2018年、旅行業界に旋風を起こす「ベンチャーの波」 —— なぜ異業種参入があいつぐのか?

主な旅行サービスの勢力図

各社のサービスの強みをカテゴリー別にグループ化してまとめた。

作図:五藤絵梨香

ここ最近ベンチャー企業による旅行分野への参入が相次いでいる。2018年5月末にHotspring社がチャット型旅行コンシェルジュサービスの「ズボラ旅 by こころから(以下、ズボラ旅)」をリリースすると、たちまち注目を集め、同サイトは一時パンク状態に陥った。

6月28日午前には、後払い専用旅行サービス「TRAVEL Now」がリリースを発表したかと思えば、午後にはLINEがオンライン比較サービス「LINEトラベル」を発表。

さらに、7月10日にはDMMが旅行業界への参入を表明し、「DMM TRAVEL」を今秋に開始することを明らかにした。

なぜ今、ベンチャーが旅行産業に続々参入しているのだろうか?

2017年は「お金」だが2018年は「旅行」の年になる?

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BANK社の光本勇介社長。「YUKICHI」という部屋で話を聞いた。

写真:木許はるみ

昨年はお金の年になると思ってCASHを始めたけど、2018年は旅行の年になると思って、TRAVEL Nowを始めた

そう話すのは、2017年にモノを即現金化できる「CASH」をリリースし、たった半年でDMMに約70億円で買収されたBANK代表の光本勇介氏だ。

TRAVEL Nowは、後払い専用の旅行サービス。光本氏が「旅行版EC」だと表現するように、並べられた旅行プランを選択し、すぐに予約までできる。実際の支払いは、2カ月後だ。

事業の成功は「市場選択とタイミングが重要」だと語る光本氏はなぜ今、旅行業界に参入したのか。

「OTA(オンライントラベルエージェント、ネット上だけで取引を行う旅行会社)の市場はとても大きいが、ずっと昔から(サービス内容の大枠が)変わっていない。一方で、 スマートフォンがこれだけ普及し、世の中や消費者は大きく変わってきている。そのギャップが大きくなった時に、業界が大きく変わる。CASHの時もそうだったが、そういう時に一気にサービスが出てくる」

TRAVEL Nowの構想自体は前々から持っていたが、ずっと今ではないと思っていた。けど、今年に入って、今年のテーマを2つ考えて、そのうちの一つが旅行だった

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光本氏による事業ビジョンの説明。横線は既存サービス、斜線が世の中・消費者の変化。このギャップが大きくなった時に業界に大きな変化が訪れる。これはどの業界にも通ずると話す。

写真:木許はるみ

近年、オンライン予約市場は急拡大し、JTBなどのオフラインを中心とした大手旅行会社もオンライン販売の比率を増やしているが、世界最大のOTAである、Booking.comやExpediaのサービス開始はともに1996年。旅行業界のIT化への適応は早く、ネット上でのチケット・宿泊予約を可能にしたが、それ以降大きな変化は訪れていない。

そこで、光本氏が狙うのが、「今お金がなくて旅行に行けない層」だ。

「既存のOTAは今お金を持っている人たちの市場。だけど実は、お金がなくて、旅行を我慢している人たちが潜在的にかなりいるんじゃないかと思っています」

たしかに、「ZOZOTOWN」のツケ払い機能や給与即払いサービスの「ペイミー」が象徴するように、社会保障コストや税金が増える一方、総務省統計局の「平成29年就業構造基本調査」によると日本の平均所得は減少傾向にあり、手元のお金は減りつつある。

関連記事:“ノールック買取”の風雲児が仕掛けるツケ旅行「TRAVEL Now」の衝撃

多様化するニーズを埋める「ズボラ旅」、B2B市場で注目の「BORDER」

ズボラ旅

ズボラ旅のLINEアカウント画面。

出典:ズボラ旅

スマホの普及に加え、従来のツアー型旅行から個人旅行にニーズが変化する中で、個人に最適化したプランを提示、予約までしてくれるサービスが、「ズボラ旅」だ。

関連記事:MERY共同創業者が「ズボラ旅」で挑む旅行イノベーション

今旅行業界ではモバイルシフトが起こっているけれど、国内の旅行大手は動きが遅くて、変化に十分に対応できていない。さらに、予約に特化したサービスばかりで、“旅行に行くまで”の過程を作る部分が欠如している。今でも若い人が(旅行会社の)窓口で相談しているが、そこを全て(スマホで)完結できるようにすれば、旅行に行っていない潜在層も獲得できると考えました

