IT企業までホテルに参入—— IoT客室、朝食にもつ鍋…体験差別化で戦国時代制する

ホステル

新たに開業する宿泊施設の多くに共通するキーワードが「ご当地」と「交流」。AND HOSTEL AKIHABARAはラウンジにカメラを設置し、人が増えると客室にいるゲストのスマホに通知が入る。

インバウンドの拡大を背景に、東京、大阪など日本の主要8都市では2018年から東京オリンピックの2020年にかけてホテルの新規開業が相次ぎ、客室数は32%増える見込みだ(法人向け不動産サービスのCBRE調べ)。異業種参入や新興勢力の台頭も活発で、宿泊業界は新旧プレイヤーが入り乱れるかつてない戦国時代を迎えている。

供給過剰も懸念される中、参入者たちは「マーケットの拡大は間違いない」と自信を見せる一方、「レビュー社会では、差別化できないと埋もれてしまう」と、「よそではできない体験」の創出に腐心している。

「おやすみ」の声掛けでカーテン閉まり照明オフ

and hostel

AND HOSTELのIoTルームでは、スマホで客室の機器を操作でき、共用部の状況も把握できる。

「今は晴れているのでこの色ですが、降水確率が50%を超えると、ライトの色が青くなります」

スマートフォン関連サービスを手掛けるand factory取締役の梅本祐紀氏は、廊下の照明を指さした。同社は2016年に「&AND HOSTEL(アンドホステル)」ブランドでホステル事業に参入。現在、東京と福岡で施設を運営する。

2018年1月に開業した秋葉原のホステルは、2段ベッドが並ぶドミトリーと個室を備え、個室の一部はスマホとAIスピーカーでカーテンや照明、空調などを操作できる「IoTルーム」になっている。

&hostel

秋葉原のホステルでは廊下の照明の色が、降水確率によって変化する。

スマホのアプリで共用シャワーの使用状況やラウンジの混雑具合を確認でき、AIスピーカーに「おやすみ」と話かけると、カーテンが閉まり、照明が暗くなり、 空気清浄機と空調が制御され、アロマの香りが放出される。

「インバウンド需要を意識し、秋葉原や浅草など外国人に人気の観光スポットを中心に展開しています。その分、近隣に同じ価格帯のカプセルホテルやゲストハウスがひしめき、選ばれるためには“面白い体験”ができることが重要」と梅本氏。ホステル全体の宿泊客の6~7割は外国人、稼働率は80%を超える。

ホステル運営は、アプリやシステム開発が主力事業の同社にとって、「消費者と直接つながれる場所」でもある。IoTルームでの機器利用データをデバイスメーカーと共同で分析し、機器やサービス開発のヒントにもできる。

2018年中に新たに3件のホステルオープンを計画するが、「ホステル事業をどんどん大きくしていこうというわけではなく、IoTでスマートホームやヘルスケア領域に進出するためのステップと考えている」(梅本氏)という。

台東区の職人とゲストをつなぐ

東上野

野村不動産が11月にホテルをオープンする上野エリアは下町の雰囲気が濃く外国人に人気がある。

「上野と六本木では、街の表情が全く違うでしょう。私たちが目指すのは、その地域の起点となり、ゲストと地域の人々をつなぐようなホテルです」

野村不動産がホテル業に進出するために2017年10月に設立した、野村不動産ホテルズ株式会社の塚崎敏英社長は自社のホテル像をそう説明した。

東上野

5月に開かれたノーガホテル上野のコンセプト発表会にはホテルと協力する職人たちも参加した。

同社は2018年11月、野村不動産にとって初めての自社ブランドホテル「NOHGA HOTEL UENO(ノーガホテル上野)」を東京・上野にオープンする。20平方メートル台のダブル・ツインの客室が中心で、客室単価は2~3万円。日本文化を楽しみたい外国人旅行客を主なターゲットにする。

