なぜ「現場に不評な基幹システム」ができ上がるのか? —— 物流現場の声を聞いて見えた「現場AI」の姿

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パロアルトインサイトCEOでAIビジネスデザイナーの石角友愛です。今回は、私たちがAI実装を手がける中で学んだ、一番大事にしている教訓である「現場AI」を作ることのお話をしたいと思います。

弊社では業界横断的にクライアントの経営課題をAI技術を使って解決するプロジェクトを行なっています。

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あるクライアントと話をしていると、システム会社が作った基幹システムと現場スタッフの作業内容に乖離があることがわかってきました。

例えば、その会社の基幹システムは受発注などの作業を自動化するものですが、導入はしたものの、流通現場のスタッフは使いこなしていませんでした。

実際に私たちが流通現場に足を運び、どのように現場の人が作業をしているかを見ていると、基幹システムが吐き出す出力値を手作業で入れ替えている人がいました。話を聞いてみると、「あの取引先は午前中に届けないとうるさいから」とか「毎週水曜日はあの道路は混むから避けたい」 といった、現場感が満載のインサイトから独自の作業をしていたのです。

なぜ「使われない基幹システム」ができあがるのか?

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流通業界などで「作業時間の最小化」や作業員の「移動距離の最小化」といった課題は機械学習の分野でも長い間取り扱われています。その代表的な学術的アプローチが「最適化」と呼ばれるものです。

最適化とは、簡単に言うと目的関数を定義して、その関数の最大化もしくは最小化を目指すアプローチを指します(流通の例で言うと、目的関数は作業員の移動距離となり、ゴールはその移動距離の最小化となります)。

そのため、流通分野で多く提供されている基幹システムなどでは、このような手法で作られたモデルが搭載されていることが一般的です。

しかし、その現場の声やインサイトを汲み取っていない基幹システムでは、本当の「ペインポイント」(苦痛を伴う課題)が解決できていないことがあります。今回のケースもそうで、だから私たちは今、その解決のために新しい機械学習モデルの実装をしているというわけです。

興味深いのは、このような現場の課題を見ていると、一般的な流通業界での解とされる「最適化」ではなく、ランキング学習(※)などの、全く別の業界で使われる手法の方が現場の声を反映したアルゴリズムになるとわかりました。

この事例からの学びは、現場にはシステム設計者が考慮できていない“変数”が数多くあるということです。

しかし、アナログ的な作業を置き換えることこそ、現場をAI技術でサポートする「現場AI」の本質があります。現場の課題やペインポイントが解決できていないと感じたら、表面的な判断基準を一切取り払い、改めて最適解を見つけていく。だからこそ、一見AIとはかけ離れていると思われがちな業界の人こそ、AI活用をお勧めしたいと思っています。

※ランキング学習:検索エンジンなどの分野で使われる、物事や商品のランキングを学ぶ技術のこと

賢い「現場AI」をつくるにはコツがある

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最後に、私たちが「現場AI」を作るときに心がけている3つのことをまとめました。これからシステムへのAI活用を考えている方はぜひ参考にしてください。

その1:とにかく現場に行って話を聞く

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まず、現場のトップの意見だけを聞いて要件定義をしないこと。必ず現場の末端スタッフにも話を聞いて、彼らのペインポイントを注意深く洗い出すことが大切です。

現場というのは何も物理的な場所で作業している人だけではありません。対象となるチームが、どんな風に現在仕事をしているか、その既存ワークフローやプロセス、プロセスを形成するに至った判断基準を洗い出すことから、現場AIの設計は始まります。そして担当者に質問をどんどん投げかけることも欠かせません。

その2:まずは「シンプル」で「及第点」な解を作る

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イノベーションのジレンマで有名なハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が良く言っていることですが、技術的革新のスピードは、消費者(エンドユーザー)がその技術を使いこなせるようになるのにかかる時間より速くなるケースが多いのです。そのため、結果として多機能型の複雑な基幹システムも全てを100%使いこなせるユーザーはほとんどいないと思われます。

ですから、今後どんどん増えてくると予想されるのが、現場の課題の一部をまずは極めてシンプルに解決する方法を生み出す、Good Enough(十分)な解をスピーディに提供するソリューションやツールたちです。ここで大事なのが、Good Enoughというのはこの場合悪い意味ではないということです。なぜなら、ピンポイントな現場の課題を解決することが目的の場合、美しいUIや高機能&多機能型パッケージ型ソリューションなどは必要ないからです。私たちが作るものも、現場の課題を解決するピンポイント型のAIモデルであることはそのような理由が挙げられます。

その3:確立された手法にとらわれない

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「現場AI」とはすなわち現場実装の最適解を考えることでもあります。現場では予期せぬ制約条件やニーズが出てくることがあります。そのときに、手法ありきで課題抽出や要件定義をすると見落としてしまうことがあるため、技術的手法にこだわらずに要件定義をする必要があります。

例えばデジタルマーケティング業界などでAI活用というと、ある程度確立された手法があります。しかし、あえてそこから入るのではなくまずは現場検証、そして現場にフィットした最適解をクリエイティブに生み出す、というやり方で行うことが大事です。

これまではアルゴリズム化が難しいと思われてきた職種や現場が培ってきた経験値やノウハウ。そこにAIが入っていくことは、産業として大きなポテンシャルを秘めています。最先端のAI技術が融合することで生まれる成長のチャンスに、私たちは大きな可能性を感じています。

(文・石角友愛)


石角友愛/Tomoe Ishizumi:2010年にハーバード経営大学院でMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAIプロジェクトをリードし、AIを活用した職業マッチングサイトのJobArriveを起業。2016年に同社を売却し、流通系AIベンチャーを経て2017年にPalo Alto Insightを起業。

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