2018年7月23日、日本の観測史上最高となる41.1℃の気温を埼玉県熊谷市で記録した。同じく、東京・青梅市でも気温は40℃まで上昇し、国内の主要都市は災害級の熱波に襲われた。
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記録的な猛暑は冷房による電力需要を急増させる。首都圏に電気を供給する東京電力ホールディングスは、7月23日の最大電力を5694万キロワット(kW)と予想。東電のピーク時の供給力の93%に相当し、「やや厳しい状況」と、同社のホームページで伝えていた。
東日本大震災が起きた2011年3月以降、東電は原子力発電なき電力供給を続けているが、首都圏は停電なきまま、2018年の異例の夏を乗り越えられるのか?また、2020年の東京五輪期間中の首都圏の電力需要はどれほど押し上げられ、東電はどう供給体制を整えていくのか?
季節や天候、昼夜を問わず、電力会社が一定の電力を発電する設備を「ベースロード電源」と呼ぶ。東電は震災以降、このベースロード電源を原子力からLNG(液化天然ガス)火力発電にシフトしてきた。一方、夏場の冷房や冬場の暖房利用などで電力需要は1日の最大レベルまで増える。それに対応するのが「ピークロード電源」で、東電は石油火力と水力発電をその電源に使っている。
予備率3%でひっ迫
東京電力パワーグリッドの電源構成比
東京電力ホールディングス
予想する最大需要からピーク時の供給力を引き算して、それをさらに予想最大需要で割った値を「予備率」と呼ぶ。単に最大予想電力を供給力で割った「使用率」とほぼ同等ではあるが、この予備率が3%を切りそうになると判断した場合、東電管内の電力はひっ迫のリスクが高まる(東京電力パワーグリッド・広報部)。
23日、東電の予備率は7%近くあり、ひっ迫するまでに至っていない。また、東電は翌週の1日毎の最大電力と使用率を、気象庁の予報などを基に予想しているが、7月20日時点で23日〜27日で需給がタイトになる予測は出していない。既存の供給力で対応できる猛暑日だったと言える。
もし、予備率が3%に迫り、需給がひっ迫した場合、東電は主に3つの方法で対応する。一つ目は、火力発電所の出力を可能な限り上げる。2つ目は、電力を多く使う企業などの大口契約者に対して、電力使用の抑制をお願いする。そして、3つ目は「電力融通」と呼ばれるもので、他の電力会社から余剰電力を融通してもらう。
2018年1月23日、発電設備のトラブルと寒波による暖房用電力の需要が増え、東電は2月下旬までの7日間、この「電力融通」を行っている。
猛暑が予想を超えて長期化すれば
東京五輪に向けて建設が進められているメインスタジアム。7月の猛暑で、設置されている大型扇風機が稼働する。
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「2011年の震災以降に節電が進み、国内の電力需要が抑えられてきた。この猛暑の中、電力会社は需要予想を立てて対応している。しかし、予想をはるかに超えて、猛暑が長期化すれば、ひっ迫のリスクは一段と高まってくる」と話すのは、エネルギー経済研究所で総括研究主幹を務める小笠原潤一氏。「猛暑が長期化すれば、輸入に依存しているLNGなどの燃料が不足する可能性がある。また、渇水は水力発電の運転に影響を与えるだろう」と述べた。
東電が保有する揚水電力発電は、低い位置にあるダム(貯水池)から高い方のダムへと水を汲み上げ、電力需要がピークを迎える際に、下部貯水池に流す水の勢いで発電するというもの。東電パワーグリッド・広報によると、長い期間、雨がまったく降らない状況が続けば、渇水のリスクは高まるが、現時点で渇水を懸念する状況にはないとしている。
毎年、異常気象と言われるほどに、日本の夏の暑さはその深刻さを増している。2020年には夏季オリンピックが東京で開かれるが、東電は電力の需要をどう予想しているのか?
東電は、2020年夏の3日間の最大需要平均を5328万kWと予測している。予備率予想は11.8%と、十分な供給力だ。比較的に穏やかな夏を想定して需要予測を行っているのか、「保守的な」予測とも思える。
「オリンピックによる電力の特別需要を正確に予測するのは難しいが、仮に100万kW上振れしても、十分な供給力を確保している」(東電パワーグリッド・広報)
2020年7月の東電の供給力に原発の発電能力は含まれていないという。
火力発電所のトラブル一つで緊迫する西日本
7月23日、全国高校野球選手権・京都大会の準々決勝は、暑さ対策として午後に予定されていた第4試合を異例の「ナイター」として行った。
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一方、西日本の電力事情は東日本より深刻だ。
関西電力は7月18日に他社からの電力融通を受けた。2013年8月の盆明けに緊急調達を行った時と同じ状況だ。
中部電力の50万kWを筆頭に、中国電力が20万kW、四国電力が13万kW、北陸電力が10万kW、東電パワーグリッドが7万kW、合計100万kWを関電に供給した。16時から17時の時間帯で、冷房需要の増大に対して太陽光の発電量が落ちる夕方だった。
関電については、舞鶴発電所1号機(出力90万kW)と南港発電所3号機(同60万kW)の不具合で苦境に陥った5年前と同じように、今回も姫路第二発電所5号機(同48.1万kW)が発電機の不具合で7月22日に停止し、復旧のメドが立っておらず(7月24日時点)、目が離せない状況だ。これから猛暑が続けば、再び緊急融通の可能性も現実味を帯びてくるかもしれない。
電力関係者によると、他の電力会社についても、老朽化した火力発電所をフル稼働させている状態で、トラブル一つあれば緊迫した状況に陥ることも十分考えられるという。
一方、関電の大飯原子力発電所3・4号機(各118万kW)、高浜原発3号機(同87万kW)は、101〜103%の増出力でフル稼働を続けている。東日本については原発を稼働せずとも安定供給が可能との見方が強まっているものの、西日本の電力需給については、上記の火力発電所の逼迫した状況を見る限り、ベースロード電源としての原発の必要性が失われたとまでは言えない状況だ。
(文・佐藤茂、川村力)