夏休みが最大の「小1の壁」。不安感じる共働き親は75%——会社に望むことの1位は

猛暑の中、7月も後半戦に差し掛かるにつれ、私の心は重くなっていく。 Business Insider Japan編集部で、記者・編集者として働く私は共働きで6歳と3歳の2人の子どもがいる。配偶者の帰りは毎日、遅い。

心の重しの理由は、仕事と同時並行で時には土曜を含め週5日はワンオペ(全てを一人で回す作業)で家事育児という日常生活に加え、この春に小学校1年生になった息子の夏休みが、いよいよ始まるからだ。

夏の子ども

多くの小学校で、7月第4週は夏休みに入る。

GettyImages

「いっそ夏休み、なくなれば」

子どもの頃は夏休みがあんなに待ち遠しかったのに、母親になった今、小学校の夏休みはむしろ恐怖だ。

不安の始まりは7月早々の昼間に(仕事を抜けて参加)、冷房の効いていない小学校の体育館で行われた保護者会だった。

ホチキスで留めた紙のプリント資料が配られ、1学期の振り返りと、夏休みの生活の心得が学校側から説明される。自由研究、ワーク、絵日記、アサガオの観察記録と多岐にわたる宿題を、遊ぶこと以外に集中力のない息子がこなせるのかも、1カ月以上にわたる長い夏休みを、学童保育に預けっぱなしで果たして乗り切れるのかも、とにかく何から何まで不安になってくる。

保育園時代はよかった。保育園は働く親の全面的な味方。子どもだけがこんなに長く休む、ということ自体が初めてなので、尻込みしてしまう。

その不安は決して私だけではない。ここのところ、苦笑いまたはため息混じりの「お弁当始まるね」が、親同士の挨拶がわり。給食がない夏休みは、学童保育に持っていく弁当作りが、親の最大の憂鬱のタネなのだ。

「いっそ夏休み、なくなったらいいのにねえ」

保育園から小学4年生まで、3人の子どもがいるワーキングマザーの知人は冗談半分、本気半分で言う。

「小1の壁」に直面してクラクラ

小学生男子

小学校入学で、働く親も子どもも、生活は混乱しがち。

撮影:今村拓馬

そもそも小学校入学時から、息子も私も生活が混乱したまま、1学期が終わろうとしている。

息子がつたない字で書いてきた連絡ノートを読んでも、何が書いてあるのか分からない。かなくぎ文字で「し(宿題の意)・ながいおと」などと書かれている。「ながいおと」とは、何なのか。書いた本人からして、どういう意味なのか分かっていない。

LINEでつながっている同じクラスの子どものママに確認して何とか難を逃れても、今度はこれまで書き直しになった宿題の再提出を一切、息子がしていないことが判明したりしてクラクラする。

保育園時代なら、分からないことは親が直接、園に聞けばよかった。小学校になった途端、コミュニケーションは基本、子ども頼みなのだ。

そして小1男子は、想像以上に頼りない。

消しゴム、筆箱、計算カード、黄帽など、ことごとく持ち物がなくなる。どこに忘れたのか親子共々、分からない。それなのに、クラスメートの音楽の教科書、定規などをなぜか持ち帰り、返していないことが問題になったりする。気づいていない自分にも、ガックリする。

噂には聞いていた「小1の壁」に、もろ、ぶち当たってしまった。

小1の壁とは:小学校への進学に伴い、親の仕事、子どもの成長度合い、環境の変化により、保育園時代よりも働く親が、仕事と子育ての両立がしづらくなること。

こんな調子のまま、夏休み。学校は夏休みとはいえ、親は変わらず仕事をしているのだ。膨大な宿題を、いつ見ればいいのだろう。

「そのうち、1日中学童にいるのを嫌がるよ」と、すでに夏休みを経験している親たちからは聞くが、いざ学童に行くのを嫌がったら、どうしたらいいのだろう。プログラムが充実した民間の学童に通わせているが、朝から晩まで預けたら、一体いくらになるのか。まだ計算していない。

7割超が夏休みが不安

夏休み不安。

出典:スリールの「小1の壁についての緊急アンケート」

小学生をもつ親の75%が「小学校の夏休みへの不安がある」——。

女性活躍のコンサルなどを手がける人材育成企業のスリールが実施した「もうすぐ夏休み!緊急小1の壁アンケート」(インターネットで実施、160人回答時点の集計。現在もアンケート実施中。)によると、こんな実態が明らかになった。

「今年の夏休みの過ごし方」は、8割が「通常、通っている学童で過ごす」と答え、ダントツで1位だった。続いて、サマースクールなど単発のイベントに参加する、親戚の家などで過ごすが3割前後と続く。回答者が首都圏や共働き家庭が多いとはいえ、「親は仕事で子どもは学童」スタイルは、現代の夏休みの一つの典型といえそうだ。

