Getty Images
7月、ブロガーで作家のはあちゅうさんが結婚を発表し、Twitterでトレンド入りを果たすなど、注目を集めた。そして、事実婚という形態を選択したことにも注目が集まった。はあちゅうさんのTwitterによると、本人同士の意思確認だけではなく、区役所での手続きもとったようだ。
「事実婚って手続きあるの?」って結構聞かれるので書いておきますね。区役所で職員さんがお互いの本籍地に電話して、独身であるかどうかを確認し、確認後、住民票の続柄に妻(未届)という記載をつけてくれました&保険証の世帯主氏名に彼の名前が入りました。証明書とかは特にないみたいです。
— はあちゅう (@ha_chu) 2018年7月15日
戸籍法による婚姻届を出す法律婚と異なり、婚姻届を出さずに事実上の結婚生活を送る事実婚。手続きは一般的には必要ないが、はあちゅうさんのように、住民票を届け出ることで、一部の社会的なサービスが受けやすくなることもある。
果たして、日本全国に事実婚のカップルは何組いるのだろうか。人口動態統計では婚姻届を出した法律婚の件数は明らかになっているが、事実婚の実際の件数について、明確な調査がないのが現状だ。
筆者は「家族留学」という、若い世代に向けた子育て家庭への体験訪問プログラムを提供している。参加希望者と面談した際には「一生同じ人を愛せる自信がない」という不安感から、既存の結婚制度に対して疑問をなげかけるような話も度々耳にする。また、事実婚家庭への家族留学を希望する方もいた。
そのほかにも普段から、20代前半の同世代の友人から、既存の結婚制度に対する疑問を耳にする機会も多い。人間がこれまで維持してきた結婚制度よりも、事実婚を支持する若者は何に魅力を感じているのだろうか。
世間体を気にして結婚するも離婚はできない
「結婚=人生のゴール」と考える人は未だに多い(写真はイメージです)。
Getty Images
実際に、事実婚に対して前向きな若い世代に聞いてみた。大学1年生のゆいさんは、できることなら事実婚がいいと語る。
「結婚はいいんですけど、もし離婚とすると戸籍に傷がつきますよね。それが理由で、別れたいと思っても別れられなくなるのは嫌だなって」
ゆいさんは、専業主婦だった母親が離婚したくても、社会からの目を気にして耐えてきた姿を見て育ってきた。金銭的な面だけではなく、この「離婚」というハンコを押されたくないという気持ちが、別れの足かせになるのだ。
「届け出とかは出さずに、結婚式をして、一緒に暮らす。それ以上のことはしなくていいかな」
デザイン会社で働くなおさん(26)は、周囲に多様なジェンダー観をもつ友人が増えてから、結婚制度に疑問を持つようになったそうだ。
「ポリアモリーと呼ばれる、同時に複数の人と恋愛関係を結ぶ友人ができて。多様な恋愛の形があるのに、一夫一婦制で一生同じパートナーと付き合うという形しかないことに違和感をもつようになりました」
「恋人だと、3年付き合えば『長いね』と言われる。でも、結婚したら30年、40年一緒に居続けて当たり前っておかしい」
恋愛と結婚の間にある、急激なジャンプアップにも違和感があると言う。そんな、なおさんも、もし可能ならば事実婚がよいと語る。とはいえ、現状の日本の状況では「結婚したいタイプ」だそうだ。
「世間体を気にしちゃう。周りの友人たちも、結婚が人生のゴールだと思ってる。結婚しないと欠陥があるみたいにとらえられるんじゃないかなって」
法律婚という「人生の重し」
一方で、このような事実婚に肯定派の人はまだ少数派だ。2016年に婚活サービスを提供するIBJが行った調査でも、男女ともに過半数が「(事実婚を)認めるが、自分はしたくない」と回答した。特に女性が77パーセントと、男性の55パーセントを大きく上回った。
ゆきさん(23歳・大学院生)は「そういう形があってもうまくいくならいいと思う」としたうえで「やっぱり普通の結婚がいい」と話す。
「子育てとか介護とかで家庭内で問題が起きたとき、責任がくるのって女性かなって。法律で守られていた方が安心」
「あとは浮気防止も」と最後に本音ものぞかせた。
事実婚に関する議論の際には、夫婦別姓や社会的サービス、財産分与などの物理的な側面が強調されることが多い。しかし、23歳の筆者の周囲では、精神的な理由で事実婚を望む声が大きいように感じる。
離婚のハードルの高さに対しるリスクヘッジとして事実婚を選択する人もいるようだ(写真はイメージです)。
Getty Images
法律婚をすると周囲の目を気にして離婚できなくなるから、事実婚がいいと言うゆいさん。事実婚だと周囲の目が気になるから、本心では事実婚を望みながらも、法律婚がいいと言うなおさん。
彼女たちの考える結婚には常に周囲の視線が付きまとう。「結婚」は、一生その人と添い遂げるという契約であり、それを破った時に注がれる、周囲からの強い否定の視線が何よりも怖いのかもしれない。
だから、結婚はしたいけれど、もし別れて「離婚」という大事になることを考えると、怖くて踏み切れない。事実婚であれば、万が一離婚しても、許される感じがするのだろう。
どんなに愛し合い結婚したとしても、人生のフェーズが変わり、別のパートナーといる方が、お互いの幸せのためになることもあるだろう。結婚前は関係が良好でも、家庭内暴力や金銭面でのトラブルが出てくることだってある。そんな時「離婚したっていい」というそんな寛大な雰囲気があるのだと思えれば、法律婚も悪くないかもしれない。
しかし、日本において、結婚して一生を添い遂げることが美徳であるというこの強い同調圧力や、「こうあるべきを外れることへの恐怖」が変わることはそう簡単ではない。多くの人が人生で一度ぐらいは「結婚」へのしんどさを感じたことがあるのではないか。それでも、その疑念に目をつぶって、マジョリティーに支持される制度に乗っかった方が、楽ではある。
ただ、そんな「こうあるべきの恐怖」や同調圧力への違和感が、事実婚をより魅力的に見せているのかもしれない。
新居日南恵(manma代表): 株式会社manma代表取締役。1994年生まれ。 2014年に「manma」を設立。“家族をひろげ、一人一人を幸せに。”をコンセプトに、家族を取り巻くより良い環境づくりに取り組む。内閣府「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」・文部科学省「Society5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会」有識者委員 / 慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科在学。