「表層崩壊」が起きたため、被害が拡大したとの分析もある。

Carl Court/Getty Images

気象庁の報道発表資料には、アメダス(地域気象観測システム)を含めて全国に約1300カ所ある観測所のうち、今回の豪雨で降水量の史上記録(統計開始は多くが1970年代後半)を更新した観測所のリストが載っている。

それによると、「48時間降水量」が史上1位(1位タイ含む)となった地点が123カ所、全観測所の1割弱を占めた。都道府県別で見ると、広島県内で23カ所、岡山県内で19カ所が史上1位となり、それぞれの県内にある観測所の約7割で記録が更新された。他にも、岐阜県・京都府・兵庫県・愛媛県のそれぞれ10地点以上で史上1位の降水量を記録した。

このように、中国地方をはじめとする広い範囲にわたり、過去数十年間で最大の48時間降水量が観測された。この「広域性」が、今回の大雨の特徴の一つである。

一方、同じ報道発表資料によると、「1時間降水量」が史上1位を記録したのは全観測所のうちわずか14地点にすぎなかった。つまり、短時間に集中して降ったことではなく、2日以上(48時間)にわたる「持続性」こそが、今回の大雨のもう一つの特徴なのである。

19世紀末以降のデータが保存されている

では、観測データを「もっと昔」に遡ってみたらどうなるだろうか。

実は、各府県の気象台や一部の旧測候所(自動観測システムの導入により2カ所を除いて廃止)では、19世紀末から100年以上にわたる観測データが得られている。それらの中から、今回の豪雨による「日降水量」(0時から24時までの降水量)が、観測史上10位以内に入った地点を示したのが下の表である。

図表

豪雨被害を受けた各地点の日降水量、50年確率値、100年確率値

気象庁HP資料より筆者作成

日降水量が史上10位以内に入った地点は全部で12カ所、九州北部から岐阜県まで11府県に及んだ。これは「数十年に1度の降雨量になると予想される」大雨特別警報が出た地域とほぼ重なる。したがって、過去100年以上という長期間で見ても、今回の豪雨は広い範囲で史上指折りの降水量を記録したことが分かる。

地域ごとの「雨の強さ」は降水量と一致しない

この100年以上にわたる観測データは、もう一つ大事なことを教えてくれる。

先の表によると、各地点の日降水量はいずれも200mm前後である。ニュースや気象情報では普段から「何百mmの雨が降りました」「何百mmの雨が予想されます」という表現をよく耳にするので、日降水量200mmはさほど「大したことはなさそう」に思える。

しかし、必ずしもそうとは言えない。雨の強さは地域差が大きいからである。

太平洋に面する地域、特に山地の南側に位置するところでは、湿った南風を受けるため降水量が多く、しばしば1日に何百mmという雨が降る。場所によっては、400mm、500mmという大雨が数年に1度降る。これに対し、広島県や岡山県のように外海から離れた地域では、そのような大雨は(今回を含めて)過去100年間以上降ったことがない。

避難所生活

岡山県倉敷市の避難所となった体育館にて。この写真が撮影された7月9日時点ではエアコンも設置されておらず、最高気温が30度を超える中で厳しい環境での避難生活となった。

Tomohiro Ohsumi/Getty Images

ある降水量が、その地域にとってどれぐらい「まれな」事象であるかを表す尺度として、「再現確率値」(以下、確率値)がある。50年あるいは100年に1度の確率で降る降水量を、統計的な方法で推定したものだ。

気象庁の「異常気象リスクマップ」には、国内51地点について、1901年以降の観測データから算定された日降水量の確率値が掲載されている。例えば、太平洋側の高知の100年確率値は445mmであるのに対し、瀬戸内海側の松山は194mmであり、100年に1度の確率で降る降水量には倍以上の開きがある。だからこそ、気象庁が大雨警報を出す基準値も異なるのである。

地点ごと、日ごとに見ると意外な結果が

ここでもう一度、先の表を見てみよう。右側に、今回の豪雨で史上10位に入る降水量を記録した地点について、日降水量の50年確率値と100年確率値を記した(ただし、広島・岡山・佐賀は資料なし)。

それによると、松山の日降水量は100年確率値を超え、彦根と和歌山では50年確率値を超えた。要するに、松山では100年に1度の雨が降り、彦根と和歌山では50年に1度の雨が降ったわけだ。

しかし、それ以外の9地点の日降水量はいずれも50年確率値を下回った。つまり今回の大雨は、地点ごと・日ごとに見れば、50年、100年に1度の降水とまでは言えないのである。大災害の要因は、やはり「広域性」「持続性」にあるのだ。

100年超の観測データは「大雨はさらに増える」と

自衛隊に救助される高齢者

7月8日、岡山県倉敷市で自衛隊に救出される高齢者。9日までに派遣された自衛隊員は2万9000人に達した。

Carl Court/Getty Images

「集中豪雨」「ゲリラ豪雨」という言葉に象徴されるように、近年起きた大雨災害は、局地的で短時間に集中する雨によるものが多かった。1982年の長崎豪雨、2014年の広島豪雨、2017年の九州北部豪雨などはいずれも、数十キロメートル以下の狭い範囲で数時間に何百mmもの雨が降って大きな災害を引き起こしたものだ。

その反面、広域にわたる持続的な大雨については、治水対策が進むにつれて災害に至るケースが減ってきている。実際、今回の大雨でも、大河川の大氾濫という事態には至らなかった。明治時代ならそうなっていたかもしれない。今回は、一部で治水体制の限界を超えて地区単位の洪水や土砂災害が同時多発的に起きた結果、全体として死者・行方不明者が200人を超える惨事になったと考えられる。

我が国は「災害大国」と呼ばれるように、これまでもしばしば甚大な風水害が起きてきた。しかし、状況はもはや過去と同じではない。

100年以上にわたる観測データを分析すると、間違いなく、大雨は長期的に増える傾向を示している。そして、このまま地球温暖化が進んでいくと、大気中の飽和水蒸気量が増えることになるため、大雨の増加傾向はさらに強まると予想されているのである。

今回の大雨災害の実態解明を急ぎ、将来の防災体制の強化になるたけ早く活かしていくことが求められている。

[出典]

気象庁「過去の気象データ検索」「異常気象リスクマップ

気象庁報道発表資料「今般の豪雨の名称について


藤部文昭(ふじべ・ふみあき):首都大学東京特任教授。1977年東京大学理学部物理学科卒業。1983年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、理学博士。同年、気象庁入庁。新東京航空地方気象台、気象庁気象研究所環境・応用気象研究部長を経て、2015年より現職。著書に『統計からみた気象の世界』『都市の気候変動と異常気象』など。

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