夏休みに代表されるような、小1の壁の何が問題なのか。

それは、小学校の仕組みが共働きを前提にしていないことで、仕事と子育ての両立がより困難に感じるということだ。せっかく保育園で乳幼児期を乗り切った子育て社員が、子どもの小学校入学で心が折れて転職や離職といった選択をするケースが少なくない。同アンケートでは、4人に1人が「小1の壁が原因で、転職など働き方を検討した」と答えている。

「小学校入学前より両立が大変だと感じる理由」については、「持ち物・宿題・勉強サポート」及び「春休み・夏休み対応」がそれぞれ7割超。基本的に、家でのタスクは生じなかった保育園時代とのギャップは著しい。

さらに言うと、小1の壁の問題は、職場に理解されづらい。スリールのアンケートでは、こんな声が相次ぐ。

・「もう小学生なんだから」と、思わないでほしい。
・子どもが小学生になると子育ては楽になると思われ、仕事量や期待が高まる。期待には応えたいが、保育園時代とは別の大変さが生じることを理解してほしい。

社員の「小1の壁」への処方箋

では、働く親はどんなサポートを望んでいるのか。人材流出を防ぐにあたり、企業はどんな手が打てるのか。これまで500社以上にヒアリングや調査を行い、200以上の共働き家庭のサポートを手がけてきたスリールの提言から、5つの処方箋を抽出してみた。

1.就業時間の柔軟性

スリールが実施したアンケートでは「小1の壁を乗り切るために、会社に行ってほしいこと」の1位がこれ。リモートワークや有給1時間単位取得など、働き方が自由なら、事態はかなり改善する。

2.職場での「小1の壁」の理解促進

お子さんが小学生ならだいぶラクになったね」といった上司の発言に、絶望する子育て社員のエピソードは事欠かない。全て把握しろとは言わないが、子どもの成長によって大変さの質が変わることに、一定の理解があるだけでモチベーションは全く変わる。

3.ライフステージによる悩みを継続的に聞く

出産をきっかけに離職する女性が6割という状況が長年続いてきた日本。企業では、職場への復職支援に重点が置かれてきた。子育て社員のキャリアアップや成長へとステージを移すには、人事部やマネジメント層による、子どもの成長に合わせた継続的なサポートが必要となる

4.子育てしながら管理職ができるような体制づり

2020年に女性管理職30%を国が掲げる一方で、管理職候補の女性層が育っていないのが、多くの企業の実態だ。女性活躍はきれいごとや流行ではなく「人口減少社会の経営戦略だ」という、経営層からのメッセージが重要になる。

5.若手のうちから両立キャリアへの意識づけ

スリールがこれまでにまとめた調査「両立不安白書」によると、92%の女性が「両立不安」を感じている。その一方で、野村総合研究所の調査(2014年)では、家事代行サービスの活用は3%程度にとどまるなど、リソースの活用が浸透していないのも事実。やる前から不安に駆られないように「多くのサポートがあることの意識づけが重要」(スリール)。

人材流出というリスク

同社の堀江敦子社長は、企業の小1の壁対策について「それぞれの職場の段階があるが、まずは制度をもう一度、今にあった形で改修する必要がある。そこから風土を作るのに2〜5年はかかります」と指摘する。

その上で「子育て世代の30〜40代は一番、仕事で脂の乗っている時期。構造的な人手不足と好景気による売り手市場で、人材は働きやすい会社にどんどん移っている。そこを踏まえた上で、今すぐにでも対策を始めないと間に合わないと、企業は認識すべきです」と、警鐘を鳴らす。

川べりの親子。

「こうあるべき」に縛られない、仕事と子育てをこなせたら。

ShutterStock

「こうあるべき」はいらない

ところで私は1年半前、全国紙の新聞社を離れて、立ち上げ間もない今のメディアに転職した。そして、現在の職場についていうと、不安はあるものの、小1の壁に対する環境は、かなり整っている方だ。

基本的にリモートワークがOKで、介護や体調を理由に在宅している編集部員は複数いる。編集長は女性で、自身も子育て中で「小1の壁」経験者。大変、ありがたいことに「子どもの夏休み期間はやりやすいように働いて」と言われている。子育て中の同僚も男女共にいる。

考えてみれば、理解者が周囲にいることは、なんと心強いことだろう。

共働き世帯を前提にしているようには思えない上に、ITツールがことごとく使われないアナログな学校側との連絡体制や、祖父母は遠方かつ、基本はワンオペにならざるを得ない家庭の事情(最低週1日は、配偶者に家事育児を任せられるにしても)など、ため息をつきたくなることはあるにせよ、やりようはある。

そもそも、完璧なんて無理なのだ。「こうあるべき」を外して進むしかない。

とにかく、夏休みはやってくる。

(文・滝川麻衣子)

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