「投資家保護の枠組みをスマートコントラクトで実現する」スタートアップが、スイスで描く資金調達の新たなカタチ

ICOVOスタッフ

ICOVOの開発を進める山瀬明宏さん(右)と三野泰佑さん。あまりに多くて記事には書き切れないほど、ブロックチェーン関連の話題は尽きなかった。

撮影・川村 力

近年、「ICO(イニシャル・コイン・オファリング)」が大きな注目を集めている。仮想通貨を活用した資金調達の手法として画期的な側面を備えており、現在の資本市場のあり方自体を根本的に変革するポテンシャルを秘めている。

しかし、ICOを行うプロジェクトの中には詐欺的なものも少なくなく、投資家から調達した資金を持ち逃げして行方をくらますような事業者もいて、大きな問題となっている。実際、ICOを通じて資金調達を行ったスタートアップ企業の約半数以上が、4カ月以内に消滅しているとのデータ(ブルームバーグ、2018年7月10日)も存在する。

こういった状況を踏まえ、投資家保護の枠組みを整備すべく、各国の規制当局が対応を進めている。最近では、法規制に準拠した「セキュリティトークン」のみを扱うプラットフォームも現れてきており、注目すべきトレンドと言えるだろう。

その一方で、投資家保護の枠組みを規制当局による監督ではなく、スマートコントラクトで自律分散的に実装することを目指す取り組みが注目を集めつつある。「DAICO(ダイコ)」がそれだ。DAICOを実装したサービス「ICOVO(イコヴォ)」の開発を進める山瀬明宏さんと三野泰佑さんに、現状とこれから目指す姿について聞いた。

山瀬明宏(やませ・あきひろ):連続起業家。ホスティングサービスを立ち上げ、株式の51%を譲渡してKDDIの連結子会社となる。その後、KDDIウェブコミュニケーションズ社長を経て、ヤマセホールディングス社の代表に就任。2018年1月にICOVO AGを設立。
三野泰佑(みの・たいすけ):2014年頃にブロックチェーンをはじめとする分散型技術に出会う。分散型技術を活用したプロジェクトに携わる傍ら、独学でプログラミングも習得。現在は、スマートコントラクトのセキュリティを向上させるためのプラットフォームを開発しながら、ICOVOでは主にシステム設計を担当。

各国政府が投資家保護の枠組みを検討している

ヴィタリック・ブテリン

「DAICO」の提唱者であるヴィタリック・ブテリン、テッククランチのイベントにて。モスクワ生まれのカナダ育ち。小学生にしてプログラミングを学び、19歳でブロックチェーン・プラットフォーム「イーサリアム」を考案した。

John Phillips/Getty Images for TechCrunch

DAICOは、端的に言えば、ICOで調達した資金をプロジェクト運営者が不正に使用できないよう管理する仕組みを指す。イーサリアムの創設者として知られるヴィタリック・ブテリンが、2018年1月にそのアイデアを提案した。

このアプローチでは、スマートコントラクトを用いて、プロジェクト運営者が調達した資金を単位時間あたりに一定量しか引き出せないようにする仕組みを採用している。また、プロジェクトが何らかの理由で中止となった場合、残っている資金を参加者に戻せるようになる。

「資金を集めて持ち逃げする詐欺的なICOが問題になっていますが、そうした悪意のある事業者を排除するため、投資家保護の枠組みを整備することが急務となっています。DAICOはその有力な手段の一つなのです」(山瀬さん)

投資家保護のため、各国の政府はICOに対する法規制の枠組みを検討している段階だ。

例えばアメリカでは、ICOで発行されたトークンを証券法の枠組みの中で「有価証券」ととらえる立場を取ることを、米国証券取引委員会(SEC)のクレイトン委員長が示唆している。

そのため、ICOを実施する事業者は「SAFT(Simple Agreement for Future Tokens)」という仕組みを活用し、まずは適格投資家向けにプライベートセール(私募)を実施することで手続きを簡略化し、証券法の遵守を目指す場合が少なくない。

ブロックチェーンエンジニアが足りない

"ABOUT ICOVO’S SERVICES" (English) ICOVO HP

一方で、DAICOは規制当局による従来のやり方とは別のアプローチを用いて、投資家保護の枠組みを整備することを目指している。

「投資家保護の枠組みをプログラムで実装することが我々の取り組みの特徴です。スマートコントラクトを活用することで、自律分散型のガバナンスを実現する構想と言えるかもしれません」(三野さん)

三野さんは3、4年前にビットコインと出会って以来、ブロックチェーン関連のアプリケーション開発を行うエンジニアとして活動している。スマートコントラクトのセキュリティ監査に関するプロダクトを自身で開発していたところ、知人経由で山瀬さんと知り合うきっかけがあり、ICOVOプロジェクトに参画することになった。