ホテルブランドが打ち出すのは、「地域とのつながり」。開業準備に着手して2年余り、飲食店や工房など400軒を訪ね“台東区文化”の発掘を進めてきた。

レストランのグラスや客室のハンガー、靴ベラなどはホテル周辺の職人やデザイナーが手掛けたものを使用し、宿泊客に紹介する。コーヒー豆も、地域の店で焙煎したものを使う徹底ぶりだ。

塚崎氏は、野村不動産のホテル参入を、グループ全体と地域の価値を上げる事業と説明し、「その街にふさわしいホテルをつくりたい。そう考えるとある程度の時間が必要で、年間2~3店舗のペースで新規開業を進めていく」と話した。

ご当地文化楽しみたい外国人を徹底サポート

wbfホテル

WBFグループが7月、福岡・中洲にオープンしたホテルは、明太子やもつ鍋、焼き鳥など地元グルメ満載の朝食に加え、24時間のフリードリンクサービスを提供している。

旅行事業会社ホワイト・ベアーファミリーを中核企業とするWBFグループはこの数年、外国人の人気旅行先にホテルを積極開業。2018年は5月から12月までに北海道、大阪、東京、福岡、沖縄、京都で12軒のオープンを予定している。

福岡には2017年春に初進出。2018年は7月、8月と連続で新たなホテルをオープンし、1年で500室体制まで拡大する。

WBFリゾート沖縄開業準備室の児玉隆之氏は、福岡の市場について、「学会やスポーツイベント、人気歌手のコンサートがあると、ホテルがパンクする一方、イベントがない平日は稼働率が下がります。日本人のお客様にももちろん来てほしいですが、外国人は平日に泊まってくれる大事なお客様です」と話す。

wbfホテルフロント

博多織など「和」のデザインを取り入れたホテルWBF福岡中洲のフロント

7月1日に開業した「ホテルWBF福岡中洲」ではハード、ソフトの両面で「博多」を取り入れた。

壁とドアには博多織のモチーフをあしらい、朝食は明太子メーカーの3種類の食べ比べ、刺身、さらにはもつ鍋、もつ酢、焼き鳥などご当地グルメをそろえる。

同社の福岡の既存ホテルで宿泊客の7割を韓国人が占めることも踏まえ、中洲店では韓国人スタッフを3人採用。客室には外にも持ち出せるスマートフォンを設置し、端末を通じて観光情報やフロントからのお知らせを提供する。

外国人宿泊客から「使っているスペースは同じなのに、人数によって価格が違うのはおかしい」との指摘を受け、宿泊価格も近隣国のスタンダードに合わせて「1人あたり」から「1室あたり」に見直したという。

「レビューでは韓国語が通じる点が高く評価されたりもします。お客様のストレスを最小限にしつつ、海外に来たという実感を得られるバランスを考えています」(児玉氏)

2020年に主要8都市のホテルの客室は38%増加

CBRE

(左)CBREがまとめた都市別の今後のホテルマーケット。(右)WBFグループは積極的な新規出店を続けている(同社パンフレットより)。

CBRE日本本社によると、東京、大阪、京都、札幌、仙台、名古屋、広島、福岡の8都市では、2018年から2020年にかけ、ホテルの客室数が8万室増加する見込み。この数字には訪日外国人旅行者に人気の高いカプセルホテルやホステルなどの簡易宿泊所、民泊は含まれておらず、今後の競争激化は必至だ。

6月15日の民泊新法の施行で、民泊仲介サイトから予約できる物件数が大きく減っており、「民泊需要の高かった都市では、短期的にはホテルに宿泊客が戻り稼働率も高まる」(CBRE)一方、中長期的には、企業が民泊に参入することで、民泊物件数も増えていくと予想される。

CBREは、オリンピックが開かれる東京は2020年でもなおホテル不足が続くものの、京都や大阪では、供給が需要を上回ると見ており、「宿泊特化型のビジネスホテルであっても、体験の質を高め、ゲストに選ばれるための差別化が必要になる」と指摘している。

(文・写真、浦上早苗)

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