浜田敬子
あらゆることを独特の視点でぶった斬り、累計著作発行部数が500万部を超える経済評論家の勝間和代さん。1年ぶりの新刊『勝間式 超ロジカル家事』のテーマは、ズバリ「家事のバリュー・イノベーション」。バリュー・イノベーションとは、世界43カ国で売られる著名なビジネス書『ブルー・オーシャン戦略』で提唱される経済戦略の一つ。新しい価値の創造と革新を同時に達成する手法で、勝間さんはその手法で家事の生産性アップを実践する。
つい1年半前まで勝間さんのうちは「汚部屋」だった。 テーブルや仕事机、本棚も山積みとなった書類や本が雪崩を起こし、床に散乱。ベッドの上は服やバッグが占領し、寝るときは端っこで小さくなった。この状態だとものを探すのは困難で、必要なものは新たに買い足すハメに。その結果、ますますものが増えて、汚部屋に拍車がかかる、という悪循環に陥っていた。
勝間さんは20歳で結婚し、3人の子どもを育てながら仕事と家事を両立してきた。現在は、3女と2人暮らし。1年半前に、家事のイノベーションを実行する以前も、物理的な掃除はしていた。13年間、家事代行サービスを利用していたのだ。平日週5日、毎日3時間ずつ、掃除、洗濯、料理、アイロンがけを頼み、代金は月々10万円を超えていた。
「家事代行を頼むようになったのは、仕事が忙しくなったため。家事は嫌いではなく、時間さえあれば自分でやりたかったのですが……。比較優位の問題で、私が家事をするよりも、執筆や講演活動をして稼いだほうがいいと判断したのです。月10万円、年間120万円×13年で、1千560万円。なんという無駄遣いをしていたことでしょう(苦笑)」
浜田敬子
家事代行の人の人柄には満足していたが、家事の出来栄えは「不都合はない」というレベルで、不満を覚えることもあった。家事代行の人は掃除はできても、部屋にあるものを動かしたり、捨てたりすることはできない決まりになっている。ゴミ箱に入っているものは捨ててくれるが、ほったらかしにされ不要な書類やダイレクトメールは決して捨ててくれない。結果、部屋は散らかる一方だった。そして、「家事代行を頼み続ける限り、部屋はきれいにならない」という皮肉な結論に至ったという。
しかし、家事代行にお願いしていた1日3時間分の家事を丸々かぶったら、仕事に支障が出る。再び、不満を覚えながら家事代行を頼むことになりかねない。
「どうしたら、仕事のペースを保ちながら、片付いたきれいな部屋とおいしくて健康的な食事が食べられるのか」
考え抜いた結果、掃除ロボットやスイッチ一つでほったらかし料理ができる調理器などの家電に目をつけた。
食洗機導入でパート代+12万円
勝間家の台所は、驚くほどものがない。だが、家電や便利な調理器具などは用途別に細かくそろっている。家電は煮物や汁物を作る圧力IH鍋が2台。蒸し料理とグリル調理に使うウォーターオーブンのヘルシオも2台。あとは炊飯器、ホームベーカリー、パスタマシン。リンゴの皮むき器やトマトのヘタ取りなど、食材ごとの専用カッターも豊富。IHコンロで調理をすると、汚れた後の掃除が大変だからと、コンロ台には蓋をしている。
「私の中で家電は家事負担を減らすアウトソースの一つだと位置づけています。今の家電のクオリティは高く、コストパフォーマンスもいいので、個人的には家事代行より家電がお薦めです。洗濯を洗濯機にやってもらうように、もはや料理や掃除も機械にやってもらう時代でしょう。特に料理は、調理家電を使うと温度と時間を正確にコントロールできて失敗がありません」
浜田敬子
料理といっても、勝間さんがすることは切った食材と調味料を入れてスイッチを押すだけ。
「調理家電は、私が就寝中も外出中も調理し続けてくれます。掃除もルンバとブラーバ(自動で拭き掃除をしてくれる家電)に任せきり。毎日3食を作っても1日の家事時間は1時間ほど。たまに来客用にケーキを作っても2時間かかりません」
駆使する家電の多さにアンペア数はあげたが、調理家電の消費電力は大きくなく、電気代は家事代行代よりははるかに安い。いずれも最新型ではなく、一つ前などの型落ち品で十分。圧力IH鍋なら有名メーカーのものでも2万円台で入手可能だ。この鍋に寝る前や出勤前のひと手間で主菜を仕込めることを考えたら、有効な「投資」という。 と、ここまで言っても、家電を買うお金より手間を選ぶ人はいるだろう。そんな人に、勝間さんはこう反論する。
「家電に投資した分の回収はパートタイムの賃金でも難しくありません。例えば5万円の食洗機を導入して、食器洗いにかかる時間が30分短縮したとします。時給1000円のパートタイムで働いている場合、30分多く働けば1日500円のプラスです。1カ月に20日間働いたら、プラス1万円。食洗機代は5カ月で回収でき、それ以降も30分多く働き続ければ、月々プラス1万円、年間プラス12万円の収入を得られ続けます」
筋取りに手間がかかるインゲンは買わない
浜田敬子
料理や掃除に加えて買い物の仕方も変え、店舗に行かずにネットスーパーを利用する。食材は栄養価と価格と日持ちを計算して、徹底して効率化を目指す。
「家事のバリュー・イノベーションとは、不要な手間を徹底して減らして必要な手間のみ残す、ということになります。世界最大スーパーマーケットチェーンのウォルマートは『エブリデー・ロープライス』を実現するために、商品を大量に仕入れて単価を下げ、生産段階まで関与することで製造原価と流通コストを引き下げてますよね。同様に、家事も自分が得たい結果のために、要・不要を考えれば、自ずと最適化されていきます。食材も栄養価と扱いやすさを考えて選ぶんです。例えば、栄養価が低いのに消費に時間がかかる白菜やキャベツ、筋取りの手間がかかるインゲンは買わない。逆に栄養価が高くて場所を取らないトマトやピーマン、カットされたシメジやエノキは小房に分ける手間が省けるのでよく買います」
取材の最後に、IH鍋で調理したシメジと油揚げの味噌汁を飲ませてもらった。「出汁は、いりこと昆布を水に入れて冷蔵庫で1日放置。それと具材、味噌を鍋に入れて、70度、20分と設定して、また放置」。出汁がきいていて、しみじみとおいしい味噌汁だった。
東京都生まれ。フリーランスのライターとして活動。現在、「AERA」や「日経ヘルス」「日経ウーマン」などで人物インタビュー、健康、女性の生き方、働き方に関するテーマを中心に執筆。編集協力する書籍ではドキュメンタリーや自己啓発系も手がける。