「ブロックチェーン技術を理解しているエンジニアを集めるのはかなり大変でした。私は幸運にも、知人を通じて三野を含む優秀なエンジニアたちと知り合うことができましたが、ブロックチェーン技術に精通したエンジニアは絶対的に不足しています。エンジニアの育成が今後ますます必要となってくるでしょう」(山瀬さん)

そう強調する山瀬さん、実はブロックチェーンやスマートコントラクトの将来性に気づいたのは、決して早くなかったという。

「正直、僕は『レガシー』側の人間ですから。KDDIでやってきたホスティング事業は、当時は先進的で一定の成功を収めたとは思いますが、もうずいぶん前の話。ブロックチェーン技術については、つい数年前に知ったばかりです。でも、経験というのはどこで役に立つか分からないもので、インターネットを通じた送金や決済が爆発的に普及していった当時の、何か途轍もない変化が起こりそうなムードが今と似ていて……その感覚があるからこそ、今動くべきだと思ったんです」

産業育成と投資家保護の「バランス」が重要

ツーク州

アルプスの山並みが背景に広がる、スイス・ツーク州の州都ツーク。この牧歌的な都市が、仮想通貨関係者の間では「クリプトバレー」と呼ばれる場所だというから信じられない。

REUTERS/Arnd Wiegmann

ICOに対する規制当局のスタンスは国によってさまざまだ。先に書いたように、ICOで発行したトークンを「有価証券」と位置づけることを示唆するアメリカのような国もあれば、スイスやエストニアをはじめ、ICOに対して寛容とも言える態度を示す国もある。

特に「ICOフレンドリー」な国家として知られるのがスイスだ。スイス金融監督局(FINMA)は独自に「ICOガイドライン」を制定。ICOを通じて発行されたトークンを「決済トークン」「ユーティリティトークン」「資産トークン」の三つに分類した上で、それぞれの性質に応じた規制の枠組みを適用する立場を取っている。

「スイスでは、ブロックチェーン技術は次世代産業を育成するための重要な基盤技術の一つに位置づけられています。スイスの方針を手放しで賞賛するわけではありませんが、イノベーションの促進を目的として法規制を整備する方針を明確に掲げており、産業育成と投資家保護の『バランス』をうまく押さえている印象があります」(山瀬さん)

こうした国のスタンスを評価してか、山瀬さんらのICOVOはスイスのツーク州に拠点を置き、ICOの実施を計画している。日本ではICOの取り扱いが明確化されていないこともあり、法令遵守の観点から、国内向けの投資勧誘行為は一切行わない方針を掲げている。

「どちらかと言えば、我々が開発しているプロダクト自体がICOを規制する性質を備えていることもあって、スイスの規制当局であるFINMAとは、特に密接なコミュニケーションを図っています」(山瀬さん)

ツーク州の店舗

ICOVOが拠点を置くスイスのツーク州では、州庁舎にまで「ビットコイン使えます」のステッカーが貼ってある。まさに「仮想通貨天国」だ。

REUTERS/Arnd Wiegmann

最重要課題は「セキュリティ対策」

New Alchemy社ウェブサイト

ICOVOがセキュリティ監査を依頼した「New Alchemy」社のウェブサイト。最高技術責任者(CTO)には、米ディズニー、サン・マイクロシステムズ、アパッチ・ソフトウェア財団、アップルなどで活躍してきた超絶人材が就任している。

New Alchemy HP

ICOを行う場合、スマートコントラクトのセキュリティ監査(脆弱性を攻撃されるなどの事件を未然に防ぐための検証)が、開発を進める上で最も重要なポイントの一つとなる。DAICOのアプローチでは、規制当局の監督を必要としない投資家保護を目指すだけあって、セキュリティ面の重要性は一段と高まることが予想される。

「セキュリティ対策は何よりも重要。DAICOは世界的に見ても先行事例となるプロジェクトがなく、提案者であるヴィタリック・ブテリンでさえも、実際にDAICOを実装したわけではありませんし、詰めるべき論点は数多く存在します」(三野さん)

そこで、ICOVOは慎重の上にも慎重を重ねたセキュリティ対策を採用した。

「セキュリティ監査については、この分野で豊富な実績を有するNew Alchemy(ニューアルケミー)に依頼することを決めました。さらに、バグバウンティ(脆弱性を発見したホワイトハッカーに報奨金を支払う)プログラムを開催し、コード監査を実施することで、セキュリティ面の対策をより一層強化する体制を整えています」(山瀬さん)

世界全体で見れば、ICOの活況は続いている。各国の規制当局がICOに対するスタンスを明確化しつつある中、イノベーションを促すような投資家保護の枠組みの整備が求められている。DAICOのコンセプトを理解することは、今後のICOの先行きを考える上で、有用な示唆を与えてくれるだろう。


勝木健太(かつき・けんた):1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科卒業後、邦銀に入行。法人営業、外貨バランスシート経営の企画、グローバル金融規制対応、各国中央銀行との折衝に従事。外資系コンサルティングファーム、監査法人でのブロックチェーン技術をはじめとするFinTech領域の戦略立案に従事した後、独立。

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