ズボラ旅を運営するHotspring社のCEO、有川鴻哉氏はズボラ旅をはじめた理由をそう話す。

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Hotspring社のCEO、有川鴻哉氏。

こうしたスマホ型コンシェルジュサービスは、まさにスマホが普及したからこそ可能になったサービスだが、ビジネストラベルマネジメント(BTM)市場でも同様のサービスが広がりを見せている。

それが、チャットで出張手配を任せられる「BORDER」(運営:ボーダー社、東京・港区)だ。チャットや過去のユーザーデータ蓄積などにより、業務の効率化を実現し、渡航1件あたり1000円と非常に安価に出張管理を任せられる。

LINEはなぜトラベル事業に参入したか? その背景

LINEトラベル

宿泊先の値段を比較することができる。

出典:LINEトラベル

一方、大手の旅行事業参入として話題なのがLINE。旅行前・旅行中・旅行後に、一気通貫でサービスを提供しようとしている。

現時点では、ホテルの宿泊料金・質比較のみにとどまるが、今後は航空運賃の料金比較のほか、旅行プランの推薦や他LINEサービスとの連携を進める意向だ。

旅行中に天気が悪くなった時には、プッシュ通知で旅行プランを提案したり、スマホだからこそサービスを提供できるのがLINEの強み。世界的に見ても、旅中にサービスを提供できている会社はほとんどない。LINEにはFinancialで保険、Payで決済、外貨両替などもある。旅行後にもLINEのグループで写真共有など、さまざまな機会に連携できる。そういう意味でも旅行サービスはLINEと非常に相性が良い」(LINE執行役員でO2O事業を担当する藤井英雄氏)

旅行業界への参入は、数年前から考えていたという。

「旅行は非常に大きいマーケットで、2016年後半にはすでに構想にありました。ただ、自分たちがOTAになるのか、送客をするのか、どう参入すれば良いのか考えていた。その時に、LINEショッピングが会員数1000万人を突破するなど、送客で非常に成功し、それが起点になった部分は大きい」(藤井氏)

スタディツアーを手がける「DMM TRAVEL」

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2018年秋、旅行事業を始めることを発表したDMM

出典:DMMTRAVEL

他方、 「個人の観光旅行は出尽くしている」として、新しい市場を開拓しようとしているのが、「DMM TRAVEL」だ。サービス自体の開始は、今秋を予定しているが、イメージとしてはスタディツアーの企画会社に近い。

「海外進出をしたい企業向けに視察ツアーを組んだり、現地の大学生と交流する機会を作ったり。南米以外の地域に拠点を持つDMMだからこそ、提供できるツアーを考えています」(DMM.com海外事業部副部長で事業責任者の笠原鉄平氏)

具体的な市場規模の大きさは「まだ見えない部分がある」と言うが、「学びのニーズ」を満たす市場は空いているのではないかと、笠原氏は話す。

「既存の大手旅行会社は競合とはとらえていませんし、実際、連携する部分もある。TRAVEL Nowとは同じグループ会社になるが、DMM TRAVELのツアー商品を置いてもらうこともあり得るかもしれない。将来的には、学びやビジネス向けツアーのプラットフォームになりたい

こうした流れがどれくらい大きなうねりになるのかは未知数だが、ここまで見てきた通り旅行産業への「異業種参入」がここへきて増えているのはまぎれもない事実だ。

2018年はまだ半分が過ぎたばかり。はたして残りの半年でどんなニュースが出てくるのか。今年の注目キーワード「旅×IT」はしばらく注目しておいた方がよさそうだ。

(文、写真・室橋祐貴)

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