ファストファッション冬の時代象徴するH&M銀座店——“安く”だけでない消費者の変化

ファストファッションブランドの代表的ブランドであるH&M銀座店が今日7月16日、閉店する。

H&M

銀座7丁目に日本1号店としてオープンしたH&M銀座店。10年の賃貸契約を更新せず、閉店を決めた。

撮影:今村拓馬

2008年9月13日に日本1号店としてオープンした際には、徹夜組を含む5000人が銀座7丁目の店舗前から銀座中央通りに収まり切れず、昭和通りを経由して晴海通りまで伸びるという、まさに銀座の半分をぐるっと囲む長蛇の列ができた。

当時、アパレル専門店として世界NO.1の売上高を誇っていたスウェーデン発のH&Mへネス&マウリッツの日本上陸は、「黒船上陸」だった。テレビCMや交通広告を大々的に打ち、オープン前日のパーティでは、人気モデルなどが「こんなに安いのに全然チープに見えない!」と喜々として買い物を楽しむ姿が報じられ、注目を集めた。

H&M銀座店オープン

H&M銀座店が開店した2008年9月13日には5000人を超える行列ができ、終日入店規制がされた。30度を超える真夏日で、行列の先頭客には傘がプレゼントされ、銀座中央通りの半面を埋め尽くした。

撮影:松下久美

ラグジュアリーブランドを彷彿とさせるスタイリングやセンスの良いカラー別の商品陳列、サイズ展開の豊富さ、そしてなんといっても百貨店アパレルの半分~3分の1といった価格の安さ。単に安いだけでなく、実際の価格よりも高く見えたことが熱狂に拍車をかけた。そこにはファッションへの情熱や渇望があふれ、一種のパワースポット的なエネルギーを発揮していた。

「安い、(トレンドや新商品の投入・回転が)速い、(そこそこ)オシャレ」というファストファッションは、2日後に起きたリーマン・ショックによる世界的不況の影響もあり、ブームに。2009年上期の「日経MJヒット商品番付」の西の横綱にも選ばれた。

ギンザシックスで人の流れが変わった

銀座の街並み

ギンザシックス開業で人の流れが変わり、松屋から三越伊勢丹、ギンザシックス、ラオックスまでが一番人通りの多い好立地となった。H&Mはそこから数十mながら外れる場所に。

撮影:今村拓馬

あれから10年。H&Mは日本全国で80店舗以上を展開、売上高も2017年11月末で620億~630億円にのぼる。世界有数の高家賃で知られる超一等地の銀座店は、アジアや世界に向けた宣伝広告の役割があり、1店舗単体で利益を上げているブランドや店舗は数少ない。

H&M銀座店の売り場面積は1000平方m、3000平方m級の渋谷店や新宿店などの旗艦店に対してかなり狭く、フルラインナップの商品を扱い、ブランドの世界観を表現するには手狭だった。しかも地下1~地上3階の4フロアあり、ワンフロアが小さい分、人員配置やオペレーションなどで高コストになっていた。

2017年4月に開業したギンザシックスの影響も大きかった。ルーカス・セイファートH&Mジャパン社長は、「ギンザシックスの開業で人の流れが変わり、トラフィックが減少した」と説明する。かつて銀座8〜9丁目に一時停止してインバウンド客などを降ろしていた観光バスも、今はギンザシックス内にバス乗降所ができたため、そこから銀座4丁目など京橋方向に人が流れるようになり、H&Mの店前交通量や入店客数が減少したというのだ。

10年間の賃貸借契約の更新時に再契約をしないと決定したセイファート社長は、「銀座は世界的にも重要な立地であるため、今後はECとの連動やリアル店舗のみで体験できるデジタル施策やサービスを提供できる新型店舗として、いつか再出店したい」と想いを明かす。

10年で競合激化、日本撤退ブランドも続々

フォーエバー21開業

2009年4月に日本1号店を原宿にオープンしたフォーエバー21には1200人が行列。マスコミの報道も加熱していた。

撮影:松下久美

ファッション業界を取り巻く環境や、生活者のマインドや消費行動に大きな変化が出ている。とくにファストファッションへの影響は著しい。

2006年にユニクロの妹弟ブランドとしてスタートしたGUは、2000年代後半には990円ジーンズなど低価格をアピールする一方で、前田敦子やきゃりーぱみゅぱみゅ、ローラなどを起用してファッション性をアピール。ガウチョパンツのようなメガヒット商品も登場した。

