急成長に翳りのネットフリックス。エミー賞でテレビ越えの一方で、契約者は頭打ち

Netflx社屋

ネットフリックスの急成長にやや陰りが見えてきた。

REUTERS/Lucy Nicholson

米動画配信大手ネットフリックス(Netflix)が、過渡期を迎えている。

7月12日、ネットフリックスは米テレビ業界の度肝を抜いた。

第70回エミー賞のノミネート作品が発表された日だった。テレビ黎明期の1949年に設立され、テレビドラマとその技術に贈られてきたテレビ界の「アカデミー賞」だ。

ところが、2018年のノミネート作品数はネットフリックスが112作品と、「セックス・アンド・ザ・シティ」で有名なドラマ専門局HBOの108作品を抜いて、初めてトップとなった。HBOはこれまで17年間、ノミネート数で首位だった。テレビ放送網を使わずに視聴者が楽しんでいるオンライン・コンテンツが、ノミネート段階といえどもテレビをしのいだのだ。番組の量と質で視聴者の目を50年以上奪ってきたテレビ業界には屈辱的な日だっただろう。

一方で、直後の7月16日発表した第2四半期決算(4―6月)は、オリジナル番組の大量配信開始にもかかわらず、アメリカと海外での契約者数の伸びが共に予想を下回り、株価は決算発表をした引け後に14%急落した。

ネットフリックスが、成熟期に達しているのは間違いない。

若い世代がテレビの話をしているのを聞かない

ラップトップでNetflixを見る人

従来のテレビやケーブルテレビと入れ替わるように普及するネットフリックス。

Getty Images

決算によると、アメリカの契約者数は、6月末までで67万人増の約5700万人と、テレビ視聴世帯1億1900万件(ニールセン推計)のざっと半分に達している。しかし、多くのミレニアル世代は、一つのアカウントを数人の友人や家族と共有しており、実際の視聴者数は5700万人をはるかに超えているのは確実だ。

筆者は日々接する若い世代が、テレビドラマの話をしているのを、過去2年ほど聞いたことがない。誰かが「感動して涙が出た」「病みつきで、一晩で12話を一気に見た」と話していれば、それはネットフリックスの話だ。それを聞いた友達が、同じものをネットフリックスで見る。テレビと違って「見逃し」がないため、さらに視聴数が増える仕組みだ。この2年間の話題は、もっぱらSFドラマ「ストレンジャー・シングス」と10代の自殺の問題に正面から取り組んだ「13の理由」だ。

コンテンツへ9000億円以上を投資

ネットフリックスの月額契約料は最低7.99ドル。それに対し、テレビ放送を見るために契約しなければならないケーブルテレビや衛星放送は月額100ドル前後に達するため、若い世代はケーブルテレビなどをもはや契約しない。ちなみに若い中間所得層が中心の筆者のアパートビルでは、24世帯のうちケーブルを契約しているのは筆者だけだ。屋上に地上波受信のアンテナもないため、恐らく皆オンラインで、何らかの番組を見ているに違いない。

さらに驚かされるのは、ネットフリックスの作品への投資額だ。2018年は約80億ドル(約9020億円)を作品制作と世界のコンテンツ買収に投資すると発表。ネットフリックスに接続する度に、世界中からのあらゆる作品が新規公開されており、日本のアニメーション作品も重要な位置を占める。

ちなみにエミー賞にノミネートされた主な作品は、以下の3作品だ。

1.「ザ・クラウン」

「ザ・クラウン」Netflix

エミー賞で展示されたネットフリックス作品「ザ・クラウン」シリーズの衣装。

REUTERS/Lisa Richwine

英エリザベス女王の女王就任前からを追ったドキュメンタリータッチのドラマ。女王としての立場を理解しかねる夫エジンバラ公や妹王妃との葛藤がサスペンス調で、米Business Insiderも「週末見るべきネットフリックスのノミネート作品」のトップに上げている。

2.「ゴッドレス」

英ITVのヒットドラマ「ダウントン・アビー」で戦前から戦後の伯爵家長女をエレガントに演じていた女優ミッシェル・ドカリーが、そばかすだらけの米西部の牧場主として主演し、筆者も「こんな大物を使ったのか」とびっくりした。治安の悪い西部開拓時代を、非情な性格と判断で切り抜けていく。

3.「オザーク」

マネー・ロンダリングに失敗し、メキシコの麻薬王に借りを作った金融マンが家族を引き連れて、田舎に引っ越したところ、さらにローカルなスキャンダルに巻き込まれ、マネー・ロンダリングを続けるエピソード。

デニーロとアル・パチーノが共演

筆者が住むニューヨーク市クィーンズ区の歴史保存地区でこの春、映画ロケのための駐車禁止告知を見た。題名で検索すると、「タクシー・ドライバー」などの巨匠マーティン・スコセッシ監督が、ネットフリックスで2019年公開予定の映画「アイリッシュマン」を撮影しているということで驚いた。

米メディアによると制作費1億2500万ドル超で、ハリウッドでの制作交渉が難航したため、あっさりネットフリックスにプロダクションを譲った。主演は、ロバート・デニーロとアル・パチーノだ。この大物らの映画が、映画館ではなく、ネットフリックス限定で見ることになる。

この太っ腹の資金力に注目しているのは、スコセッシ監督やデニーロだけではない。米メディア報道を見ても、名だたる監督や俳優が皆ネットフリックスのために制作するか、出演を願っている。テレビや映画に出演したいという時代は、まさに終わった。

オンライン配信競争は激化

しかし一方で、第2四半期決算によると、アメリカの契約者数の伸びは67万人と、トムソン・ロイター予想である119万人を大幅に下回った。ロイター通信によると、海外の契約者数の伸びも3カ月で447万人で、アナリスト予想の497万人に及ばなかった。全世界の契約者数の伸びは約520万人で、予想を約100万人下回った。

ディスプレイに映る「Netflix」のロゴ

右肩上がりの成長も、そのスピードには陰りが出てきたNeflix。

REUTERS/Mike Blake

契約数の頭打ちを見て、成長に陰りが出たという見方が広がり株価下落につながった。

ただ、リード・ヘイスティングス最高経営責任者(CEO)は、契約者の視聴時間(中央値)は依然として伸びているとし、「ファンダメンタルズはこれまでになく強い」と述べている。また、ストリーミング配信収入自体は、より高い契約パッケージへの切り替えもあり、前年同期比で43%上昇している。

大きな懸念は、オンライン配信業界の競争が激化していることだ。ネットフリックスの牙城ではなくなり、アマゾン・プライム、YouTubeも急成長しているほか、アップルがテレビ最大手CBSと共同制作した「カープール・カラオケ」(YouTube配信)もエミー賞で初めてノミネートされた。いずれも、制作費には糸目をつけないオンライン企業が競争相手で、その影響が出始めているのは明らかだ。

ネットフリックスが契約数の成長を頼りに、制作投資を増加させていくビジネスモデルがいつまで通じるのか、真剣に捉える時が来ている。(文・津山恵子)

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