“GAFA”躍動のアメリカ、“失われた30年”の日本 —— 朝倉祐介が語る今すべき思考の転換

バブル経済が崩壊した1991年に始まった日本経済の低迷期、いわゆる「失われた20年」はもはや「失われた30年」と呼ばれるようになりつつある。90年代に好景気のバトンが太平洋を渡ると、アメリカではアマゾン・ドット・コムとグーグルが生まれ、2004年にはFacebookが誕生し、アップルが2007年からiPhoneで世界を魅了し始め、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の時代は始まった。

Google, Amazon, Facebook, Netflix

REUTERS/File Photos

時価総額の世界企業ランキングでは、1990年当時、少なくとも20以上の日本企業が上位50社にランクインしていたが、今ではトヨタを除くすべての企業がリストから消え、GAFAと中国のアリババやテンセントがトップ10を占める。好景気を謳歌するアメリカのミレニアル世代(1981年〜1996年に生まれた世代)とは対照的に、多くの日本のミレニアルは未来への不安を抱き続ける。

日本は、日本の若い世代は、これから何をすべきか?シンプルだが大きなこのテーマは各所で議論されてきた。

ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論』の著者である朝倉祐介氏は、日本は「PL脳」から「ファイナンス思考」への思考の転換をすべきと話す。朝倉氏が述べる2つの思考とは何か?「ファイナンス思考」というものに日本のミレニアル世代が学ぶべき生き方のヒントはないか?同氏に話を聞いた。


PL脳とファイナンス思考

朝倉祐介氏

「若い人が勝てるものはある。自分が将来、稼ぎ得るキャッシュフローの総量、企業価値のようですが、自分自身の労働価値と呼ぶのであれば、若いうちはそれに投資するのが一番良いだろう」(朝倉祐介氏)

Business Insider Japan

—— まずは「PL脳」と「ファイナンス思考」について教えてください。

朝倉:PL脳は簡単に言えば、目先のPL(損益計算書=profit and loss statement)を良くすることこそが経営の目的であるとする考え方です。売上高や利益といったPL指標を目先で最大化しようとすることです。

極端な言い方をしますが、ある一定の限られた時間、3年後とか4年後まで責任を持っている人は、自分の在職中、会社の業績をより良く見せようという思いに駆られる傾向がありますよね。であれば、未来に向けた投資よりも、目先のPLをより良くすることに意識が向いてしまう。

会社経営だけでなく、政治の世界でもそうだと思いますが、自分の在任中にいろいろな施策を打つことができるけれども、効果が出るかどうかは短期間では分からないですよね。自分たちがやっているアクションは、今この瞬間に結果が出るかというと、それは分からない。

一方で、目先のことよりも、将来により良いものを残していこう、より良くしていこうという考え方が重要なんじゃないかなと思っています。それがファイナンス思考です。ファイナンスとは何かというと、企業の価値を向上させていくことを目的に据えているわけです。企業の価値とは何かというと、その企業が将来に稼ぐと期待しうるキャッシュの総量ですよね。

だから今この瞬間、回収してしまうのではなくて、長い時間をかけて回収する総量を大きくしていこう。そのキャッシュの総量を現在価値に割り戻したものが、企業価値ですよね。目先のことも大事だけど、身近なところで言うと、自分たちの後輩や子ども、孫の代に良いものを残していこうという気持ちを持てるかどうかだと思うのです。

「アメリカ企業は近視眼的」という幻想

ニューヨーク証券取引所

「アメリカのS&P500(株価インデックス)と日本のトピックスインデックスの推移を見ると、本当に日本が長期的な目線で経営していたのならば、2つのグラフの隔たりを説明することは難しいと思う」(朝倉氏)(写真はニューヨーク証券取引所)

REUTERS/Andrew Kelly

—— 「失われた20年」で日本はPL脳に陥ってしまった。朝倉さんは、本の中で「日本を取り巻く停滞状況と負のサイクルを抜け出すためには、PL脳の呪縛から脱する必要がある」と言われていますが。