ファーストリテイリングの人的・資金的な基盤もあり、急激な出店攻勢をかけ、10年強で売り上げ2000億円へと急成長させた。だが2017年に打ち出したよりトレンド性を取り入れるモード化プロジェクトが失敗し、売り上げが失速。既存店売上高が(前年同期比で)マイナスとなり、2018年6~8月期には赤字になる公算が強いという。

やはり2009年4月に原宿に1号店をオープンさせ、ファストファッション熱狂の象徴でもあったフォーエバー21も旗艦店である原宿店を2017年10月に閉店させている。日本にはあえてヘッドクオーターを置かず、米本国からのディレクションで店舗を運営してきたが、きめ細やかなローカル対応ができず売り上げが伸び悩んでいた。

一時は“聖地”とまで言われていた原宿店だが、新宿、渋谷、池袋、心斎橋などのターミナル立地などに比べて店前交通量が少なく、夜の客足も少ないわりに家賃が高かった。ダイバーシティ東京プラザ内のお台場店や、ららぽーとTOKYO BAY内の船橋店なども相次いで閉鎖しており、不採算店や低収益店舗を整理している。

FORWVER21

消費者の志向の変化で、ファストファッションは厳しい時代を迎えている。

Tupungato/shutterstock

英アルカディアグループ傘下のトップショップに至っては、2015年1月31日に突然、日本の全5店舗を閉鎖。投資ファンドのJBFパートナーズとラフォーレ原宿などを展開する森ビル流通システムがそれぞれ65%と35%を出資し、2008年10月に合弁会社T’s(ティーズ)を設立し、日本で独占販売を行っていたが苦戦。やはり日本に密着したローカライズができず売り上げが伸び悩んだ。違約金を払っても早期撤退したいと、直前になってデベロッパーに閉店の通達を行い、混乱を引き起こした。

ギャップ傘下のオールドネイビーも、2012年7月にダイバーシティトウキョウに日本1号店を出店したが、2016年5月に日本からの完全撤退を発表し、2017年1月に最後の店舗を閉店している。ショッピングセンターの準核テナントとして4年で全国に53店舗を出店したものの、H&M、フォーエバー21、GUなどとの競争に勝てなかった。

ネット専門ブランドの台頭

ザラやフォーエバー21、しまむら、GUなどファストファッション内だけでも競争が激化している以上に、じわじわと影響を受けているのは、ネット専門ブランドの台頭だという。

夢展望、アンティカといったネット専門ブランドはもともとリアル店舗を構えないため、出店経費や販売員の人件費など固定費が安いだけでなく、売れ筋のデータなどを活用しながらヒット商品を大量に販売できる。リアル店舗型ブランドに比べて価格も安く抑えられたり、同じ価格でも原価率を高められる。さらにネットを活用した効率的な広告宣伝やCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)ができるなど、リピーターもがっちりとつかむことができている。

ファストファッションブランドもECを強化しているが、ネット専門ブランドに比べて価格競争力に劣る。グローバルブランドであれば、日本向けのきめ細やかなスタイリング画像や商品説明などもできない。リアル店舗とネットを融合したオムニチャネル型のサービスや利便性の提供なども、道半ばだ。

品質へのこだわり、少しでも長く着たい

ユニクロ

機能性素材などで知られるユニクロの業績は好調だ。特にベーシックアイテムはさらに勢力を強め、国内のみならず海外でも売り上げは堅調だ。

撮影:今村拓馬

それ以上に、生活者のライフスタイルや消費購買に対する意識の変化が大きな影響をもたらしている。スマホの登場で、より多様な買い方ができるようになっただけでなく、東日本大震災を境に、生き方や持ち物に対する意識が大きく変化を遂げているのだ。新品を買うよりも、古着や中古品を買うことに価値を見出している人々も多い。

