富士山新五合目より撮影。2018年の富士山の登山道開通期間は7月10日から9月10日まで。
KDDIは9月10日までの富士山の開山期間中、登山者数や温度、湿度などを見える化するサービス「ミエル フジトザン」を提供する。
ミエル フジトザンは昨年に実施した実証実験を経て、サービスを開始するもの。御殿場口登下山道、須走口登山道、宝永山馬の背など5箇所の通行人数、温湿度のデータが、期間限定の専用サイトで公開される。
IoTの力で富士山を「見える化」
KDDIの取り組みについて説明する中部総支社長の渡辺道治氏。
KDDI理事で中部総支社長の渡辺道治氏は「動態調査だけでなく、温湿度などの情報も加わることでより良いサービスを提供したい。服装の参考にしてもらえれば」と語った。
昨年の実証実験では、御殿場口登下山道で収集された登山者数などのデータから、登山道を訪れるが必ずしも頂上を目指すわけではなく、ハイキング目的の利用も多いなど、今後の観光施策に役立つ気づきもあったという。
昨年までKDDIが実施した富士山のIoT化に向けた取り組み。
通信システムには省電力で広域なエリアをカバーできるIoT向け通信技術「LPWA(Low Power、Wide Area)のひとつで、既存のLTE基地局網を利用するセルラーLPWAの「LTE-M」が採用されている。
あわせてセンサーの設置場所もより広い範囲に分散された。KDDIは今年1月からIoT向けに「LTE-M」による通信サービス「KDDI IoTコネクト LPWA(LTE-M)」の提供を開始しており、汎用性の高い仕組みを用いることで安定した通信を実現している。
渡辺氏は今のところ具体的な拡大プランはないとしながらも「日本百名山など、登山客の多い山はたくさんある。ゆくゆくは他の山への横展開もできればいいと思う」との抱負を明かした。
富士登山口「見える化」サービスの概要。
昨年の実証実験と今年提供されるサービスの違い。
なお、今回設置されているIoTセンサーは、赤外線の人感センサー、距離を測る超音波センサーとLIDAR(LIght Detection And Ranging)、温湿度センサーの4つで構成されている。
データは一旦メモリーに蓄積され、30分ごとにLTE基地局経由で送信される。電力はボックスの内外にセットされた単一乾電池から供給されるしくみ。
KDDI総合研究所スマートコネクトグループの宇都宮栄二さんによると、実証実験ではリチウムイオン電池も試したが、昼夜の寒暖差の大きい富士山ではバッテリーがもたなかったため、乾電池に切り替えたとのこと。単一乾電池16個で約1カ月の稼動を予定しているという。
登山道に設置されるIoTセンサーと、ウェブサイトで見られるデータ。
単一乾電池から電力を供給。外付けのものとあわせて16個の電池を使用する。
新五合目では悪天候時でも「晴天時の富士山」が見られる
Mt.FUJI TRAIL STATION内にある「VR View Scope」が設置されたコンテナ。
KDDIではあわせて期間中、御殿場市などが安全啓発や環境保全、教育、情報発信などの目的で富士山御殿場新五合目口にオープンする「Mt.FUJI TRAIL STATION」に、VR視聴機器「VR View Scope」を設置。
その名の通り、展望台などにある有料望遠鏡のような体裁の機器で、悪天候時にも新五合目口から見える晴天時の富士山のVR映像を楽しむことができる。
テレビ番組などではよく、ロケの際に悪天候でも晴天時の映像がインサートされるといった演出があるが、せっかく訪れたのに富士山が見られなかった人に、常設のVR視聴機器を用いて同様の体験を提供しようという試み。Scopeは左右270度に加えて上下に動かすこともでき、300円で約2分のタイムラプス映像を視聴できる。
「VR View Scope」を望遠鏡のように覗いて、新五合目から本来見える富士山を体験できる。
インバウンド向けの安全対策に翻訳ツールを導入
韓国語と日本語の音声通訳のデモンストレーションの様子。
このほか同施設や御殿場駅、山小屋、売店など9カ所には翻訳ツールを備えたタブレットも配置され、富士山を訪れる外国人旅行客とのコミュニケーションをサポートする。
翻訳ツールとして用いられるのは、KDDIが提供する「KDDI AI 翻訳」と、NICT(情報通信研究機構)の技術を活用した「音声翻訳」の2つ。いずれも英語、韓国語、中国語の3カ国語に対応し、前者にはあらかじめよくある質問の答えを登録しておくことで、質問に素早く対応できる。
「Mt.FUJI TRAIL STATION」のスタッフによると、昨年の多いときには訪問客の3~4割が外国人という日もあるとのこと。日本各地で訪日外国人需要が高まる中、世界遺産登録5周年を迎える富士山。翻訳ツールの用意に加えて、実際に手にとってもらうためどうするかも、あわせて試行錯誤していく必要がありそうだ。
「KDDI AI 翻訳」ではあらかじめ回答を登録しておくこともできる。
「音声翻訳」では、バスの時刻表や地図などを表示しながら説明できる。
(文、撮影・太田百合子)
太田百合子:フリーライター。パソコン、タブレット、スマートフォンからウェアラブルデバイスやスマートホームを実現するIoT機器まで、身近なデジタルガジェット、およびそれらを使って利用できるサービスを中心に取材・執筆活動を続けている。