朝倉:そうですね。「アメリカ型の経営者は非常に短期間の業績にとらわれて、視点が短期的で、日本は長期的な観点で経営をしているんだ」と、日本の経営者がよく言われていたと感じます。だけど、結果フタを開けて見てみたら、この20年、30年の体たらくは一体なんだということになりますね。

長期的という言葉が、目先の状況が芳しくないことの言い訳に使われていることが多いんじゃないかなと。

アメリカのS&P500(株価インデックス)と日本のトピックスインデックスの推移を見ると、本当に日本が長期的な目線で経営していたのならば、2つのグラフの隔たりを説明することは難しいと思うんですよね。

経営者だけの責任ではないですが、日本のマーケットの人口ボーナスがなくなってしまったし、苦しい局面であることは間違いないですが、ここまで開きがついたことは説明がつかないと思うわけです。 アメリカ企業が近視眼的で先々のことを考えていないというなら、20年、30年でついた差は一体なんだということですよね。

不安を抱えるミレニアル世代の将来価値

渋谷スクランブル交差点

撮影:今村拓馬

—— ただ、ミレニアル世代の多くは失われた20年、30年の間、未来への不安を抱えて生きています。目先のお金もなく必死になる個人は多いと思います。どうしたら、長期的なファイナンス思考を持つことができるのでしょうか?

朝倉:個人の話に落としていうなら、自分を取り巻くものの価値とは何かを考えてみることが大切だと思います。

金融資産では、若者が人生経験の長い人に勝てるわけがないですよね。よく、若いうちから投資の積み立てをしましょうと言われます。若ければ、長期間にわたってお金を貯めることができる。投資を通して会社の活動を理解することができる。

その通りだと思うのですが、本当に金融資産を大きくしていくことが目的なのであるならば、そもそもタネ銭が小さすぎたら、いくら10%で回ったところで、さほど大きくならない。10%の利回りは実際相当大きいけれど。

若い人が勝てるものはある。やはり労働資本だと思うんですよね。自分が将来、稼ぎうるキャッシュフローの総量、企業価値のようですが、自分自身の労働価値と呼ぶのであれば、若いうちはそれに投資するのが一番良いのだろうと思う。

さすがに50代半ばになると自分の労働資本が大きく上がることは難しくなる。

ファイナンス思考というと、直接的には会社の話をしているし、お金の話をしているけど、もう少し抽象化して考えてみた時に、将来にわたって回収するキャッシュないし価値の総量を高めていこうとする活動なのだから、単に貯金残高を運用で増やしていきましょうという話ではない。20代であれば自分に投資することが一番価値があると思います。

スーパーマーケットで400円するものを、どうやったら300円で買えるかを考えるのも良いかもしれないけど、その100円の差を考えるより、自分の知識や教養を深めるだとか、何か生きる力を磨くことにお金を費やす方がよほど良いだろうと思います。

日本版GAFAを創出するためには

日立の企業ロゴ

2008年のリーマンショック後、日本製造業史上最大の損失を計上した日立は、大規模な構造改革を敢行しV字回復を果たす。

REUTERS/Toru Hanai

—— 果たして日本からGAFAのような企業が生まれる時代は来るのでしょうか?

朝倉:それは意思を持ってやるかどうかにかかっています。チャンスはあるだろうと思っています。

僕は本の中で、ファイナンス思考を活かした経営を行う企業として日本の5社の事例をあげています。このうち、JT、コニカミノルタ、関西ペイント、それと日立の4社に共通しているのは、過去に敗北体験があることです。何かしらのショック体験があれば、大きい会社でも変わることはできる。

しかし、他の既存の大企業が大胆に挑戦していけるかというと、それは相当難しいでしょうね。何か強烈な挫折体験というか、失敗体験がないと、自分たちの立ち振る舞いを変えようとは思わないでしょう。本来であれば、大きな失敗をする前にスムーズに移行できるに越したことはない。

文化をガラッと変えるわけですから。ファイナンス思考は、文字通り思考なので、いきなり変えようと言って変えるのは難しいですよね。気持ちを入れ替えようと言っても、なかなか入れ替えることは難しいように。一人でも無理なのに、何千人、何万人の社員がいるような会社がそういうことをするのって、とてつもなく難しいですよね。