ファストファッションはトレンド性の高い商品をワンシーズンなど短期間だけ着ても十分に元が取れる価格設定が受けて人気となった。けれども、環境問題やサステイナビリティに対する意識が高まり、安いものを買ってすぐに廃棄してごみを増やすよりも、少し高くても長く着られる服に投資をしようと考える人が増えている。

今回、H&Mの銀座店閉店をスクープし、筆者の古巣の「WWDジャパン」に執筆したところ、ヤフートピックスでも取り上げられた。集まったコメントからは、品質へのこだわりが高まっていることが伺えた。とくに素材そのものについての要望が多く、H&Mについて「生地がペラペラ」「何度か着用しただけでダメになる」といったコメントが多くみられた。機能性素材などで知られるユニクロの業績が好調なのもよくわかる内容だった。

ファッションに対する情熱の低下

丸井とエアクロ

シェアリングエコノミーがファッションの分野でも拡大中。エアクローゼットは丸井グループと組んだ。

撮影:松下久美

ファッションに対する相対的な情熱も低下している。着るものよりも、おいしい食べ物や旅先の景色など、インスタ映えをする体験にお金をかける傾向が強まっているのだ。洋服よりも、本人そのものの美や健康を追求し、スポーツをしたり、ネイルやヘアに時間とお金を費やすケースも増えている。

経済合理性を追求したシェアリングエコノミーの台頭もあるだろう。借りることで、身軽に新しいファッションとも出合える。ファッション業界でも2015年からエアークローゼットやラクサス、メチャカリなどがサービスの提供を始めた。

ファッションレンタルサービス大手のエアークローゼットは7月14〜16日、丸井グループとシェアリングエコノミーを軸にした体験型イベントを有楽町マルイ1階で開催。来店すると、同社のスタイリストによるパーソナルスタイリングを体験できるというもの。天沼聰エアークローゼット社長は「インターネットを中心にサービスを提供しているが、コアにあるのは体験。スタイリング体験をしてもらった顧客はリピート率が圧倒的に高い」と指摘。

パートナーである丸井グループの青木正久執行役員新規事業推進部長は、「利用、使用ニーズが拡大する中で、顧客ニーズに応えられていなかった。シェアリング市場の醸成に向けて資産を活用したい」と話す。2018年にはシェアリングサービスについての専門チームを立ち上げた。エアークローゼットとはエポスカードで提携。モノを直接売らない売り場として体験など新しいサービスを提供しつつ、グループのフィンテックサービスとの相乗効果で、新しいビジネスを創造したいとしている。

メルカリで売ることを想定して購入

メルカリ

メルカリの台頭は、転売を前提とした購買行動が起きるなど、新しい買い方、選び方を生み出している。

撮影:今村拓馬

メルカリの登場も大きい。年間取扱高はゾゾタウン(ZOZOTOWN)の2700億円を上回る、3000億円超に達しようとしているメルカリの台頭で、服を買う基準も変わっているのだ。新品を買うときには、「メルカリで売ることを想定して、ブランドの実勢価格や人気を調べてから購入」という“新しい買い方”が急増。

高価なブランド品でも、メルカリで人気のブランドならすぐに転売できる、という心理が働くようだ。

実際、人気アイテムならシーズンに何度か着用して、そのシーズンのうちに売却すればほぼ値下がりしない、あるいは、購入時よりも高値で取引されることもある。その売却益を元手に、また新しい商品をブランドの正規ショップかメルカリ内で買うような消費行動が当たり前になっている人も多い。

とはいえ、ファストファッションブランドも手をこまねいていたわけではない。より生活者に近づくように出店政策を変更したり、ECを強化するなどしてきた。ファッション初心者や可処分所得の少ない若者、ファミリー層、逆に自分で商品を選ぶ目を持つファッション上級者などから頼りにされていることも事実だ。

まずは、あまたあるブランドやストアの中から、買うに足る「マイストア」として意識してもらうことが必要不可欠だ。そして単なるブランドイメージではなく、実際の商品のクオリティや取扱い商品のバリエーションの広さ、買いやすさなど、ブランドの真の姿を知らしめることが、ファストファッション受難時代を生き抜く道につながりそうだ。


松下久美:ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表。「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。2017年に独立。著書に『ユニクロ進化論』。

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