淡路島で実証実験という形でタクシー配車サービスを開始するUber。
ライドシェア大手のUber(ウーバー)は2018年7月21日、兵庫県の淡路島でタクシー配車サービスの実証実験をスタートした。
今回の取り組みは、同社と兵庫県淡路県民局、兵庫県タクシー協会淡路部とのパートナーシップによるもの。2019年3月31日までという“期限付きの実証実験”という形でサービスインするが、提供される機能やアプリは東京や大阪などと同じ、世界共通の仕様だ。
ウーバーにとって、今回のような行政とタクシー会社を巻き込んで取り組む実証実験は国内初。同社は実証を成功させ、同様のスキームを国内の他の地域でも広めていきたい考えだ。法規制の課題がある国内でのライドシェアの実現は無理に追わず、日本向けの「サービスの現地化」に舵を切った形だ。
人口減・高齢化に伴う内需縮小を観光収入でカバー
Uber導入で旅行者、とくに訪日外国人の利便性を高めるのが狙い(写真右は実験開始のセレモニーに出席した駐大阪・神戸米国総領事のKaren Kelly氏)。
兵庫県淡路県民局によると、今回の実証実験のターゲットは、主に淡路島を訪れる旅行者だという。
淡路島は、うずしおや明石海峡大橋といった観光資源や古事記などに記される“国生みの地”としての歴史文化があり、関西地方からの日帰り観光客が多く訪れている。
一方、島内の人口減少と高齢化は歯止めがかからない状態が続いている。例えば2017年の人口は13万1912人と、ピーク時の1947年と比べると約4割減少している。
観光情報のプロモーションはもちろん、観光客の受入体制の強化にも力を入れる。Uber導入はその一環。
減少する内需を外からの観光収入でカバーするため、県民局は2018年2月、2018年度から2022年度までの5年間における「淡路島総合観光戦略」を策定。そのうちの旅行者向けの交通体系改善の肝として、ウーバーの導入を決定。ウーバー、タクシー協会、両者との調整を始めたという。
今回の実証実験の責任者を務める兵庫県淡路県民局の吉村文章局長。
兵庫県淡路県民局の吉村文章局長は「ウーバーのような世界600以上の都市と約50言語以上で展開されているサービスは他にはない」と、ウーバーの多言語展開に期待を寄せている。
インバウンド観光客への対応は、タクシー業界にとって重要な課題だ。実際、あるウーバー対応タクシーの運転手の男性(50代後半)は、「最近では中国や東南アジアの観光客が増えていて、何を言われているかわからないケースも多い。行き先や支払いが簡単に済むのは便利」と、新システムの導入について好意的に受け止めていた。
運転手用のアプリもグローバルで共通のもの。タブレットでは乗り手とのやりとり、決済申請などが可能。タブレットは行政がリースとして購入し、賛同するタクシー会社の車両に積んでいる。
今後、淡路島のいたるところでUberのロゴを見るようになる。
日本でのライドシェア事業のハードルは高すぎる
Uberの各種サービスやアプリはグローバル準拠だが、やはりライドシェアはNG。
なお、今回の実証実験においては「ウーバーは淡路島でライドシェアサービスを展開しない」という前提条件があることが公表されている。これは、県民局からウーバーに協力を仰ぐ際に設定されたもので、タクシー協会がウーバー導入を決断する大きな理由になっている。
日本においてライドシェア、いわゆる“白タク行為”は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金が科せられる道路運送法違反に該当する。そのため、ウーバーは東京などではハイヤー事業、京都府京丹後市などでは交通弱者向けの有償運送サービスとして展開している。
同社は今後、日本でのライドシェア実現のため法改正を訴えていく方針はあるのか?
発表会に出席していた同社担当者はBusiness Insider Japanの取材に対し、日本へのライドシェアへの取り組みについて明言は避けた。
Uber Technologiesでアジア太平洋地域モビリティ事業統括部長を務めるAmit Jain氏。
また、発表会に登壇した同社のアジア太平洋地位のモビリティ事業統括部長であるAmit Jain氏は「(国内の)ほかの地域でも同様のサービスを展開していきたい」と発言。その形式については「地元の行政やタクシー事業者の皆様とパートナーシップを組ませていただき、進めていきたい。そうした方法でも、お客様には利便性、運転手の方々には収益性を自信を持って提供できると考えています」と、日本では淡路島での取り組みのような戦略をとっていく方針を示した。
なお、“日本では当面ライドシェアなし”という方針は、ソフトバンクとジョイントベンチャーを設立した中国配車サービス大手・滴滴出行(Didi Chuxing)も打ち出している。
(文、撮影・小林優多郎)