それよりやりやすいのは、若い会社なのかなと思うわけです。最近ですと、メルカリがすごく注目を集めていますが、彼らは自ら「Go Bald(大胆に)」と言っています。若い会社の方が、創業者もいるし、できたてで小さいし、そういったカルチャーを浸透させやすいのではないかという気はします。

ソフトバンクは強烈にアグレッシブな挑戦をしていると思います。ただ、孫(正義)さんがいなくなったらどうなるのかは、誰にも分からないですよね。

北海道・富良野で出会った石碑の言葉

北海道・上富良野町

ラベンダーが咲き乱れる北海道・富良野。

ふらの観光協会FBより

—— 朝倉さんがそもそもファイナンス思考を語ろうと思ったきっかけは何だったのですか?

北海道・富良野に「富良野自然塾」というのがあるんです。脚本家で『北の国から』の倉本聰さんが主催している自然学校みたいなところ。一度、経営者仲間と5、6人で遊びに行ったことがあるんですよ。野外実習体験のようなことをしました。

目隠しをして、ゴツゴツした石やウッドチップが敷き詰められているところを歩いて、人間は視覚に頼りすぎているから五感を研ぎ澄ませようとか、自分で鶏をさばいて焼き鳥を作るだとか、ある種、命を抱く尊さを学びましょうといったことをやりました。おそらく、高校生とかが自然学校に行くような感じです。

その時に印象に残ったのが、そこにあった石碑の言葉でした。

「地球は子孫から借りているもの」

僕たちがいるところは、後世に生きる人たちに対して、受け継いでいくものなんだと。そのマインドを持って接していきましょうと伝えていると思うんです。それは、自然を大事にしましょうということにダイレクトに直結するものですが、僕たち人間が毎日やっている経済活動や社会活動とも結びつくんじゃないかなあと思うんです。

後世にちゃんと社会や産業をより良い形で残していきたいよねという思いを持っていて、それは自分たちの子どもや孫の代に対しても、経済活動をしていて良い場所だなあと思ってもらえるよう残していきたい。そういうことをしようと思った時に、ファイナンス思考は重要なんじゃないかと思うんです。

悲観的な憶測の中にある楽観

朝倉祐介氏

Business Insider Japan

—— 朝倉さんは日本の未来をどう考えていらっしゃいますか?

朝倉:僕はめちゃめちゃ悲観的ですよ。

自分の中に二面性というものを持っていなくちゃいけないと思っていて、自分が目の前でやっていることや、自分たちを取り巻く社会の将来に対してものすごく悲観的な憶測を持った上で、それに対してどうやって準備していこうかを考えなければいけない。けれど、頭の片隅で「とはいえどうにかなるんじゃないのかな」という脳天気さというものが同居しているんです。

ファイナンス思考では、日本に良い産業を残していこうというのを前提に、日本企業のマインドセットをPL脳からファイナンス思考に切り替えた方が良いよねということを言っているわけですが、とはいえ、究極的に個人と個人が紐づく組織とかコミュニティは一心同体ではないですからね。

自分がいる組織やコミュニティに愛着を持つのは当たり前だから、なるべくそれを良くしていこうという頭の使い方をしているんだと思います。

(インタビュー・構成、佐藤茂)


朝倉祐介:1982年7月、兵庫県西宮市に生まれる。中学卒業後に、競馬騎手になろうとオーストラリアの競馬騎手養成学校に入学するが、体重面の理由で1年後に帰国。さらに交通事故に遭遇し、騎手の夢を断念。20歳で東京大学法学部に入学する。卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務した後、東大在学中に立ち上げたネイキッドテクノロジーに戻り代表取締役社長に就任する。ネイキッドテクノロジーをミクシィーに売却後、ミクシィ社長兼CEOに就任し、業績の回復を果たす。スタンフォード大学客員研究員を経て、政策研究大学院大学客員研究員。2017年、シニフィアン株式会社を共同設立し、現任。

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