「引きこもりを加速させる」VTuberでバーチャルイベント市場を創出する京大卒29歳

日本のVR/AR市場規模は、2020年には2111億円になると予測されている(ジェトロ調査)。市場の急成長を受けて、日本ではYouTuberならぬ人気VTuber(バーチャルYouTuber)が登場。そしてVTuber市場にはドワンゴ、グリー、サイバーエージェント、DeNAなど、メガベンチャーが続々と参入している。

そんな中、VR空間上で数千人が同時に参加できるイベントを開催するプラットフォームを開発する企業も登場。創業者は京都大学出身の29歳。「元引きこもり」という経歴を活かす。

加藤直人

cluster. CEO 加藤直人(29)。京都大学大学院中退後、引きこもり生活を経て起業。

「ただ移動が面倒くさかっただけ」

VTuberとは:主にYouTube上で動画を配信するキャラクターのこと。3DCGなどのアバターを使うことからバーチャルYouTuberと呼ばれる。

「cluster.(クラスター)」は、誰もがバーチャル上でイベントを開催できるプラットフォームだ。2017年5月、同社はエイベックス、ユナイテッド、DeNA、Skyland Ventures等から出資を受け、累計の資金調達額を2.6億円に増やした。

ひきこもりを加速する

公式サイトのトップページには、そう書いてある。同社CEOの加藤直人(29)は、3年間の引きこもり生活の末に起業したという、異色の経歴の持ち主だ。

小学生の時から『攻殻機動隊』や『ガンダムSEED』などのアニメに親しんでいた加藤。SFの世界に憧れ、そこに描かれた世界観を現実に創り出したいと京都大学に進学、宇宙論と量子コンピューターを専攻した。

しかし、大学院に進むと「自分がやりたいことってこれだっけ?」と研究に違和感を覚え、休学。ウェブサービスの受託開発などをしながら、ほとんど家から出ない生活をしていたという。

当時を思い返して、加藤は明るい声で言う。

人が嫌いとか、会いたくなかったわけではない。ただ、移動が面倒くさかっただけ

VTuberブームで利用者は拡大

cluster.

cluster.ではアバターを自由にアップロードできる。

贅沢しなければ生活はできた。引きこもり生活にほとんど不便はなかったが、唯一の難点は、好きな声優の水樹奈々さんのライブに行けないことだった。

「電車に乗るのが苦痛だった。代わりにブルーレイを買うけれど(その場で体験できないという)敗北感が大きかった」

2014年、VRヘッドセットであるOculus Riftの開発者版「Oculus Rift DK1」が発売された。加藤は一度使ってみて、衝撃を受けたという。

これから、体験を配信できるようになる時代が来る

VRへの思いが募り、1年半後の2015年7月に大学の友人らとともにcluster.を設立。2016年2月にサービスのα版を、2017年5月には正式にサービスをリリースした。

その年末頃からVTuber市場に数々のプロダクションが参入。キャラクターが増えたことでVRの知名度が高まったことが、cluster.の成長を加速させた。ユーザーローカルの調査によると、VTuberの総数は2018年7月10日時点で4000人、ファン数の合計は1270万人を突破。トップVTuberの「キズナアイ」は、チャンネルの登録者数が200万人を突破している(7月23日時点)。

ただし、この数字はファン数の合計値のため、「バーチャルユーチューバー、バーチャルタレント、バーチャルインフルエンサーとかのファン数って、だいたい国内で100万人から200万人くらい」(加藤氏)というのが関係者の一般的な実数体感値だという。

2018年4月、cluster.は国内ではいち早くアバターのアップロード機能を実装したことで、VTuberのイベントが増加した。5月には、人気VTuber・月ノ美兎のイベントが開かれ、cluster.上の最大同時接続者数が2500人を記録(YouTubeでの同時接続者数は3万5000人)した。

2018年5月にcluster. と YouTube Liveで配信された『月ノ美兎のVR教室生放送』。

動画:月ノ美兎

目指すはバーチャル上の仮想経済圏

きゃりーぱみゅぱみゅ

「きゃりーぱみゅぱみゅのVRライブ」の実現も近い?

Getty Images / Ken Ishii

VTuberのような存在は、バーチャル上の仮想経済圏をつくり、将来は国によらない経済圏が生まれる —— 加藤は、VRの未来をそうみる。

そのブレークスルーを起こすためにまず見据えているのが、VR空間上での音楽ライブの実現だ。

きゃりーぱみゅぱみゅやPerfumeなど、すでにデジタル技術を駆使したライブを実現するアーティストは増えている。けれど、VR上のライブが可能になれば、「クレーンなどの装置なしでユーザーを飛び回らせるなど、実空間ではできなかった表現ができるようになる」。

現在、cluster.の強みは、数千人が同時に接続できるリアルタイム通信のサーバーを自社で開発している点だが、技術はすぐに追いつかれてしまう。

そのために、ユーザーがcluster.上でアイテムをつくったり、商業活動ができるコミュニティを今から作っておきたい、と加藤は意気込む。

世界中の人がスマホのように当たり前にVRを使う日は訪れるのか。その時に「移動を苦痛に感じた」29歳がつくったcluster.は、さらに「人類の引きこもりを加速」させるのだろうか。

(文・写真、西山里緒)

編集部より:

2018年8月3日 17:00 本記事の事実関係についてクラスター社と話し合いの場を持ち、記事について以下の内容を反映することで合意しました。

・第三者機関ユーザーローカル調査のVTuberのファン数1270万人はファンの合計数のため、業界内の一般的な見解として「100万人〜200万人」という加藤氏の見解を補足します。
・これに合わせて、タイトルも本文中のニュアンスを表現する形に訂正いたしました。

2018年7月24日 9:55 初出時、「2018年5月、同社はエイベックス、ユナイテッド、DeNA、Skyland Ventures等から出資を受け、累計の資金調達額を2.6億円に増やした」としておりましたが、2017年の誤りでした。お詫びして訂正いたします。

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